希望の未来に期待をかけて


『うおおおおおっ…!!』





オーファンの、今までで一番の悲鳴。
死闘の末、あたしたちはオーファンを倒した。

崩れ、壊れていく、オーファンの存在。

それは同時に、コクーンの崩壊も意味していた。





「止めるぞ!コクーンを守るんだ!」





ライトの声に、全員が頷く。
そして走り出した。

どうにかして、コクーンを守らなきゃいけない。

その気持ちだけを胸に、とにかく。

だけど、その瞬間、辺りがカッ…と青白い光に包まれた。

そして感じた浮遊感。
あたしたちの足は地を離れ、そしてふわりと浮かび上がった。





「うわっ…!浮いた…!?」

「全てのファルシが機能を停止したからだ!だから、きっとコクーンの重力が乱れてるんだ」

「重力…!?そっか、重力もなんだ…!」





浮かび上がった体について、ライトが理由を教えてくれた。
確かに、この状態を説明するなら…無重力というのが一番しっくりくる。

重力までもファルシが操っていたなんて。

改めて、コクーンという世界がいかにファルシに依存していたのかを知りえた気がした。





「あ…!」





そして…そんな浮遊感の中、自分の体に何か違和感を感じた。

何か…体が張り詰めていくような、そんな不思議な感覚。
自分の体を見てみれば、その理由はすぐわかった。

まるで、ガラスみたい…。
透き通るように、固まっていく。

オーファンを倒したから…使命を果たしたと見なされたのかもしれない。

あたしたちの体は、クリスタルになり始めていた。





「みんな!」

「おう!」

「手ぇ繋げ!」

「はい!」

「うん!」





乱れた重力。クリスタル化が始まった体。
あたしたちは離れないよう、咄嗟に互いに手を伸ばしあった。





「ナマエさん!」

「ホープ!」





名前を呼ばれた。呼び返した。

いつもの、いつも…傍にあった、君の声に手を伸ばす。

指先から触れ、ぎゅっと強く絡めあう。
離れないように、放さないように。

そして彼は握り締めた手の向こうで、あたしに確かな笑みをくれた。





「約束しましたよね!僕は、貴女の手を放しません。絶対…放さない!」





旅の中、何度も繋ぎ、握った手。
ルシにされたあの日から、放さないと決めた…君の手。





「うん!あたしも絶対放さない!」





言葉を返した。
右手に…あたしは希望の手を掴む。

そして…左手には、もうひとつの感触があった。





「ライト!」

「ああ!ナマエ」





振り向けば、微笑をくれた憧れの人。

右手にホープ、左手にライト。
あたしはそのふたつを、確かに握って確かめた。

そして、ホープの左手にはサッズ。
サッズの手には、スノウ。

輪を作るように、繋がりあう。

だけど…その輪には、ふたりの仲間が足りなかった。





「ファング!ヴァニラ!」





スノウがふたりに手を伸ばす。

だけど、その手は届かないまま…ファングとヴァニラは離れていく。
互いの手を取り合い、何か…決意を固めるように。





《コクーンにいた時ね…、花火に願ったの。コクーンを傷つけないで済むように…って。でも、それは間違いだった。願うだけじゃ駄目。祈るだけじゃ駄目。だから今度は、絶対にコクーンを守るって…誓うよ》





