目の届くところに



「でか…」





目の前にそびえ建つ、巨大な高層ビル。

首を目一杯反らして見上げる。
そして思わず零れた言葉。

だってデカイよ、さすが世界一の大企業。

そう、あたしたちは今エアリスを救出すべく神羅の本社ビルの前に立っていた。

…スラムであるウォールマーケットから垂れていたワイヤーを頼りに良くここまで…って、そのあたりの苦労はもう出来れば思い出したくないわ。
…あたし、えらいよ頑張ったね…!自分を本当に褒めたくなる。





「前に聞いた事があるぜ。このビルの60階から上は特別ブロックとかで社員でも簡単には入れないってな。エアリスが連れていかれたのもそこに違いねえ」





バレットもビルを見上げながら、そう言う。

確かにセキュリティーとか半端なさそうだ、このビル。

神羅にとってエアリスはかなり価値のある重要人物のはずだ。
となれば、かなり上層部にいる可能性は高い。





「おおし、行くぜっ!」

「よおっし!がってんだあ!」


「ちょっと待ってよ!」





意気込んで、バレットと共にビルに突っ込もうとしたら、後ろからティファに止められた。

ていうかフードを掴まれた。
ちょ、ティファ!今あたし「ぐえ」とか言っちゃったんだけど!
ああああ…相変わらず可愛くない声ですこと…。





「まさか正面から乗り込むつもり?そんなの無茶よ!もっと見つかりにくい方法を…」





そう言うティファの言うことは最もだと思う。

だけれども、あたしたちには急がなければならない理由がある。





「だってエアリスが!」

「そうだぜ!そんな事やってられねえ!」

「それはわかるけど…。こんな時こそ慎重に他のルートを捜しましょ! ね、クラウド」

「…あそこ、非常階段があるな」





ティファに話を振られたクラウドが指差したのは正面入口から少しずれ、その脇にある小さな入り口。

非常階段。
そちらの道は、正面に比べて照明も少なく人気も無い。
確かに進入するならそっちの方が最適そうに見える。

…でも、ちょっと、ねえ…。





「ねえ、神羅って馬鹿なの?ていうか馬鹿でしょ、絶対馬鹿だよ」

「…馬鹿馬鹿言い過ぎだ」





クラウドっからの突っ込み。
いや、でもこれは絶対馬鹿だと思うんだ。

非常階段。
またまた見上げて今度は唖然。

…せ、先生、この階段まったく先が見えません。
え、だって階段って5階くらいでも結構疲れるよね…?





「いや、しかしナマエの言う事も最もだぜ…。おい…本気でこれ、上まで登るつもりか…?」

「しょうがないでしょ。エアリスを無事に助けるためよ」

「しかし、いくら見つかりにくいったってこいつは…」

「もう、ゴチャゴチャ言わない!行くわよ!」





今日は妙にバレットと意見が合う。

あたしと同じように唖然としていたバレットを叱咤し、ティファは一番に先の見えない階段を駆け上がって行ってしまう。

ま、まじですか!?
ショックを受けつつも、ティファをひとりで行かせるわけにもいかない。

あたしたちもティファを追うように階段を上り始めた。





「へへへ…」

「なんだよ、気持ち悪いな」

「フフフ…」

「ティファまで…」





上っても上っても上っても上っても…いっこうに終わりの見えない階段。

もう何もかも嫌になるような、そんな気分になってくる。

そんな状況に思わず笑い出すバレットとティファに、ひとり涼しい顔してるクラウドは眉をひそめる。

そして一方あたしは……。





「うふふふふふふふふ…」

「…ナマエ、あんた一番気持ち悪いぞ…」





クラウドを更に怪訝そうな顔にさせてみせた。
ええ、もう完全に引いてるって言うかね。

仕方ないじゃないのさ!ほっとけえぇえ!
…とか内心思っていても、もう言い返す気力も残ってない。

人間、わけわかんなくなると笑えてくるのね、うふ…。
…と、なんかもうそんなことを悟っていた。

それでも階段は階段。
終わりはちゃんとやってくる。





「や…やっと…着い…た…か…階段なんて…もう見るのもゴメンだ……」

「ハア…ハア…さすがにこれは…堪えたわ…ね…」





終わりに辿り着くとクラウド以外は息も絶え絶え。

いや、クラウドも多少は呼吸が速くなっているみたいだが。





「…げほっげほっ!」

「おい…大丈夫か…?」





あたしなんてむせてたけども…。

クラウドが気遣って背中を擦ってくれる。
ああ、ちょっと幸せ感じた。
ほんのちょっぴり階段にも感謝。

いやもう、本当二度と御免だけどね…!





