僕の気持ち


真っ赤な夕陽と真っ赤な大きい軍用機。
見慣れた街並みの中で、こんな風に戦うような日が来るなんて思ったこと無かった。

それでも僕は戦おうとしていた。
戦おうと、自分から思った。

目の端に映るのは、ぐったりと横たわるスノウの姿。

あんなにあいつが憎かったのに、僕は今…あいつのことを守ろうとしている。





「フェイス!!」





ナマエさんが放ってくれた魔法が、僕の魔力を高めていく。
それを感じながら僕は、彼女と共に雷を放った。





「「サンダラ!!!」」





機械には雷が有効だ。
ふたりで放った強めの雷は、敵の機体によく響いた。

でも、ルシへの対策として作られたであろうそれには一撃では沈ませるまで至らない。





「もう一回!いける?ホープ!」

「はいっ!」





それなら沈ませるまで放つしかない。
ナマエさんと頷き合い、僕らはもう一度サンダラの詠唱を始めた。

すると、その時だった。





「ナマエ!ホープ!」

「うおおおおおッ!!」





僕らを呼ぶ声と、勢いよく機体に突き刺さった赤い槍。
聞き慣れたその声はライトさんと、青い衣をなびかせたファングさん。

ふたりが合流し、僕らに力を貸してくれたのだ。





「ライト!ファング!」

「へへ、やってくれたな!」

「スノウは!?」

「生きてます!」





スノウの安否だけ確認すると、4人で軍用機に向き合う。

ライトさんの実力はよく知っているし、さっき少し見ただけだけどファングさんも戦闘の腕は相当のものだったと思う。





「思いっきりやれそうか?」

「こいつには悪いがな」





刃を向き、アタッカーとして走り出して行くふたり。
少し情けないけど、正直頼もしい限りだ。





「ホープ!」

「了解です!」





ふたりの武器が機体を貫いた瞬間、そこを見計らい、詠唱を終えた僕とナマエさんがサンダラを放った。

むき出しの機体に電撃はよく響いたのだろう。
軍用機は煙を上げると、爆発しはじけ飛んで、壊れて落ちた。

終わった戦闘にひとつの息をつく。

するとその時すぐ、ライトさんが慌てて振り返り、少し不安そうにナマエさんを見た。





「…ナマエ…」

「うん…!」





そんなライトさんに、ナマエさんは笑顔で頷いた。
するとライトさんは安心して、ほっとした様な表情を浮かべた。

…確かな根拠があったわけじゃない。
でも、もしかしたらそれは…僕のことだったのかもしれない。

ただ一度、ライトさんに頷きながら…ナマエさんは僕を見て少し微笑んだから。

僕は、ライトさんを利用した。
…僕が壊れない為に…復讐のバネにしたんだ。

だからもう大丈夫だと、そんな想いを伝える為にあのナイフをライトさんに差し出した。





「ノラ作戦…失敗です」





なんだか少し照れくさい。
でも、自分の声が穏やかだって自分でもわかった。

少しだけ笑った僕の顔を見るとライトさんは…ぎゅっと僕の事を抱きしめた。

ちょっと、びっくりした。





「守るから…、私が守る」

「ライトさん…」





優しい声が耳に届く。
僕らの無事が確認出来て、まるでホッと安堵したみたいだ。

ライトさんは僕のことをそっと離すと、隣にいたナマエさんの頭をそっと撫でた。
その顔は、今まで見たことないくらい一番穏やかに見えた。





「ナマエ…すまなかった。私が駆り立てた問題を、お前に任せてしまって…」

「ううん、全然!そんな風に思ってない」

「そうか…でも、感謝してる。お前たちは…私が守るから」





ふわっ、と…ライトさんの手が僕の頭にも触れた。
僕とナマエさん、ふたりを撫でながらライトさんは優しく微笑んでいた。

とてもあたたかい…そんな空気。
だけど僕は今、もう少し…ふたりの気持ちに応えたかった。





「あの、ライトさん。僕も…守れたらって」





僕の言葉にきょとんとするふたり。
そんなふたりの反応が、なんだか少し可笑しい。

僕はふたりを見つめ、決意するように伝えた。





「出来たら僕も…おふたりを守れたらって」





支えてくれたふたり。
僕はまだまだ全然駄目だけど、でも…もっと、頼もしくなりたい。

伝えた言葉にふたりは小さく笑った。
ナマエさんはクスクスしてて、ライトさんには額を小突かれた。

優しくて、あたたかい。
今ここにある空気は、すごくすごく穏やかだった。





「こっちも気にしてやれよ!」





するとそこに聞こえたファングさんの声。
見れば気絶したスノウを起こそうとしている。





「そう簡単にくたばらないさ。無駄に頑丈だからな」





ライトさんは歩み寄ると、手を貸すようにファングさんとともにスノウの体を支えて立ち上がらせた。

