炎のごとく燃ゆる獣



「んんーっ、臭かったーぁ…」





すはあ…っと空気を吸った。

非常階段を上りきった後、あたしたちは運良くカードキーを入手しながらセキュリティの固い60階以上のフロアを突破していった。

そんな中、会議室のあるフロアに辿り着き、その会話を聞くためにトイレから通気口を通り、会議室を覗いていたのだ。

そのトイレが臭うの何のって。
だから外の空気が清々しいったら無かった。





「今のはエアリスの話…だよな」





会議の内容を聞いてから、どこか難しそうな顔をしていたクラウドが呟く。

うーん、と伸びて呼吸していたあたしはクルリと振り返った。





「んー、よくわかんなかった…。言ってる事難しかったもん。でも古代種とか何とか言ってたね」

「ええ…たぶん、エアリスの話であってると思うわ」





ティファが頷く。

まあ、すっごい意地の悪〜い会話なのはわかったけど。
七番街のことも話していたし。





「なんだか皆性格わっるそーだよねー。あ、でもひとりだけ、まともそうだったかも。リーブさん、だっけ?あの人は割りと普通な事言ってた気がする」

「神羅の奴らなんか皆まともじゃねえよ」





会議を聞く中で、あたしはひとりだけ、違った印象を受けた人が居た。
バレットには一蹴されちゃったけども…。

七番街の事も、市民の事も、その人だけはちゃんと考えてるように、見えたんだけどな。





「おい、それより後をつけるぞ」

「ああ、あのあぶなっかしー博士みたいな人ね!」





クラウドに言われ、ぽん!と手を叩く。

クラウドが後をつけると言ったのは明らかに危ない…ていうかマッドサイエンティストの代表選手みたいな男のこと。

そいつが会議室に入ってきた途端、話が古代種絡みになった。
つまり、におう…でしょう?ってことだ。

いやいや、トイレの話じゃないよ。


名前は確か―――宝条博士。





「宝条…ってやつか」

「思い出したぜ。あの宝条って奴。神羅の科学部門の責任者だ。クラウド、知らねえのか?」

「実際に見るのは初めてだ。そうか…あいつが…」





宝条の後をつけ、更に上の階に上る。

そこからはガラリとフロアの作りが変わっていた。
真っ先に目に入るのはサンプルと書かれた怪しげな装置。

宝条はその装置に近づき、中を覗き込む。
そこには赤い、なんだか不思議な獣がいた。

その様子をあたしたちは影からそっと見る。





「可愛いサンプルよ…」





宝条は装置に撫でるように触れながら獣にそう話しかける。

そしてすぐにその場を去っていった。

それを確認し、あたしたちはその装置に駆け寄り目を留める。
あたしはティファと一緒に赤い獣を覗き込んだ。





「わあ、なんか勇ましいねえ。かっこいー」

「可愛いサンプルよ…か。生物実験に使われるのかな?」

「ええ…!?何か可哀想…。ねえ?」





なにげなく装置の中に話しかけてみる。
すると、赤い獣さんが顔を上げた。

ぱちっ。





「おお…?!」





今、ばっちり目があった。

じっとこっちを見てるような…。
だからこっちもじっと見返す。

おお…何か反らしたら負け、と言うか。
いや、別に勝負してるわけじゃないんだけどさ…。

なんか、オトモダチになれそうな…。
よくわかんないけど、愛着みたいなのが湧いてきてるあたし。





「ねえクラウド、エアリス助けるついでにこの子も逃がせないかな…って何してるの?」





なんとなく、拾った子犬飼っていいですかー的なノリでクラウドの方を見る。

するとクラウドは獣さんが入ってるのとはまた別の装置をじっと見つめていた。
小窓がついていて、ちゃんと覗き込まなきゃ中までは見えない形の装置。

クラウドはその装置の小窓に顔を近づけた。





「ジェノバ…」





じぇのば…?
クラウドの呟いた言葉に首を傾げる。

でも、その瞬間、クラウドは突然苦しみ始めた。





「う…っ」

「クラウド!?」





あたしは慌ててクラウドに駆け寄った。
異変に気がついたティファやバレットもクラウドの顔を覗き込む。





「ジェノバ…セフィロスの…そうか…ここに運んだのか」

「セフィロス…?」





クラウドの呟きを聞き返す。

ジェノバ…?セフィロス…?
何だか、前にもあったような…。

そう、あれはエアリスの家に向かう途中、クラウドはセフィロスの名前を呟いてうずくまった。

セフィロスって…あの英雄セフィロス、だよね…?





