唇から酸素をください



「あ、クラウドたち!遅かったね」

「ああ、すまない」





大陸を渡る唯一の場所、神羅の軍事都市ジュノン。

あ。エアリスが手を振ってる。
漁村アンダージュノンにあたしたちが到着すると、別行動をしていた皆も既に到着していた。





「はー!ジュノン着いたー!」

「ナマエ、何でそんなテンション高いワケ?」

「え?だって初めて来たし。海も近いし、テンションあがるでしょ?」

「ぜんっぜん!日も届いてないし薄暗くてむしろ下がるね!」




「ところで、クラウド。あのナマエが仲良く話してる子、誰?」

「……ああ」





お喋りをしていると、妙に視線を感じて「ん?」と振り向いた。

すると予想通り皆に注目されていた。
ははは、やだなー照れちゃうよー?
って、注目されてんのはあたしじゃないよね。

ティファがクラウドに尋ねた質問は聞こえた。





「ユフィだよー、皆!」





だから忍者娘の肩をポンポンと叩き、にっこり笑って紹介した。





「ユフィ?」

「うん、そうそう」

「勝手についてきたんだ」

「勝手にってなんだよー!やるかー!?」





クラウドの言葉に腹を立てたユフィはお得意のシュッシュシュッをしてクラウドを睨む。





「どーしてもあたしの力を借りたいって言うからついてきてやったんじゃんか」





えっへん的なノリで胸を張るユフィ。
あたしはそんなユフィと軽く小突いた。





「おいおーい。でまかせ言ってるなー?」

「細かいこと気にしない気にしない!」





それって細かいことなのだろうか?

まあユフィについての経緯については、ぶっちゃけクラウドの説明が一番的確だったりする。
あのまま、本当に勝手についてきたって感じだもんね。

でも、悪い子には見えなかったし。
話してみたら、とっても喋りやすかったし。

あたし的にはこの短時間で結構いいお友達になってたりする。





「仲間が増えた、ってことね?うん、いいんじゃないかな?私、エアリス」

「私はティファ。ナマエも仲良くなってるし。よろしくね、ユフィ」





エアリスやティファも優しくユフィに笑いかけていた。

すっごく流れに任せた、って感じだけど。
お友達が増えるのは嬉しいことだよね。

とりあえずユフィの件はこれで大丈夫そうだ。

…んー、でも、しっかし。





「……。」





皆はユフィの事や別行動中にそれぞれ集めた情報について話あってる。

そんな中で、あたしはふと上を見上げた。

…確かにさっきユフィが言った通り、この村には日の光が届いていない。
上に建てられた何かが邪魔してる。まるでミッドガルみたいだ。





「ナマエ、どうしたんだ?」

「あ、クラウド」





情報交換は終わったのだろうか。
ずーっと、見上げていたあたしを不思議がった様にクラウドが声を掛けてくれた。

あたしは上を指して、見て思ったことを口にした。





「なんか、ミッドガルみたいだなって」

「プレートみたいか?」

「うん。遮られて空が見えない」

「まあ、ここも上に街があるから…似たようなものかもな」

「…そっか」





なーんか嫌な感じ。
神羅ってば、上の方に街作るの好きなのか?

海近いし、結構いい場所なのに、これじゃちょっと残念だ。





「あ、あそこから海岸いけそう。クラウド、ちょっと行ってきていい?」





かすかに聞こえる波の音。
それを追って視線を動かせば、階段を見つけた。

一応リーダーの許可を取っておく。

この前フラフラするなとか言われたしな…。
あたしはちゃんとしてますよ!ってアピールしとかないとね!





