味方は御伽話


淡い色の髪が揺れる。
そんな後ろ姿を見ながら、あたしはひたすら歩いてた。

場の空気はとても静かだった。

その理由は簡単。
疲れてきて、ただ単に口数が減ってきているだけ。

ああ…足が重い。正直しんどいな。
そうあたしがため息をつきかけた時、後ろからドサッと音がした。





「うわ…っ」





それは一番後ろを歩いていた彼が転んだ音。
どうやら疲れで足がもつれてしまったらしい。

小さな悲鳴を聞いたあたしは振り返り、倒れこんだ体に手を伸ばした。





「ホープ…?大丈夫…?」

「は、はい…」





ぎゅっと掴んだ手を引き上げる。
するとホープが立ちあがったところで、冷たい声がした。





「…思った通りか」

「え…?」





その声はライトのもの。
あたしとホープがライトを見上げると、彼女はあたしたちを厳しい目で見ていた。





「やはり、お前たちはお荷物だ。この先守れそうにない」

「ええ…っ!」





驚きの声を上げたホープ。
あたしも、少し動揺して目を見開いた。

だけど少しだったのは…いつ言われてもおかしくないくらいライトニングの負担になっている自覚があったからだった。





「悪いが、お前たちの面倒を見る余裕は…」





ライトはそう言いながら先に進んでしまおうとする。
だけどそんなライトの様子がどこかおかしいことにあたしは気がついた。

それに気づいていない様子のホープはしがみつくような声で呼びとめる。





「無責任ですよ!それなら最初から…!」

「ホープ、ちょっと待っ…」





すがりつこうとするホープに制止を掛けようとした。

ライト…なんだか、胸を痛がって、苦しんでいる…?





「甘えるな!もう世界中敵なんだ!」





ホープの言葉にライトは強く怒鳴った。
その声にホープの肩はビクッと震える。

だけどその怒鳴り声もどこか切羽詰まっているみたいだ。





「自分の身だけで一杯なのに…お前たちまで守れるか!邪魔する奴は全員敵だ。邪魔になるなら…」





ライトの言葉をそこまで聞いたホープは聞きたくないと言うように首を振っていた。
でも容赦なく、ライトは続きを叫んだ。





「お前たちも敵だ!!!」





その瞬間、ライトの足元にピンクの魔法陣が浮かび上がり、カッと輝いた。

よくわはわからない。でも、何か来る…!

そう察知したライトニングがその魔方陣から抜け出すと、その瞬間にバッ!と大きな何かが出現した。





「なっ…」

「あっ…!」





魔方陣から現れた人ならざるもの。
加えてファイナルファンタジーなんてきたら…自然と浮かんだ言葉があった。

もしかして…これ…。

召喚獣…?





「なんだ、こいつはっ…?」





ライトが当然現れたそれに息をのむ。
しかしその召喚獣らしきものはライトではなく、ホープとあたしを目に捉えていた。

そこでちょっと嫌な予感。

あれ…?
まさかこれって、敵と認識されてたり…しちゃう?

外れてほしいと願ったその予感。
でもそれは儚く崩れた。





「ちょっ…!」





ブンッ!!!

奴は手に持っていた武器を振りまわし、ホープとあたしに向かって振り降ろそうとしてきた。





「う、うわ…っ」

「っホープ!」





後ずさりする際、ホープは腰を抜かしたように尻をついてしまった。

ライトの「逃げろ!」という叫びが聞こえた。
でももうこれじゃホープは逃げられない。

ホープがやられる…!
それを見た瞬間、体中に鳥肌が立ったみたいに、ぶわっと全身に悪寒がわき上がった。





「ホープッ!!!」

「…っナマエさっ…!」





その時はたぶん無意識だった。ていうか考える暇なんかない。
あたしはただ走って、ぎゅっとホープを庇うように彼の体を抱きしめてた。

ああ、死んだ…。
今度こそもう、だめっ…!

背中に来る痛みにだけ覚悟して、じっと目をつぶった。





ガキンッ!!





