それぞれの想い


先頭を歩くライトニングにスノウ。
それに続くヴァニラとサッズ。

現れる魔物との戦闘は皆が請け負ってくれて、あたしとホープはその後ろについて行くように歩いていた。

どこまでもキラキラと輝く、ビルジ湖。
クリスタルの結晶と化したこの道は、とても綺麗だ。

そんな道を進み続けた途中、そのクリスタルの中に一際輝く塊があるのを見つけた。





「セラ…」





ライトニングが呟いた。

見えたのは、異跡の中でクリスタルと化したセラ。
探していた彼女の姿を、あたしたちはやっと見つけることが出来た。





「セラ!!」





駆け寄ろうとしたライトニングよりも早く、セラの名前を呼びながら駆け抜けていったスノウ。

セラは、クリスタルをなった湖のクリスタルに埋もれてしまっていた。
スノウは彼女を救いだそうと、近くにあった瓦礫を使い、クリスタルを掘り起こそうとした。





「手伝うよ!」

「悪い!」





ヴァニラやサッズも同じように瓦礫を手にし、スノウを手伝いは始める。
ライトニングはじっとセラを見つめ、スノウを嫌悪するホープは皆の様子を傍観していた。





「あたしも手伝う!」

「ああ、すまねえ!」





あたしは、足元に転がっていた小さな瓦礫を手にしてスノウを手伝うことにした。

だって、セラをこのままにしておくことが良いことだとは思わないし、スノウに感謝する気持ちだってあるから。

でも、いくら掘っても終わりは遠い。
瓦礫は突き刺しても突き刺しても、小さく結晶を欠けさせることしか出来ない。





「……さよならだ」





その時、後ろから辛さを滲ませた…そんな言葉が聞こえた。
振り向くとライトニングがセラに向けていた。





「義姉さん!?セラを置いて行くのかよ!?」





スノウが驚いた様に問いかける。
ライトニングは冷静に答えた。





「PSICOMが狩りに来る。見つかれば、全員くたばる。それでセラが喜ぶのか。お前にセラの気持ちがわかるか…!」





背を向け、その場を去ろうとするライトニング。
だけどスノウは、諦めを見せないかのように言葉を返した。





「置いていったら、わからないままだ。大丈夫だ、敵が来たら俺が皆を守る。誰も死なせない。この世界も守って…セラも守る!」





言い切ったスノウ。

その言葉に、ライトニングは振り返った。
酷く、視線を鋭くさせて。

そして、スノウの頬に拳をぶつけた。





「守れなかっただろうが!」





殴られよろけたスノウに怒りを飛ばす。
でもスノウも黙ることなく、起き上って言葉を返した。





「だから助けるんだ!」

「今更何が出来る!」





立ちあがったスノウに、ライトニングは再び拳をぶつけた。





「何でもだ!」





だけどスノウは、何度殴られても諦めない。
強くライトニングを見返し、また言い切った。





「……っ」





その視線に、ライトニングは一瞬言葉を詰まらせた。
握りしめた拳が、行き場を無くしたように落ちていく。

あたしやホープ、ヴァニラは、その不穏な空気に口を出す事が出来なくて、ただじっと不安げに見ている事しか出来なかった。

最年長であるサッズは「…どいつもこいつも」と溜め息をつき、掘ることを再開したスノウと、それを眺めるライトニングを見つめてた。

たぶん…ライトニングだって、セラを置いていくことを良いだなんて思ってはいないんだ。
だって彼女はスノウと同じくらい、異跡で出会った時からずっとセラの事を気に掛けては口にしていた。

だけど…状況を見るに、PSICOMに見つかったらおしまいだというのも、正しい答え。

あたしはその迷いが滲んで、掘り続けていた手が止まってしまった。
ここにいたら、きっと逃げ場はすぐなくなってしまうから。





「待ってくれ!」





無言で立ち去ろうとしたライトニングに、スノウは立ちふさがった。
セラを置いていくことの出来ないスノウを諭す様にサッズは声を掛けた。





「気持ちはわかるがよ、…この調子じゃ、何時間掛かっても掘り出せねえぞ。軍隊も来るだろうし、今は逃げてようや。な?」





多分それが、もっとも論理的な考えのはず。
でもやっぱりスノウは受け入れられないようだった。





「嫁さん残して俺だけ生き延びたって!」

「…使命はどうした」





スノウの言葉を遮る様に、ライトニングの冷たい声が響いた。
その言葉に、スノウはハッ…とした表情を見せた。

…第三者から見るに、確かにスノウの言ってることは綺麗事…。
そう出来たらいい、なれたらいいっていう理想を、その先に待っている最悪の事態を考えずに言っている様にも思える。

