リユニオンの呼ぶ声



「どういう…ことだ?」





…驚きを隠せていない、困惑を滲ませた声で…クラウドは呟いた。

それだけ聞いたら何がだよ…なんて思っちゃう台詞だけども。
…いや、そう呟くのもきっと無理ない。

バギーを降りて広がっていたのは…なんの変哲もない、小さな村。
でも、変哲が無いからこそ…その村は不自然だった。





「燃えちゃった筈、だよね?…どうして?私の家もある…」





同じように驚いた様子で、クラウドに続いたのはティファだった。

なんとなく事情を知ってるのは…あたし、バレット、エアリス、レッドXIII。
だからあたしたちはそんな2人の背中を見て、顔を見合わせてた。

それは以前、カームで聞いたクラウドとティファの故郷の話。
焼失してしまったはずのニブルヘイム村がそこには存在していた。





「俺は嘘なんか言ってない。俺は覚えてる…あの炎の熱さを…」





クラウドは己の手のひらを見つめて、当時のことを思い出しているようだった。

火事の事はティファも言っていたし、なによりそんな笑えない冗談をクラウドが言う様にも見えない。

だからクラウドとティファの記憶を辿っていくと、あまりに不自然な故郷。
ともかく情報が必要だと言うことで、あたしたちは手分けをして村を調べてみることになった。





「この村は燃えたことなど一度も無い。馬鹿なことを言うな。皆口を揃えてそう言ってたぜ」

「こっちも同じ。ここで生まれ育った。そんなこと、一度もない…って」





バレットとエアリスが首を振った。

一通り話を聞き、それらをまとめていく。

村人の様子は誰が聞いても同じもの。
村中が揃ってクラウドとティファの記憶を否定した。





「あとさ、なんか全身黒マントの人…何人かいなかった?」

「あー!いたいたー!うごめいてさー、不気味ったらなかったよ!」





そして、黒マントに覆われた人物。
あたしがそれを挙げればユフィが嫌そうな顔をして頷いてくれた。

続けてクラウドも難しそうな顔で補足をくれた。





「奴ら、皆ナンバーのイレズミがあった。それと…リユニオンがどうとか、あと…セフィロスの名を口にしていた」

「あ、言ってた!」





うんうん!と頷く。

リユニオン…ってのはよくわかんないから、とりあえずおいといて…。
セフィロスの名前が出てきたのはドキリとした。

ユフィの言う通り、正直不気味だ。
それでセフィロスの名前なんて言ってくれるもんだから…本当なんか心臓に悪いって言うかなあ…。





「ん?」





そんな風に、皆が話してる中。
一人離れた場所で何かを見上げているティファの姿があたしは目に入った。





「あれ。ティファ、どうしたの?」





ティファも思うこと色々あるんだろうなあ…。
なんて思いつつ、あたしは近寄って話しかけてみた。





「あ、ナマエ」

「何見てるの?これ、給水塔?」

「うん。そうよ」





ティファの見上げていたものを一緒になって見上げる。
それは、村の中心部辺りに位置する給水塔。

見上げたまま、ティファは呟いた。





「怖いくらい、何もかも元通りだなって思ったの」

「ああ、うん…、火事があった様には見えないね。神羅が何かしたのかな?」

「どうなのかな…」

「…あ、えーと、この給水塔、なにかあるの?」





うおおお、なんか暗い…!
いや、仕方ないのかもしれないけども!

どうにか少しでも元気つけてあげないと…!と思ってはみたが所詮お馬鹿なあたしにはそれくらいの話題しか浮かばない。

けど…どうなんだ、この話題…。
思いっきり村の事聞いてるし…。

そう不安を覚えたけど、ティファは柔らかく笑ってくれた。





「うーん、そうね。この給水塔、登って見ると星がよく見えるのよ」

「星?」

「そう。とっても綺麗な星空。こんな状態じゃなかったら、一泊くらいしてナマエにも見せてあげたいんだけどな。ココアでも入れて、ね?」

「おお!ココア!」





ココア飲みながらティファと一緒に天体観測…!
なんて素晴らしいシチュエーション!

いやいや、ティファの作ってくれるものは何もかも美味しいんだ。
ココアとか何でこんなに違うんだってくらい絶品なんだぞ!

ものっすごい目を光らせたらしい。
ティファはそんなあたしを見てクスクスと笑っていた。

そしてまた、ぽつぽつと何か思い出すように給水塔を見上げた。





「…クラウドもね、ここでソルジャーになるって言ってたの」

「クラウド?」

「…宣言通り、本当にソルジャーになっちゃった。凄いよね、クラウド」

「あー。ソルジャー、なるの大変だって聞くもんね」





神羅の誇る、戦闘のスペシャリスト。

英雄セフィロスの持つ肩書き。
当時は憧れる人、多かったって話だしなー。

改めて思うと、確かにすごい。





「そう…、言ってた…。確かに…この給水塔で」

「…ティファ?」

「あ、…ごめん!何でもないわ」





何か、確かめるように呟いていたティファ。
顔を覗きこめば、ハッとしたように首を振って笑った。

それはいつものティファだったから。

でも、なんとなくたまにティファが不安定に見えるのは…あたしの気のせい、なのかな。
思い返すと、カームやゴンガガでも様子がおかしいことあった。

だけど、聞いても「何でもない」って言われちゃうだけだし…。

でもさ、無理に突っ込んで聞くのもなんか嫌だしな…。
言いたくないこと無理矢理聞きだすのって、ねえ?

…自分から話してくれるの、待つのが一番なのかなあ…。
ぼんやり、そんなことを思った。





「ニブルヘイムかー…」





そのあと、あたしはひとりでぷらぷら村の中をなんとなく見ていた。

ニブルヘイム…。クラウドの故郷…。
普通だったら思いっきり観光したい気分になるはずの場所…。

だっさ、クラウドが生まれ育った村だよ?
そりゃテンション上げるなって方が無理な話だよ。

クラウドとティファの子供の頃の話とか聞いて、あわよくばアルバムとか見せて貰ったりしてさ!

なのに…どうして焼いた!セフィロスめ!
口に出したら完全にお前論点おかしいだろと言われそうだけど…そんなこたぁわかってます!





「ん?」





その時、少し離れた村はずれの場所に何か建物を見つけた。

…なにあれ、結構大きい建物だ。
…洋館ちっくな。

ものすごい好奇心がうずいてくる。





「おい、どこ行くんだ」

「おおっと…!」





その時、ガシッと肩を掴まれた。
振り向くと金髪の元ソルジャーさん。

目が合うなり、溜め息つかれた。





「ひとりでフラフラするなって言っただろ、ましてやセフィロスの名前呟く様な奴らがいる場所で…」

「あ、あはは。大丈夫だよー、少しくらい。っていうかクラウド、あの洋館なに?」

「洋館?」





こりゃちょうどいい。

そう思ったあたしは洋館を指さして出身者クラウドさんに尋ねてみた。

クラウドは指さした先を追い、「ああ…」と教えてくれた。





「…神羅屋敷だ」

「え、神羅?」

「前、話しただろ?セフィロスはあそこに閉じ籠って…」

「……ああ」





5年前の、か。

クラウドは複雑そうな表情を浮かべている。
でも目は…まっすぐ屋敷を見つめていた。





「…行ってみるか」





歩きだしたクラウドの背中を、あたしは追いかけた。

キィ…と重たい音と立てながら開いていく古びて錆びついた門。
クラウドと一緒にその屋敷に足を踏み入れれば…、むあっとした。





「うわっ、埃っぽ!!」





入っての一言。
あたしの第一声はそれだった。

なんとも緊張感のない台詞だけど、いやでも本当酷いよ、これは。

けほっけほっ、と口を押さえて咳を吐く。

この屋敷は外れにある事もあり、5年前の火事でも焼失することが無かった唯一の建物らしい。





「にしても…これは、また…」





見上げればあちこちに張っている蜘蛛の巣。
薄汚れ、シミの出来た壁紙。全体的に漂う、嫌なカビの臭い。

人が住んでいないのだから当たり前だけど、いやに静かで…。





「ぶ、不気味だ…」





夜とか絶対近づきたくない…!
だって心霊スポットって言うか、まるでホラー映画にでも出てきそうな感じで…。
とにかく不気味すぎる…!そう思わずにはいられない、そんな空間だった。