「なら、俺も行くよ」

「え?」





すると返ってきたのは意外や意外…ていうか予想外の返答。

お、俺も行く…?
まったく予想していなかった言葉に目をぱちぱちしているとクラウドは怪訝そうな顔をした。





「…なんだよ、何か問題あるのか?」

「え?いや、別にそういうわけでは!」





慌てて首を横に振る。

いやいや、ちょっとビックリしただけだ。

まさかクラウドがついて来てくれるなんて…そんなん、あたしにとっては断る理由なんて有りません!
むしろ大歓迎ですけど!…て感じだって話よね。





「じゃあ早く行ってみようよ」

「ああ」





こうして、あたしとクラウドは海岸に降りた。

ザザーン、という波の音が強くなる。
目に映った水しぶきに「わあ」と思わず声を溢した。





「わあー…海だあー!」

「街を支える柱が沢山建っているな…」

「…うん、なんか台無しだね」





透き通る海の水は綺麗で、ちょっと感動した。

でも、クラウドが言う様に上の街を支える柱が海の中に建てられてる。

うん…なんかものすごい台無しだ。

なんで海の中に建てた…!神羅め…!
ちょっと恨めしくなった。





「ねぇ〜!イルカさ〜ん!」





そんな時だった。

ピッと言う笛の音。
それと、可愛らしい幼い声が聞こえてきた。





「私の名前はね、プ〜リ〜シ〜ラ!ハイ、言ってみて」





目を向ければ、そこに居たのはひとりの小さな女の子。
そして、波の中を自由に泳ぐ一匹のイルカ。


イルカ!!!


うわー!うわー!イルカ―!
初めて見たイルカの姿に、あたしはテンションがグングン上がってた。

確実に目とかキラキラしてる自信がある!





「ね!そのイルカ、お友達なの?」

「誰!?」





そっと歩み寄って女の子に声を掛ければ、…凄い驚かれたと同時に睨まれた。

……いきなりの拒絶感にプチショック。





「あなた達誰なの?もしかして神羅の人間!?」

「え、神羅!?違う違う!全然違う!ねえ、クラウド」

「ああ、俺達は神羅じゃない」





しかもいきなりの誤解に慌てて否定をする。
同意を求めてクラウドにも頷いてもらったけど…。





「信用出来ないわ!ここから出ていって!」





信じては貰えず…。

…う、わあ…。
今度はグッサリショック…!

完全に拒絶された…!

あ…なんか泣きたい。
あたしはなっさけない顔してクラウドにすがった。





「クラウドぉ…すっごい拒絶されたあ…」

「…参ったな。…!?」

「…え?」





でもその時、突然クラウドの顔色が変わったことに気がついた。
何事かとその視線を追えば、そこに見えたのは巨大なモンスターの姿。

な、なにあれ!?
…ていうか、今の状況はマズイくないか!?

あたしは慌てて心配を女の子に向けた。





「イルカさんがあぶない!」

「あ!駄目!」






女の子には「下がってて!」と言おうとした。

でも間に合わなかった。
女の子はイルカの身を心配して海に走り出していた。





「きゃあ…!」

「あっ!」





小さな悲鳴が波にのまれた。
モンスターに突き飛ばされてしまったのだ。

や、やばい…!





「助けなきゃ…!」

「ナマエ!?」





それを見たら無意識にあたしは海の中に駆け出していた。

急いで女の子の体を水の中から抱え上げる。
だけど…その顔を見ると、真っ青になってぐたっりしていた。

…気、失ってる…。





「しっかりして!」

「……。」





呼びかけても反応が無い。

これは完全なあたしの油断。
…ちょっと…気、取られちゃったんだよね。





「…あ…っ!」





気がついた時には、遅かった。

襲い来る影。
モンスターの尾がこっちに迫っていた。

…やっば…!
もう、逃げられない…!間に合わない!

