「あ!あれあれ!!」
ヴァニラが楽しそうに指さした先には飛行機みたいなものが見えた。
どうやら、さっきまでは炎のクリスタルに隠れていたけど、ヴァニラが追いかけられた時と戦闘の衝撃でクリスタルが砕けて見えるようになったらしい。
…もしかしたら飛空艇…なのかな?
頭に浮かんできたのはFF特有の乗り物。
それだったらすこぶるテンションが上がる。
というか上げるなと言う方が無理な話ということになってくる。
でも、こんな早く足が手に入るなんて凄いなあ。
…なんだか、どこか第三者で見ている自分は変なのだろうか。
でもやっぱりちょっとだけゲームの中を見てる、そんな気持ちはあったのかもしれない。
「これで逃げられるね!」
「うん、逃げられるね」
「と思いきや、ぶっ壊れてたりするわけだ」
ぴょんぴょん飛び跳ねそうな勢いで喜んでるヴァニラと頷いたあたしにサッズからの水差す声。
ヴァニラは振り向きむすっと頬を膨らませ、あたしは苦笑いした。
「後ろ向きな事を…」
「ていうか本当にありそうで嫌…」
「現実的なんだよ」
あたしたちの反応を見て、そう言ったサッズ。
でも脱出するならコレを使わない手は無い。
壊れてるかだって乗ってみなきゃわからない。
だからひとまず、あたしたちは飛行機に乗り込むことにした。
座席は操縦席をあわせて、ちょうど5つ。
でもこんなの誰が操縦するのやら…。
エアバイクを操縦できたホープだって、まさかコレは無理だろう。
だけど、心配は無用だった。
なぜなら真っ直ぐ真っ先に操縦席に着いた人物がいたから。
それはさっき「ぶっ壊れててたりするわけだ」なんて口にしたアフロのその人。
「サッズ、操縦できるの?」
「まあな。こう見えてもコレが仕事だからよ」
「え、パイロットなんだ」
ハンドルやらなにやら確認しているサッズはそう教えてくれた。
サッズってパイロットだったのか。
でもそれでご飯を食べてるってんならこれ以上の人材はいない。
飛行機も壊れてなかったみたいだし。
なんだか上手く逃げられるような気がしてきた。
「ホープ、隣座ろっか」
「はい」
操縦に関しては、あたしが関わるようなことはまず確実に無い。
だからあたしはホープと一緒に一番後ろの2つのシートに着いた。
ちなみに席は一番前の操縦席にサッズ。
真ん中にライトニングとヴァニラだ。
「ふう…」
全員が座り、あたしもずっと歩きっぱなしだった足をやっと休ませられるってんで一息ついた。
でも、そんなゆったりと安心した瞬間…。
「うっ…!」
ギュン!!といきなり機体が動いた。
その衝撃に、腹部にうっ…となんかが来た。
汚い話ではあるけれど、何か口にしていたら戻ってきそうな…!
でもそんなこと気にしてる場合じゃなさそうだった。
「げ…」
窓から見えた周りの景色に絶句。
離陸しゲートを抜けた先には聖府の艦隊が待ち伏せていた。
びっしりと、まるで絶対に逃さないとでもいうかの勢いだ。
「こん畜生!!」
軍の追撃を何とか避けているものの、サッズはサッズで軍用艇は始めてらしくエンジンの出力の勝手に戸惑っていた。
で、出来れば安全運転を…!!
そう願いたいけど、あたしは出力以前に飛行機の操縦って時点で意味不明だからそこは信じるしかないわけで、ただしがみ付いて事の成り行きを見ているしかなかった。
「よこせ!」
でもそんならしとは見事対照的だったのはライトニング。
彼女はは見ているだけに収まらず、後部座席から手を伸ばしサッズから操縦権を奪うと、機銃の引き金を引いて敵を一機墜落させた。
や、やっぱこの人、勇ましい…!
「ライトニング、すごい…!」
「やっつけた?」
「たったの一機だ」
あたしとヴァニラの声を聞き、たいしたことじゃないと首を振るライトニング。
でも彼女の墜とした機体があった場所に穴が出来たことで、あたしたちはそこを通り抜けることが出来た。
でも、それだけじゃ状況は変わらない。
「まだ来るよ!」
まだまだ多く残っている機体が追いかけてくる。
それを見たホープが悲痛に叫んだ。
それに、なんかグワングワンめっちゃ揺れてるって言うか…。
乗り物弱い人だったら絶対酔うじゃないかみたいな?
