罪を背負い眠る男



セフィロスが消えた後、あたしたちは一先ず研究室から出てきた。
あらかたの資料は見たし、あまり長居する理由も無かったし。





「あっれー?ナマエとクラウド?」





扉を閉めると、この不気味な雰囲気に似合わない明るい声が響いてきた。

声に反応してあたしとクラウドは振り返った。
すると手を振りながらタッタッと元気に駆け寄ってきたのは忍者娘の姿。





「ユフィ!?」





いきなりの登場に驚いて名前を叫んだ。
すると「よ!」と軽く返された。





「何してるんだ」

「いや、それこっちの台詞でもあるんだけど。ナマエ達、この屋敷の中に居たんだ?」





クラウドが聞くと、うーんと体を伸ばしながら「埃っぽくて嫌んなるよねー」なんて軽く言ってのけるユフィ。

…いやいやいや。
ちょっと待てよ、って話である。

そんな呑気で良いのか、このやろう。





「ちょっとユフィ。あたしたちはまじめ〜にセフィロスの事調べてたんだよ?で、ユフィは?」

「えー、なんか大きな屋敷だったからお宝とかマテリアあるかなーと思って」

「え…。それだけでここ来たの?ひとりで?」

「うん」





あったりまえでしょと言わんばかりに頷くユフィをある意味尊敬した。

ちょっとこの子…なんという物欲…!
だって、まあ…門まではひとりでも来れるとして、でも流石に扉開けた後、この薄気味悪い館内にひとりで入る元気は無いよ…あたしには。





「よく地下まで来れたね…ユフィ」

「うん。なーんか不自然に壁が開いてるなーって思ったらナマエ達が開けたのか。くっそー、先越されたかー。あ、なんかあった?」

「いや…別にお宝は…。ていうか、」





ちらり、とクラウドに目を向ける。
クラウドもユフィの物欲に感心してるのか呆れてるのか…、ふう…みたいな顔をしていた。





「…セフィロスが居た。ユフィ、見なかったか?」





セフィロスの単語にはさすがにユフィも驚いたみたいだった。
目をぱちぱちさせ、ぶんぶんと首を振りだすユフィ。





「まじで!?セフィロスいたの!?よかったー、会わなくて!」

「おい、ちょっと。完全他人事か!」

「いーじゃん。ナマエもクラウドも別に無事だし」

「そりゃそーだけど…軽くない!?」

「まーまー。じゃあ、いいもん見せてあげるよ」

「…いいもん?」





ゴソゴソとショートパンツのポケットを漁り出すユフィ。
中から取り出したモノはチャリン…!と金属特融の音を立てた。

ユフィの人差し指に引っかかるソレは…。





「じゃーん。どっかの鍵!だいたい調べたけど、どこにも使えそうなとこ無かったから。多分、地下のどっかだと思うよ?」





そう言いながらニッコリと楽しそうな笑みを浮かべた。








「う…ッ!」





ユフィが見つけてきた鍵が合致する扉…それは確かに地下に存在した。

だが、しかし…しかしですよ!

クラウドがゆっくり開けてくれたその扉の向こうは…その、なんて言うのかな。
あえて言うなら、あはは…て感じ?

もう笑うしかねー…っていうかね。





「棺桶、か…」





クラウドが呟いた。

その瞬間ぞぞぞぞっ…!と物凄い寒気がした。
もんのすごい背筋が寒くなった!

そう、まさにクラウドの呟き通り。
ていうか、開いたそのお部屋にはいくつかの棺桶が置かれていた。

なんだこの部屋!
棺桶の間ですか!?そうですか!





「うっわー。気味悪…」

「あんたが持って来たんだよ!ちょっとユフィ!ええ!?なんでそんなもん持って来たんだ!」

「だって鍵の間ってのは普通宝物庫とかそーゆーの想像するじゃんか!」





不気味な屋敷の不気味な地下の不気味な棺桶。
この不気味三拍子には流石にユフィも顔を歪めていた。

まあそりゃそうだろう。

だって棺桶だよ、棺桶。
棺桶の使用方法なんてひとつでしょう。

つまり…あの中に入ってるのは…って話だよ。

………超不気味じゃないか!!!





