壊れた思い出



「あったー!柱ー!ティファあったよ!!」

「ええ!間にあった! 柱が立ってる!」





下水道を抜け、その先にあった列車の墓場を出てやっと辿り着いた七番街。

七番街を支える柱は、まだそこに在った。
その事実にあたしとティファは一先ず安堵する。

でも、それはまだ間に合ったと言うだけ。
柱を守り、プレートからスラムを守らなければならない。

あたしとティファは柱に駆け寄ろうとした。





「待て!上から…聞こえないか?」





でもクラウドに止められる。

クラウドは、柱を見上げた。
確かに、何か聞こえる。この音は…。





「……銃声?」





エアリスが、呟く。

その通りだ。柱の上から響いているのは、銃声だった。

あたしも柱を見上げた。
その時、ひとつの人影が、ぐらりと揺れた。

その人影は、そのまま真っ逆さまに落ち、地面へと叩きつけられた。





「ウェッジ!」





落ちきた人物を見て絶句した。

だって、それは…ついこの間も話したばかりの知り合いで。
ティファは、彼の名前を叫びながら慌てて駆け寄る。
クラウドやエアリスもそれに続き、あたしもハッとして駆け寄った。





「大丈夫か、ウェッジ!」

「ウェッジ!」

「…クラウドさん…俺の名前覚えてくれたっすね…。ナマエちゃんも…一緒、っすか…」





ウェッジは苦しそうに、やっと、喋るのも精一杯な状態で口を開く。
何か、伝えようと必死に。





「バレットさんが…上で戦ってるっす。手を貸してやって…クラウドさん…迷惑かけて、すいません…っす」





バレットが上で戦ってる…。
つまりこの銃声は、バレットが戦っている音ということだ。

それを聞いたクラウドは再び柱を見上げ、言った。





「登るぞ!エアリス!ウェッジを頼む」

「エアリス、お願い。この近くに私達の店、セブンスヘブンがあるの。そこにマリンっていう名前の小さな女の子がいるから…」

「わかった。安全な場所へ、ね」





クラウドとティファの頼みに、エアリスは頷いた。

柱の周りに集まっていた野次馬の人々にも危険を呼びかけ、あたしたちは柱に駆け出す。
でも、その前にあたしは一度にエアリスに振り返った。





「エアリス…。エアリスも早く逃げてね」

「わかってる。ナマエも、気をつけて」

「うん!」





頭を撫でてくれたエアリス。
あたしは頷くと、クラウドとティファを追いかけて柱の階段を駆け上がった。

その途中、ビッグスやジェシーも倒れていた。
ふたりも酷い怪我を負っていて、交わす言葉も息が重そうで。

とにかく、柱を守らないといけない。
あたしたちはバレットがいるとい言う上に急いだ。





「バレット!」





階段を登りきると、そこには腕の銃で襲ってくる神羅と奮闘するバレットの背中があった。
その背中にティファが声をかけると、バレットは振り向いた。





「ティファ!クラウド!ナマエ、お前も!来てくれたのか!気をつけろ!奴らヘリで襲ってきやがる!」





そう言うと、バレットは再び銃を撃つ。

そしてその言葉通り、一台のヘリがこちらに向かってくる。
身構えると、ヘリの中からひとり男が飛び降りてきた。





「ああああ!あんた!!!」





タン、と身軽に着地したその男を見て、あたしは思わずそいつを指差し叫んでいた。

その男は、この前エアリスを攫おうとした時の。





「赤髪スーツ!!!」

「俺をそんな変なあだ名で呼ぶのは誰だぞ、と。…って、お?なんだ、こないだの威勢のいい嬢ちゃんじゃねーか」





奴はニヤッと笑みを向けてくる。
でもあたしは思いっきり睨んで返してやった。

赤髪スーツって確かに変な認識の仕方だとは思うけど、お前も威勢の良い嬢ちゃんってどんな認識だ!

