「わー…」
きょときょとと見渡す辺り。
デザイン性の高い、お洒落なインテリア。
でもあたたかい色合いで落ち着いた雰囲気がある。
…それに、なんか広いかも…。
あれ、もしかしてホープって…育ちが良いのかな…?
興味深々、正直かなり落ち着きがない。
他所ん家でそれもどうなのよ、って思わないわけではないが…。
只今、あたしはホープの家…エストハイム邸の見学に一生懸命になっていた。
「本当お洒落だなあ…、ホープのお母さんの趣味なのかな…?」
なんというか…敢えて言うならモデルルームでも見てる気分。
趣味もいいし、ちょっと憧れちゃうかも。
ぼーっとそんなことを考えていると、キイ…と扉の開く音がした。
「あ」
反射的に顔をあげて、そちらに目を向ける。
するとそこにいたのは青色の衣を纏った強気そうなお姉さん。
「よう」
「どうも」
ニッと笑みを向けてくれた彼女。
あたしも笑って軽く会釈した。
「えーっと、お前がナマエか?」
「あ、うん。貴女はファング…だよね?」
「おう。スノウから聞いたか?こっちもライトから聞いたよ」
よろしくなー、とファングは肩を叩いてくれた。
そんな肩に、じわっと神経が集中したような感覚。
おお、本当にファングだ…!
これで全員だよ…!
ちょっと変な感動。
でもさっきはちらっと見ただけだったし。
ファングとはまともに会話するの初めてだ。
メインキャラに会えて嬉しいって感情を抑えるのは…無理な相談、だよね。
「え、じゃあファングとヴァニラは…っていうか、ふたりともパルスの出身なの?」
「ああ。グラン=パルスって言ってな、ヲルバ郷ってとこで暮らしてた」
ファングとは色んな話をした。
ファングのこと。ヴァニラのこと。
パルスのこと、使命を一度果たしてること。
此処に来て、またパンクしそうなくらい色んな情報が一杯。
だけどこれでセラがクリスタルから戻れる希望が持てたこと。
パルスが…グラン=パルスがそんなに怖い場所じゃない事とか、色んな事実が知れた。
「へー…なるほど。だからヴァニラ、コクーンのこと詳しくなかったんだ…。でも元気してたよ。たまに寂しそうな顔してる事はあったけど、それってファングの事気になってたからかな?てことは再会出来たら解決だね」
「ああ。早く見つけてやらねえとな。とりあえず無事がわかって安心した。ライトに、ヴァニラの事はお前かホープって奴に聞いた方がいいって言われてさ」
「ああ、うん。ライトよりはそうかも」
「だからさ、早く話してみたかったんだ。ホープって奴は、今は取り込み中みたいだしな」
「…うん。そうだね」
やっと辿り着いたエストハイム邸。
チャイムを鳴らしたホープを真っ先に迎えてくれたのは、家で家族の帰りを待っていたお父さんだった。
だからホープは今、避けてきたお父さんと向き合って話してる。
そして、自分のこと…お母さんのこと…ちゃんとお父さんに伝えていた。
ゆっくり、二人だけで。
ライトはスノウに話があるらしく、酷い怪我を負ったスノウの傍らで彼が起きるのを待っている。
だからあたしはひとりでのんびり待たせてもらってたわけだけど…、ファングと話す機会が作れたのは良かったかもしれない。
恐らく彼女とは、これから一緒に行動する事になると思うし、なにより嬉しかったから。
「そうそう。あとな、私、あんたにはもう一個聞きたい事があったんだよな〜」
「え?」
何故だか楽しそうに笑ってあたしを見てくるファング。
なんだろうか、このニヤニヤは。
いや別に嫌な感じというわけじゃないけど、ニヤニヤされると気になるものだ。
「ええと、なに?」
「いや、あんたもコクーンの人間じゃないんだって?」
「え」
傾げた首に、返ってきた言葉。
なんというか、直球的。
ドストレートだ。
正直びっくりした。
でも事実は事実だし、あたしは頷いた。
ただちょっと、まさかその事だとは思わなかったから。
「う、うん。あ、もしかしてライトから聞いた?」
「ああ。コクーンでもグラン=パルスの生まれでも無いってな。聞いた時ちょっと驚いたけど、面白そうな話だなって思ってさ」
「えっと、信じてくれるの?」
「私だってコクーンから見たら別世界の人間だろうさ」
「ああ、そっか、確かに」
「だから、勝手に気が合いそうなんて、思ったりしてな?」
ニッと笑ったファング。
強気で、サバサバした性格。
でも人当たりは悪くない。
まだ会って間もないけど、良い人だ。この人。
単純かな?
