時は満ちたと囁く
「ルーファウス〜ルーファウス神羅〜…わーれらがー神羅カンパニー〜…♪」
小さーく歌いながら揺られる。
ここは、船の上だ。
…あの後。
クラウドと共にイルカに乗ってスーパージャンプした後…色々あった。
『…あ、あれ?クラウド…どこ、行っちゃった…?』
なんとか上の街についたと思ったら、ちょっと余所見しているうちにクラウドが兵士と間違われて、神羅兵達に連れていかれてしまった…。
一人残されてどうすんだこれ状態になってしまったあたし。
とりあえずそのままの格好じゃ目立ちそうだったから近くにあったロッカーから引っ張り出した神羅の制服を着込んでみた。
そのままふらふらと歩いていたら運搬船を見つけて。
独断…ていうか賭けでもあったけど…。
セフィロスは海を渡ったのだからクラウドもコレに乗るのでは!…という結論に辿り着き、今に至る。
「おい…歌を歌うんじゃない」
「だって頭から離れないであります」
すると、そこに水を差す一声。
振り向いてそこにいたのは一人の神羅兵。
でも敬語を使う。
なぜって?だって、あたしの上司だもの!
「…必要以上に口を開くな。ばれるだろ。しかもよりによって歌うな」
「だって本当、頭から離れないんだけど…どうしようコレ。それにこの制服、なんか汗臭いよー。クラウドー」
ふざけて泣きつこうとしたら「目立つ行動とるな」と怒られた。
まあ、怖いであります!
信頼無くすよ!部下からの信頼って大事なんだぞ!
なーんてちょっとむーっとしてみた。
そう。この神羅兵…何を隠そう我らがリーダー・クラウドです。
ねー?あたしの上司でしょー?うははは。
「まったくー。勝手に人のこと道連れにしといてさあ、いなくなっちゃうんだもん。困りますよ、そういうの」
「…それは、悪かった。でもよく運搬船に乗ってたな」
「うん。まあクラウド達もコレに乗れるかは賭けだったけどね。皆も乗ってたみたいだし、良かったよ本当」
本当安心した…。
良かったよ…ひとりで海の上とかにならなくて。
この運搬船、乗っているのはクラウドとあたしだけでは無い。
ティファもエアリスもバレットもレッドXIIIもユフィも。
みんなみーんな、変装して乗り込んでる。
でも皆は、あたしたちがあんな危険を冒した後、プリシラの機転によりイルカに乗って泳いで貰えば海を通じてここまで来れると気がついたらしい…。
そんなのアリか、こんちきしょう。
「クラウド、皆に会ってきた?」
「ああ、一応な」
船の中の皆は、かなりそれぞれだった。
ティファは神羅に軍服を嫌がっていた。
まあ、ニブルヘイムでの話を聞くと無理も無い様に思う。
ユフィは水兵スタイル。
でも乗り物に弱いらしく、顔を真っ青にして死にそうになってた。
「ち、鎮静剤…」ってブルブルしてたし。
バレットは…、バレットも水兵の格好してたけど…。
それがまた何とも…。つい「ぶふっ」と噴き出したら凄い睨まれた。
レッドXIIIは…なんか、あの子は…。あれ、大丈夫なのかな…?
神羅の軍服を無理やり着て無理やり2本足で立って…ふらふらふらふら…。
尻尾も隠せて無かったし…。正直すんごい不安だ。
エアリスは、初めての船ってことでわりと楽しそうだった。
あのルーファウスとかも乗ってるらしいけど…。
…本当、乗り込んどいて良かった…。
置いてきぼりになるとこだったよ、うん。
しみじみ思って、凄くほっとした。
「…何か、楽しそうだな」
「え?」
カモメの漂う空を見上げていると、クラウドにそう言われた。
…楽しそう、か。
まあ、ちょっとそれは当たりかもしれない。
実際のところ、あたしもエアリスに近いのだ。
「うん。船とか乗ったこと無いからねー。楽しいかな。見るもの全てが新鮮だし」
「そうか」
「あ。そういえばクラウド、あれ見た?飛空艇!あたし、アレも初めて見たよ!」
ジュノンのエアポートで、あたしは思わず目を奪われたものがあった。
それは、大きな大きな飛空艇。
あれは凄い。テンションMAXだったね。アレ見た時は。
「ああ。噂には聞いたことがあったけど、あれほど大きいとは思わなかったな」
「だよね!はー、あれ乗ってみたいなー。神羅のモノだけどさ、あれがあれば、どこだって行けるもんね!」
つーか今でもMAXだったりして。
だってやばいでしょ?空飛んでどこだって行けちゃうんだよ?
やばいよー。素敵すぎるよ。ロマンだよー。
「ね、いつか神羅からぶんどってやろっか?」
「随分物騒なこと言うんだな」
「はっはっはー。いいじゃん。今更だし。ね、クラウドも一緒に乗ろーよー?」
「強奪の手伝いさせる気か?」
「うふふ、よくわかったね?なーんて…あははっ!でも本当に、いつか乗れたらいいよねー」
「…そうだな」
「お。じゃあ一緒に乗ろーねー。約束!」
「ああ」
笑えば、小さく…クラウドもマスクの下で笑ってくれたのが見えた。
冗談みたいな約束。
でも何だかとっても楽しかった。
うん、いつかクラウドと一緒に飛空艇乗れたらいいな。
それって最高すぎるね、あたし的には最高の夢だ。
そんな感じで、胸の中をほんわかさせていた時…だった。
《緊急連絡!不審人物を発見の報告有り!》
ビックウ!!!
急に流れ出したアナウンスの大袈裟なくらい肩が跳ねあがった。
え、ええ!?なに?!不審人物!?