早い話、ライトニングの操縦はかなり荒っぽかった。
つまりはヤバイ。
こ、こええええええ…!!!
あたしはぎゅむっ、と機体にしがみつく力を強めた。
「おい!無茶だ!見てらんねえ!」
見かねたサッズは再びライトニングから操縦権を奪い返した。
流石は本職のパイロット。
さっきの感覚から少しコツを掴んだらしく、ライトニングの操縦よりは機体が安定した。
でも敵が追ってくる状況は何も変わらない。
「どう逃げるんですか!?」
「知らねえよ!」
また悲痛に叫んだホープにサッズが切羽詰って返す。
なんか、もう、あれだ。
誰も彼もいっぱいいっぱいって言うか、やけくそって言うか。
「なら代われ!」
「余計危ねえ!」
でもライトニングに操縦権を戻すつもりはないらしい。
画面越しに見られるならコントのようなやり取りだろうか?
でも今は完全に当事者である。
ぶっちゃっけあたしは逃げ切れるならなんでもいい!
「何でもいいからどうにかしてええええ!」
降りかかる超展開に、叫ばざるをなかった…。
完全に丸投げだけど、やっぱりあたしにはどうしようもないんだもの。
だからただじっと、目を閉じてしがみ付いて、事が収まることだけを祈り続けてた。
でも…その祈りは無駄じゃなかったのかどうなのかは…よくわかんないけど。
サッズの操縦の腕は相当のものだったようで、安定してきたように感じて目を開けば、追っては振り切れていた。
なんでも、岩の地形をうまく利用したらしい。
操縦が穏やかになり、なんだか落ち着いた。
「なんか…何にもしてないけど疲れた…」
「…そうですね」
今度こそ安心していいだろうか。
ぐでん…と背もたれに思いっきり寄りかかりながらため息を零すとホープは頷いてくれた。
「くそ!なんでこんな目に遭わにゃあ!…ん?」
イラついたサッズが感情に任せて操縦盤を叩いた。
するとその拍子に、何かスイッチに触れたらしい。
モニターが入り、それぞれの座席に報道番組っぽい映像が映し出された。
「わ…なんかハイテク…」
映ったのは立体映像のような画面だった。
あたしはそのハイテク具合に見入った。
でも見入ったのはハイテクだけが理由じゃない。
問題は、その流れてくる報道内容だった。
―――続いて、パージに関する情報です。聖府の発表によりますと、先ほどパージが完了し、コクーンを旅立った市民はすべて、無事にパルスへ到着したとのことです。
流れたその内容に、うわあ…と思った。
めちゃくちゃ事実とかけ離れている捻じ曲げられた事実。
その内容にサッズも呆れたようで、スイッチを押してチャンネルを変えていた。
すると今度映し出されたのは、なんだか偉そうなおじいさんだった。
ざっくり思ったこと…この人、誰だ。
―――ええ、おっしゃるとおりです。パージ政策は大きな痛みを伴うことは否定できません。しかし、数千万のコクーン市民を守るにはやむをえない状況でした。
大きな痛みを伴う…。
その言葉を表情で表すかのように痛々しくそう語るそのおじいさん。
―――ダイスリー代表はこのように述べ、パージの必要性を強調しました。
そうやらおじいさんの話は会見か何かの模様だったらしい。
画面がキャスターの人に切り替わり、この意見についての解説を始めた。
ダイスリー代表…。
代表って事は、やっぱり偉い人なのかもしれない。
なんの代表かは知らんけども。
その後、どのチャンネルで語られるのも、パージを肯定する意見や聖府に不利な情報を捻じ曲げた報道ばかり。
正直、見ていて全然面白くない。というか不愉快だった。
「……。」
「…………。」
ちら、と隣の席のホープを見れば、彼も苦い顔をしていた。
この報道には、あたしにはまだわからない部分も多い。
内容をちゃんと理解出来る分、ホープのほうが不愉快は大きいかもしれない。
聖府は今後もコクーンを脅かす敵と戦い続ける。
そう締めくくったダイスリーとか言う人の言葉にサッズがふて腐れたように呟いた。