「何だい、この首無しは?」





あたしがクラウドを見つめながら色々と考えていると、バレットもクラウドが覗き込んだ小窓の中を見ていた。





「バレット、あたしにも見せて!」





場所を変わってもらい、あたしもその中身を覗き込んでみる。

……うえ。
でもちょっと、後悔した。





「何コレ…なんかキモチワルーイ…」





首無し。
バレットの例えは的確だった。

本当に首無しだった。首無しの得体の知れない生物。
あ、でも体つきは女性っぽかったような…いや、でも出来ればもう見たくない。

クラウドが頭抱えたのも気持ち悪くなったからか。
うん、それは頷ける。だって本当、気持ち悪い。





「けっ、バカバカしい。さっさと行こうぜ」





くだらない、とでも言うようにバレットはさっさと先に進んでいく。

あたしは座り込んでいるクラウドの前にしゃがんだ。





「クラウド、だいじょうぶ?」

「…ああ」

「宝条、この上行ったみたいだね。エアリスいるかも。行ってみよ」

「そうだな…」





立ち上がったクラウド。

宝条は小型のエレベーターで上の階に向かっていた。
あたしたちも同じように、そのエレベーターを使い上の階に上がった。

68階。
そこは…ビンゴだった。





「ああ!エアリスー!!!」





揺れるピンクの可愛らしいリボン。
見覚えのあるそれに、思わずあたしは跳ねて叫んだ。

エアリスー!やっと会えたよエアリスー!

そう喜び、抱きつきたい衝動にも駆られたが、簡単には近づけそうにない。
何故って、エアリスもさっき下の階にあったサンプルと書かれた装置の中に入れられていたから。





「エアリス? ああ、この娘の名前だったな。何か用か?」





叫んだあたしの声に振り向いたのは、先程と同じように装置を眺めていた宝条博士。

しれっとした顔をしている宝条に、あたしはピシリと指差して文句を言ってやった。





「何か用かだあ?大有りだ!エアリス返せ!この人攫い!」

「おい、ナマエ…ちょっと落ち着け。…だが、エアリスは返してもらう」





ちょっとたしなめられた。
でもそのまま、クラウドも低く宝条に言う。

それにも、宝条は何一つ動じる事は無く。





「私を殺そうというのか?それはやめた方がいいな。ここの装置はデリケートだ。私がいなくなったら操作出来まい?ん?」





とか言ってきた。

うーわー。めっちゃ腹立つー。
気持ち的には飛び掛ってやりたいが、宝条の行ってる事は間違いなくあたしたちにとっては弱みで…。

エアリスを助ける為には下手な手出しは出来ない。

そんな状況に陥ってしまう。

宝条は動けないあたしたちを見ると薄く笑い、部下に指示を出した。





「さあ、サンプルを投入しろ!」





その言葉により押されたスイッチ。そして聞こえてきた機械の音。

装置の中に捕らわれているエアリスが後ずさりする。
それもそのはずだった。

動いているのは装置の中。
エアリスのいる装置に、先程下の階で見た赤い獣が送り込まれてきたのだ。

ちょ…!?





「エアリス!!」

「ナマエ…!」





あたしは慌ててエアリスのいる装置に駆け寄り、手をついた。

エアリスも装置の端ぎりぎりまで逃げるが狭い装置の中じゃ限界がある。

あの獣さんも、恐ろしい事にエアリスを睨んで今にも襲い掛かりそうな勢いで威嚇し始める。

おいおいおい!!?獣さん!?
さっきちょっと意志の疎通出来かけてたじゃないか!?
あれ!?あたしの気のせいだった!?





