笛の音に乗せて跳びあがれ



あの女の子…プリシラを助けたあたしとクラウドは、そのお礼にと仲間全員分のベッドを貸して貰えることになった。
それは旅をしてるあたしたちには有難い申し出で、だから素直にお言葉に甘えさせて貰った。

いやあ、良い事ってするもんだ。





「へーえ、海岸にモンスター、ねえ…」

「うん」





そして一夜は明けて、朝。
あたしは外に出てエアリスと話をしていた。





「それでクラウド、人工呼吸したの?」

「そーなんだよー」





話の内容はクラウドの人工呼吸武勇伝。

あたしはひたすらクラウドを褒めちぎっていた。

いや、だって戦闘直後であたしとか息切れしてたし。
それに比べて人に酸素分け与えられる余裕があるクラウドは凄いと思うんだ。





「…うんー…やっぱすごいなあ、クラウドは…」





話しながら…昨日の光景をぼんやり思い出した。

…クラウドは、あたしのことも凄く心配してくれた。
髪とかも拭いてくれちゃって、すっごくどきどきしたよ…。

でも…心配してくれた時のクラウドの顔…苦しそうに見えた。
…って、なんかあたし、もう末期じゃない?

だってさ妄想が見えるくらい惚れちゃってるってこと?
うっわ、やばいよそれ。超やばいじゃん、あたし!!

あー…本当どうしようこのおめでたい頭!!

でもさー、仕方ないよねえ…。
クラウドむちゃくちゃ格好いいんだもん。

「自分のことちゃんと考えろ」とか「心臓が持たない」とか。
…天然か。あの元ソルジャーさんは。逆にこっちの心臓が持ちませんよ、まったく。

本当、超仲間想いだよなあ…。
いやあ…あたしの目に狂いは無かったね!ふはははは!

…と、なんか短い間に暴走するあたしの頭。





「ふふっ…」

「…エアリス?」





すると突然エアリスは何か思いついたようにクスリと笑った。
それを見てあたしは首を傾げる。





「なに、エアリス?」

「でもそっか。人工呼吸、か」

「え、うん?」

「ふふ、ナマエ。もしかして、妬いちゃった、とか?」

「……ハイ?」





一瞬のストップ効果が発動した。
うん。謎のお言葉いただきました。

……………て、待てえい!!!

や、やややや妬…!?

理解と同時にボッと顔が熱くなった。

と、とりあえず落ち着け自分!
平然を装って、とぼけるような顔を作った。





「え、エアリスってばなーにを仰っているのですか。あたしはクラウド良い奴だなーって」

「うんうん。ナマエ、可愛いね」

「………。」





しかしニコニコしていらっしゃるエアリスお姉さま。

は、話聞いてねえ…!
ていうかバレてる!??

焦ってあわあわしてたら、その時いきなり背中にウッ…と衝撃がきた。





「ナマエ!」

「うぐうッ…!その声はユフィか…!」





背中からタックルに近い勢いで抱きつかれた。
聞こえた声で、その正体がおてんば忍者だと確信した。





「なんですか、ユフィサン…」

「なーんか面白そーな話してんじゃーんと思って」

「面白くない!なにもない!」





話を聞いていたらしいユフィはにやにやーと変な笑みを浮かべてた。

なんだその顔は!なんにも無いからね!

