「は〜…!終わった〜!」
うはあ〜…と何だかおっさん臭い声を上げながら地に腰を下ろしたヴァニラ。
その隣でサッズも疲れ切ったように、ぐでんと膝をついている。
それはなんともだらしのない光景ではある。
でもそんなふたりに文句を言う資格はあたしにはない。
というかむしろ感謝の気持ちしかなかった。
「ありがとう、お疲れさま」
だからあたしはふたりの前にしゃがんでお礼を言った。
今、軍の獣があたしたちに襲いかかってきた。
あたしは岩陰でホープと隠れてたけど、ふたりとライトニングはその獣たちを戦ってくれた。
そりゃ疲れるってもんだろう。
「にしてもさ…ここどこ?」
疲れたふたりを気にしつつ、あたしは辺りを見渡した。
あたしたちは墜落した飛空艇から投げ出された。
ぶっちゃけ物凄く怖かった。
真っ逆様に落ちていく機体の中は…出来ればもう思い出したくない。
生きてて良かったと、本当にそう思う。
でもまあ、怪我とかはしてないから今はとりあえずそれでいい。
それよりも気になるのはこの薄暗くてガラクタが積み重なってるなんとも言えない景色だ。
いうなれば…ごみ溜め場ですか、ここは。
「遺棄された土地ヴァイルピークスだな」
「ヴァイルピークス…?」
答えてくれたサッズに首を傾げた。
どうやらここはヴァイルピークスという場所らしい。
遺棄された土地…と言われても、それだけじゃ何のことやらだったけど。
まだまだサッズ達は疲れている様子。
だけどそんなサッズ達を気遣うことなく、もう先に進もうとしている足音があった。
「お、おい、もう行くのか?」
歩き出したのはライトニング。
彼女のその姿を目にしたサッズは慌てたように声を掛けた。
「追手が来る」
ライトニングは短く答えた。
それは確かにかなり的確な返答。
でもそれじゃ追いつかない話があるのも現実。
「んなこたぁわかってるが、こっちは素人なんだ。あんたのペースにゃついてけねえよ!」
ビルジ湖から戦いっぱなしの皆。
たぶん、相当の疲れが溜まってきているとは思う。
ただ後ろを歩いてたあたしだってそれなりに疲れてるのだから、戦ってくれてたサッズやヴァニラは余計にだろう。
ただ、ライトニングは軍人さん。
並みの人よりは体力があるのは事実で、ひとり涼しい顔をしていた。
「愚痴る元気はあるんだな」
彼女はそう言い残し、構うことなくひとり先に進んでいってしまった。
…はあ、なんというか流石だ。
あれだけハードに前線で戦ってるのにも関わらずに。
「やっぱ凄いなあ…あの人」
あたしはそう呟きながら彼女の背中をぼんやり見つめていた。
なんだかますますライトニングに対する感心は増えていくばかりだ。
彼女の姿に見とれていると、くいくいっと服の裾を引かれて我に返った。
「…ナマエさん」
「え?あ、ホープ」
振り向くと何か物言いたげな顔のホープがいた。
いや…彼の言いたいことはなんとなくわかってた。
というより、あたしもどうしようかと思ってたところだった。
多分、あたしとホープが今考えてることは同じだろう。
だから「うん」と頷けば、ホープも頷き返してくれた。
「あの…」
ホープはどこか気まずそうな申し訳ない顔でサッズとヴァニラを見た。
その顔で事を察したサッズは少し投げやりな感じで去っていくライトニングの背中指して言った。
「あっちの方が頼りになるぜ」
その言葉を聞き、あたしとホープは顔を合わせた。
頼りになる…ていうのは勿論なんだけど、ライトニングが言ってた通り、ここに長居するのはきっと危険だ。追手はきっと来ているはず。
戦っていないあたしとホープは、まだ進むだけの力は残ってるから…。
「…じゃあ、ごめん…。先に行ってるね」
「すみません…」
ふたりで軽くぺこっと頭を下げた。
そしてもう一度顔を合わせ頷きあうと、ライトニングを追いかけあたしたちは走り出した。
なんか…本当に申し訳ないけど…。
でもやっぱり捕まるわけにはいかなかった。
「ライトニングってば足早いね。もう見えないや…」
駆けだして、目を細めて先を見つめた。
でもあの綺麗な淡い色の髪はもうすっかり見えない。
…どこまで行ったの、あのお姉さん。
「…ちゃんと追いつければいいんですけど」
「ていうかこの瓦礫超えてくのか…。瓦礫あるのに早すぎるよ、何あの人…!」
「身軽ですよね…。ナマエさん。足元、気を付けてくださいね」
「ホープこそ」
そんなやり取りを交わしながら、あたしたちは辛い道を進んだ。
行く手には、まるで阻むように瓦礫が積み重なってる。
ぶっちゃけ物凄い邪魔だ。
手を伸ばして、足を引っ掻かけて。
アスレチックなのか此処は…って感じ。
いや、アスレチックなら別にいい。それならルンルンだ。
悪いけど、瓦礫なんかじゃちっとも気分は上がらない。
ぼやくのは愚痴ばかりになってくる。
「あーあ…なんでこんな瓦礫ばっかなんだか…」
「こういう瓦礫は…黙示戦争の後処理のあまりなんですよ」
ぼそぼそ吐いたあたしの愚痴にホープは反応してくれた。
…黙示戦争?