でも、痛みは来なかった。
代わりにあったのは金属のぶつかる音。

あ…あれ…。

恐る恐るそっと目を開けて振り返ってみる。
するとそこには振り下ろされた武器を剣で受け止めるライトの姿があった。





「ライトッ…」





あたしが彼女の名前を叫んだ瞬間、キンッ…と互いの武器がはじけ飛ぶように離れた。

た、助かった…。
でもまだホッとしてる場合じゃない。





「ホープ、立って!」

「は、はい!」





ホープの腕を掴んで立ちあがらせ、また襲い来るであろう攻撃の対応に備える。
いつもの通り、ライトにあたしがブレイブを、ホープが全員にプロテスを掛け、ライトは敵に突っ込んでいった。





「はあッ!」





閃光のように貫く一撃。

その瞬間、ばあっと綺麗な薔薇の花びらが舞った。
そして奴は飛び上がるとまばゆい光を放ちながら、その身を変形させていく。

月を背に響く鳴き声。

人型から馬に。
軽快な音を響かせ自分に気を許すそれに、ライトはまたがり奴が武器として使用していた双剣を手に取り広げる。

それはまるで、馬の背に羽根が生えたかのようにも見えた。





「…オーディン」





ライトが呟いた。
気高いそれは、恐らくその召喚獣の名前。





「ライト!」

「ライトさん!」





シュ…と、オーディンは消えた。

残っていたのは薔薇形の秘石。
それを拾い上げたライトのもとに、あたしとホープは駆け寄った。

ライトニングはまだ少し苦しそうに胸を押さえている。
その胸元には、ルシの烙印が浮かんでいた。





「あれ…なんか、変?」

「ええ…、パルスの烙印が変わってます」





ライトの胸に浮かんだ烙印と、ホープの腕にある烙印を見比べてみる。
あたしは首筋にあるから見えないけど、一度確認した限りではホープと同じ模様をしていた。

それがライトの烙印だけ模様が変わっている。





「ルシの力…召喚獣でしょうか?」

「ちっ…。魔法に召喚獣…おとぎ話が私たちの味方か…」





ホープの考察にライトも同意見なのか、皮肉づく様にそう言った。

やっぱりあれは召喚獣だったのか…。
オーディンとライトが呟いた時点でほぼ確信はしていたけど、ルシには召喚獣まで使役出来る力があるとは…。

確かにおとぎ話…。
なんだか漠然と凄いとしか思えなかった。

それに、落ち着いたところでまた、さっきの話が戻ってきた。





「あの…やっぱり足手まといですか…?」





控え目に尋ねたホープ。
あたしも自分で目が揺れたのがわかった。





「…うん…、ずっとライトが戦ってくれてたもんね。あたし、正直ちょっと甘えてたと思う」





そう言って、苦笑がこぼれた。

だって本当にずっと申し訳なく思ってた。
命が掛ってるのに、他人の面倒まで見てられないよねって話はどう考えても正論だもん。





「あのねライト。本音を言うと勿論、貴女といた方が色んな意味で安心出来るから。自分が弱いって自覚はあるからね…」

「……………。」

「でも…こんなんでもライトの力になれたらいいのにと思うんだ…。あはは、お前ごときが何言ってるんだって話なんだけどさ。でもライトとホープと、ここまで助けてもらったから…あたしも何か返せたらいいのにって。だからその為に頑張りたいんだけど…駄目、かな」

「ナマエさん…、僕、僕も頑張ります!だから…」

「もういい…」





ふたりして、なんかすっごく情けなかったかもしれない。

だから、彼女の言葉にびくびくしてた。

置いてけぼりにされたら、お先は真っ暗。
でも強く食い下がるような真似するのも、こんなちっぽけな力じゃ出来なかった。





「鍛えるぞ」





でも、返ってきたライトの言葉はそれだった。

ぶっきらぼうで淡白。
だけそれに付け足しもあった。





「…さっきはすまなかった」





まさかの謝罪。
背を向けたままの言葉だったけど、それは許しをくれたということ。

それを聞いた瞬間、胸の奥がすっと楽になった気がして、ふっと頬が緩んだ。





「ライト、ありがとう」





なんだか、ふっと緊張が解けた気がする。

彼女にお礼を伝えたあと、あたしはホープを見て小さく笑った。
ホープもほっとしたらしく表情穏やかに頷いた。

なんだかいつかの異跡の時みたい。
ホープと、一緒にいようと言葉を交わした時に得た安心感。
それに少し似ていたように思える。

ヴァニラとサッズも…無事だといいけど…。

でもあたしは器用じゃないし、ひとつのことで沢山だ。
だから今、ホープとライトに自分が出来るその精一杯をしようと思った。

傍にいてくれる彼らの力に。



To be continued

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