「…あ、でも棺桶って一緒に何かお宝とか入れてあったりするの可能性もあるよね?」

「え、ちょ…ユフィ?」

「…開けるのか?」

「うーん、マテリアとかあったらなー…。調べなきゃ調べないで気になるよねー」

「いやいやいや、おいおいおいおい…!」





でもやっぱりユフィはユフィだった…。
この子、ある意味最強なんじゃないだろうか。

あたし、ホラーな事って別に苦手ってわけじゃないけど別に自ら足突っ込みに行く必要は無いと思うよ!!





「……私を…」





その時、だった。
どこからか聞こえてきた、聞き覚えのない男の人の低い声。

え、え、え、え、え………え!?





「…悪夢から呼び起こすのは誰だッ!」





ガタガタ………バーンッ!!!!!
って、効果音をつけるならこんな感じだろうか?うふふふふふっ。

ってそんな場合かああ!!!!?





「うわあああ!?」

「きょおおおおおおおお!!?」





見知らぬ男の声とともに…吹っ飛んだ目の前の棺桶の蓋。

あたしとユフィは思いっきり叫んで、2人してそれぞれクラウドの腕にしがみついた。

いや!今回はちょっとマジでビビったぞ!?

これって普通の反応だ!絶対!
いや、まあ…きょおおおお!って何だよ、あたし!とか思うけど!

ユフィも悲鳴を上げ、クラウドでさえビクッて驚いてたもん!





「……見知らぬ顔か。出ていってもらおうか」





物凄い勢いで吹っ飛んだ棺桶の中から現れた人物。
起き上ったその人はじっとあたしたちを見つめた後、静かにそう言い放った。

ふわ…となびく鮮やかな赤いマント。
スラリとした長い手足の長身。

…ぱ、ぱっと見は…結構な美形さん…。





「…随分うなされていたようだな」





そんな中、彼に一番最初に声を掛けてくれたのはクラウドだった。

さ、さすがクラウド…!
さすがボス!我らがリーダー!頼りになりますな…!





「フッ…… 悪夢にうなされる永き眠りこそ私に与えられた償いの時間」





クラウドの言葉に自嘲するような反応を見せる棺桶の人。

…言ってることはかなりの勢いで意味不明だけど一応会話は出来るっぽい。
いや、会話が通じるって大切だよね。それだけで安心感ってなかなか増えるもん。

って事であたしはそっとクラウドの腕から手を離した。

いや本音を言うとどさくさに紛れてこのまま抱きついていたいけどね!?
でもそれは流石に迷惑以外の何者でもないでしょう!?

ユフィとかいつの間にか、とっくに離れてるし…。
ああ、厚かましくてゴメンね…クラウド。

ま、抱きついちゃったのは本当にビックリしたからなんだけど。





「……もう、いいのか?」

「え?」





でも放した瞬間、クラウドは声を掛けてくれた。

もういいのかって…。
いやだから本心では抱きついてたいんだけども!

…なんて、アホなその気持ちはグッ、としまって頷いた。

クラウドってば、気遣ってくれるなんて良い人だわー。





「ああ、ごめんごめん。もうへっちゃらだよ」

「…そうか」

「うん?それより…あの棺桶の人でしょ、今は」

「棺桶の人って…、ああ、まあ、そうだな…」

「で、…何してるんですか、貴方」





別に襲いかかってきたりとかする雰囲気はないし。
危険そうな感じはしない。

ていうか、さっきの視線だけで身を凍らせそうなセフィロスの眼光と比べると…それに比べればこの人、別にそんなに怖くない。





「他人に話すような事ではない。ここから出ていけ。この屋敷は悪夢の始まりの場所だ」





…でも一蹴されてしまった。

こんにゃろう。
ムム…と唸った。

一方でクラウドは棺桶の人の言葉に目を伏せていた。





「悪夢の始まり、か…。…確かに、そうだな」

「おや?何を知っているのだ?」





すると棺桶の人もクラウドの言葉に食いついてきた。

お、おお…なんか会話が成立してきたっぽい。
さすがクラウドだ…!

