嘘をつけない人


「ライトニング!」

「待ってください!」





ライトニングはひとりで先に進んで行った。

あたしとホープはそんなライトニングを追いかけた。
姿を見つけて、慌てて叫んで呼びとめる。

気がついて振り返り足を止めてくれたライトニング。
そんな彼女にあたしとホープは頼み込んだ。






「僕たち…ついていきます!」

「うん!ついてっても、いいかな…!」





ついて行きたいという願いに目を細めたライトニング。
彼女の返事は肯定的なものじゃなかった。





「お前たちを守る余裕はないんだ」





早い話戻れということだ。
だけどこちらとしても簡単に引き下がるわけにもいかなかった。





「戦います!迷わないです!」

「あ、あたしも…出来るだけ頑張ろうと思ってる!えっと、補助とか、もうちょっと工夫してスムーズに出来るように努力するよ!」





なんだか少し、ホープは変わった。
だって今まではこんなに食いつくことはなかったのに、真っ先にライトニングにしがみついたから。

だからあたしはその勢いに便乗するような形になってしまったような気もする。





「…!」





でもその時、ライトニングの返事を聞く前に邪魔が入ってきた。

それは沢山の数の足音。
ライトニングはハッとしたように武器に手を伸ばして音の方へ意識を向けた。





「PSICOMの抹殺部隊だ…」

「なっ…」





抹殺とは物騒なことこの上ない。
目の前に現れた姿は確かにPSICOM。

ルシを狩りに来たと…つまりはそういうことなのだろう。





「あっ!」





直後、背後から爆発が起きた。

目の前に捉えたルシを逃がすまいと、今来た道が爆破されたのだ。

これで後ろにはもう逃げられない。
なんだかもう…用意周到すぎる。

どうしよう、と少し足がすくみかけた時、ライトニングはあたしに支持をしてきた。





「…ナマエ」

「は、はい!?」

「私にブレイブを掛けろ」

「え、あ、はい!」





初めて名前を呼ばれたんじゃないかと思う。
それに驚いて少し声が上ずったけど、すぐ言われた通りにすぐライトニングにブレイブを唱えた。

そして、ライトニングが走り出した瞬間に戦いの火蓋は落ちた。

元の世界に帰るためには戦わなきゃ。
次の戦いからはきちんと攻撃魔法を使おうと思ってた。

そう意識はしたつもりだった。
でも今までは機械とかが多くて出来る気もしてたけど、人相手じゃそうもいかない。

だけど向こうは全力で向かってくる。
ルシになって防御力や攻撃力も並みじゃなくなっていたとしても、何もしなきゃやられちゃう。

そんなあたしは…ジャマーとしての力を活かすことにした。





「ダル…!」





放ったのは敵を虚脱状態に追い込む魔法。
これを掛けられた相手は体力も気力も失い、がくりと膝を突いてしまう。

人間にこそ真価を発するようで、この魔法はあたしにとって凄く有難いものだった。
スロウと同様、自分にジャマーのスキルがあって本当に良かったと思う。

でもルシというだけで…つまり魔法を使えるだけで常人との差はやはり生まれるもの。
戦闘経験が皆無なあたしやホープでも何とか渡り合うことは出来た。





「…上出来だ」





戦闘を終えたところで、ライトニングはあたしとホープを小さく労ってくれた。





「ありがとうございます…」

「…ちょっとでも役に立てたなら良かったけど…」





息を整えながら、ホープと一緒に言葉を返した。

そうした一方で、ライトニングは戻ることができなくなった向こうを見つめていた。
もしかしたらサッズやヴァニラのことを気にかけているのかもしれない。





「また敵が来ますね。早く行きましょう」





そんなライトニングを抜けるようにホープは先に進もうとした。
だけど足を動かさない彼女に疑問を覚え、一度振り返った。




「あの人達が気になるんですか?もう逃げたと思いますけど」

「今なら、お前たちも逃げられる。私と来ても戦いだけだ。どういう形で終わるのか…私にも見えてない」





自分から遠ざける台詞。

でもサッズやヴァニラの方を気にする仕草でなんとなく確信した。

厳しいし、置いていかれたりもした。
…でもやっぱりこの人の根はちゃんと他人のことを気に掛けている。





「実は結構、優しい…よね?」

「な…」





ちょっと直球で言い過ぎただろうか。

ライトニングは言葉を詰まらせていた。
サッズ達の安否を気にしていたのは図星なのだろう。

だから優しいのは事実なのだと思えた。





「危険なのはわかってます…。でも、強くなりたいから…」

