薔薇色の戦士


「やっつけるんだよ、ラグナロクを!」





セラのクリスタルを探す途中、閃いた様にスノウが叫んだ。

ルシに与えられるという使命。
でも、あたしたちは自分達の使命がなんなのか、はっきり把握出来ていない。

だから歩きながらの話題は、もっぱらそのことについてである。





「俺らがルシになったのは、あれを倒してコクーンを守るためだ!」

「だから、なんでそうなるんだよ!」





自信たっぷりに口にするスノウの意見をサッズが頭を振って否定する。
そんな反応を向けられても、スノウはめげることなく意見を貫いて説明した。





「セラだ!コクーンを守れって言って、セラはクリスタルになった。クリスタルになったってことは使命を果たしたんだ。コクーンを守るのが使命って事!セラも俺達も同じファルシにルシにされた。じゃあ使命も一緒に決まってる。俺たちは世界を守るルシで、ラグナロクと戦うんだ」





セラをルシにしたファルシが自分たちもルシにした。だから使命も同じ。

ひとつのファルシが与える使命はひとつなのか、とか…あたしにはよくわからないからスノウの意見に反論する考えは無く、意見を黙って聞いてるだけ。

でも、隣にいるホープを始めに、ライトニングもサッズも、微妙な顔をしている。
…ということは、スノウの意見は極端な意見と言う事らしい。





「筋が通るだろ!」

「通ってねえよ!ぐだぐだじゃねえか…」





スノウに言い返したサッズ。
彼はスノウの言う様な不確かな意見ではなく、わかっていることを元に意見を述べていった。





「パルスのルシはコクーンの敵で、俺たちはそのルシの手先だ。…たぶん使命は…、守るの逆さ」





守るの逆…、すなわち破壊。

コクーンはあたしたちが今立っている世界であり、此処にいる皆の世界。
つまり皆は、自分たちの世界と敵対されるものとされてしまっているみたいだ。





「じゃあセラも敵だってのか!俺は認めねえぞ!」





スノウはサッズに言い返すと、ライトニングの元に駆け寄った。

セラの姉であるライトニング。
彼女なら、セラを敵視する意見には同意しないと思ったのだろう。





「この力でコクーンを守ろう!一緒に戦って、使命を果たせば…、っ!」

「何が使命だ」





でも、ライトニングはスノウの喉元に武器を向けた。

彼女はスノウを強く睨みつける。
やっぱりライトニングは、スノウの動向に好意を抱いてはいないらしい。





「ファルシがセラを奪ったのに、その命令に従うのか。お前はファルシの道具か!」





ライトニングがそう言葉をぶつけた直後だった。





「動くな!」





こっちの不穏な空気など読むことなく、響いてきた命令口調。

その声のする方に全員が咄嗟に視線を集めれば、そこには銃などを持った武装集団の姿があった。
あの格好には見覚えがある。パージの時、市民を誘導してた人達だ。
確か…PSICOM、だったと思う。

そのPSICOM達は、厳重に注意を払ってあたしたちに近づいていたらしい。
気づくといつの間にか、周囲をすっかり囲まれてた。

って…ちょ、コレ…まずいじゃん…!
折角ここまでは何とかなってたのに…!





