与えられた使命


「使命がわからなければ、果たしようもない」





しばらく歩いた辺り。
ふと足を止めたライトニングが少し刺のある言い方でそう言った。

ルシの使命…。
ルシには使命があると言う。

それを果たせばクリスタル。
果たせなければシ骸。

…正直、そんなの冗談じゃない…とは思った。
だって、銃声の真っ只中から離れられたと思ったら、今度は…って。

クリスタルもシ骸も…両方の果てを目にした。
…結末的には、死とそう変わらないように思う。
どちらかと言われればクリスタルの方がいいけど…。

でもそういう問題じゃないし…。
勿論、別の世界で死にたくなんかない。

だけど、あたしの場合は少し特殊だった。

だって…ずっと好きでたまらなかったお話の世界のひとつに今自分はいる。
しかも自分が魔法を使えてしまった。

その事実に、高揚しちゃってる部分もあるのも本音なんだよね…。
…すごーく、呑気な話かもだけど。

だって少なくとも、まだ猶予はあるんでしょ?っていうか…。
常識について知らない、わからない部分があるせいでもあると思うけど…。
皆よりは幾分、気楽なところはある気がする。

ただ、13はまだやった事が無いから話の結末がわからない。

未来がわからないなんて当たり前の事だけど、やっぱりここはゲームだと言うなら…そんな考えも浮かんでしまう。

ああ、13…もっと早くやっておけばよかった…。






「…もう、視たと思う」





そんな時、使命に頭を悩ませるライトニングにそう頼りなさ気に答えたのはヴァニラだった。

ライトニングはそれを聞き、怪訝そうに「視た…?」と聞き返す。
ヴァニラが頷くと、そこに補足するようにサッズが入った。





「ルシの使命ってのは、ああしろ、こうしろって言葉ではっきり説明されるわけじゃねえんだ。ぼんやり見えるだけなんだとよ」





皆の視線がサッズに集まった。
よくはわからないけど、多分随分詳しいんだなあ…みたいな感じだろうか。

あたしから見れば全員あたしよりは詳しいから、何とも言えないけど。
だからあたしは近くにいた彼に小声で尋ねてみた。





「そうなの?」

「僕は初めて聞きました」





ホープはすぐにそう答えて教えてくれた。
サッズもそこまで言って、あたしたちの視線に気がついたらしい。





「ま、伝説だがな」





どこか慌てたように手を上げ、誤魔化しているようにも見えた。

でも…皆にとっても、今はどんな情報でも貴重らしい。
サッズのその話が本当だとするならば…。





「…何か覚えてるか?」





ライトニングがあたしとホープに尋ねてきた。

するとホープが、ちらっ…とあたしを見上げてきた。
あたしも「うーん…」と考える様にホープを見た。

視た…っていうと…。

実際のところ…心当たりは、0…じゃない。





「それって…夢、みたいな感じ…だったりするかな?」

「え…あ!それなら…ええと、はっきりはしないんですけど…」





夢みたい、そう言うとホープはハッという顔をした。

でもその反応を見ると何か自信がついた。
だから二人で確認するように答えていった。





「すごく…すごく大きな、」

「そう!あたしも何か、すっごく大きな…」





そこまで言ったところで、サッズが驚いた顔をした。





「まさか、お前らも視たのか!?」





そう。大きい…すごく大きな、魔獣…。
そのヴィジョンと一緒に、頭に流れ込んできた名前がひとつ。





「「ラグナロク…」」





その名前を、ライトニングとスノウが同時に呟いた。

ラグナロク…。
あたしの聞いた名前もそれだった。

大きな獣と、その名前。

つまり、ここにいる全員が同じものを視た…という証拠だった。





「全員同じものを視て…同じ声を聞いた」

「あれが使命?でも、あんなのだけじゃ何すればいいか…」





確認していくサッズに、ホープは言う。

確かにそれだけじゃ、何が何だかさっぱりだ。

ラグナロク…って何よ。剣の名前ですか。
他のシリーズを思い浮かべると、そんな考えしか浮かばない。





「…そういうものなんだって」





その答えを返してくれたのは、またヴァニラだった。





「ファルシが視せるのはああいうものだけで、実際に何をやるかはルシが見つける」





…えー…と…。

ヴァニラがそう言った後、あたしは少々固まっていた。
ていうか唸ってた。

ファルシ…はルシを作る…。
ファルシはルシに使命を与えて…その使命は曖昧だからルシ自身が見つけなきゃならない…と。

つまりはこういうこと。うん、まだ大丈夫だ。

ぶっちゃけた話。
聞き慣れない単語のオンパレードですいすい話が進んでいって、少し混乱している部分も少なからずあったり。

スノウ達に簡単に説明してもらったものの、ひとつひとつ、ゆっくり頭の中で確認しながらじゃないとまだ不安な部分がある。

皆はコクーンって場所に住んでる事。
コクーンは浮かんでて、下にはパルスっていう地獄が広がってる事。
コクーンにもパルスにも、それぞれのファルシがいる事。
パルスのものはコクーンにとっては全部敵である事。

などなど…。
教えて貰ったけど、まだ色々ぐちゃぐちゃしてる…。





「あの…大丈夫ですか?」

「え、あ…な、なんとか今のところは…?」





唸ってるあたしに気がついてくれたらしいホープが気遣う様に声を掛けてくれた。

あたしはにっこり笑みを返した。
ただ…若干の疑問形で…。

つまりは…ついていくのに精一杯。
物覚えが良くなりたい…と切実に思う。

すると見かねたらしいホープは、あたしに耳打ちしてくれた。





「あの…、わからないことがあったら聞いてください」

「え…?」

「…僕でよければいつでも答えますから」

「…ホープ…!」





その耳打ちに自分の目が凄い輝いたのを感じた。

…ホープ…!
君ってばなんて優しいんだろう!

なんだか単純だけど、物凄い感動を覚えた。





「ありがとう…!」

「大袈裟ですよ」





お礼を言うあたしに、ホープは少し笑った。

だけど今回の件は、あたしだけじゃなくて皆にとってもわからないことだらけみたいだ。
だからサッズが代表して話の整理を始めてくれた。





「俺達パルスのルシは、コクーンの敵だ」





あたしたちはパルスのファルシにルシにされた…。
だからパルスに怯えているコクーンから見たら敵である、と。

よしよし、理解出来てる。

だから順調にサッズの話を聞いていった。





「となれば使命は…、コクーンを…」

「守るんだ」

「…んあ?」





でも、そんなサッズの言葉に割って入った声があった。
その声の正体はスノウ。

遮られてしまった当のサッズは何とも言えない表情をしていた。





「この世界を守るのが俺達の使命だ」





そんなサッズの事など何のその。
スノウははっきりと、そう言い切った。

そんなスノウにヴァニラはそっと首を傾げた。





「うんうん。どうして、かな?」





ヴァニラがその考えの説明を求めると、スノウは当然の事を言うかの様な物言いをした。





「セラが言ったろ?一緒にやろう。力を合わせて戦うんだ」





迷いなくスノウはセラの言葉を信じていた。

セラが言ったから…。

セラは、確かあたしたちと一緒でパルスのルシにされた…。
そして「コクーンを守って」と言葉を残し、その直後にクリスタルになった。





「セラを捜すぞ!きっとこの近くだ!」





スノウはニッと笑うと道を走っていった。
確かにセラも異跡の中に居たから…その可能性はあるかもしれない。





「私も捜すよ!待って!」

「たく。落ち着きのねえ野郎だ」





ヴァニラとサッズは、そんなスノウを見失わないうちに追いかけていった。
つまり残ったのは…あたしとホープと、ライトニング。





「…ホープ?」

「………。」





ホープはスノウが話している間ずっと、彼から視線を逸らしてだんまりしていた。

…本当、スノウのこと相当嫌ってるなあ…。

でも、スノウもルシだ。ヴァニラもサッズも。
使命が同じなら、一緒にいないという理由もない。

だからあたしはホープに尋ねた。





「あたしたちはどうする?追おっか?」

「あ、はい。でも…、」

「……あー…うん…」





ホープがちら、と目を向けたのはライトニングだった。
彼女もまたスノウに好印象を持っていない様で、未だに背を向けたまま。

でも、どうもちょっと雰囲気的に今は話しかけ辛い。





「…なんかさ、今はほっとけオーラ出てるよね?」

「…そう、ですね…」





ちょっと苦笑いしながら小声で言うと、ホープも困ったように頷いた。

でも、セラはライトニングの妹だから…。
ライトニングも捜すとは思うんだ。

彼女は別に一人でも強いし、変に気に掛けても鬱陶しく思われるだけなんだろうか?

だけど…まあ、一応。





「貴女も、捜すんですよね…?妹さんなんでしょう?」

「………。」

「…先に、行ってますね。行こう、ホープ」

「は、はい」





とりあえず、そう一言だけ。
一言だけそう残し、あたしはホープと一緒に駆け出した。

輝く真白な道の中を。
セラのクリスタルを探して。



To be continued

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