守ってあげる


「うわあああああ!?」

「わああああ!!!!?」

「きゃあああああ!!!」





響いた三つの悲鳴。
その直後にガシャーン!!!という大きく物騒な音。

…にぶーい痛みが体中に走った。





「いてててて…」





まず一番にそう口にしたのは自分ではない、もうひとつの女の子の声。

だってあたしは痛みに悶えていた。

でも何か変な感じがするような…。
何か柔らかいって言うか…。





「お、重い…」

「重い!?あっ?!ご、ごめん…!」





真下から聞こえた少年のうめき声。
痛みを押さえながらゆっくり目を開けば、あたしの下敷きになってるホープがいた。

うわああ?!なにをしてるのあたし!!
ハッとして慌てて起きあがり、ホープの体も起こしてあげた。

…いやでも…それにしても重いって…。
…いや、そりゃ重いだろうって話…なんだけど。





「…ナマエ、さん?」

「……うん、なんか…ごめんね」





否定できない自分が微妙に虚しいというか悲しいというか…。
恐らく彼もそういう意味で言ったんじゃないんだろうってのは…わかってはいるが…。

なんか凄く申し訳ない気持ちになって、もう一度頭を下げた。
でも若干微妙にショックって言うか…。

…て、今はそんな場合じゃないだろう。





「…あちゃ〜…」





あたしたちより先に立ち上がっていた女の子は、乗ってきた機体を見て落胆の声を漏していた。

それもそのはず。機体からは怪しい煙が出て、ぱちぱち小さな火花も見える。
どうやら、今の衝撃で壊れてしまったらしい。





「ありゃりゃ…壊れちゃったみたいだね…」

「そうですね…、…すみません」





ホープに話を振ると、彼はぺこっ…とすまなそうに頭を下げた。

あたしたちはあの女の子にされるがままにエアバイクに押し込まれて、3人で異跡とか言うところに乗り込んだ。

乗り物を運転してくれたのはホープ。
最初はふらつきを見せていたものの、その運転はなかなかだった。

でも順調に進んでいた中…飛んでいた近くで爆破が起きた。
その爆風に巻き込まれ、再びバランスが崩れた機体は大きな揺れに襲われ…今に至る、という。

だからホープに非は無い。彼が謝る必要は何処にもないのだ。
あたしは座り込んだままのホープに手を差し伸べた。





「爆発はホープのせいじゃないよ。目的地にもつけたみたいだし、生きてるし、怪我もしてないし。とりあえずそれでいいんじゃないかな」

「…ありがとうございます」





重ねた手を掴んで、ぐっと立ちあがらせる。
そう言いながらまた頭を下げたホープにあたしは笑った。

…でも、そんな彼の顔を見て、ちょっと思った。
最も、それを感じたのはホープがあのフードをとってからずっと…なのだけど。





「あの、ナマエさん…?」

「あ、ごめんごめん。何でもないよ」





そりゃ、じっとジロジロ顔を見られたら誰だって戸惑うだろう。
凝視され不思議そうな顔をするホープにあたしは首を振った。

だけど…スノウと一緒でこの子も似ていた…。
見た目も名前も一緒…。

それにあの子も…。
そう思ってあたしはもう一人、一緒にやってきた女の子を見つめた。

思い浮かべるのは、あの説明書に映っていた姿。
…あの子、ヴァニラにそっくり…。

スノウもホープも、それにあのヴァニラっぽい子も。
みんなみんな……そっくりだ。

…まさか、本当に…?いやいや、まさか…!
そうは思うものの、さっきのエアバイクで激突した痛みが夢じゃないって告げてくる。





「ひたい…」

「…なにしてるんですか?」

「…頬つねりました」





なんとなく頬ほつねってみても、ちゃんと痛みがあった。
見られたホープに怪訝そうな顔されて心の方もグサッとしたけど…。

ええっと…まあ、とりあえず…。
………マジですか…?