クラウドは棺桶の人と目を合わせ、話しを始めた。





「あんたが言ったとおり、この屋敷が悪夢の始まり。いや、夢ではなく現実だな。セフィロスが正気を失った。この屋敷に隠された秘密がセフィロスを…」

「セフィロスだと!?」





ビク!!!

棺桶の人、セフィロスの名前を聞いた瞬間、急に大声あげなすった…!

向こうも相当驚いたっぽいけど、こっちまで驚かされたぞ!
おかげで肩が跳ねあがってしまった。





「「セフィロスを知っているのか?」」





セフィロス。
その名前に、クラウドと棺桶の人、見事にふたりの声が重なった。





「…君から話したまえ」





棺桶の人は呼吸を置き、一度落ち着いてからクラウドに話を促した。
…ううん、なかなか大人の対応です。

クラウドはそれに従い、5年前の事件のことを説明し始めた。
これは良い機会だ、とあたしも復習しようと真面目に耳を傾けることにした。

…ところで、さっきから妙に静かだなとユフィの姿を探したら…あの子は部屋をキョロキョロと見渡していた。
あれは絶対お宝探ししてるよ…。静かなわけだ。

…まあ、それでこそユフィか。
うん、ぶっちゃけ嫌いじゃないよ、その性格。





「セフィロスは5年前に自分の出生の秘密を知ったのだな?ジェノバ・プロジェクトの事を?……以来、行方不明だったが最近姿を現した。多くの人の命を奪いながら約束の地を捜している、と」





話を聞き終えると、棺桶の人は納得したように頷いていた。
なんか、ジェノバとか知ってるあたり色々詳しそうな感じだ。





「今度はあんたの話だ」





話を終えたクラウドは棺桶の人に説明を求めた。

でも、棺桶の人は首を振った。





「悪いが…話せない」

「ええ!?ここまできて!?」





なんでだし!
不満が募って、あたしはわざとらしく頬を膨らませた。

ていうか、さっきから何かあたし声張り上げてばっかだな、今日。

でもさ、一方的に話させておいて自分は話せないって何だそりゃって話じゃない?
いや、話したのはあたしじゃなくてクラウドだけど。

でもやっぱ、それはちょっと理不尽ってもんだと思うんだ。





「君達の話を聞いた事で私の罪はまた一つ増えてしまった。これまで以上の悪夢が私を迎えてくれるだろう。さあ…行ってくれ」





そう言いながら棺桶の人は棺桶の蓋を再び閉めようとする。
…って何か棺桶棺桶紛らわしいな!

そうだ!そもそもこの人名前すら教えてくれてないじゃないか!

あたしはガシッ!と閉められようとしていた棺桶の蓋を掴んだ。





「…何をする。放してくれないか」

「だったら名前くらい教えてくださいよ…!」




じとっと見られたけど、気にすることなく、ぐぐぐ…ふん!と棺桶の蓋を取り上げて、壁に置く。

するとクラウドも頷いてくれた。





「ああ、そうだな。名前くらい教えろ。それにあんた何者だ?」

「私は……元神羅製作所総務部調査課、通称タークスの……ヴィンセントだ」

「「タークス!?」」





今度はあたしが綺麗にクラウドとハモッた。

え、だってタークスってアレでしょ?
あの微妙におちゃめなスーツ集団じゃないか。
女の子を大切にしようを目標にした方がいい、あの集団。

…というのは冗談で、神羅の人攫い集団。
…て、これも微妙に違う?

とにかく神羅だ。うん。





「元タークスだ。今は神羅とは関係ない。……ところで君達は?」

「元ソルジャーのクラウドだ」

「…あたしはナマエ。向こうで…えっと、ゴソゴソしてるのはユフィ。…ちょっとユフィってば、いつまでゴソゴソしてるのさ」

「えー、だって何か難しい話してるんだもん。暗そうだし。あたし興味なーい」





ユフィはやっぱり強し…!