「何する気だ!」

「滅び行く種族に愛の手を…どちらも絶滅間近だ。私が手を貸さないとこの種の生物は滅んでしまうからな」





クラウド問いに、変わらずしれっと、平然と答える宝条。





「…生物?酷いわ!エアリスは人間なのよ!」





ティファがとがめる。
それすら聞こえていないかのように宝条は顔色ひとつ変えない。

…この人…!





「許せねえ!ええい!下がってろ!」





その時、バレットが装置に向かって腕を構え、装置を壊そうと銃を放った。

すると装置は真っ白に光り、異常を見せる。





「な、何という事だ!大事なサンプルが…」





そこで初めて宝条は顔色を変え、装置に駆け寄った。

…この人…最低だ。
人や動物を、本当に実験サンプルとしか思ってない…。


その瞬間、壊れた装置の扉が開いた。
そして響いた獣の唸り声。

扉が開いた瞬間、あの赤い獣が飛び出し、宝条に襲い掛かったのだ。





「エアリス!」





でもそれはあたしたちのとっては、すっごくラッキーな事で。
その隙にあたしは装置の中に入った。





「エアリスー!ほんっと良かったー!」

「ナマエ、ありがと」





そしてギュっとエアリスに抱きついた。

ああ!エアリスだー…!
そうしてきゅうーっと、しばし幸せを噛み締める。

でも…そんな幸せは長く続かず…。

再び、耳に響いてきた機械の音。
見ると、また装置の中のエレベーターが動いていた。





「ナマエ!下がれ!」





その異変に気がついたクラウドに言われ、あたしはエアリスの手を引いて、慌てて装置の中から出る。

装置の中から這い出てきたのは…うごめく不気味な毒々しい生き物。





「今度はこんな半端な奴ではないぞ。もっと凶暴なサンプルだ!」




襲い掛かられ、傷を負いながらそう言った宝条。

凶暴なサンプル…。
また、この人の…実験…。

そう湧き上がる感情に手を握り締めていると、聞こえてきた聞きなれない声。





「あいつは少々手強い。私の力を貸してやる」





……ダレ?

そう思って振り返ると、やっぱり知ってる面子しかいない。
しいて言うなら…さっき宝条に飛び掛った…あの赤い獣さん。


………。





「「喋った!?」」





ティファと綺麗にハモった。

え、え、ええ!?
いま…今、この獣さん…喋ったよね!?





「後でいくらでも喋ってやるよ、お嬢さん方」

「うわ!やっぱ喋った!しかも何かちょっとカッコいいー!」





すごい!すごい!
ちょっと喋ったよこの子!?まじですか!?すっごーい!!!

テンションMAX!
いや、だって凄い!だって会話してるよ!ちゃんと!

もう感動の域まで達しているとクラウドに肩を叩かれた。





「おい、ナマエ…」

「クラウド見た!?凄いね!」

「…わかったから、落ち着いてくれるか。まずは、あの化け物を片付けるぞ」

「え?あ、はい!がってんです!」





ぴし!と敬礼して、腰のソードに手を掛ける。

おお…ちょっと感動しすぎて忘れてたよ…。





「バレット!ティファ!エアリスを安全なところへ頼む!」

「おう」

「わかったわ」





クラウドの言葉にバレットとティファはエアリスを連れて一旦避難をする。





「お前の名前は?」

「宝条は私をレッドXIIIと名づけた。私にとっては無意味な名前だ。好きなように呼んでくれ」

「ん、よろしくね、レッドXIII!んじゃあいっちょやりますか」

「さあ、かかってこい!」





クラウドが大剣を構えて走り出す。
あたしとレッドXIIIもそれに続き、サンプルと対峙した。


To be continued


やっとレッドだ!
好きだー!ナナキー!

…でも2周目以降だと、お前誰だよって喋り方だよなあ(笑)

あとリーブさんをちょっと贔屓しておく。←


prev next top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -