不安と想い



《私はニブル山を越えて北へ行く》

神羅屋敷の地下、研究室。
その場所でセフィロスはそう言葉を残した。

その言葉を手掛かりに、あたしたちは村の北に位置するニブル山を歩いていた。


しかし…この山、とんでもないです。
こないだコレル山登ったけど、あんなの全然比じゃない。

コレルはもともと炭鉱の村。
その名残で多少、人の手の入った道が多かった。

しかし打って変わってニブル山。
まったくと言っていいほど自然のままです。

…うん、早い話…険しすぎ、てか。





「しっかしえらい山ですなー。こりゃ、一苦労ですわ」





中腹に差し掛かった頃。
デブモーグリに揺られる黒猫が、そんなあたしの台詞を代弁するかのようにそう溢す。

額を拭いながら…。
って、ちょっと待て。





「…ヌイグルミなのに疲れるの?」

「細かいこと気にしたらあかんで、ナマエさん」

「…いやいや、当然の疑問です」





黒猫を人差し指でツンツンつつくと、なにやらケット・シーは笑っていた。

今更だが、この猫ちゃん。
あたし的にはとっても好ましい姿だったりする。
いや、可愛いよね、ケット・シー。

お部屋は…ああ、なくなっちゃったけども…、でも飾ってみたいよ!

猫の頬をツンツンしながらそんなことを考える。

でもそんな時。そんな…あたしの頭のすぐ横で…



パンッ!!!