その時あたしは、コクーンに戻ってくる直前…。
ヴァニラが言っていた、そんな言葉を思い出した。

願いは、叶えるもの。
未来の奇跡を待つんじゃない。

いま、この場所で…誓いを力に。

ふたりは念じる。
すると、ふたりの烙印がまばゆく光り…その光はエデン中の魔物たちを消し去った。

そして…その粒子を集め、その身に吸い寄せ…膨らんでいく。

それは、大きく…複数の腕を持ち、強大な力へと姿を変える。





「ラグナ…ロク…?」





その姿を目にし、あたしはそう呟いた。

ルシにされて…夢を見た。
使命だという、見せられた…ヴィジョン。

コクーンの崩壊に現れる、大きな獣。

今、目の前にあったのは…まさにそのラグナロクだった。

…ラグナロクは駆けていく。
浮遊に逆らい、下へ…下へと。

そして、コクーンの陸地に燃えるマグマに飛び込み、外郭を抜けて…そこから、コクーンを包むように無数の手を伸ばしていく。

その頃にはもう…あたしの視界も、クリスタルになって…霞んできていた。

残り、最後にかすかに見えたのは…グラン=パルスの大地からも、何かが柱のようにコクーンに伸びていく様子。
それはまるで、コクーンを柱で支えるように見えた気がする。

その先は、本当にもう…わからない。

ただ、あたしは…自分の握る手のぬくもりに全てを委ね、ピン…という、クリスタルの音を聞いた。








《目を覚まして》








そして…。
ほんの少しなのか、どれくらいなのか…。

時の流れが掴めない、そんな眠りについていた。

かすかに聞こえた声は、女神様?
それとも…。

でも確かに、その声を聞いたとき…ゆっくりとまぶたが開かれた。





「…ん…」





溶けていく。
張り詰めた体がゆっくりと、少しずつ…手足に自由が戻ってくる。

ふっ…と、身体が軽くなるような…そんな感じだった





「…戻っ、た…?」





自分の手のひらを見つめると、それはいつもの自分の手。
クリスタルじゃない。透き通りなどしない。

一度はクリスタルとなったその体は、元の姿を取り戻していた。





「…支えたのか、世界を」





ライトの声。
聞こえたその声に振り向くと、そこにはあたしと同じようにクリスタルから戻ったライト、スノウ、サッズ、ホープの姿があった。

そして…皆の見つめる視線の先には、落下していたコクーンを包み、強く支えるクリスタルの柱が立っていた。





「新しい世界だ」

「…とんでもない贈り物だ」





スノウとサッズの声を聞きながら、あたしはコクーンと空を見つめる。

空は、青くて透き通る。
そして、眩しい輝きが照らしてた。

それは、長かった夜が明けて…迎えた新しい朝の光だった。





「使命を、果たしたのかな…」





ホープが呟く。

あたしたちは今、確かにクリスタルとなっていた。
そしてパルスのルシだったからには、きっとその使命はコクーンの破壊だったはず。





「確かに、コクーンは壊れちまったな」





スノウがコクーンと、そしてそのふもとで行われている避難活動に目を向ける。
多分、ロッシュさんが最期の希望を聞き届けた人が沢山いたんだろう。





「滅ぼしたことになるのかよ?」





サッズの声は穏やかだった。

コクーンは機能を失ってしまった。
でも、ファルシが願ったはずの悲劇は、ここには実現していない。





「まるで奇跡だ」





奇跡はうちらの得意技。
力強くそう言っていた彼女を思い出すかのように、ライトはコクーンを見て微笑む。





「あれ、ナマエさん…首筋…」

「え?」





その時、ホープがあたしの首筋を見て目を見開いた。
何だかよくわからなくて、あたしは自然と首筋に触れる。

一方ホープはハッとしたように、自分の手首に巻いたスカーフをずらし、そこに目を凝らした。

それを見て、やっとあたしも彼が何を言いたかったのか理解した。





「しるしが…!」

「あ…!ルシのしるし…ホープ、なくなってる!?」





ホープの腕にあったはずの、目が開く直前だった…ルシの烙印。
でも今はもう、それはそこに無くなっていた。

あたしたちの声を聞いたみんなも、自分のしるしを調べ出す。





「ナマエさんも、無いですよ!」

「本当…!?」

「はい!みんなルシじゃなくなってます!」





ライトとサッズは胸、スノウとホープは腕。
あたしは首筋。

