「セラ!!」
そう叫びながら駆け出していくスノウの背中を見つめる。
スノウを追いかけて目指して異跡の奥には、3つの影があった。
あたしはその3人を見て目を細めた。
…ライトニング、サッズ、そして…セラだ。
セラは少し衰弱しているようで、ライトニングに支えられながら横たわっている。
スノウは彼女の傍に膝をつき、手を握った。
あたしとホープとヴァニラは、その光景を眺めていた。
ヴァニラは伺う様に。
ホープは睨むように。
思うことは、きっとそれぞれ。
あたしは…ここで、完全に確信していた。
ライトニング。
スノウ。
ホープ。
ヴァニラ。
サッズ。
そして、セラ。
ここまで来たら、もう…確定、かな…?
此処は。
…この世界は…FF13の世界。
「ヒーロー参上…?」
セラはスノウにそっと優しく微笑んだ。
スノウはそれを見て、握る手に力を込めた。
「一緒に帰ろうな」
でもスノウのその行為に、セラの姉であるはずのライトニングがキッ…と彼を睨んだ。
「放せ!私が連れて帰る!」
「義姉さん」
「誰が義姉さんだ!お前はセラを守れなかった。お前のせいで…!」
事情はよくわからない。
でも、ライトニングはスノウを強く強く疎ましく思っているようだった。
だけど、口を出せる雰囲気でもない。
だからあたしはじっと見てた。
「守れるよ」
その時、ライトニングの怒りを鎮める様にセラの柔らかい声が響いた。
自分に視線が集まると、セラはまた優しく微笑んだ。
「守れるよ。だから守って…。コクーンを……守って」
それを聞くとライトニングとスノウの顔色は変った。
ふたりは詰め寄る様に、セラの言葉に耳を貸す。
「使命か?それがお前の使命なのか?」
「わかった。任せろ。守るよ、俺が守る!セラもコクーンも。みーんな守る!」
「……、そうだ。私がなんとかする」
「安心したろ?」
…セラはライトニングの妹。そしてスノウの恋人だったはずだ。
数少ない情報を手繰り寄せて思い出していく。
姉と恋人。
大切な二人に見守られ、セラは目を細めた。
「…ごめんね」
そして、小さな声でそう一言だけ呟く。
その瞬間、彼女の体は淡い光を放ち出した。
蒼く、白く、とても美しい光。
そんな光を放ちながら…ふわり、と浮かび上がって…。
指先から、凍る様に…その身は結晶へと変化してしまった。
「……っ…」
その光景を見て、あたしは驚きで口を覆った。
キラキラと眩しいその輝き。
FFで輝くもの、といえば…必然的にひとつの単語が浮かんできた。
クリスタル…?
クリスタルだよね、あれ…。
人が…クリスタルになった…?
クリスタルとなったセラの瞳からは一粒…スノウの手へと光が零れ落ちた。
「セラ…!セラ!!」
それを強く握りしめ、スノウは悲痛そうにセラの名前を呼ぶ。
ライトニングは、悲しげに見つめていた。
「ファルシの使命を果たしたルシは…クリスタルになって永遠を手に入れる」
「伝説の通りか…」
ホープとサッズが呟いた。
あたしは耳に届いたその言葉を頭に置き、もう一度セラを見た。
…使命を果たしたルシ。
クリスタルになって、永遠を手に入れる…。
使命を果たせなかったルシの先はシ骸だった。
シ骸かクリスタル。
怪物か永遠。
でも、ライトニングとスノウは悲しんでる。
永遠って言っても、これでは動けないし、話すことも出来ない。
これじゃ、どっちもどっちなんじゃないの…?
そう思いながらも、やっぱりあたしは口を開くことはしなかった。
「よく、頑張ったな…」
スノウがセラに言葉を渡す。
でもそれを聞いたライトニングは、再び酷くスノウを睨んだ。
「頑張っただと…?ふざけるな!セラはっ…セラは!」
「生きてるッ!」
嘆くライトニングに、スノウは言い切った。
「伝説だ!ルシの伝説だよ!使命を果たしたルシは、クリスタルになって永遠を手に入れる!セラもそうなんだ!永遠ってことは、死ぬわけねえだろ!セラは未来の嫁さんだ。ずっと一緒って約束した!俺、何年でも待って未来の、っ!」
ガンッ!!
そんな音が響いて、スノウの言葉は途切れた。
あたしは、目を見開いた。
ライトニングは、スノウを殴ったのだ。
「何が未来だ!現実見ないで、逃げてるだけだッ!」
響いたライトニングの叫び。
スノウは歯を食いしばり沈黙した。
居たたまれない空気。
誰もが口を開く事をためらう、そんな状況。
でも、そんな空気はすぐに壊された。
急に揺れだした、足場によって。
「…っ!」
ぐらっと体が大きく揺さぶられ、あたしはふらついた足を少し開いて、なんとか踏ん張った。
こ、こんな時に地震…!?