「ふふ…何事にも永遠なんて…無いよね…げほっ…んん!物事にはいつかは…、終わりが来るんだね…!なんか…あたし、大切なこと…悟ったわ…げほ!」

「…大袈裟だな…」





ぜえぜえ、息を切らしながらグッと親指を立てるとクラウドは呆れ顔。
うん、その顔もう慣れてきた。





「…まあとにかく、これからが本番よね。元気出していかなきゃ…!」





ティファがそう言いながら膝に手を置いて呼吸していた背中をピッと伸ばす。

確かに、本番はここから。
こんな階段なんて前戯。いわば準備運動みたいなもんなのだ。

…とんでもない準備運動だったけどさ…。

ティファとバレットは気合を入れ直し、非常階段から出て行く。
あたしもそれに続こうと「すう…」と深呼吸して足を動かした。





「ナマエ」

「ん?」





でもクラウドに呼び止められ、動かした足を止めて一度振り返る。





「なに?クラウド」

「…来る前も言ったが、ここは神羅の本社だ。覚悟して進む必要がある」

「わかってるよ。…あれ、あたしって信用ない…?」





ここに来てもう一度確認って…。

そりゃ自他も認める調子いい奴だけどね…!
ついついふざけちゃう、どーしよーもない奴だけども…!

真面目と冗談。
その境目はちゃんとわかってるつもりだ。

エアリスを助けなきゃ。助けたいって気持ちは…紛れも無い本物。
ちゃんと真剣だよ、これでもさ。





「いや…そう言う意味じゃないんだ」

「え?」

「あんたが本気でエアリスの心配をしてるのは、ちゃんとわかってる」





クラウドはそう言いながら首を振った。





「ただ…、エアリスの事ばかり気を取られて、ウォールマーケットの時みたく自分の身に危険が及ぶ可能性を忘れないでくれ」

「…んー、ああ…はい」





ウォールマーケット…。
うーん…あれは確かにちょっと、怖かった。

神羅でウォールマーケットみたいなことが起こるとは思えないけど。
まあ、こっちはこっちで別の意味の危険がある、か。

それに、ウォールマーケットの時はクラウドには迷惑かけちゃっただろうから。
その自覚はあるから、結構気にしてる部分もあったりする。

だから、おとなしく頷いておいた。

でも、次にクラウドが掛けてくれた言葉は…とっても意外なものだった。





「…だから…出来るだけ、俺の目の届くところにいるようにしてくれ」

「えっ…?」





俺の目の届くところ……。

一瞬きょとんとした。
でもすぐに思わず、かあっと頬が火照ったのを感じた。

ええ…!?
や、面倒事を増やさないように、ってことなんだろうけどさ!

気になってる人からそんな事言われて照れるなって方が無理だ…!

そう思ってハッと気づく。

ん?…や、そうだよな。
これって照れて当たり前だよね!?

そう思ったらもう強い。





「ははは!もークラウドってば!なんか照れちゃうじゃんよ!」

「な…」

「でも…ありがとう!うん、じゃあクラウドもあたしの事ちゃーんと見張っててよ?」

「見張り…」

「そうそう。部下の安全確認ヨロシクね!」

「あんたな…」





んふふ!と笑えば、クラウドは頭を抱えていた。
ん、この反応も慣れてきたね。

…だけど、照れと同時に嬉しくないわけが無くて…。
切羽詰った状況なのに、思わず少しだけ頬が緩んだのを感じた。






「じゃ、気合入れてこーか!」





さあ、急がないと。

グッと拳を握った拳をパン!と手のひらにぶつけて気合を入れなおす。

あたしたちは神羅の上層部を目指した。



…ちなみに、非常階段を出てすぐ壁に見つけた59階の文字に、改めて自分を褒めたくなったのは…言うまでも無い。


To be continued


非常階段だけで終わってしまった…!

皆さんはどっちで行きますか?

ちなみに私はティファに「こっそり行こう」と言っておきながら非常階段の入り口に気付かず、正面突破したド阿呆です。←

ごめんよ、ティファ!(笑)


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