それぞれに刻まれていたルシの烙印…それは、ひとつ残らず形を消していた。

そして、ルシから解放されたのは…あたしたちだけじゃない。





「そこにはね、おっきなチョコボがいーっぱいいたんだ!」

「へえ、そうなんだ!」





向こうのほうから聞こえてきた、幼い声と、女の子の声。
一歩一歩、こちらへ一緒に歩いてくる。

それは、ライトと同じ薔薇色と、サッズによく似た男の子。

気付いた瞬間、サッズとスノウは走り出していた。





「ドッジー!!!」

「父ちゃん!」



「スノウ!」

「セラ!!」





互いに駆け寄った。
そして、抱きしめた。

ずっとずっと会いたかった。
またこうして望んでいた、掛けがえのない大切な人。

その再会は、こっちまで自然と笑顔になれた。
本当に良かったって、心の底から思えていた。

だけど…。

だけど、そこに足りないものがある…。

ホープが駆け出した。
それはきっと、あたしと同じことを思ったからだろう。

だからあたしも、きょろきょろと辺りを見渡す彼の背中を追いかけた。





「…ふたりは…」

「…多分、あのクリスタルの柱の…」





隣に立つと、ホープは悲しそうにあたしを見上げた。
あたしはその目に応えるように、ゆっくり…あの柱を指差す。

ヴァニラとファング…。

あのふたりは…あの時、ラグナロクになった。
そうして…落ちていくコクーンを支えるために、クリスタルになって…。





「ホープ、ナマエ…」





俯くあたしたちの肩に、優しい手が触れた。
顔を上げると、ライトが優しく笑ってくれる。

その笑みを見て、あたしたちは再びコクーンを見上げた。





「…オーファンを倒すとき、ヴァニラ言ってたよね。希望を光に変えて、本当の奇跡を起こそうって」





それは、バルトアンデルスの与える偽りの奇跡じゃなくて。
希望を捨てず、自分たちで起こした…本当の奇跡だ。





「もう会えないのが運命でも…僕たちは、奇跡を起こせる」

「うん…」





前を見たホープの言葉に、あたしは確かに頷いた。

あたしたちは奇跡を起こせた。
信じ続ければ、奇跡だって起こせたんだ。

だからきっと…ふたりと再会する奇跡だって起こせるはずだって。





「お姉ちゃん!」





そして…セラがこちらに駆け寄ってきた。
それに応えるように、ライトも傍により彼女の体を抱きとめる。





「許してくれ、セラ」

「うん」





ルシになったセラの言葉を、信じられなかったライト。
でもその後悔を、やっとセラに伝えることが叶った。

ライトとセラは互いに微笑む。

でもそこに、ひとつの声が割り込んだ。





「おいおい、それはこっちの台詞さ。結婚を、許してくれ!」





セラを引き寄せ、ライトの肩を叩きながら結婚の許しを請うスノウ。

ああ、そういえば…プロポーズは上手く言っても、ライトに許可を貰えてなかったんだっけ。

でもこのタイミングか。
いや、このタイミングだからこそなんだろうけど。





「あははっ!流石だね、スノウ!」

「気が早いなあ」

「はは、結婚は勢いってか?」





みんなで囲み、スノウをからかう。

だけどそんなの何のその。
スノウはただ真っ直ぐに、ライトに向かって言い切った。





「誓うよ!絶対に幸せにする!」





本当に本当に真っ直ぐに。
強く、偽りのない誓い。

その気持ちは、ライトにもしっかりと届いた。





「信じるよ。…おめでとう」





穏やか表情。
とてもとても、優しい声。

それは、これから続いていく…幸せのはじまりの音のように、あたしは思えた。

そして…傍にある小さな背。
見つめると、彼もこちらを向いて、緑の瞳と視線が合う。

すると彼は微笑み、そっと…あたしの手に、自分の手を伸ばしてくれた。

ゆっくり繋がれる手。
その感触が、今のこの瞬間が…夢じゃないと教えてくれる。

まだまだ、これから…やりたいこと、やらなきゃならないこと。
色んな現実が、この先には待っているだろう。

でもきっと…ここまで歩き、手にした全ては…きっと掛けがえのない大切なものだ。
そしてこれからも…大切にしていきたい、愛しいもの。

繋いだ手を、きゅっと握り返す。

あたしは、あたしの希望を手に…これからの未来に期待をかけて。



END

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