何気なく天井を見上げれば、頭上から何かが落ちてくるのが見えた。
「うわっ!?」
ガシャン!!!
物凄い音を響かせ、すぐ傍に瓦礫が降ってきた。
う…え…。
血の気がサーっと引いた。
傍にいたホープを見れば、彼は頭を抱えて丸くなっていた。
立ってるのがしんどくなったあたしはホープの傍で小さく頭を抱えた。
「なんなの!?」
「軍隊の総攻撃だろ!この異跡ごと、ファルシをぶっ壊すんだ!」
叫んだヴァニラにサッズが揺れに耐えながら答えた。
でもそれを聞いたヴァニラはサッズに詰め寄った。
「パルスに帰すんじゃないの!?パージってそういう意味でしょ!?」
「聖府の狙いはパルスの奴らをコクーンから消すことだ!運ぶも殺すも変わりゃしねえ!」
パルス、パージ…。聖府の狙い…。
え、えええっと…。
聞こえた単語を自分なりに整理してみる。
まだ意味わかんない部分も多い。
でもそれはつまり…この場所を壊そうとしてるってことだから、ここにいたらあたしたち全員お陀仏ってこと…!?
更に血の気が引いた気がした。
ちょっと待って…!そんなの絶対やだ!
どうしてゲームの世界で死ななきゃならないの!?
そう思った時、がしっ…と何かに手を掴まれた。
「…っホープ」
見れば、それは隣でうずくまってたホープの手だった。
ホープはあたしの手を握ったまま、悲痛に叫んだ。
「早く逃げなきゃ!死んじゃうよ!」
「っ、そんなの…あたしだって嫌だけど…っ」
掴まれた手の上に、あたしは自分の手を重ねた。
ぎゅうっ…と触れて、握りしめる。
どっちも頼り無い。
でも不安で放せない。
っ…もうやだ!収まってよ…!!!
きっと無駄。でもそう願った。
願わずにいられなかった。
「…う…っ?」
しん…、
だけどその直後、急に静かになった。
…もしかして…願いが通じた…?案外やってみるもの…?
いや…きっと偶然だろうけど…。
ゆっくり顔を上げる。
すると、目の端で何かが赤く不気味に光ったのが見えた。
「あれは…」
それは奥にあった扉。
光った扉は徐々に…独りでに勝手に開ていく。
その時点でも、かなり不気味だと思った。
「…すぐ戻る。待ってろ」
スノウはセラに声を掛けると、その扉に向かって歩き出した。
それを見たサッズが焦ったように声を掛けた。
「兄ちゃん!何する気だ?」
「ファルシに会ってくる。セラを助けて貰うんだ」
「へえ!?ファルシにお願いするってか!?そんなに甘いわけあるか!向こうは人間を道具としか思っちゃいねえんだ!」
否定的なサッズ。
…どうやらファルシって言うのは人間じゃないらしい。
人間を道具…。神様か何かなの…?
ぐるぐるぐるぐる。
またあたしが考えていると、スノウは声を張り上げた。
「俺は未来を待つだけじゃない!」
腕を振りかざして、強く。
すると何か思う事があったのか、ライトニングも歩き出した。
スノウを追い越し、真っ直ぐ扉の奥に歩いていく。
スノウはそれを速足で追いかけていった。
奥に消えていくふたりに、サッズも「たく、もー…」と溜め息をつきながらも追っていった。
残ったのはあたしとヴァニラとホープ…。
結局、この3人になった。
「ホープ…、大丈夫…?」
あたしはホープに声を掛けた。
彼は揺れが収まった今も、彼はあたしの腕をぎゅうっと握りしめていた。
だからあたしも手をずっと重ねてた。
重ねた手から、酷く震えてるのが伝わってくる。
……どうしたら…いいのかな…。
別に嫌なわけじゃない。
あたしでよければいくらでもどうぞだ。
…でも、気の利いた事…あたしは言ってあげられそうにないから。
「私たちも、行ってみよっか…?」
その時、ヴァニラが3人の入っていった扉を指した。
ファルシってのが何で、どういうものなのかは全然わからない。
けど、大人たちと一緒にいた方が安全…のような気もする。
わかった、と頷くとヴァニラは先に扉の方に駆けていった。
その足音を聞きながら、あたしは隣で小さくなってるホープに目を向けた。
するとホープはそれに気付いて、不安そうにあたしの顔を見てきた。
率直な感想。
うう…そんな子犬みたいな顔しないで欲しい…。
わけのわからない場所。不安なのはこっちも同じ。
だからあたしは重ねるだけだった手を、強く繋いだ。
「…ナマエさん…」
「あたしも放さないから、ホープも放さないで…くれる?」
「…はい」
頷いてくれたのを見て、笑った。
うん…やっぱり少し、心強い。
手を繋いだまま、あたしとホープも皆を追って扉をくぐった。
To be continued
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