もしかして呑気に話してたからバレた!?
…と、慌ててクラウドを見たら彼は首を振った。
「いや…俺達では無さそうだな」
「え…じゃあ、ティファやエアリス達!?あ!レッドか!?そりゃあれじゃバレても…」
「おい…、ともかく行ってみるぞ」
「あ、うん!」
慌てて甲板の中央に走る。
すると、アナウンスを聞きつけた皆も集まってきた。
「みんな大丈夫!?」
「大丈夫か!?」
「…あれ?」
集まってきた人数を数える。
1、2、3、4、5、6、7…と。
…全員、いる。
「皆いる…わね」
「よかったー。あたし、レッドかと思ったよー」
「…私は完璧だ」
ティファの言葉にほっと胸を撫で下ろし、レッドXIIIを見ると真顔でそう言われてしまった。
…いやいや、今もはや4本で立ってる奴が何を言うか。
ていうかその自信すごいな。
「待てよオイ。て事は不審人物ってのはまさか…」
バレットが顎に手を当て、考える。
あたしたち以外の不審人物。
…普通に考えていけば、浮かび上がるのはただ一人だ。
「セフィロス!!?」
全員で叫んだ。
でもセフィロスって…!
あの人、もうすでに海を渡っちゃったんじゃないのか!?
勝手にそう思い込んでいたけど、思いつくのはセフィロスだけだ。
「…確かめよう」
クラウドが低く言うと、レッドXIIIも「それが最も論理的だ」と頷く。
しかし、ブンブンと首を大きく横に振る奴がひとり…。
「あ、あたしはいいよ、別に。セフィロスとかって興味ないし。それに…ウ…ウプ…」
怯えてんのかグロッキーなのか、もはやよくわからないユフィ。
なんか不憫で背中をそっとさすってあげる。
…あたしは乗り物酔いとかとは無縁だから、その辺の苦痛はよくわからないしなあ。
こんな状態で振り回すのもアレだとは思う…。
でももしセフィロスだったら…一人の方がよっぽど危険だ。
だからぐっと手を貸してあたしはユフィを立ち上がらせた。
「…甲板は異常が無さそうだから…貨物室か。行ってみよう」
全員が頷く。
あたしたちは慎重に貨物室への階段を下りて行った。
「うっわ…!」
けど、貨物室に降りてすぐのところで声を上げてしまった。
やば!と思い、両手で口を覆う。
そっと振り向けばティファに「しっ」と怒られた。
…面目ないです…。目で謝っておく。
だけど、叫んだのには理由があるんだよ…!
その理由…貨物室には、神羅兵が倒れていた。
「…機関室に……不審…人物…いや…違…う…あれ…人間じゃ…人間なんかじゃ…な…」
もう、ほとんど虫の息。
傍にしゃがんで、やっと聞こえてきた神羅兵の声。
…機関室、か。
「…機関室へ行ってみよう」
クラウドがゆっくりと機関室の扉をあける。
あたしはクラウドの背中の影から、そっと機関室を覗き込んだ。
…薄暗い部屋。
どくん、どくん。
手も当てていないのに、心臓の音がやけに大きく聞こえる。
機関室の奥…そこには人影があった。
真黒の、マント。黒ずくめのシルエット。
「…セフィロス、なのか?」
クラウドが声を掛ければ、ゆっくりゆっくりこちらに振り向くその人影。
ホラーか…!
そう言いたくなるくらい嫌な、恐怖を煽るゆっくりさ。
「え…」
思わず声が漏れた。
だって、その人影は…振り向いた瞬間、ばたっ…とその場に倒れ込んだ。
「違う…セフィロスじゃない!」
クラウドが倒れ込んだその人に恐る恐る歩み寄る。
その瞬間だった。
「あ!クラウド!」
あたしは指をさして叫んだ。
なにかがクラウドの傍に浮き上がっていく。
そして聞こえてきた声。
「……長き眠りを経て………時は……時は……満ちた……」
銀色に輝き、なびく長い髪。切れ長の瞳。
身を包む漆黒のロングコート。
知ってる…!
新聞で、本で、ニュースで、見たことがある。
「セフィロス!」
クラウドが、その彼の名を叫んだ。
セフィロス…、彼はクラウドをその目に捉えた。
正直、思った。
なんて冷たい瞳なんだろう。
どうして、背中がぞっとするんだろう。
「セフィロス!生きていたんだな!」
「………誰だ」
「俺を忘れたっていうのか!俺はクラウドだ!」
「クラウド……」
荒げるクラウドの声。
でもそれに対しセフィロスは、静かな声。
「セフィロス!何を考えている!何をするつもりだ!」
「…時は……満ちた……」
「何!?何を言ってるんだ!?もっと…」
時は満ちた。
意味がわからない。
でもセフィロスは繰り返す。
そして、そのまま宙に浮かびあがった。
「うっ…くっ、皆!構えろ!」
クラウドの声に反応して、皆が武器を構える。
宙に浮かんだセフィロスの体。
それは、なにか…別のものに姿を変えていく。
想像もしたことのない、未知の姿。
「なに…これ…」
襲いかかってきたその存在。
足がすくむ。
そんな感覚を覚えた。
だから、ここに全員いて良かったと思った。
全員の総攻撃により、何とか落とすことが出来たから。
「…それは」
倒せた…。
でも、そこには何かが残った。
その…残った何か。
それは、見覚えがあるものだった。
「ジェノバの…腕…?」
クラウドが呟く。
そこの残っていたのは、神羅ビルで見たサンプルの欠片…。
ジェノバの腕…だった。
To be continued
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