ちょっと痛いだけなら…いいな…!
ぐ、と目を閉じ、あたしは女の子を庇う様に背を丸めた。





「………っ…?」





でも覚悟してた痛みはいつまで経ってもこない。

その代わりにあったのは、モンスターの悲鳴。
あたしは恐る恐る、ゆっくり顔を上げた。





「…あっ!」





映った姿に、目を見開いた。
そこにあった剣を構える背中だった。





「クラウド…!」

「その子を岩陰にでも隠して来い。それまで俺が引きつけておくから」

「あ…う、うん!」





そう言いながら剣を振り降ろすクラウド。
あたしは急いで女の子を攻撃の当たらない影に隠しに走った。





「ちょっと待っててね…」





岩陰に隠し、そっと横にする。
それからキッ…と顔を上げて敵を睨み、ソードを抜いた。





「クラウド!」





そして、対峙するクラウドの元に駆け出した。











「…意識、戻らないね」

「…もしかして死んでしまったのか?」





その後、あたしたちは無事にモンスターを倒した。

水に現れるモンスターは雷が効果抜群。
いやあ…あたし、雷のマテリア持ってて本当良かった!

早々に決着をつけて岩陰に隠した女の子の元に戻って来た。

彼女の顔を覗き込むと、変わらず意識は無い。

こーゆー時…どうすればいいのかな…。
うーん…と悩んでいると、階段から足音が聞こえてきた。





「プリシラ!」





プリシラ、たぶん彼女の名前。
それを呼びながらやってきたのは、この子のおじいさんだった。

おじいさんは慌てたように彼女の顔を覗き込んだ。





「駄目じゃ…呼吸しとらん…」





脈はあるものの、呼吸をしていない状態。
つまり、放置はまずい。

おじいさんはどうしたものか、と頭を抱えた。

…でも、それは傍に立っていたクラウドを見つけて一変。
おじいさんは何か思いついたようにクラウドに期待を掛けた。





「お!あれじゃ!若いの、人工呼吸じゃ!」





閃いた!みたいな顔のおじいさん。

ああ、なるほど。人工呼吸か。
人工呼吸ね。…人工、こきゅ…う…。





「じ…っ!?」

「人工呼吸って!?」





おじいさんの唐突の提案に、クラウドは声を上げていた。
いや、あたしも「じ!?」とか言っちゃったけど…!

だってよくよく考えたら人工呼吸て…!?
いや、だって、人工呼吸ってあれでしょ!?人工呼吸って!

つまりさ!つまりだよ!?
……え?人工呼吸は立派な処置法ですって?
人工呼吸は回数に入らない?

いやいやいや!
前者はともかく後者は、あたしだったら数入れるよ!?
クラウド相手とか絶対いれるよ!?

…って、この緊急事態に何言ってんだって話だけどさ…。





「あ、いや、あの、女の子だし…」





とりあえず、ちらっとクラウドを見てみると流石のクラウドも困惑中の模様。

でも、うん…。
…緊急事態…だよね、本当。





「何だ?知らんのか〜?教えてやるから、こっちに来なさい」





しかしおじいさんはクラウドの困惑を何か少し違った方向に解釈した模様。
多分クラウドが気にしてるの、そっちじゃないよ…おじいさん。

でもおじいさんはそんなの気づかないままにクラウドを促していく。
半ば強引に言われ、クラウドも「仕方ない…」と決めたようだ。

クラウドはそっと、女の子の前に膝をついた。





「…やるぞ」





そして決意を固めるように、おじいさんの指示に従っていった。

顔を上げさせ、気道を確保させる。
顎に手を添えて、そのまま、ゆっくりと女の子に唇を近づける…。

その様子を、あたしはじっと…黙って見ていた。

…うっわ…、うっわーあ…。
なんだろーなあ、この気持ち。

なんか…見ちゃうと言うか、なんか…うん。

クラウド格好いいなもう!!!
って、なんかすっごいあたしアホっぽいけど…!