今のホープの言葉には、聞きなれない単語があった。
「黙示戦争って?」
「…ああ、600年くらい前にあったパルスとの戦争です」
「そんな昔から争ってんだ、コクーンとパルス」
「ずっとですよ。パルスは地獄…コクーンにとっては恐怖でしかありませんから」
「ふうん…」
なんだか単純に、相変わらずよくわからない話だなと思った。
だって地獄だなんて漠然とし過ぎてる。
でもこんな風にする何気ない会話はきっと悪くない時間なのだと思った。
黙示戦争っていうのもコクーン市民に言わせれば知ってて当たり前の常識らしい。
それにも関わらず、あたしにちゃんと教えてくれるホープは本当に有難かったし、もしかしたらホープ自身も気が紛れるんじゃないかと思った。
会話してる方が、余計なこと考えなくて済むはずだ。
なにより、考えさせたくないという方が強かったかもしれない。
だって…ホープは凄く良い子なんだ。
交わした会話で、彼が優しい人物だということはよくわかった。
だからこそ…彼が抱くスノウへの嫌悪。
それがあたしには良い感情だとは思えなかった。
「あ!ナマエさん、あれ、ライトニングさんじゃ」
「え、あ!本当だ!」
しばらく道をまっすぐまっすぐ歩き続けると、淡いピンクの髪を見つけた。
走り続けた甲斐があってよかった。
とにかく頑張って走って折角追いつけたのだから気づいてもらわねば。
あたしは少し息を吸って、それを吐き出すようにライトニングに呼びかけた。
「ライトニング〜〜!!!」
その声が届くと彼女は足を止めてくれて、あたしたちは急いで彼女に駆け寄った。
「他は?」
追いつくと尋ねられた。
念のため振り向いてみるものの、サッズとヴァニラの姿はない。
まだ休んでるのかな…?
その質問にはホープが答えた。
「たぶん、後から…。待ちますか?」
「ついてくる気があるなら追いつくさ」
ライトニングは一言そう言うと、また足を進め出した。
まあ言う通り、その気があるなら意地でも追いつく…とは思う。
ライトニング自身、ルシになって、セラがああなって…思うことは沢山あるんだろう。
彼女がこの先に何を見出しているのかはわからないけど、でも先に進もうと考える力があるのは凄いと思う。
ライトニングがこうして歩くから、あたしたちも進もうという考えが出てくるんだと思うから。
「ナマエさん、行きましょう?」
「うん。でも…ねえ、ホープ。そろそろあたしたちもさ…」
また置いて行かれてしまうから早く行こう。
そう促してくれたホープに、あたしは一度呼びかけた。
そろそろ…その言葉の意図はすぐにホープに伝わった。
「…戦った方がいい、ですか?」
「やっぱホープも思ってたか」
今まであたしたちは戦うということをしなかった。
でも流石に、ライントングにひとりに戦闘を任せきるっていうのは…色々と心苦しいと思った。
「ぶ、ブレイブ!」
我ながらなんともぎこちない魔法である…。
なんとか放ったその魔法は、ライトニングの体を力強い光で包んだ。
ブレイブ。
それは対象の攻撃力を上昇させる魔法。
あたしは補助魔法を使うことが出来るようだった。
自分に何が出来るのか考えた結果、これを主に使うのがいいと思った。
「プロテス!」
「はああッ!!」
プロテスはホープが放った魔法。
あたしが攻撃力、ホープが防御力を高め、その力を得たライトニングが敵に武器を下ろす。
進むうちに、基本的なスタイルはこんな感じでまとまっていたと思う。
つまり、やれることをしようと言っても前線に出て思いっきり魔法をぶちかますとかそう事をするわけじゃない。
一応魔法で攻撃することも出来たけど、ライトニングを支援するという方が主だった。
同じパルスのルシとは言え、それぞれ得意とする分野は違うらしい。
ライトニングは主に攻撃型。
物理も魔法も、攻撃に関してはかなり優れてる。
一方で、あたしとホープは支援型。
後衛で魔法攻撃をしながら、補助魔法や回復をするっていう感じだろうか。
あたしもホープもブラスターとエンハンサーという力には特化しているみたいで、ライトニングの強化や自分たちの防御を分担して行っていた。
でもあたしとホープでも毛色の違いはあった。
ホープはその他にヒーラーの力を得意としていた。
つまりはケアルなんかを使って傷を癒す事のできる力。
だけどそんなホープとは違い、あたしはヒーラーにはあまり縁は無さそうだった。
その代わり、また別の力を使うことが出来た。
「スロウ!」
それは、敵を弱体化させることの出来るジャマーのスキル。
ライトニングが向かっていく敵に放ち、戦闘に優劣を作っていくことが出来る力。
やらなきゃやられちゃう。
だから無我夢中で魔法を使っていたけど、こんなに色んな事が出来ている自分に驚いた。
ファイアの他にも、こんなに出来たのか…って。
なんだかちょっぴり感動ものだ。
とにかく、こうしてそれぞれの分野を考慮しつつ、あたしたちは先を目指していった。
To be continued
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