「両手を頭の後ろで組め!」





平穏に暮らしてたあたしにはこんな時どうしたらいいかなんて、全然わからない。

でも撃たれちゃたまらない…。
だからおずおずと、皆にならうように頭の後ろで手を組んだ。

うう…、こんなポーズをする日がくるなんて夢にも思わなかった…。





「……、」





からん、という音が響く。
ライトニングが手にしていた武器を捨てた音。





「パージの生き残りだな」






ライトニングが武器を捨てたのを確認したところで、ひとりのPSICOMが近づいてきた。

あたしたちはパルスのルシ。コクーンにとっての敵。
だから囲まれたのかと思ったけど、どうやらパージのことらしい。

…ああ、そっか。
パルスの物に関わりがあるもの全てが敵だから…。

少しずつ、理解も早くなってきた気がする。

じゃあルシであろうとなかろうと、あたしたちは追われる運命なのか…。





「さあな」





軍人である彼女は小さく舌打ちすると、態度は反抗的なまま頭の後ろで手を組んだ。
そんな彼女の様子に、彼は気を悪くしたらしい。





「貴様…!」





ずんずんとライトニングに近づき、彼女の顔元に銃口を突き付ける。

うわ、うわうわわわわ…!
そんな様子を目の前で展開されて、あたしは気が気じゃなかった。

でも、ライトニングは冷静だった。
いやむしろ余裕だった。





「素人が」





フッ…と綺麗に口元を緩ませ、笑みを浮かべたライトニング。

彼女は小さく言葉を吐く捨てると、手早い動きで銃を払い捨てさせた。

でも、そんなの全然序の口。
素手だし、しかも男の人相手だっていうのに、彼女は目にもとまらぬ鮮やかさで自分に銃口を向けた男を払い倒してしまった。

仲間が倒されたことで、周りのPSICOM達も銃を手にライトニングに向かっていく。

でもライトニングは一瞬の隙も逃さないかのように、しなやかな動き一度で捨てた武器を拾い上げ、時には挑発まじりでPSICOM達の相手をしていった。





「ナマエさん…!こっちへ…!」

「え、へ?あ、う、うん!」





その動きにすっかり見惚れてたあたしは、ホープに手を引かれるまで完全に色々忘れていた。

ライトニングが作った隙を手にし、スノウ、ヴァニラ、サッズは応援に。
あたしとホープは小さな影に隠れて様子を伺ってた。

でも、あたしの視線は完全にひとつしか追ってなかった。

ウェーブのかかる淡いピンクの髪を揺らし、剣にも銃にもなる不思議な武器を操り、軽い身のこなしで敵を薙ぎ払っていくその姿。


なんというか…。
うん…、すっごく格好いい…!!


女とはここまで格好良くなれるのかと…!
勿論変な意味じゃない。でも…こう、惚れた…と言う表現が一番しっくりくるというか…。

うわあ…、と。

あたしはライトニングに対し、憧れに近い様な感覚を覚えていた。











「意外と、脆かったな」





気絶したPSICOMのひとりをサッズが覗き込んだ。

ルシの力はやっぱり凄い。いや、多分皆の力も凄いんだろう。
PSICOMをあっという間になぎ倒してしまった。





「こいつら、PSICOMだろ?エリート部隊じゃないのか?」

「PSICOMはパルスとの戦いが専門だからな、戦争なんて何百年もねえだろ?経験ゼロの連中が高い武器ブン回してるだけさ」





サッズの問いに、スノウが答える。

ふうん…。PSICOMってそういう集団だったのか。
新しく出来た知識を忘れないように記憶する。





「特務機関の人間より、普通の軍人さんの方が地味な任務で鍛えてらっしゃると」





あたしと同じ…では無いけど、軍についての知識はそう無いらしいサッズはライトニングに視線を向けてそう言った。

それに重ねる様に、スノウは胸を叩いた。





「俺達ルシの敵じゃねえわけ」

「図に乗るな」





でも、そこに厳しい声が入った。
それはこの中で一番軍という組織に詳しいであろうライトニング。





「下っ端は脳なしでも、PSICOMの精鋭は化け物だ。そいつらが出てくれば終わりだ」





ライトニングがそこまで言うPSICOMの精鋭。
本当にとんでもないんだと思う。

なんだかライトニングが言うと、物凄く説得力があった。

彼女の強さの惚れこんでしまった今のあたしには、特に。





「だったら、逃げようよ!ね?」





立ち込めた不安の空気。
それをぶち壊してくれたのはヴァニラだった。

ヴァニラは道の先を指さすと、皆に手招きして走っていた。
サッズの「お、おい!」という呼びかけも聞こえないふりで、まっすぐに。

でも、きっと正解はそれなんだろうな。

逃げるのはきっと一番。
逃げるが勝ち、ってやつかな?





「いこっか、ホープ」

「そう、ですね…」





あたしはホープに笑い掛け、また彼と一緒に歩きだした。

だけど、襲われて、追われる身なんだって肌で感じたからかホープは余計に元気がない。

今のホープに元気出せって言う方が色々無理な話かもしれない。

でも彼は、あたしにとっては戦闘能力や年齢、支え合うという意味では凄く近しい存在。
それにホープは一緒にいてくれると言ってくれたし、知識のことも聞いてくれと言ってくれた。

だから、まあ…無理強いしない程度には、彼の力になりたい…と思う。





「ホープ。さっき、ありがとね」

「え?」

「さっき襲われた時。あたしぼんやりしてたからさ、ホープが腕引っ張ってくれて助かったよ」

「ああ、いえ、そんな大したこと」

「謙遜しない。お礼言われたら、どういたしましてって言っとけばいいんだよ」





ホープは気にしないでください、と首を振ってくれたけど、でもあれは本当に感謝だと思うんだ。





「だからね、ありがとうございました!はい?」

「ははっ…、じゃあ、どういたしまして」

「うん、よし!」





少し笑ってくれた。
よしよし、良かった!

だからあたしも笑って頷いた。

他愛のない会話。

でも、ホープは泣き崩れたりピリピリしたり。
ずっとそんな調子が続いてるし、たぶん、これからもしばらくは…それが続くだろう。

だから、時にはこうした穏やかな顔してくれればって、あたしは思ってた。



To be continued

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