すると、棺桶の…あ、違う違う。
彼、ヴィンセントは何か考えるように「なるほど…」とクラウドに目を向けた。

彼が気になったのは、クラウドの肩書きだったらしい。






「君も元神羅か……ではルクレツィアを知っているか?」

「誰だって?」

「………ルクレツィア。セフィロスを産んだ女性だ」





セフィロスを、生んだ…?
その言葉にあたしとクラウドは顔を見合わせた。

え、だってセフィロスの母親って…。





「産んだ?セフィロスの母親はジェノバではないのか?」

「それは…間違いではないが一つの例えなのだ。実際には美しい女性から産まれた。その女性がルクレツィア。ジェノバ・プロジェクトチームの責任者ガスト博士の助手。美しい…ルクレツィア」





ルクレツィア。
ヴィンセントが囁く女性の名前。

…ちょっと気になった。

いや、ずいぶん美しい強調するな…この人。
ちょいちょい、とクラウドをつついて「どんだけ美人だったんだろうね」って耳打ちしたら「それ今別にいいだろ…」って言われた。あは。





「…………人体実験?」

「実験を中止させる事が出来なかった。彼女に思い留まらせる事が出来なかった。それが私の犯した罪だ。愛する、いや、尊敬する女性を恐ろしい目に遭わせてしまった」





今、愛するって言いかけたぞ…ヴィンセントさん。

でも…なるほど。
ちょっとだけ読めてきた気がする。

でも、だからってここで眠ってるのか…この人。
それって何か違う気もするが…。





「…眠らせてくれ。…今度は邪魔をしないで貰いたい」

「む…」





ヴィンセントは棺桶の蓋に手を伸ばし、再び閉めようとする。

その直前、ちらりと目があって、そう注意された。
言われなくても、もうしないよ!!

パタン…としまった蓋。
もう開けてくれる気は本当になさそうだ。





「お。なになに?やっと終わった?じゃあ行こうよ!なーんか何にもなさそーだし」





地下にはお目当てのものは特になかったらしく、飽きてしまった様子のユフィ。

クラウドもそれに頷き「行くか」と、歩きだした。

うん、まあ、長いしたいところじゃないのは確かだし…。
不気味だし、埃っぽいし、汚いし。

早く出たいよ、このお屋敷。うん。
そんなこんなで、多分みんな早く出たいのは同じだろう。





「ねーねー、あっちの奥の部屋はー?本当に何も無かったわけー?」

「なんにも無いって!セフィロスが居ただけだってば!あとはユフィの嫌いな本とか資料!」

「え−?ナマエだって嫌いじゃん」

「…う、まあ…否定はしない…」





命名…棺桶の間を出て、通路を歩きだす。
ユフィとペチャクチャ喋りながら。





「待て!」







でもその時…後ろで呼び止められた。

振り向かなくても…わかった。

うん、間違えなく彼の声だ。
…って寝るんじゃなかったのか、あんた。

と思いながら振り返れば、やっぱり予想通り…。
ばさ…と赤いマントが揺れた。

…ヴィンセントだ。





「お前達についていけば宝条に会えるのか?」

「さあな。でも奴もセフィロスを追っている。となれば、いずれは…」





クラウドが答えれば、ヴィンセントはまた何か考える様な仕草を見せた。

そして、しばらくの末…頷いた。





「ルクレツィア……よし、わかった。お前達について行く事にしよう」

「え!?」

「はあ?ついてくんの!?」





本当に寝るんじゃなかったのか!貴方!

いや、償うんだったら眠るよりもっと良い方法あると思うけど!
あたしとユフィは驚きつつ、クラウドの意見を待った。

結局、決定権はクラウドにある。





「元タークスと言う事で何かと力になれると思うが……」





静かに発するそうヴィンセント。

確かに、タークスって結構強いよね…。
戦闘能力には期待できそうかも…。





「よし、いいだろう」





それが決め手になった様で、クラウドは承諾した。

でも、うん。
悪い人にも見えないのは確かだ。
うん!あたしの勘はよくあたる!

まあ…結構意味不明には変わりないけど。
あたしたちの集団ってそもそも変な集団だから、ひとり変なのが増えたところで別に何も変わらなそうだし。

…ってみんなに言ったらタコ殴りにされそうだな。





「じゃあ、よろしくね。ヴィンセント」

「…ああ」





まあ、仲間が増えるのは嬉しいことか。

そう思い、あたしはヴィンセントに笑いかけた。



To be continued


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