でも、仲良くなれたらいいなって凄く思えた。
「あははっ、かな!うん、そうかも!」
「はは!だろ?」
ぱんぱん、とまた肩を叩かれた。
うん。やっぱり感じはいい。
さっぱりした性格の人、あたしは結構好き。
なんだか結構、上手くやっていけそうな気がする。
「にしても、今の感じだと…最初はあんまり信じてもらえなかったか?」
「うーん、どうなのかな…。今思うと、ヴァニラはファングと同じだったんだってわかるし」
「ああ、あいつも勝手に親近感抱いてたのかもな」
「で、スノウはあんな感じでしょ?」
「あー、あいつは疑う事知らなそうだよな」
「ね。あと、もう一人サッズって人がいるんだけど、その人もそこまで…。ホープはそれなりにかな…ライトには結構怪しまれたかも。でもそれがまともな反応だよね」
「まあな。けど、そのふたりと行動してたんだろ?」
「うん。そうなったね」
あたしが頷くと、ふいにファングは目の前にあったテレビに電源を入れた。
流れ出したのはルシ狩りのニュース。
良い気分はしないけど、情報を持っておくにこしたことはない。
だからあたしがそのニュースに耳を傾けた時、ファングは言った。
「けどさ、今は結構信じてるみたいだな」
「え?」
「見たところ、ホープとは一番ウマがあったんだろ?それに、最初にライトが言ったんだぜ?ナマエはこの世界の人間じゃない。もしかしたら話が合うかもしれないなってさ」
「え…」
予想してない言葉。
一瞬言葉が出なかった。
多分その理由は…嬉しくて。
ライト…そんなこと言ってくれたんだ。
ああ、うん。
なんか…じわっと…胸に来た。
それで、自然と頬が緩んだ。
「そっか…、なんか嬉しいね」
「そりゃ何よりだ」
あたしは、ファングともヴァニラとも本質的な意味では違う存在だ。
でも、似た境遇に置かれているということは、少しは共感出来るだろう。
そう言う意味では凄く心が楽になった気がする。
ああ、早くヴァニラとも会って話したいな。
あたしとは違って正体を隠してたわけだし、辛かっただろう。
テレビから流れるルシの報道は重たかったけど、あたしは心がすっと軽くなるのを感じてた。
「あの、ナマエさん、ファングさん」
ホープが呼びに来てくれたのは、そんな時だった。
扉の開く音に振り向くと、ホープは少しだけ荷が下りた様な顔をしていた。
「あ、ホープ」
「おう、もういいのか?」
「はい。すいません。父さんが話したいと言っていて。ライトさんとスノウには声を掛けてきました」
「そっか。じゃ、行くか」
それを聞いたファングは頷くと部屋を先に出ていった。
あたしもそれを追うように足を動かす。
でもその前に、呼びに来てくれた彼に声を掛けた。
「どうだった?」
「はい…。母さんの事、ちゃんと父さんに伝えました」
「そう…」
「父さん泣いて…、僕、言葉が見つからなくなりました…」
「…うん」
少し俯いたホープに、そっと頷いた。
こうして話してくれるのだから、ちゃんと耳を傾けたかった。
「僕がルシになったことも伝えて…。でも父さん、お前の家は此処だって言ってくれました」
「うん」
「ナマエさんの、言う通りでしたね」
「え?」
「…帰ってきて、良かった。ちゃんと話せて良かったです…」
「そっか…うん、よかった」
「…はい」
顔を上げたホープは、穏やかな顔をしていた。
まだまだ問題は沢山ある。
でも確かに、そこには…ホープの心にはあたたかさがあった。
To be continued
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