浮かんだ、ありえない予感。
それがどんどん、逸らせないモノになってきてる気がした。





「…やっぱりいないか…」





辺りを見渡し、そう言って肩を落としたのはヴァニラに似た女の子。

ともかくこきがどこなのかって言うのも重要だけど今の状況もかなり重大だ。
あたしも彼女にならって同じように見渡してみると、なんだか背筋がぞくっとした。

…なんだか…不気味な場所…。

今立っている異跡っていう場所は…なんとなく薄気味悪い場所だった。
青緑の怪しいライトに照らされて、余計に怪しさ満点。

だけどなんだか歴史を感じる、って言うのかな?
古いというか…そんな感じもする場所だった。





「いたら変ですよ」





ヴァニラ似の子の呟きに答えたのは、ホープだった。





「兵隊だって、ファルシに近づくわけがない。パルスのルシにされたら…おしまいなんだ」





落ち込み気味にホープはそう言った。

でもあたしはそれを聞いて首をひねっていた。
…だって正にわからない言葉のオンパレードなんだもの。

ファルシ?パルス?ルシ?
なんの話ですか…って感じ。

だけど、その言葉は…女の子の気に障ったみたいだった。





「なにそれ?」





少しだけ刺の感じられる口調。
それを聞いたホープは、驚いたように聞き返した。





「知らないんですか、貴女…」

「ヴァニラ!」





頬を膨らまし、ホープの言葉を遮った彼女。
その発せられた言葉にあたしはぴくりと反応した。





「名前」





ヴァニラ…、彼女はそう名乗った。

それを聞いたあたしの頭の中では相反する考えがぶつかっていた。
ああやっぱりってどこかで認め始めた考えと、おいおいおいおい、本当に?…みたいなのがごちゃ混ぜになってる状態。

…この見た目。
スノウ、ホープ、ヴァニラっていう名前…。

明らかにあたしの住んでた場所とは違う単語に文化…。
やっぱりここって、ここって…。





「ねえ!」

「うあ!?」





ぐるぐるぐるぐる。
ひたすら考えてにふけっていたら急に肩を叩かれて奇声を上げてしまった。

ハッとして振り向けば、あたしの奇声に驚いて肩を叩いた手を引っ込めているヴァニラと目を丸くしてるホープ。

あたしは慌てて謝った。





「ご、ごめん!あはは…ちょっと、ぼーっとしてて…」

「う、ううん。平気。ちょーっと驚いたけど…。ね、貴女の名前は?」

「え?あ、えっとナマエだよ」

「ふむふむ。ホープにナマエだね」





あたしがぼーっとしてる間にホープは自己紹介を済ませていたらしい。
ヴァニラはあたしとホープを見渡し嬉しそうに「よし、覚えたよ!」と笑う。





「とりあえず、あいつ探そ!」





そしてその明るい笑顔のまま、くるりと回ってスカートを揺らしながら先を歩きだした。

あいつ…つまりスノウを探す。
スノウを追ってきたんだから、その考えは当然のことだ。

だけどあたしは軽快にスキップでもしてるかのような足で進んでいくそんなヴァニラの姿に…なんて行動力のある子だろう、なんて感心を覚えていた。





「…なんで、来ちゃったんだろ…」





一方で、後ろからはそんな後悔の呟きが聞こえた。

あたしはヴァニラを追いかけようと動かしかけた足を止めて振り向いた。
後悔を呟いたホープは溜め息をつき俯いていた。

…なんだか、このふたり見事に対照的だな…。

でも、ここに立ち止まってても仕方ないし…。
あたしは彼の名前を呼んで手招きした。





「ホープ」

「……はい」





ホープは顔を上げて頷くと、重たく足を動かし始める。
あたしは彼が追いついたのを確認したところで、合わせて一緒に歩きだした。











「あ!これこれ!」





あたしとホープがヴァニラに追いついた頃、ヴァニラは物陰で何やらゴソゴソとしていた。

あんなところで何してるんだ…。
そう思ってその姿を見ていると「じゃーん!」みたいな感じで何かを握って物陰から飛び出してきた。

なんだあれ…。握られていたのは…なんだかロッドっぽい感じのもの。
ヴァニラはそれを慣れた手つきで振り回し始める。

よくわからないから素直に聞いてみた。





「…なに?それ」

「武器だよ、武器!これで何か出てきても大丈夫!」

「……。それは心強いよー…な…?」





すこーし困惑気味に首を傾げた。

なんでそんなものの在り処知ってるの?とか色々あるんだけど。

でもそもそもだよ。
何かって何!何か出るの!?