「俺たちゃ死ぬまで追われるわけだ」
ルシと言うだけで追われ続ける。
その言葉が空気を重くする。
でもそんなの関係なしに、ヴァニラは画面を指差し純な瞳で尋ねた。
「あのさ、誰これ?」
それを聞いた瞬間、サッズはあからさまにガクッ…と肩を落とした。
そんでもって「近頃のガキときたら…」と呆れ返っていた。
あ…なんかこの反応を見るにこのおじさんは一般常識レベルの人らしい。
でもあたしがそんなのわかるわけない。
だから、別にヴァニラ自身めげている様子は無いけど助け舟を出すかのようにあたしもそれに便乗した。
「あたしもわかんない。なんかすっごく偉そうだね」
そう言うと「ああ…お前さんもわかんないんだっけな…」とサッズは少し納得したように、あたしとヴァニラに教えてくれた。
「ガレンス・ダイスリー。聖府の代表だよ。人殺しの親玉だ」
ガレンス・ダイスリー。
初めて聞いた名前だった。
聖府の代表…人殺しの親玉…。
なるほど…やっぱり偉い人だった。
「ふうん…」と頷くと、そこでライトニングが呟いたのが聞こえた。
「こいつもファルシの道具だな」
まるで独り言。
いや、独り言だったのかもしれない。
彼女はじっと、何かを見据えているように感じた。
それから少し間をおいたところで、突然警報が鳴り出した。
その音にハッとして外を見れば、また敵が迫ってきているのが見えた。
「げっ!またなの…っ?」
物凄く憂鬱だった。
もう勘弁してください…ていうか心情的には泣きたいかもしれない…。
サッズはハンドルを握りなおし、慌てて雲の中に逃げ込んだ。
すると、進む度に眩しさが覆ってきた。
雲の中なのに…なんだろう。
そう思うものの、やっぱり雲が邪魔してよく見えない。
しばらくすると、すっ…と雲が晴れ、その先に見えた。
「うわあ…」
そこにあったのは、炎の塊のようなもの。
とても眩しく光を放つそれに、あたしは思わず声を漏らした。
「あれはなに?」
「ファルシ=フェニックスですよ」
「フェニックス?転生の炎的なアレ?」
「て、転生の炎…?」
「あ、ごめん。なんでもない」
丁寧に教えてくれたホープに、思わず変な事を口走ってしまった。
でもフェニックスって…転生の炎的なアレじゃないのか。
ていうかファルシなんだ…。
「えっと、擬似太陽の役割を果たしてる聖府のファルシですよ」
「疑似太陽!?ファルシって何でもありだね!」
擬似太陽って…ファルシってそんなことまでやってるのか…。
でもって聖府のってことは、つまり今のあたしたちにとっては敵?
新しい情報をゆっくり整理していく。
いや、状況的にゆっくりしてる場合でもないんだけど。
現に聖府側はこっちに向かって攻撃し始めた。
そのせいでまた、ガクンと大きく機体が揺れる。
「ファルシだ!あいつを利用しろ!」
ライトニングがサッズに呼びかけ、あたしたちの乗る機体はファルシに向かっていった。
ライトニングの読みはドンピシャ。
そのエネルギーに巻き込まれ、敵の機体は次々に落下していった。
でも、全機を堕とせたわけじゃない。
まだ残っている数機はまっすぐにこちらを狙って撃ってくる。
高い上空で、さっきのように地形を利用して振り切ることが叶わないこの場所ではいつまでも避けきるのは難しいことだった。
「うわっ…!」
本当はここまで逃げ切れたのも奇跡なのかもしれない。
ついに敵の攻撃が当たってしまった。
衝撃で今までで一番機体が大きく揺れる。
そして、妙な浮遊力を感じた。
それはつまり、真っ逆さまに落下しているということ。
「…ッ!!!!」
目をぎゅっと閉じて、しがみついて。
出来るのは、襲ってくるであろう衝撃を覚悟し、無事を願うことだけだった。
To be continued
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