でも、そんなこと今は気にしてる場合じゃない。

赤髪スーツは柱についている操作盤に手を伸ばす。
それを見た瞬間、あたしは駆け出し奴の腕にしがみ付こうとした。





「駄目ー!!!」

「ナマエ!」





その時、クラウドの声が聞こえた。
でもあたしはそのまま走った。

だって、確か前に聞いたことがある。
操作ひとつで、簡単に柱が崩せるプログラムがあるって。
それを思い出し、慌てて止めようとした。

でも、駄目だった…。





「おっ、と。やっぱ威勢良いな。でも…遅かった、と。このスイッチを押すと…はい、おしまい!作業終了」

「あっ…!」





スイッチはいとも簡単に押されてしまう。

でもまだ解除すれば…!
そう思い、操作盤に手を伸ばす。

でも、その腕を掴まれた。





「放してよ!赤髪スーツ!」

「だからそのあだ名なんなんだよ、と」

「うわっ…!」





そのまま、ぐいっと腕を引っ張られ、引き寄せられる。





「ナマエ!」

「ナマエ!」

「おい、てめえ!」

「おっと。下手に近づかない方がいいぞ、と」





その時、駆け寄ろうとしてくれたみんな。
でも赤髪スーツはそんなクラウド達に静止をかける。

やばい…。
これじゃあたし人質じゃん…!?

人質になんかなってる場合じゃないだろう…!!!

だから逃れようと腕に力を入れる…が、奴はあたしの腕をいとも簡単に束ねてしまう。
こ、こいつ…!!!





「おい、ナマエを放せ!」





その時、クラウドはそう言ってくれた。

あ、やばい。
今ちょっとトキめいた…。……って違う!!!

慌ててトキメキを振り払って暴れる。

早く!早く!早く止めなきゃ…!
気持ちだけ焦って、けど、赤髪スーツは放してくれない。





「そんな恐い顔して睨むなよ、と」





赤髪スーツはクラウドにそう返す。

…確かに、クラウドの眉間、しわ凄い、かも…。

あああ!?もしかして怒ってる!?
あたしがこんな簡単にとっ捕まっちゃったから!?

うわあああああ!!?
ちょーやばい!?

ああああ!ティファとバレットもごめんーーー!!!!

気がついたら、なんか叫びだしたくなった。ていうか叫んだ。





「うわあああ!!クラウドごめんなさいいい!」

「は…?」

「お願い!謝るから怒らないで!」

「なんでアンタに怒る必要があるんだ」

「え?」





するとクラウドからは普通のお返事が。
あれ、別に捕まったことに怒ってない?

そうとわかってからはもうポジティブだ。





「おい!赤髪スーツ!さっさと放せー!」

「やっぱお前威勢良いな。ていうか、そのあだ名は直して欲しいぞ、と」

「そんなんどうでもいいわ!」

「…全然、よくないぞ、と」

「ひょお!?」





飛び出した奇声。
なぜって、なぜか腕を引かれて更に距離が縮まったからだ。

うおおおおお!放せええええ!!!
必死にもがく。

でもそんな願いは届かない。
奴はそのままの距離で囁いた。





「俺の名前はレノだぞ、と」

「レ、ノ…?」

「そう。お前はナマエって言うんだな。覚えたぞ、と」

「いや別に覚えなくて良いし!自己紹介とかいいから放してよ!」

「そう言うなって。行動力のある女は嫌いじゃないぞ、と」

「はあ…?」





なぜかそこでニッと笑みを浮かべる赤髪スーツ…じゃなくてレノ。

なんだその笑みは。なんの笑みだ。

行動力あるってあたしのこと?威勢良いからってか?
まあ別に嫌いじゃないとか言われても何とも思わないけど。
あ、でもクラウドに言われたら喜ぶかも!

…ん?それとも何か馬鹿にして笑ってるの?
そうだとしたら、おのれえ!

いや!もう何でも良いから放せええ!!!!

