淡い期待
「ナマエ、怪我無いか?」
「だいじょーぶだよー!アイムウィナー!」
ばんざーい、と両手を上げる。
あたし、クラウド、そしてレッドXIIIは宝条が放って来たサンプルを退治することに成功した。
その隙に、宝条さんはどっかに逃げちゃったみたいだけど…。あんにゃろー…!
ちょっとムカッときたけど、まあいいか。
あんなのに構うより、今はもっと大切なものがある。
「エアリスー!」
「ナマエ!ふふ、ありがとう。来てくれて」
「とーぜんさ!ボディーガードだもん!」
「ふふふっ、頼もしい、ね?」
一旦、ティファとバレットに頼んで避難させていたものの、サンプルを倒して戻ってきたエアリスに、あたしは再び抱きついた。
ほら、さっきはあのサンプルのせい…っていうか宝条のせいでこの至福のひととき、見事にぶち壊されたからね。
でも、もうひとつ。
戦ってる間も、ずーっと気になってソワソワしてたこと。
「…私にも選ぶ権利がある。二本足は好みじゃない」
やっぱ何かちょっとカッコいい喋り方してくれる。
勇ましい赤い獣さん。
あたしはエアリスから離れて、彼…レッドXIIIの傍にしゃがんだ。
「あなた強いんだねー。すっごく助かっちゃったよ」
「…ナマエと言ったか。君もなかなかのものだな」
「ほんと!?やった!褒められちゃったよ!」
嬉しくなってクラウドにピースしてみた。
「わかったわかった」みたいな顔されたけど。
…なんか投げやりだね。
「お前、何だ?」
腕を組みながら、レッドXIIIに尋ねるバレット。
レッドXIIIはフン、と鼻を鳴らしながらその質問に答える。
「興味深い問いだ。しかし、その問いは答え難いな。私は見ての通りこういう存在だ。…いろいろ質問もあるだろうが、取りあえずここから出ようか。道案内くらいなら付き合ってやる」
…うーん。なんかちょっと言ってる事難しいですね…。
こういう存在…。
ま、そうだよね。目の前にあるもんが全てよね!うん!納得!
いや…本音を言うと、面倒くさくなって投げただけなんだけど…。
ともかく悪い奴じゃない、それはわかったし。
それだけで充分だとも思う。
それに、エアリスを取り戻せた時点で神羅に用は無い。
だからレッドXIIIの言う通り、あたしたちはここから出る事に決めた。
「5人で行動していたら目立つ。二手に別れよう。さっきと同じように、ナマエとレッドXIIIは俺と。バレットとティファはまたエアリスを連れて先に行ってくれ」
クラウドの指示に皆頷く。
こうして、あたしたちはそれぞれ神羅ビルからの脱出を図った。
「うわ、高いねー…こんなに上ってきたのか」
クラウド、レッドXIIIと一緒にエレベーターに乗り込む。
そのエレベーターはガラス張りになっていて、ミッドガルを見渡せた。
見渡す夜景は綺麗で、あたしはガラスに張り付くように外を見ながら声を掛けた。
でも、返ってきた声は明らかにクラウドでもレッドXIIIではなく。
「上を押してもらおうか?」
聞き覚えの無い低く静かな声に、バッと振り返った。
そこに立っていたのは、スキンヘッドにサングラス、黒いスーツに身を包んだ強面の男。
うわ、なんか迫力…!
…なんて、一瞬そんな事を思ったものの、黒スーツ…から連想して、すぐにとっても嫌な予感に変わる。
「タークス…?」
クラウドが呟く。
そう、赤髪ス…あ、いや、レノやエアリスを攫った男と同じ黒いスーツ。
ああ、嫌な予感は的中してしまったらしい。
神羅でそうくれば…まあ、タークスですよね…。
「罠…か」
「クラウド…」
クラウドはそう言いながらあたしを背に庇うように隠してくれた。
う、今ちょっとキュンとしちゃったよ…!
ああああ!一瞬でもそんなこと思ってスイマセン!!
そんな状況じゃないってことちゃんとわかってますう!!!
実際、かなり冷や汗かいてたりもする。
「スリリングな気分を味わえたと思うが…楽しんでもらえたかな?」
「くっ…」
スキンヘッドの迫力お兄さんは無言の圧力をかけてくる。
そんな後ろから、薄く微笑みながら出てきたのは、あのエアリスを攫った男。
エレベーターという狭い空間。
そんな場所で銃を向けられてしまえばこちらに抵抗する術などない。
あたしたちはあっさり神羅側に捕らえられてしまった。
「あーあ…閉じ込められちゃったね…」
「…ああ」
捉えられてしまったのはあたしたちだけではなく、ティファ達もだったらしい。
古代種であるエアリスを除き、あたしたちは全員揃って腕を拘束されたまま、最上階にいるプレジデント神羅の前に連行された。
そして夢物語のような野望を聞かされた後、独房の中へと閉じ込められてしまった。
ちなみに、あたしはクラウドとふたりで同じ部屋だったりする。
…グッジョブ神羅!
……とかちょっとだけ思って本当に本気でごめんなさい…。
いや、本当ヤバイ状況なのはわかってるんだけどね…。
「…ね、なんとかなるかな」
「…なんとかするさ」
「うん!」
クラウドがそんなこと言ってくれちゃうもんだから、こう、何か…ね。
妙にホッとをしちゃったと言いますか…。
うん…、なんか安心感、覚えてた。
「ねえ、ネオ・ミッドガルとか約束の地とか…本気で言ってるのかな」
話題を変える。
それは先程プレジデント神羅が言っていた話。
約束の地、それは豊かな土地…つまり魔晄エネルギーで溢れている場所。
そして、古代種であるエアリスがその土地に導いてくれる、と。
だからエアリスを攫ったと言うこと。
…彼女には期待しているのだ、とか言っちゃってるけどさー、やってること超自己中心的だよね。
結局は自分の利益のためだもん。
エアリスが、これじゃ本当に可哀想だ。
「うー…、エアリスーの人権を考えろ馬鹿ー!!!」
なんか腹立って、設置されたベッドに転がったまま叫んだ。
「…ナマエ?」
すると、壁の向こうから聞こえた女の人の声。
ピクッと反応して、あたしとクラウドは壁際に耳を寄せた。
「エアリス?そこにいるの?」
「無事か?」
「クラウドも、いるの?うん、大丈夫。きっと、ふたりが助けに来てくれると思ってた」
優しい声。
エアリスは隣の独房に入れられているらしい。
とにかく無事が確認できて、それに思ったより近くにいたことに安心した。
逆隣の独房には、ティファ、バレット、レッドXIIIが入れられてるのは見たんだけどね。
あたしは、そんな逆隣の壁をドンドン!と叩いてみた。
すると…。
「だあああ!!うるせえ!ナマエか!?」
「ちょっとバレット…!」
乱暴な男の声と、それをなだめようとする女の人の声。
うむ。ティファとバレットですね。
レッドXIIIは…無視かい…?いや…まあいいけどね…。
あたしはクスクス笑いながら壁に向かって話しかけた。
「やっほー」
「やっほーじゃねえよ!うるせえな!」
「バレットもうるさいよ」
「ナマエ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー。ティファは?」
「私も平気」
「そか。ねえティファー?脱出したらさ、またパンケーキ作ってよ。あたしティファの作ってくれるデザート大好き」
「ふふっ、わかった」
ともかく皆、とりあえずは無事。
クラウドの言葉とその事実が、今は安心させてくていた。
ちょっとあたし緊張感無さすぎかなあ…。
ま。そんな風に思えるくらいには、ね。
「んー、退屈だねえ…」
「…そうだな」
んー、と体を伸ばす。
それにしても、クラウドは優しい。
疲れているのは同じなのに、ひとつしか無いベッドをあたしに貸してくれていた。
皆と話してからしばらく経つ。
ああ、本当に退屈だ。
どうやって脱出しようかねえ…。まったく。
そんな風に考える。
すると突然、クラウドに問いかけられた。
「…なあ」
「ん?」
「あんた、さっきビルの中歩き回ってたとき、妙にキョロキョロしてなかったか?」
「…え!?」
どっきーん!
その指摘に、かなり大きく心臓が跳ねた。
いや…ちょっと、それは図星…だったから。
「あー…そのー…」
「…探してたのか?」
「え…?」
「…例の、その…あんたの英雄、とやらを」
「うえ…!?」
ドッキーンッ!!!
更に大きく心臓が跳ねた。
いやだって…ちょっと、またも図星だったって言うか…ね?
ば、バレてたのか…。
がくっ…と肩を落とした。
…いや、それはちょっとした淡い期待、だったんだ。
もしかして、いたりとかしないかなあ…なんて言う…ね。
集中しろよ、って話だよね…。
非常階段の終わりで確認されたじゃんねえ…?
あーあ、怒られるかなー。
とほほ…なんて気分になった。
「…そんなに似てるのか?俺と、そいつ」
「え?」
「言ってただろ?」
だけど、クラウドから発せられたのはそんな言葉で。
ちょっときょとん、とした。
え?
あれ、怒られるんじゃないのか?
…よかったぁー…。
なんだか変な安心感。
「うん。似てるよー。最初ビックリしたもん」
そして、頷いた。
だってそれは紛れも無い事実だ。
「…5年も前なんだろ?顔なんて覚えてるものなのか?」
「うーん、わりと覚えてるよ。まあ確かに多少は霧がかってたりもするけど。でも、クラウドの顔見たら、ああ!って思ったんだよねー。なんかピッタリはまったて言うか。これだあ!みたいな」
なんか笑ってしまった。
いやでも、本当、そんな感じだった。
この人だー!!!みたいな。
いや、実際は違ったわけだけどさ…。
「…そんなに、会いたいと思うのか?」
「え?」
クラウドに言われ、考える。
もう一度。
まあ…、淡くとも期待を抱いた、と言う事は会いたい…って事になるのだろう。
「うーん、そうだね。会いたいかな」
会ってどうするの?
そう言われてしまえば…どうするかは、わからないけど。
でも、それはあたしの中ではとってもキラキラした特別な思い出には変わりないんだ。
きっと、それはずっと変わらない。
胸の中で、ずっとずっと輝き続ける思い出。
「でも…会ってみたいけど、クラウドに言われてから、ちょっと思ったんだ」
クラウドとはじめて会ったとき、クラウドは「覚えにない」って言った。
クラウドはあのお兄さんとは別人だったわけだけど、でもそれって、別人じゃなくてもそう言われたんじゃないかって思うんだ。
そう…だってこの思い出が輝いてるのは…あくまで、あたしにとって、だから。
「5年も前だし、たかだか財布探してくれただけだし、向こうはあたしの事なんて覚えてないかもねえ…」
そう、相手にとってはどうでもいい事かもしれない。
はははっ、と小さく苦笑った。
あーあ、何か自分で言っててちょっと虚しくなったよ…!
はあ、っと思わず小さなため息をついた。
「じゃあ…あんたは、まだそいつの事…」
「ん?」
すると、クラウドは何かを言いかけた。
でも、すぐに噤いでしまう。
気になって首を傾げる。
「なに?」
「いや…何でもない。気にしないでくれ」
「え?なに?気になるよ、どーかしたの?」
「……どうもしないさ。それより疲れてるだろ、少し眠っていいよ。外で動きを感じたら起こしてやるから」
「クラウドだって疲れてるじゃん?」
「俺も休む。だから気にしなくていい」
「…うん」
頷く。
疲れてるのは…かなり図星で。
そんなお言葉に甘えたら、わりとすぐ眠りに落ちてしまった。
あのときの夢を、見ながら。
To be continued
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