と言う音がした。

思わずビクッ!
肩を揺らせば、とさ…と何かが落ちる音。

それを目で追えば非行型モンスター。
そのまま逆を見れば赤いマントと煙を吹いているピストル。

……お、おお…!
あたしは何故かもの凄い感動を覚えていた。





「…驚かせたか」

「ううん、大丈夫!ありがと!ヴィンセント!」





それはニブルヘイムで新しく仲間になったガンマン、ヴィンセント。

この人、めっちゃ強いです。
むちゃくちゃ頼りになります。
さすがタークス…と言ったところか。

ぶっちゃけ棺桶で眠ってたなんて勿体ない!としか思えない。





「ヴィンセント、いいなー。強いねー。」

「…光栄だ」

「すっごいよねー!その銃、百発百中だもんね!いやー心強いよー」

「出来る限り力になろう」

「うん!頼りにしてるよー!いやー流石だよねー本当!」





なんか頼りがい感じすぎて自分でもビックリだ。

…ていうか何なんだろう。
なんか、お父さんと言うか…いやおじいちゃん…?て、そりゃ失礼か。
でも、なんかそういう寛大な…そんな印象を受けるのは何故。

まあ、頼りになるからなんでもいいけど。





「いやはやー、クラウドー、いいの見つけたねー」

「あ、ああ…」





ちょいちょい、とクラウドを突いて同意を求めれば、クラウドはヴィンセントをちらっと見て頷いた。

…ん?
しかしなんだか違和感。





「どかした?歯切れ悪くない?」

「…別に、そんなことない」

「そう?ヴィンセントめっちゃ良い人だったよねえ。初対面、悲鳴上げちゃって御免なさいって感じだよ。ごめんね、ヴィンセント」

「いや…驚かせて済まなかったな」

「なあに、それ?ナマエ、悲鳴上げたの?」





エアリスがくすくす笑いながら尋ねてくる。
あたしは大きく頷いた。





「うん。だってさー、ガタガタ…バーン!!!っていきなり棺桶の蓋ぶっ飛んだんだもん!あれはビックリするでしょ。ねえ、ユフィ」

「あたし、ナマエほど驚いてないよ。あの時のナマエ、超ヘタレだったよね」

「ヘタレ言うな!」





びし!と指さして、「ユフィだって叫んでたくせに!」と言い返す。
そしたらバレットから指摘が飛んできた。





「ナマエの悲鳴か…。やかましい以外のなにもんでもねえな」

「んなっ、失礼な!」

「ふふっ、元気なのはナマエのいいところよね?」

「ティファー!愛してるー!!!」





味方してくれたティファに向かってわあっと叫ぶ。
…うーん、なんかこんなやり取り昔もあったような気がするけども。

それを見てレッドXIIIが笑った。





「やっぱナマエは元気だねー」

「おうよ。あたしの取り柄だい」

「あははっ、でもオイラ、ナマエのそーゆーとこ好きだよ」

「レッド…!」





いい子だレッドXIII!
本当にいい子だよー、この子は。

よーしよしよし!
と頭を撫でたら、レッドXIIIは嬉しそうに笑みを深くした。

うーん、しっかし本当バラエティーに富んだ素晴らしいパーティーだ。
地味でありきたりで個性のないのよりよっぽど楽しいからいいけど。


…ところで。
セフィロス自身が北に向かうと言っていたのだから、それは確かな情報だ。

だけど、ニブル山を越えるにはバギーは使えない。

ということで…ニブルヘイムの前にバギーは置いたまま全員での登山。
別行動が多かったし、改めて同じ道を皆で歩くと…なかなかの大所帯だ。

ふと、高い景色に足を止めて。
皆の後ろ姿を視界に入れながらそんなことを思った。





「……。」





でも、改めて思うことは他にもあった。

そう、あたしたちは今…セフィロスを追って旅してる。
英雄と謳われた…あのセフィロスを。

考えていたら、クラウドが振り向いた。





「ナマエ、どうかしたか?」

「え?…あれ、あたし何か顔に出た?」

「いや、急に黙ったから気になっただけだ」





黙ったって…まあ、普段がうるさいのは認めるけど…。
なーんか気づ付くな…。まあいーけど。

でも、クラウドは何だか色々鋭い気がする。
その証拠に、この通りだ。





「セフィロスの事か」

「…んー、ご名答かな」





ぴったり良い当てられた。
まあ、さすがクラウドだ。さすが我らがリーダー。

…って、まあ、わかるか。

あたしたちは…神羅屋敷でセフィロスに会った。
だからきっと…クラウドも同じこと考えてるはずだから。





「リユニオン…って何だろう?」

「…わからない」





気になった言葉を呟けば、クラウドは首を横に振った。

まあ、わかるわけ無いよなあ…。
ていうか…わかってたら、とっくに教えてくれてるはずだもんね…。

…でも、気になるものは気になるわけで。





「…あたしが、邪魔してる…?」





セフィロスは…あたしに向かってそう言った。

あたし、セフィロスなんか全然知らないのに。

ジェノバだって…ううん。
ジェノバなんて、つい最近まで存在すら知らなかったよ。

なのに…、なんでだろう?
どういう、意味なんだろう?

どうしてセフィロスがあたしなんかに…。

ぐるぐる、頭をめぐる。





「不安、か?」

「…え?」





ぐるぐると唸っていれば、クラウドの声。
それに顔をあげれば、クラウドは気遣う様に言ってくれた。





「もし不安だったら…考えなくていい」

「へ…?」

「どのみち、今考えたってわからないさ。それに、奴の言うことは意味のわからないことばかりだ。ただの惑わしかもしれない」

「うーん…惑わし、かあ。なるほど…その可能性もあるか」





惑わし。
…今考えたって、わかるはずもない。

それもそうか…。
もしわかるとしたら、答えがあるのはこの旅の先だ。





「うん。そうだね。とりあえず今は、頑張って進むことだけ考えてればいいよね」

「そうだな」





目を細めて山を見上げる。

ていうか…ケット・シーじゃないけど、この山…本当に一苦労だし。

これを…越えるのか…。

あー、やだやだやだやだ!
やんなっちゃうよー。

だってさ、あたしミッドガルから出たこと無かったんだよ?
山登りなんてコレルしかしてませんよ?

本当きっついなー…コレ。

なんて、気分が物凄く盛り下がってきた。
いや、自分で下げといてアレだけどさ。





「それに…」

「…ん?」





クラウドが何か言いかけた。
あたしは自分で下げてしまったテンションのまま、だるーん…と耳を傾けた。





「あんたは…俺が、」

「え?」

「……いや」





目が合うと、なんか逸らされた。

…なぜ逸らす。
やる気ない、脱力したおめめが気に入りませんでしたか。

なんかショックだな…!

むーっとしていると、クラウドはいつの間にか止めていた足を動かした。





「皆と距離が出来てる…、行くぞ」

「はーい」





本当、言われた通り皆と距離が開いてしまっていた。

あああ、やばい。
追いつかなきゃ、という気持ちが足を駆けさせる。

クラウドを一歩追い越した。





「ナマエ」

「なに?」





でも追い越した瞬間、呼ばれた。





「…あまり、離れないでくれ」

「は?」

「…いや、だから……」

「?」

「…目の届く場所に…、それだけは…忘れないでくれ」





まっすぐ交わった、青い瞳。

どきん、
心臓が鳴った。

あ、うう…。
こ、この人天然か…。天然なのか…!

…嬉しいけど。
いや、でも落ち着きないって意味だから虚しくもあるんだけども。

…物凄い照れるんだよなあ…。

最近、なんか…変にドキドキする。
笑い飛ばすにも時間がかかると言うか…。

でも頑張る。
ニイッと笑って照れを隠す。





「だ、大丈夫だよー。セフィロスに遭遇しても一人で突っ込むとか阿呆なことしないし?ていうか、それは流石に出来ないな…恐ろしい」

「っ、当たり前だ!」

「…えへ」





ああ、怒られた。
だから小さく笑った。

でも本当そうなんだよね。

呆れられなように、迷惑かけないように頑張んないと…!
ぐっと心の中で決意。





「…早く行かないとな。本当に置いていかれる」

「あいあいさー!」





気づくと、本当にもう小さくなってる皆の背中。
おっと、置いてかれるのは御免だ!

クラウドの促しに頷いて、慌てて足を動かす。


…その時に肩を並べて、ちらっと見た隣。

金色と青。
その横顔。





「……。」





…ああ。

あたし…やっぱこの人のこと、好きだな…。
とってもとっても、すごくすごく…。

…不思議。
こうやって、ただ隣を歩いてるだけで…とっても嬉しい気持ちになる。

うーわーあ。
ちょっと、あたしってば純情じゃない?あっは!

……なんて。

でも、本当にそう思うんだよなあ…。
傍に居られるだけで、いっぱいになる。

…うん。だいすきだ。

心の中でそっと、呟いた。



To be continued



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