僕の家まで、もうすぐだ。
皆が歩き出す。

皆の背中を見て、ナマエさんも歩き出した。

でも僕は一度、そんなナマエさんの腕を掴んで止めた。





「ホープ?」





振り向いたナマエさんは「どしたの?」と穏やかに笑ってくれた。
そう…、本当に穏やかに。

自分のことで一杯一杯だった僕は、気を配る余裕なんて無かったけど…でも、わかる。

ナマエさんはいつもどこか悩んだ顔をしていた。
でも今はそれが少し取れていた。理由は当然、悩みの種が消えたからだろう。

つまり…彼女の悩みの原因は、僕の歪んだ復讐心だった。





「あの…ごめんなさい。ナマエさんには…きっと沢山迷惑掛けたから」

「迷惑?」

「はい…、沢山振りまわして、困らせました。だから、謝らせてください」





ぺこっと頭を下げた。

そんな僕の頭に、こつん…と小さな音がした。
見るとそれはナマエさんの拳の甲。

ナマエさんは、笑ってた。





「別に、迷惑とか掛けられてないよ。ノラ作戦は失敗。再開する気も、もう無いんでしょ?」

「え、は、はい。勿論です」

「じゃあそれで一件落着。それだけの話だよね」





彼女は笑う。ただ僕に、優しく笑う。

思えばいつもそうだった。
僕の心に刺さったトゲをどうしようかと、いつも彼女は手を差し伸べてくれた。

歪んだ心を理解して、必死に寄り添おうとしてくれた。

だからこそ僕の気持ちを汲んで、本音を見つけて。
頭の隅で気がついていた復讐の無意味さを気づかせようとしてくれた。

僕が後悔…しないように。





「じゃあ、言い方を変えます。ありがとうございました」

「あたし、別に何もしてないって。ホープが自分で気づいたんだもん」

「それならそれで構いませんよ。ただ、僕が感謝したのは事実ですから。僕の自己満足と言う事で」

「そ、そう言われると…何とも言えませんが」

「ふふっ…本当に、ありがとう。ナマエさん」





なんだか、歪みが無くなって…すっきりした。

おかげで僕の気持ちが見えてきた気がする。

きっかけは、母さんが声を掛けたこと。
その時はパージ服のフードでよく顔が見えなかったけど、でも話し方で悪い人じゃないんだろうなって感じた。

そして…パージ服を脱いで初めて顔が見えた時、その優しい微笑みに心臓が鳴った。

ああ、そうか…。
もしかしたら、こういうのを…一目惚れって言うのかな?





「ねえ、ナマエさん。ナマエさんはヴァイルピークスで僕に言ってくれましたよね?」

「ん、なにを?」

「ほら、忘れちゃいましたか?」





自分を繕うために抱いたスノウへの憎しみ。
でも、そんな歪みの中にさえ、僕は感じていた。

ナマエさんの、違う世界から来たと言う言葉を真っ先に信じたスノウ。
スノウは悪い奴じゃないって、僕に諭したナマエさん。

離れて欲しくないとか、彼女の口からだけは擁護の言葉を聞きたくないとか…理由を考えれば、あまりに簡単で単純すぎるじゃないか。





「ヴァイルピークスで言ってくれたでしょう?この世界であった嬉しいことは…僕に会えた事だって」

「え、あ、うん。言ったね」

「あれ、僕もです」

「え?」

「僕も、貴女に会えて良かったです」

「…!」





先に言ったのは貴女なのに。
そう思いながらも、少し頬を赤く染めたナマエさんが可愛くて。

僕は笑いながら、彼女の真似を続けた。





「なんて、クサ過ぎですか?」

「…クサ過ぎですね」





照れた自覚はあるらしい。
頬を覚ますように「あー、もうー…」とか言いながらパタパタと手で仰ぐ彼女。

ここまで貴女は、こんなにも僕の力になってくれた。
僕はそんな貴女の力になる事が出来るだろうか。





「ねえ、ナマエさん。僕、頑張りますから」

「え?」

「異跡では…あの時はヴァニラさんに釣られて言っただけだったけど…今は、僕の意志です。自分の意志で、ナマエさんのこと…守りたいから」

「ホープ…」





なんだか少しだけ悔しい。
《私とホープがナマエのこと守ってあげるね!》なんて…。
ヴァニラさんに先を越されてしまったんだな、僕は。

でも今、目の前にいるナマエさんの顔は更に濃く染まっていて、ふいっと目を泳がせてた。





「あ、あのねえ…ホープ。なんかすっごく照れるから、その台詞攻め、やめてください」

「あははっ、ひとつはナマエさんが先に言ったことじゃないですか」

「…うるさいなあ、もう」





むくれる貴女に僕は笑う。
…やっと、ちゃんと見えた僕の気持ち。

ああ、僕は…ナマエさんのことが好きだ。



To be continued

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