首を振って否定する。

…いや、本当は大ありなんだけどさ…。
ちょっと恥ずかしいじゃないのさ…。

だから相変わらずにやにやしてるユフィの頭をぺシッと叩いた。





「って!なんだよー、もう。まあ、いいけどさー。ねえ、ところでさ、この音うっさくないー?なんか頭にくんだけど」

「え?あー…」





上の方を見て、むすっと眉をひそめるユフィ。
それを聞いて、あたしはエアリスと顔を合わせ「確かに…」と頷いた。

上から聞こえてくる音…というか音楽。
…景気良いというか、そんな感じの明るい曲だ。

…けど、ちょっと音デカ過ぎ。
騒々しくて、頭にくるってのはよくわかる。

たぶん、いや絶対神羅の仕業だ。
なにやらかしてんだ、あの会社は。

そうユフィに釣られてあたしも眉をひそめる。
するとユフィは「あれ?」とあたしに尋ねてきた。





「ナマエさ、ソード持ってないくない?」

「本当、どうしたの?」

「え?あ、ベッドに立てかけて忘れた」





いつも腰に下げているショートソード。
でも今はない。

指摘されて忘れたことに気がついた。





「間抜けだなー」

「うるさいよ。取ってくるね」





馬鹿にしてきたユフィにべーっと舌を出して駆け出す。
エアリスとユフィは「いってらっしゃーい」と手を振ってくれた。

貸して貰ったのは、アンダージュノンの村に入ってすぐのお場所にあるお婆さんの家。

さあて…早く取って来よう。
カチャ…と、扉に手を掛けたその時、中から声が聞こえてきた。





「ティファ…俺とセフィロスがニブルヘイムに行った時、ティファは何処にいた?」





ぴくっ、と反応した。あ、クラウドの声だ。

話し相手はティファか…。

そういえばクラウドはなかなか起なかったんだっけ。
だから疲れてるんだろう、もう少し寝かせてあげようって言う話になって起こさなかった。

ティファは、でもそろそろ起こそうかってクラウドを呼びに行ったんだった。





「…会ったでしょ?」

「それ以外の時間だ」

「う〜ん…5年前なのよ。覚えてないわ」





聞こえてきた話の内容…。
…ニブルヘイム…。この間、カームで話してたことかな?

って、なに盗み聞きみたいなことしてんだろう、あたし。

…いやー、なんかタイミング逃したって言うか。
いやいや、タイミングも何も、普通に「クラウドー!ティファー!」みたいに入ればいいじゃんね?

はい。いきます!





「クラウドー!ティファー!」





がちゃり。
扉を開いて、まさにイメトレ通りの台詞を言う。

すると、2人の目線がこっちに向いた。





「ナマエ…」

「あら、ナマエ。どうしたの?」

「ソード忘れたから取りに来た。クラウド、おはよ」

「ああ…、おはよう」





てくてく歩いて、立てかけてあったソードに手を伸ばす。
よしよし、あったあった。

けどその時…、手にとった時にふと思った。

クラウドとティファは幼馴染み、かあ…。
なんかいーな。そーゆーの。あたし、幼馴染みとかいないし…。ちょっと羨ましいかも…。

カームでの話ではあまり2人の絡みとか良く聞かなかったけど…。
小さい頃から遊んでたりしたのかな?仲良かったのかな?

…幼馴染みって、どういうものなのかな?





「ナマエ」

「え?」





呼びかけられて、ハッとした。
振り返ると、青い瞳。





「どうした?行かないのか?ティファ、先に行ったぞ?」

「あ、ううん。行く行く!ちょっとぼーっとしてただけ」

「そうか?」

「うん。あ。外ね、なんか騒がしいんだよ」

「ああ、ティファに聞いた」

「そ?絶対神羅絡みだよ!早く行こ!」





笑いかけて、早く出ようと駆け出す。





「なあ、ナマエ…」





でもその時、何故か呼び止められた。

足を止めて、くるっと振り返る。
呼び止めて来たのは、もちろんクラウドだ。





「ん?なに、クラウド」

「いや…ちょっと聞きたいことが」

「なーに?」

「…あんたが前に話してた、あんたのヒーローって言うのは…どんな奴だったんだ?」

「……は?」





きょとんとした。

いやいや、そりゃするさ。
何を聞かれるのかと思いきや…本当に何を聞いてくるんだこの人は。

と、思いつつも聞かれたので一応答える。





「どんなって…クラウドみたいな金髪でツンツン頭の、神羅の兵士さん。ていうかそっくりさん。財布見つけてくれたの。前にも言ったよね?」

「あ、ああ…」

「何で?」

「いや…何となく。…何で、だろうな。気にしないでくれ」





そう言いながら、目を細めて、軽く額に触れるクラウド。

その様子を見て、少し心配になった。
ほら、クラウドってたまに頭痛起こすし?