うーん…。
なんか…すっごい妙にドキドキした。





「う、う〜ん…」

「あっ!」




その後、クラウドの人工呼吸の甲斐あって、女の子が反応を見せた。

おお!やった!
思わずグッとガッツポーズしてた。





「ほほっ!大丈夫か、プリシラ!」





喜ぶおじいさん。

だけど息を戻してもまだまだ安心は出来ない。
おじいさんに彼女を抱え、クラウドに頭を下げると急いで海岸から上がって行った。


海岸に残されたあたしたち。
少し間を置き、クラウドは立ち上がった。





「…ナマエ」

「…はい?」

「……。」





すると静かな声で呼ばれた。
向き合ってしばしの沈黙。

え、なにこのムード。
なんか怖いんだけど…!

心なしか睨まれてるような…!
え、あたし何かしました!?

人工呼吸凝視したから!?
ああああ!!それはマジでごめんなさい!!
でもでも見ちゃうじゃない…!ほ、ほんの出来心なんですようう…!!

なんか物凄い焦った!
だってなんかあたし、これじゃ変態みたいじゃん!!

だから恐る恐るクラウドの顔を伺った。





「…あ、あのー、く、クラウドさん?」

「…さっき」

「さっき…?」





恐る恐る尋ねてみると、やっぱりちょっと低い声。

うううう…って、え…さっき…!?
やっぱり人工呼吸!?

さっきって何ですか…!?





「さっき、モンスターからあの子を庇おうとした時だ」

「え、あ、…はい?」

「あの子に気を取られすぎて逃げそびれただろ?」

「あー…ハイ、そうっすね」





どうやら人工呼吸は関係なかったらしい…。
た、助かった…。ちょっと一安心…。

でも、なんとなくわかった…。
クラウドが怒ってる理由。

女の子を庇ったまま動けずにいたあたしを、クラウドは助けてくれた。

覚悟した痛みがこなくて、代わりに映った背中。
正直…もんの凄いときめいたけども…って違う違う。

確かに、反省するところ…かな。





「あー、ごめんなさい。あのまま抱き抱えてすぐ上がるべきだったよね。あれじゃ、あの子もう一回巻き添えにするところだった」





とっさに庇ったものの、あたしが吹っ飛ばされたらそのまま一緒にあの子も飛ばされちゃうわけで。
そりゃいかんだろ、って話だよな。うんうん。





「本当、クラウドが来てくれて助かったよー!ありがとう、クラウド」

「そうじゃないだろ」

「…は?」





お礼を言ったら、違うと言われた。

………ハイ?
あ。確実に間抜けな顔したな…あたし。

するとクラウドは道具袋の中から布を出し、あたしの頭に置いて濡れた髪をぐしゃ…と、拭いてくれた。

…すっごくビックリした。





「あんた、俺が神羅ビルで言ったこと覚えてるか?」

「え…神羅ビル?」

「…何かに気を取られて、自分の身に危険が及ぶ可能性を忘れないでくれって、言ったよな?」

「あ…」





非常階段を上がりきった時に言われた言葉…。

ウォールマーケットのことがあるから、自分の事も気にしろって…言われたんだっけ。

確かに迷惑掛けっ放しのような…。
ああ、面目ないなあ、ホント。

ちょっとズーン…と自分でも落ち込む。

でも、次に発せられたクラウドの声は…なぜだか、優しかった。





「…もっと、自分の事考えてくれないか?」

「え…?」

「いや…だから、その…」





その時、布の間から見えたクラウドの顔…なんだか、苦しそうに見えたのは…、あたしの気のせい…?





「…いくら目の届くところに居たってな…、……心臓が持たない」

「……わっ…」





ぐしゃ…。
布で、視界が隠れた。

触れていた感覚が離れて、布からまた顔を覗くとクラウドは背を向けて階段を上ろうとしていた。





「…そろそろ戻るぞ」

「…あ…うん…」





布を、ぎゅっと握りしめた。

な、なんだろうな…、これ…。
すっごく顔が熱くって…なんか変…。

すっごくすっごく変…!
変だ…、あたし…!

何だか、うまく、言葉が出てこなくて…。

なんか…息苦しい。
それくらい…胸が、どきどきしてた。



To be continued


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