ヒーロー再登場


『先程、聖府は緊急会見を開き、逃走を続けるルシの潜伏先を特定したと発表しました』





あたしたちはプラントから繋がるエレベーターに乗った。

上昇し、地下から地上へ足がつく。

そして降りた直後に耳に入った音声。
それはパルムポルムの建物に張り付つけられているスクリーンから聞こえていた。





『潜伏先とみられるパルムポルムから中継でお伝えします』





流れるルシについての報道。

ハッとした時にはもう遅かった。

話題にされているのが自分たちだ。
それに気がついたのは、姿がスクリーンに映し出された瞬間。

街に出た直後、あたしたちはいきなり銃を持った兵士の集団に包囲されてしまった。





「あっ…!」

「嘘…っ!?」





向けられた銃に怯える様にホープとあたしが寄り添ったのは自然だった。

…あたしたちの動向、ばれてたんだ…!

あたりは見渡す限り兵、兵、兵。
こんなの逃げられない…。せっかくここまで来たのに!

ホープと握り合った手は、どちらとも頼りない。
彼の手の震えているのがよくわかる。いや…本当はお互い様なのかもしれない。





「相手はルシだ。確実に仕留めろ。3人と思うな、3匹と思え」





無線を通し聞こえてきたのは、この集団を指揮しているらしい男の声。

3匹と思え…って、人と思うなってことだろうか…?


…凄い事を言う。
それはつまり、思わなければ手を下せないほどに、人に見えているって事なのに。

ライトはデュアルウェポンを手にその男を睨みつけた。
そして背中越しに、あたしとホープに囁いた。





「…私が突っ込む。お前たちは死ぬ気で逃げろ」

「「…!」」





あたしたちは慌てて振り向き、彼女の背中を苦しげに見つめる。





「ライト…」

「でも…っ」

「生きてくれ」





こちらを見ることなく、でも確かにそう言ったライト。

それを聞いたあたしたちは息をのんだ。
ホープの手の力がきゅっと少し強くなったのも気のせいじゃない。

どうしよう…、どうすればいいんだろう。
頭を埋め尽くすのそんな言葉ばかり。

怖い。怖いけど、でも…!

足がすくむ。どうしたらいいのかわからない。
あたしとホープが選択に迷っていると、その直後、何かが爆発した。



ドカン!!!



響いた音と爆風は、凄く心臓に悪かった。
胸の奥が痛くなるほど驚いた。

でも驚く余裕が出来たのは、それがあたしたちに害をなすものじゃなかったからだ。





「ぐわっ!」

「うあ!」





爆煙の中、聞こえたのは男の人のうめき声。
だから多分、兵隊の人達だと思う。





「どーする、この数。まともに突っ込んだら…」

「まともに突っ込む馬鹿が2匹と!」





そして、女の人と男の人の声がひとつずつ。
間違いじゃなかったら、男の方の声は聞き覚えがある。

その声に少し気を取られていると、今度は空中で小さな何かが弾かれた。

砕けたそれは、大きな水を放ってあたりに広がっていく。
そして、波打つようにうねると一瞬にしてピシン…と凍りついた。

その中から飛び出すように現れたのは2体の青い女神。
ゆるやかに舞い踊るその姿に、あたしはハッとさせられた。



もしかして、あれ…シヴァ…!?



浮かんだ名前は多分間違ってない。
それはつまり召喚獣という事で、そうなればルシがいると言う事になる。

そして、2人のシヴァは互いに手を取り合うとその姿を変形させた。
ヴァイルピークスでオーディンが姿を変えた時のように…美女からバイクへと。

そのバイクにまたがり氷の道を走ってきたのはスノウと濃い青の服を纏う黒髪の女性。
ここにスノウが現れた事にも驚いたけど、あたしはその彼女の姿に目を見開いた。



…ファング!!