「頭、痛いの?」

「いや、平気だ」

「ならいいけど…。何か変なの。ま、いーや。早く行こうよ」

「ああ」





気を取り直してドアノブに手を掛ける。
扉を開ければ…また、音楽が大きくなった。





「あ!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」





外に出ると、皆の輪の中に小さい影がひとつあった。

その影は、あたしとクラウドの気がつくと駆け寄って来る。
すぐにわかった。プリシラだ。





「あ、目覚めたんだ!」

「もう大丈夫なのか?」

「うん…。あのぅ…助けてくれてありがとう…。神羅の奴らと間違えちゃってごめんね…」

「構わないよ」

「うん!平気平気!」





アンダージュノンのこの姿を見れば、憎くなる気持ちもわかるし。
上の街が無ければ、きっと明るい村だろうしなあ…。

謝ってくれたプリシラの頭をそっと撫でてあげると、嬉しそうに笑った。

カワイイなあ…。カワイイって正義だよね!
こーゆーのを可愛いって言うんだよ、ホント。





「この嬢ちゃんの話によると、この賑やかな音楽はルーファウスの歓迎式のリハーサルらしいぜ。これは挨拶しとかねーとな」





すると、ぱしぱしと腕に付けられた銃を叩きながらバレットが不敵に笑った。

うっわー、悪い顔してるー。

…けど、なるほど。それで納得した。

この音楽、あの坊ちゃん絡みか。

ていうか来てるのか…。
クラウド、とどめは刺せなかったって言ってたし。

…新社長が来るとなれば、そりゃ盛り上がるわな。





「ルーファウスもここから海を越えるつもりなのかな?あれっ?それじゃ、セフィロスはもう、海を渡っちゃったって事?」





気がついたエアリスが驚いたように言う。

ああ、確かに。
ルーファウスがここに来たって事は、セフィロスはもう海の彼方ー…なのかも。





「何とかして上の街に行きてぇな。柱でもよじ登るか?」





本気なのか冗談なのか良く分からないバレットの提案…。

よじ登るて…。
いやいやいや…ウォールマーケットから神羅ビルまでのあの苦痛、もう二度と御免だ!

あたしがそう反論しようとすると、その前に発言をしたのはプリシラだった。





「ダメダメ!柱の下は高圧電流が流れてるの。無闇に近づいたら危険よ」





プリシラはそんなの絶対駄目だと言わんばかりに首を大きく横に振る。

…で、電流…。
聞いただけでゾッとした…。

あれ…そんなの流れてんのか…。感電死とか絶対やだ。

あたしはそう顔を歪めたものの、プリシラの話にはまだ続きがあったらしい。





「でも…イルカさんの力を借りれば何とかなるかな。ちょっと来て」

「えっ?」

「お、おい」





ぽん、と手を叩いた後、プリシラはあたしとクラウドの手を取って海岸の方に走り出した。

懐いてくれたのはとっても嬉しい。
でも…な、なにする気だ…?
何とかなるって何!!?だってそっちにあるの高圧電流でしょ!?

なんなんだ、なんなんだ、なんなんだああ!?

流れに乗せられ、あたしはそのままクラウドと共にズルズルと海岸に連れて行かれるのであった。





「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ちょっと見ていて」





海岸につくと、プリシラは首に下げているホイッスルを掴んだ。
そして、すうっと息を吸い込み、ピ!と一吹き。


バシャーンッ!