だって、もし此処があの世界だったとしたら…。
限りなくその可能性が高くなってしまうじゃないか…!

なんだか少し、背中に嫌な汗を感じた…その時だった。





「「「…!」」」





その場にいた全員の顔色が一瞬に変わった。
なぜって、明らかに人間のモノじゃない、そんな声が聞こえたから。

慌てて振り向けば、そこには一つの狼のようなシルエット。
だけど色は、赤や白や…そして緑の光るライン。どう見ても生物的な色はしてない…。

でもわかったのは味方ではないってこと。
早い話、襲いかかってくる気満々だ。

ど、どうしよう…!

どうしていいかわからなくて立ち尽くしていると、ヴァニラはさっき見つけたロッドを構えて敵の前に飛び出した。

…ま、まさか…戦うの…?





「ヴァニラ…っ!」

「だいじょーぶ!はあっ…!」





あたしが声を掛けるとヴァニラは一度だけ振り返り、笑って勢いよくロッドを一振りした。

すると二又に分かれていたロッドの先端から、ワイヤーの様なものが飛び出した。
そのワイヤーの先にも仕掛けが施されているようで、その先が敵を捉え、引っ掻く様にダメージを与えていく。

…す、すごい…。
その鮮やかさに思わず感心を覚えてしまった。

そう思いながらそれを見ていると、隣で何か…黄色いモノがちらついた。

ふいに視線を向けると、そこにはホープがいた。
少し怯えた表情。だけどホープの手には黄色いブーメランが握られていた。





「…くっ…、それ!」





ブーメランなんて、持ってたんだ…。
あたしがそう思ったと同時に、ヴァニラにならったのようにホープはブーメランを投げつけた。

ブーメランは綺麗なカーブを描きながら、敵に命中する。
それがトドメだった。その衝撃で奴はドサッと倒れた。

返ってきたブーメランを、ぱしっ…と覚束無い手でホープはキャッチした。

……勝った…。





「ふ、ふたりとも…凄い…」





終わった戦闘。
圧倒されたあたしはパチパチと拍手してた。

いやだって…本当凄いって言うか…助かった…。

拍手に気を良くしたらしいヴァニラは「まーねー!」とピースしてきて、ホープはホッと安心したように胸を撫で降ろしていた。





「ナマエは何も武器とか持ってないの?」

「も、持ってないよ!そんなもの…」





ロッドを折りたたみ腰に掛けながらそう聞いてきたヴァニラにあたしはブンブンと首を横に振った。

あたしにあるのはこの身と小さなバックのみ。
しかもバックにも大したものは入って無い。飴とか携帯とか…そんなものだ。

ていうか…物にもよるだろうけど、あたしの世界じゃ武器なんか持ってたら基本的に捕まるんですよ…ヴァニラさん…。

あたしのそんな様子を見たヴァニラは「ふーん」と顎に手を当て何かを考えだした。
そしてすぐ何か思いついたように「そうだ」と言いながらパン!と手を叩いた。





「じゃあ、私とホープがナマエのこと守ってあげるね!」

「へ?」

「え…!?」





つい間抜けな声が出てしまった。
ていうか思いっきり巻き込まれた感じのホープも凄い驚いてた。

…守ってあげる…、って。





「ね!ホープ!」

「えっ、あ…っ」





ヴァニラはガシッとホープの肩を掴んで、同意を求めはじめた。
…うん、物凄い巻き込み事故だね…。

困惑してるホープと目が合った。

うわあ…完全に困っちゃってるよ…。
目があったことでそれが凄くよく伝わってきた。

でも、困惑しながらもホープは…。





「は…はい…」





ホープは畳んだブーメランを握りしめ、ゆっくり頷いてくれた。
まあ…ヴァニラの波にのまれた、とも言うかもしれないけど…。

でも、なんとなく、嬉しかった。
あたしが武器持ってないのは事実だし、そう言ってくれるのは…助かるし。





「うん。ありがとう」





だから笑って、お礼を言った。



To be continued

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