けど、ビビってる場合じゃない。

そうそう、大丈夫!こんなん何ともない!
だってクラウド一緒にいるじゃん!それだけで百人力よ!!!

そうやって誤魔化すようにブンブン!と首を振る。

一方そんな頼りのクラウドは、屋敷の中を見渡していた。





「…セフィロスはここで自分の出生の秘密を知って、村を焼き払ったんだ」





そして、5年前の出来事を呟いた。
あたしはそれを聞いて頷いた。





「あ…、うん。そんな話、だったよね」

「…カームで俺の話ちゃんと聞いてたか?」

「き、聞いてたよ!」





微妙に曖昧な返事に、クラウドは怪訝そうな顔をしてきた。
だからあたしは慌てて「聞いてた!聞いてた!」と頷いた。

いや、本当に聞いてたよ!
…聞いてはいたんだけど。

ただ、難しくて理解できてない部分が多かったて言うか…。
その辺は、否定…出来なかったりするけど…。





「セフィロスは…ここで自分のお母さんが絡んでる…えっと、ジェノバ大作戦!みたいなのの内容知ったんでしょ?」

「ジェノバ・プロジェクト…だな」

「ああ、そうそう…そ、それそれ」

「……。」

「な、なんだよー!その目は!」





今度はなんか哀れそうな目でこっちを見てくるクラウド。

やめてください!その目!
なにその目!なんか凄いショックだよ!





「…いや、まあいいけどな…。ジェノバは古代種…。自分はジェノバ・プロジェクトで作られた古代種セトラ…そう言っていた」





セフィロスは古代種…セトラ。
古代種をセトラと呼ぶって言うのは…コスモキャニオンで教えてもらったことだ。

古代種ってエアリスのことでしょ?

セフィロスは人工的に作られた古代種ってこと…?
そんなん出来るのか?

…ううん、やっぱり意味がわからん…。





「ね、クラウド。その…セフィロスが見た資料とか?どこにあるのかな?」

「ああ…見に行ってみるか」





こうしてあたしたちは書斎…というか、その研究室に行ってみることにした。

その研究室があったのは地下。
でもその地下への行き方もまた…怪しさ満点だった。





「隠し扉とか…」





地下への入り口はまさかの隠し扉。
そこから続く螺旋状の長い通路を歩きながら思った。

ええ…!なんなのこの屋敷!
隠し扉て!隠さなきゃいけないヤバい実験してはったんですか!?

…いかん、ケット・シーが乗り移ってきたよ…!


しかも地下は地下でまた埃っぽい。

口を押さえ、なるべく埃を吸わない様にしながら、あたしはクラウドを追いかけて地下の一番奥の部屋に入った。

辿り着いた研究室。

物がある分、またここも埃がすごい。
少し物を動かしただけで、むあっと立ち上る。





「うえっ…ん?…これ、ビーカー?」





そんな中で、あたしの目に止まったのは尾部屋の奥の方に置いてあったふたつの大きなビーカーだった。人ひとりすっぽり入りそう。

こういうので思い出すのは、やっぱ神羅ビルだよな。
これよりもう少し大きめのモノにエアリスとレッドXIIIが入れられていたっけ…。

……とすると、また人体実験とか…?
やっぱりヤバイ実験か!なんなんだあの会社…!