「あたしも…とにかく思いつくことからやってみなきゃって思って。だから、お願いします」





ふたりで見せた懇願。
でもライトニングは背を向けて沈黙したまま。

駄目かな、とホープと顔を合わせる。

なかなか来ない返事に、ホープは不安そうにライトニングを見た。





「ライトニングさん?」

「…ライトでいい」





簡易な言葉だった。
でも同時に、彼女が少し気を許してくれたのを伺えるような気がした。

ライトでいい、だって。
小さくホープに「やったね」と耳打ちすれば、ホープも嬉しそうに頷いた。





「じゃあ、ライトって呼ぶね」

「これからどうします?」

「ガプラの森を抜けて、パルムポルムだ。エデン行きの足を手に入れる」





ガプラの森…って言うのは初めて聞く地名だ。
でもパルムポルムっていう所は聞き覚えがあった。

だからちらっと彼を見た。





「あれパルムポルムって確かホープの…」

「はい。街に着いたら案内できます。僕の家、パルムポルムなんです」





ホープはあたしに頷きながらライトに説明した。

やっぱりそうだった。
さっきホープの話を聞いた時、出てきた地名がパルムポルムだった。

あたしにしてはなかなかの記憶力だ。よしよし。

だけどふたりの会話は淡白なものだった。





「寄れないぞ」

「行きませんよ…。ルシが帰ってどうするんですか」

「え!帰らないの!?」





あまりに淡白すぎて驚いた。

いやだって帰れるなら帰ると思ったし。

驚くあたしの声を聞いたふたりの反応は似たり寄ったり。
ライトは息をつき、ホープは当然だとでも言いたげな感じだった。





「当たり前ですよ…。ルシなんですから」

「…ルシだと帰っちゃいけないの?」

「…そりゃ、普通帰れませんよ」

「…家に帰るのに普通とか無いと思うけど」





サッズやヴァニラは「帰してやる」「帰ろう」と言っていた。
ライトが寄れないと言ったのは目的の違いからだろうけど、家に帰るのに理由なんかいるのだろうか…。

少なくともホープにはまだお父さんがいると言うのに。

でもライトもわざわざ寄れないと言うあたり、家があるという言葉自体は気にているのかもしれない。
ただ、コクーン市民だけにホープの言う「帰ってどうする」の意味もわかるのだと思う。

だから彼女はあたしを見て、改めて確認するように聞いてきた。





「お前…本当にこの世界の人間じゃないのか?」

「さっきからずーっとそう言ってる…けど、やっぱ信じられないかな…?」

「確かに無知すぎる気はするが…」





思えば、一番疑心を持っていたのはライトだった。

というかライトとホープ以外が軽すぎただけだとは思うけど。
だからきっと、これが普通の反応なんだろう。

ホープの場合はまだパージや異跡で一緒に行動してた分、互いに気を許してた…っていう前提があった。だけどライトは違う。

ライトで良い言ってくれたところ、少しは信用してくれたのかもしれない。

だけど異世界から来たなんてやっぱり頭がおかしいにも程がある。





「やっぱ怪しいよね…、あたし」

「…まあいい。今のところ、そんな嘘をついて何のメリットがあるのか想像がつかない」

「え…!?い、いいの?」

「今の所はな。行くぞ」

「え、あ、ありがとう…!」





嘘は付いていないのだからメリットも何も無いけど、気にしないでいてくれるならそれでいい。
彼女の言葉にホッとすると、ホープが声をかけてくれた。





「良かったですね」

「うん。でもちょっとドキドキした」

「僕もまだよくわからないですけど…でもナマエさん、嘘をつけるようには見えませんから」





ホープは小さく微笑みながらそう言ってくれた。

たぶん、優しく気遣ってくれたのだろう。

でも、うーん。
これってあたしが捻くれてるだけなのかな?

いや…なんだか喜んでいいのかどうなのか、ちょっと悩んだ。

つけるように見えない…ってねえ。
嘘をつきそうにない…ならまだしも。

わかりやすいってことなら宜しくないような。





「ねえ…ホープくん。それ、あたしわかりやすいってこと?それとも喜んでいいのかな?」

「え?あ…」





ちょっと目を細めて聞いてみると、ホープは顔をハッとさせた。

…どうやら多分、ホープは純粋な意味で言ってくれたらしい。
だけど、意味に気付いた彼は悪ノリしてきた。





「じゃあ…お好きにどうぞ?」





それは、悪戯するような初めて見る顔だった。



To be continued

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