それは、この物語の最後の主要人物であるファングだったから。





「あいつ…!」





一方で、ホープは現れたスノウの姿に目くじらを立て顔を歪ませていた。

でも、それぞれすぐに我に返らせられた。
理由は腕を引かれたから。

ライトは銃型にしたデュアルウェポンを片手に、あたしの腕を掴んで駆けだしたのだ。

きっと、あたしとホープの手が繋がれていることを確認しての行動。
あたしに釣られてホープも一緒にグンッと3人で駆け出した。

スノウ達が来てくれた事で目標が彼らに映った瞬間をライトは見逃さなかった。
これにはなんというか…やっぱり流石としか言いようがない。





「義姉さん!」





シヴァの力を借りながら兵を蹴散らしたスノウは、後ろにファングを乗せたままバイクでこちらに駆けつけ笑みを浮かべた。

ビルジ湖で別れてそのままだったし、彼が無事だったのは本当に何よりだと思う。

ライトはスノウの笑みを見ると、何か言いたげな顔をした。
でも結局何を言うこともなく口を噤んでしまう。

そしてホープの腕を掴むと、そのままスノウに渡すように彼の背を押した。

それによりバランスを崩し自分にもたれ掛かったホープを支えたスノウ。
助けられたホープは慌ててスノウを押すようにして離れた。

それを確認したライトはあたしにもスノウの側につくようにと促し、背を押してきた。





「ふたりを頼む」





ライトはスノウにそう言葉を残すと武器を構えてあたしたちに背を向けた。
でもスノウはそんなライトに慌てて声を掛ける。





「義姉さん、聞いてくれ」

「早く行け!」

「セラは助かる!蘇るんだ!」





セラが助かる。
その言葉を聞いて、一瞬ライトは動きを止めた。
ライトは何を想ったんだろう。セラの事、絶対に気になったはずだから。





「…ホープとナマエを守れよ」





でも彼女はそのことには何も触れず、あたしたちの事をスノウに任せて敵陣に突入していく。
するとそれを見たファングは軽い笑みを零した。





「馬鹿3匹目か」





どこか愉快そうだ。まるでライトのこと気にいったみたいな。
そしてライトの事は任せろとでも言うかのようにスノウの肩を叩くと、彼女を追いかけて行った。

一方スノウは囮を買って出た二人の意思を受け取るように、あたしとホープに目を向けて笑いかけてくれた。





「ごぶさた!」





その笑顔は相変わらずで、以前と変わりがない。
それはきっと、喜ばしい事には違いない。

だからあたしは頷き、素直に無事を喜ぶことにした。





「うん。本当、無事でよかった!」

「おう、お前たちもな!」

「…何してたんですか」





でも、ホープの声色は固かった。
それだけでホープが不機嫌なのが十分にわかる。

その不機嫌が自分に向けられていることにスノウが気づいてるのか…は正直よくわかんないけど…ってそれはちょっと失礼かな。

でもだってなんか底抜けに明るいし…。
現に彼はホープの問いにあっけらかんとして答えた。





「ああ。軍に捕まってた」

「「…は?」」





でもそれは本当にあっけらかんすぎた。

軍って…、軍って今追っかけてきてるやつだよね…?
そう疑問になりそうになるほどあっけらかん。

だから思わずあたしもホープと一緒に顔をしかめてしまった。





「つ、捕まってたの?」

「ああ。でも敵じゃない。騎兵隊っていうPSICOMとは別の部隊だ。隊長のレインズは俺達ルシに力を貸してくれる。ってなわけで、ヒーロー再登場だ!」





スノウは拳を握ってポーズを決めながら、またニッと笑って見せた。

まあ…あたしの場合、軍のことはよくわかってない。なによりスノウは此処にいる。
彼が無事でいることがその軍隊に助けられたと言う話なら…辻褄も合うし、そのまま受け取る事は難しくない。

そう…あくまで、あたしは。

でも嫌悪が先行してしまうホープにとってはそう簡単にいくはずがない。





「軍がルシの味方?わけがわからない」

「軍にも色んな奴がいるんだ。打倒、聖府!ってノリの奴もな。心配すんな、敵は俺がやる。行くぞ」





スノウは軽くホープの肩を叩くと先を見据えて歩きだした。

ここは危険だし、さっさと離れるに越したことはない。
だからスノウとはぐれないように、あたしたちも続くことにした。





「とりあえず此処は離れようよ、ホープ」

「…はい」





彼の肩にそっと触れ、頷いてくれたことを確認してあたしは笑う。
それは…少しでも穏やかになってくれれば、っていう気休め。

あたしはその時…さっきライトに耳打ちされた言葉を思い出してた。





《…ホープの事、見ていてやってくれ》





背中を押された時、彼女はそっと…あたしにそう言い残した。

ライトは自分がホープを戦いに巻き込んでしまったと言っていた。
そして知らぬ間にとはいえ、ノラ作戦を促してしまったことを後悔してるんだと思う。

だからあたしに言い残した。

勿論、言われなくてもホープの事は何とかしたい。





「………。」





黙ったまま拳を胸の上で握りしめる。

何とかしなきゃ…。
復讐なんか、させないように…。

ただ…胸には不安が渦巻いてた。



To be continued

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