いやーな予感がして、そう眉をひそめた。





「…あ、れ?」





でもひそめた瞬間、そのビーカーに何か傷が付いているのを見つけた。

なんか…文字みたい?
そう思って、そっと指でなぞって埃をぬぐえば………読めた。





「エサの時間がチャンスだ…、…ここから逃げよう…?」





それぞれのビーカーに掘られていた文字。
読んで見てゾッ…とした。

エサ!?
逃げよう!?

や、ややややっぱり人体実験…!?
這い上がってきた恐怖感。

や、やばいだろ、これ…!

ああ!そうだ!クラウドの傍に行こう、そうしよう!
とビビりながら即座にそう思い立つ。

その時だった。





「セフィロスッ!」





いきなり聞こえた大きな声にビクッ!とした。

聞こえた声は隣の書斎の方に行ったクラウドのもの。
驚いたけど、でも発せられた名前の重大さの方が勝った。

……セフィロス…!?

その名前にあたしは慌ててクラウドのいる書斎の方に向かった。





「クラウド!」

「ナマエ…!」

「わ…っ」





駆け寄れば、クラウドに腕を掴まれ引き寄せられた。
そのまま庇うように隠される。





「…俺から絶対離れるな」

「え、は、はい…」





そしてそんな台詞を吐かれた。

…いや、ちょっとドキドキした。
でもそんなこと言ってる場合じゃないのはクラウドの背中の影から見えたその姿ですぐわかった。





「懐かしいな、ここは」





静かな声。

さら、と揺れる長い銀の糸。
その奥に見えた、更に長い真黒のロングコート。

…運搬船で一度見たその姿…―――――セフィロスだ。





「ところで、お前はリユニオンに参加しないのか?」





振り向き、見えた切れ長の瞳…。
相変わらず、背筋がぞっとするような嫌な感覚がした。





「俺はリユニオンなんて知らない!」





尋ねられた言葉に、クラウドは怒鳴る。
でもセフィロスは動じることなく、変わらずの静かな声で語りかけてくる。





「ジェノバはリユニオンするものだ。ジェノバはリユニオンして空から来た厄災となる」

「ジェノバが空から来た厄災?古代種じゃなかったのか!?」

「……なるほど。お前には参加資格はなさそうだ。…いや」





その時、あたしは体が強ばるのを感じた。





「…っ…?!」





何故なら、その冷たい瞳が確かにあたしを捉え、目があったから。
捉えられたままセフィロスは何か呟いた。





「…その娘…。…そうか。その娘が、お前のリユニオンの邪魔をしているのか…」

「…え…っ?」

「何を言っている!ナマエは何も関係ない!」





叫びながらクラウドはあたしを更に自分の背に隠してくれた。
そして引き寄せられた時に掴まれたままの腕を握る力が強くなったのがわかった。

その様子を見たセフィロスは「クックックッ…」と小さく喉を鳴らした。





「まあいいだろう…。そんな娘ひとり、大した問題ではない。どうせ何も出来まい」

「何…!?」

「それどころか、むしろ場合によれば…お前のリユニオンの導きになるかもしれないな」





薄く笑うセフィロス。
なぜだか…その笑みに更にぞっとさせられる。

なに…何言ってるの?

…リユニオン?
あたしが邪魔をしている…?
導きに、なる…?

何言ってるのか、全然わからない…。

だけど渦巻くのは…。
あるのは、漠然とした得体のしれない恐怖心。





「私はニブル山を越えて北へ行く。もしお前が自覚するならば……私を追ってくるがよい」


「「!」」





そう言葉を残すと、セフィロスは目にもとまらぬ速さで、あたしたちをかすめ、消え去ってしまった。

もちろん、振り向いてもいない。
跡形も無く、消えていた。





「なに…いまの」

「わからない…。北…ニブル山、か」





惑わす様な言葉の数々。

更に謎は増え、頭を悩ませるばかりだった。



To be continued


本当は黒マントが屋敷の中にセフィロス様がー…みたいなこと教えてくれた気もするけど、それを聞いておいて全員いるのに2人で屋敷に行くのはアレかな…と思い省きました。




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