ほんの0.2秒くらいの間に頭を駆け巡るあたしの忙しい思考。





「おい!いい加減ナマエを放せ!」





すると再びクラウドの声。
レノはその声に小さく息をついた。





「だからそんなに睨むなよ、と。まあいいか、そろそろ時間だ。解放してやるぞ、と」

「うわ!!?」

「っ…ナマエ!」





そうこうしていると、レノは束ねていたあたしの手を放し、背中をドン!と突き飛ばした。

いきなりのことで、あたしはバランスを崩す。

あああ!絶対ドテーン、だ…!!!
目を瞑り、そう覚悟する。

でも、その衝撃は来なかった。

変わりにあったのは、ぽすん!という優しい衝撃。





「、大丈夫か?」

「え…」





そして、そっと目を開けると目の前にあったのはクラウドのお顔。

クラウドが受け止めてくれたらしい。
あ、やばい…。
ちょっとだけ、一瞬幸せかみ締めた。

でも、勿論そんなことに浸っている場合でもない。
ちゃんとわかってますとも。





「壊せるものなら、壊してみろ、と。じゃあな、ナマエ」





その間に、そう言葉を残してレノはヘリの待つ空中へと駆け出す。





「くそ!」





その背中にバレットは銃を構え、放つ。





「くっ…」





弾は、レノの腕に命中した。
でもレノは構わずそのまま飛び降りた。

一方、邪魔が無くなった操作盤にティファは駆け寄り、パネルを見る。
でもティファの手はピタリと止まった。

あたしたちもティファに駆け寄り覗き込む。





「くっ! 時限爆弾か!」

「クラウド! 止め方がわからないの。やってみて!」

「…ただの時限爆弾じゃない」



「その通り。それを操作するのは難しい。どこかの馬鹿者が勝手に触れると困るからな」





そんな時、上から声がした。

見上げればヘリ。
そして、レノとは別の、またスーツの男。





「お願い!やめて!」





ティファは叫ぶ。
でもスーツの男は首を振って笑うだけ。





「クックックッ…緊急用プレート解放システムの設定と解除は神羅役員会の決定無しでは出来ないのだ」

「ごちゃごちゃうるせえ!」





そんな態度に怒りを見せたバレットはヘリに銃を構えた。

でも、あたしはその時ハッとした。





「バレット!待って!」

「なんだよ!」





慌ててバレットを止める。

うそ…。
男の隣に見えた、可愛らしいピンクのリボン。





「そうだな。そうした方が良い。大事なゲストが怪我をする」

「「!」」

「エアリス!」





クラウドとティファも気がついたみたいだ。

あたしは彼女の名前を叫んだ。

そう、男の隣にしゃがみ込んでいたには、エアリスだった。





「おや、知り合いなのか?最後に会えて良かったな。私に感謝してくれ」

「エアリスをどうする気だ」

「さあな。我々タークスに与えられた命令は古代種の生き残りを捕まえろ、という事だけだ。随分長い時間がかかったが、やっとプレジデントに報告出来る」





奴がクラウドの問いに答えたのはそれだけ。

そんな中、エアリスはこちらに向かって叫んだ。





「ティファ、大丈夫だから!あの子、大丈夫だから!」





ぱしん!
乾いた音。

男は、叫んだエアリスをビンタして黙らせる。





「「エアリス!」」

「だから、早く逃げて!」





あたしとティファは叫ぶ。

タークスってのは女の子乱暴する集団の集まりかっ!
暴力反対!女の子は大事にしろー!!

ともかく、エアリスを叩いた事実に怒りを覚え睨みつける。

でもエアリスは自分のことより、あたしたちの事を案じてくれていて。
そしてそのまま、ヘリで連れ去られてしまう。


同時に響いてきた爆音。
柱の爆発が始まってしまったのだ。

柱にヒビが入り、瓦礫が飛ぶのが見える。

サア…と血の気が引いて、隣に居たティファの腕に思わず抱きついた。





「ちょお!?嘘嘘嘘!?」

「上のプレートが落ちてきたらひとたまりもないわ。急がなくちゃ!」





目の前で崩れようとしている柱。
流石に恐怖を覚えないわけがない。

ど、どうしろと!?
こんなとこいたら完全にお陀仏だよ!!!





「おい、このワイヤーを使って脱出出来るぜ!」





その時聞こえたバレットの声に皆が振り向く。

バレットは柵に固定されていたワイヤーを外し、それを手にしている。
あたしたちは急いでバレットの元に走り、ワイヤーにしがみ付く。





「いくぜ!」





そして、勢い良く柱から離れる。

その時、あたしはグッと目を閉じた。

…凄く、怖くなったからだ。
耳をふさげない分、目をきつくきつく閉じる。


崩れる柱。
落ちてくるプレート。

あたしたちは、逃れられた。

でも…爆発によって起きた酷い爆風と、爆音。
そして、熱が肌に伝わってきた。



To be continued


あれ?
なぜこんなにレノが…。



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