…あたしは、そんなスノウの言葉にさっき助けられたから…あまり強く言う気はないけど。
スノウがこういう人だったから、あたしの無茶苦茶な説明を…信じてくれたんだから。





「俺たちは世界を守るルシだから使命を果たす。自分で言って忘れたのか。もう投げ出して、ここで死ぬのか」





ライトニングの言い分は至極最も。
だけどスノウの気持ちもわかる。

再びぶつかってしまった意見に、サッズが頭を抱えた。





「お前は、口先だけなんだ」





ライトニングはスノウにそう一言言い残し、彼を過ぎて行った。





「俺はッ!」





スノウは叫ぶ。

その声を聞き、ライトニングは一度だけ足を止めた。
互いに振り向くことはなかったけど。





「…絶対に諦めない。使命も果たすし、セラも守る。…約束する」

「…守ってみせろ」





ライトニングは、再び歩み始めた。
足音が遠ざかっていく。





「…生き延びてくれ」





その様子に息をついたサッズに、スノウはそう伝えた。





「…お前もな」





サッズはスノウの肩を叩くと、ライトニングの進んだ道を歩いていった。

残ったあたしとホープとヴァニラはスノウを見つめてる。
スノウはその視線に気がつくと、早く行けと促すようにニッ…と笑って先を指した。

その笑みに頷き、ヴァニラは歩き出す。





「……行こう、ホープ」

「え…、あ…」





あたしはホープに一声を掛けると、皆を追う様にゆっくり歩きだした。

スノウとのすれ違い様、彼の大きな背を見上げる。
目が合うと、スノウはまた笑みを向けてくれた。





「…気をつけて、スノウ」

「おう。ナマエもな。帰る方法、きっと見つかるさ」

「……ありがとう」





疑うことなくまたそう言ってくれたスノウに小さく頷き、あたしは彼の横を通り過ぎた。

…なんか、良い気持ちはしない…よね。やっぱり…。

だけど…スノウが死ぬわけない、そんな考えが…あたしの中には浮かんでた。
ちょっとずるい考え方。でも…ちょっとだけ安心出来た気がした…。

そんなことを考えていた時、あたしは後ろから足音が来ないことに気がついた。





「……ホープ?」





気になって、残った彼を呼びながら待つように振り返る。
するとホープは、スノウに面と向きあっていた。





「…あんたが…、」





そこまで言って、ホープは言い淀んだ。

何となく…あたしは心配になった。

あんたが…の続きはきっと。
きっと、お母さんのことに繋がるというのは、容易に想像できた。

お母さんを失ったホープの悲しみ…どうすることが一番いいのか。

ちゃんと言葉を交わせて、ぶつかるだけじゃなく、互いに耳を傾ける。
そうすれば…糸は解けるのか、とか。

色々考えてたけど、やっぱり緊張に似た様な感覚を覚えてた。





「話があるなら今度聞くよ。置いてかれるぞ」

「えっ…」





言葉に詰まるホープを見て、スノウはまた笑みを浮かべてそう言った。

置いていかれる、という言葉を聞いたホープは慌てた様に先を見る。

だからあたしは、ちゃんと待ってますよー、というように頷いて微笑んだ。
ホープはそれを見つけると少しだけ安心した様な顔を見せた。





「行けよ、ホープ。義姉さんが守ってくれる。また会おうぜ」





相変わらずの笑みで、そう明るく促すスノウ。
ホープはその言葉にゆっくり頷いた。





「はい…、…必ず」





そう言い残し、ホープはスノウの横を抜けた。





「…すいません、ナマエさん」

「うん。じゃ、急ごっか」

「はい…」





追いついたホープの肩を叩き、あたしたちはライトニング達に追いつけるように走り出した。

でも走りながら…ホープの横顔を見て、思った。
…今、君がスノウに言った…《必ず》と言う言葉は…。

ふたりの中での意味は、確実に違っている…。





「ねえ、ホープ…」

「…はい?」

「…ううん、なんでもない。ごめん、早くしないと本当に置いてかれちゃうね」





言いかけたけど、やっぱりやめた。

だけど確かに…。
ホープの怒りや悲しみ、憎しみとか…感情が、嫌な方向に…転がっていくような、気がしてた。



To be continued

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