すると水しぶきが跳ねた。
そのホイッスルの音によって起こった目の前の光景に、あたしとクラウドは目を丸くした。





「おお!イルカが跳ねた!」

「…ああ、そのホイッスルに反応するのか?」

「うん!凄いでしょ!このホイッスルを吹くとイルカさんがジャンプしてくれるの。ハイ! ホイッスルをお兄ちゃんにプレゼント」





へえ…。イルカをジャンプっさせるホイッスルか。

これは凄い。めちゃくちゃ凄いじゃん。
ちょっと感動した。

でも一方で、そんなホイッスルを受け取ったクラウドは困惑している模様。





「プ、プレゼントって…どうしろって言うんだ!?」

「海に入ってホイッスルを吹くとイルカさんが柱の上までジャンプさせてくれるわ!」

「柱の上までジャンプだって!?」

「柱の上の方に、棒が突き出ているの。位置を合わせてジャンプすれば棒に乗って、上の街まで上れる筈よ」

「わーお、だいなみーっく」





あたし、最後の台詞若干棒読みだったな。はは…。
でも、そりゃそうなるだろう。

させてくれるわ!とか力いっぱい言ってくれてるけど、すんごい作戦だなあ…プリシラちゃんよ。

クラウドが困惑するのも無理はない。





「クラウド、頑張れよ!お前が上手くやったらオレ達も行くからよ!」





その時、後ろから別の声。
声でわかったけど確認すれば、バレットがいた。

わ、めっさ人事ー!
…とか言うあたしも実はそうだったりするけど。





「クラウド、がんば!」

「…完全に人事だな」





ぐっ、と拳を握ってガッツポーズで応援したら睨まれた。

きゃー。クラウドってばコワーイ!
あたしはポン、とクラウドの肩を叩いた。





「大丈夫、クラウドなら出来るよ」

「何が大丈夫なんだ…。その自信はどこから来る…」

「うーん、どこからだろー」

「なんで俺なんだ」

「だってリーダーだし」



「だったら、ナマエ、連れていったらどう?」





するとまたまた別の声。
振り向けば、そこには…にこやかスマイルのエアリスお姉様のお姿が。

お、おおう…?
エアリスお姉様の提案にちょっとばっかり混乱を起こす。





「ナマエを?」

「旅は道ずれ世は情け。誰か一緒に行ったほうがクラウドも心強いでしょ?ナマエ、一緒に、行ってきなさい?」

「なんであたし!?」

「ナマエとクラウド、戦闘の息、ぴったりじゃない」





エアリス様、変わらずニッコリ。
まあ、素敵な笑顔。

…て、その笑顔に誤魔化されるかああ!

だって聞いた!?
あの柱高圧電流だよ!?

い、いや、クラウド感電しちゃうのも困るけどさ…。





「……まあ、ここで立ち尽くしていても仕方ないのは確か、だな…」

「え?」

「ナマエ、行くぞ」

「ええ!?ちょっとクラウドさん!?」





がしっと掴まれた。
そして腕を引かれて、海の中へ…!

て、なに納得しちゃってるの!?

いやいやいや!
おかしい!おかしい!おかしいって!





「あんた、俺の部下なんだろ?ボスについてくるのが当然だ」

「ああ!こーゆー時だけずるいー!!!」





いつも嫌がってるくせにー!
人を道連れにするつもりだ、この人!!





「…さて…、」

「え…なに…?」





ある程度の場所まで連れてこられた。

目が合う。

ちょっとドキドキ。
いやいや、それどころじゃない!

でも、クラウドは何故かこっちをじっと見ている。
何かを考えているように。

いや、見方によっては戸惑っているようにも見える様な…。

え、何、何、何…?何をする気だ!
ささやかな抵抗を見せていると、クラウドは「はあ…」と息をついた。

そして……。





「…ちょっと大人しくしててくれ」

「え?…ぎゃああああああ!!??」





突然、ふわっと体が浮いた。

なぜって?
クラウドがあたしを抱き抱えたからですけども!??





「ちょ、クラ…!」

「…大人しくしていろ、落ちるぞ」





しかも姫抱き…!?

え、え、えええええ!?
何これ!夢!?

ていうか体重ばれる…!
いやでも幸せすぎるだろ!?なんなんだこの展開!?





「…ちゃんと掴まっててくれ」

「え…?」

「いくぞ」

「ふおおおおおおお!??」





ピー!

ホイッスルの音と、波の音、あたしの叫びが海岸中に響いた。



To be continued


イルカさん力持ちー!
とか気にしてはいけない…。(笑)


prev next top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -