古代種の秘密
「マリン!マリン!マリーン!!ビッグス!ウェッジ!ジェシー!こん畜生!こん畜生!こん畜生ー!!何だ、こんな物!うおぉぉー!!」
あたしたちは、六番街スラムのみどり公園に着地した。
この公園が面している七番街へのゲートは、爆発により歪み、瓦礫によって塞がれてしまった。
バレットは、そんな瓦礫に銃を放ち、親しき者達の名前を叫ぶ。
みんな…一瞬にして、消えてしまった。
「クッ!畜生…マリン…」
呟く愛娘の名前。
そんなバレットの肩を、ティファは優しく叩いた。
「…ねえ、バレット。マリンは、マリンは大丈夫だと思うの」
「え…?」
「エアリスが言ってたわ。あの子、大丈夫だからって、マリンの事よ、きっと」
「ほ、本当か!」
ティファの言葉に、バレットは顔を上げた。
そう、エアリスは確かにあの時ヘリの上から叫んでた。
あれはマリンのこと、あたしもそう思う。
でも…アバランチの皆は、柱のところに居た。
他にも、きっと多くの知り合いが…。
「……。」
歪んだゲートを前に、あたしは手を合わせ、まぶたを閉じた。
しばらく黙祷を続け、そっとまぶたを開くと、隣から声をかけられた。
「…アンタの家も、七番街にあったんだろ?」
そう聞いてきたのはクラウドで。
あたしはクラウドに振り向き、コクンと頷いた。
「うん。超やっすい家賃のおうち」
「…。」
「でも…厚意で貸してもらって、その代わりにモンスター退治とかしてさ」
思い出すように、ぽつりぽつりと話す。
築き上げたもの、思い出は、一瞬にして。
「そういえば。クラウドから貰った花、窓際に飾ったんだよ?」
「…。」
「でも…それも、なくなっちゃったね」
「……。」
一輪の花。
折角、クラウドがくれたのにな…。
何気なく、ただ暇と言う、それだけの理由で飛び出した家。
あれで最後になるなんて、思っても見なかった。
その時、ふと、思い出した。
「ねえ…あの花、エアリスから買ったって言ってたよね?」
「…ああ」
「……エアリス…」
「…。」
エアリスの名を呟くと、クラウドは背を向けて歩き出した。
その行き先は、たぶん。
なんとなく、予想はついた。
だから、あたしもクラウドの背中を追いかけた。
動き出したあたしたちを見て、ティファとバレットも追いかけてくる。
エアリスは攫われてしまった。
そして、恐らくマリンの居場所は。
「クラウド、エアリスの家に行くんだよね?」
「ああ…、でもその前に確かめたいことがあるんだ」
「確かめたいこと?なに?」
「……古代種」
古代種。
クラウドが呟いたその言葉は…確か、ヘリでエアリスを叩いた男が言っていた言葉だ。
その男は、エアリスを指して言っていたように思う。
古代種…うん、確かに気になる単語ではある、かな。
すると、その時だった。
「……セフィロス…?…うっ」
「クラウド!?」
「大丈夫?」
「しっかりしてくれよ!」
――――セフィロス。
英雄と謳われる、その男の名前を呟くと、クラウドは急に頭を押さえてうずくまった。
あたし達が心配してその顔を覗き込むと、クラウドは「なんでもない」と首を振り立ち上がった。
とりあえず顔色は悪くなさそうだ。
それを確認して、あたしたちは真っ直ぐにエアリスの家に向かった。
「クラウドとナマエ…だったね。エアリスのこと、だろ?」
エアリスの家に着くと、エアリスのお母さん…エルミナさんは扉を開いて迎えてくれた。
そして、まさに事を言い当てられ、あたしとクラウドは頭を下げた。
「ごめんなさい…ボディーガード、なのに」
「…すまない。神羅に攫われた」
「知ってるよ。ここから連れていかれたからね」
「ここで?」
「エアリスが望んだことだよ」
エルミナさんは教えてくれた。
エアリスはこの場所で攫われたこと。
そして、なぜエアリスは狙われるのか。
「…エアリスは古代種。古代種の生き残りなんだとさ」
古代種、例の言葉が出てきた。
エアリスとエルミナさんは、血の繋がりはないのだと言う。
では、なぜ一緒に暮らしって居たのか。
その理由は15年前。
エルミナさんは、戦地に行った旦那さんの帰りを待ち続けていた。
迎えるため、毎日駅まで通い続けたらしい。
…でも、待ち人はいつになっても現れない。
そんなある日、出会ったそうだ。
幼いエアリスと、エアリスの本当の母親に。
エアリスの実母は息苦しそうに倒れこんでいて、エアリスはその傍で泣きじゃくっていた。
そして…エアリスの事だけをエルミナさんに頼むと、すぐに息を引き取ったのだと言う。
「エアリスはすぐに私に懐いてくれた。よく喋る子でねえ。いろいろ話してくれたよ。何処かの研究所みたいなところから母親と逃げ出した事。お母さんは星に還っただけだから淋しくなんかない…いろいろね」
星に還る。
何とも不思議な言葉。
エアリスは、不思議な子供だった。
誰かの死に敏感で、エルミナさんの旦那さんが亡くなった事も知らせが届く前に知っていたり。
エルミナさんは、エアリスに不思議な力があるのは、すぐに気づいていた。
だけど、一生懸命隠そうとしていたから気づいていないフリをして。
…それでも、幸せだったから。
でも神羅がやってきて、エアリスを引き取りたいと願い出てきた。
神羅は、エアリスが至上の幸福が約束された土地へ導いてくれると囁き、そして彼女を……古代種と呼んだ。
「……あたし、エアリスのこと助けに行きたい」
その話を聞いて、あたしはそう拳を握り締めた。
「だって、変じゃん。どうして拘束されなきゃならないの?」
エアリスの笑った顔を思い出す。
エアリス、神羅に捕まるの嫌がってた。
だから助けて、ってあたしたちに依頼してきたんだもん。
それに、エアリスは友達だ。
友達が嫌がってるなら、助ける理由なんてそれで充分だ。
あたしはエルミナさんに向き直った。
「エルミナさん、あたし、行ってきます!それで絶対、助け出す!」
「…ナマエ」
そう言い切ると、クラウドに肩を叩かれた。
クラウドに振り向き、目を合わせる。
「なーに、クラウド。悪いけど止めても無駄だよ?あたし、決めたら最後意見なんて変えないからね」
「…止めないさ。俺も行くからな」
「へっ?」
もしかしたら止められるかも。いや、止められても聞かないけれど。
けど、そう思ってたから、思わず目を丸くしてしまった。
止められはしなかった。
でも、そのクラウドの目は、思わず息を呑むほど真剣なもので。
そんな目で、ちゃんと問いかけられた。
「ただ、神羅の本社に乗り込むんだ。…覚悟が必要だぞ」
「…そんなの、答えるまでもない」
クラウドの問いかけに、あたしは強気で言った。
神羅に逆らう。
その時点で、どういうことかなんて、わかってるよ。
そこまで馬鹿じゃない。
「ねえ。ふたりだけで話進めないで?私も行くから」
「ティファ…」
「今は思い切り身体を動かしたい気分なの。じっとしてると…何か、ダメ」
するとティファも、そう言いながらあたしの肩を叩き、微笑んだ。
あたしも、その微笑みに頷いた。
あたしも今、すっごく暴れたい気分。
じっとしてると、いろいろ考えちゃうもんね。
そして、それからもうひとつ。
2階から聞こえてきたドでかい声。
「ちょっと待て!エアリスはマリンの為に捕まったんだ!なら俺も行くぜ!」
エアリスが保護し、2階で待っているマリンに会って来たバレット。
そう、エアリスはマリンの無事と引き換えに神羅に捕まる条件をのんだ。
バレットの性格からして、その恩は返さなきゃ気がすまないだろう。
全員で顔を合わせて頷いた。
「じゃあ行こう、神羅の本社へ!エアリス救出大作戦、決行!」
ぐっと握り締めた拳を上げた。
辛いこと、苦しいこと。振り返ると、胸が痛い。
でも、今あたしたちに出来ること、しようって思った。
To be continued
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