オレンジに近い赤い髪と、光を反射する銀色の髪。
揺れるそのふたつの後ろをついていくように、あたしは歩いていた。
ふたりはあたしを守ってくれると言った。
あたしには武器になるようなものがないし、戦う力もない。
だからせめて邪魔にならないようにヴァニラとホープの後ろを歩いてる。
でもそれじゃ本当にただの足手まといだから、何か武器の代わりになるようなもの無いかな…とキョロキョロしてみるものの、なかなか良いモノは見つからない。
…ヴァニラはあんなにすぐ発見したんだから、もしかしたら…なんて思ったんだけど…。
まさかあそこに隠してたとか…?
…いや、そんなことあるわけない…か。
そうしてスノウを探しながら歩く事しばらく…、少し開けた場所に出た。
「なーに…これ」
あたしたちはそこで立ち止まった。
宙を見上ると、何故ならそこには何かが舞っていた。
キラキラした…綺麗な何か。
なんだろう…これ。
よくわからないけど、それはとても綺麗で…あたしは少し見惚れていた。
『グギャアアアアアッ!!!!』
でもその直後、妙な鳴き声を聞いた。
獣とは違う。
でも人間とも言い難い、そんな声。
「えっ…」
反射的にその声のした方に目を向けると、固まった。
そこにいたのは奇妙な動きを見せる何か。
二足歩行で、でも人間じゃなくて…想像するなら、そうゾンビ。
だけど、ここまで見てきたどんな魔物よりも、恐ろしい印象を覚えた。
しかも、気がつけばそれが四方から何体も。
ぞろぞろと、あたしたちを囲むように迫ってくる。
…なに、これ…っ。
正直、テンぱる暇もない。
純粋に恐怖しか感じなくて、後ずさりした。
すると背中にホープとヴァニラの背がぶつかった。
「なんだよ、これ!?」
「シ骸!ルシの成れの果て!ファルシの命令を…使命を果たせなかったルシはこうなるの!」
弾けるように叫んだホープにヴァニラが答えた。
シガイ…?
また新しい言葉…。
ルシの成れ果て…?ファルシの命令…?
何それ、何それ、何それ…!
全然わかんない…!
どう考えても言葉が通じそうには見えない。
逃げようにも、もう囲まれちゃって逃げ場がない。
…こんなとこで死にたくない…!
「うおおおおおおお!!!」
そう思ったその時、誰かが叫びが聞こえた。
同時に走ってくる足音。
その誰かは、一体のシ骸に体当たりをした。
吹っ飛ばされたシ骸。
助けてくれたその背中が、あたしたちの前に映った。
「もう大丈夫だ!」
手を広げる大きな背中。
白いコートに大きなエンブレム。
それは、探していたスノウだった。
スノウはグローブをはめた拳でシ骸に立ち向かっていく。
ひとつひとつ正確なパンチを決め、あっという間になぎ倒した。
…た、助かった…?
過ぎ去った危機に、あたしは胸を撫で下ろした。
「…はあっ…」
「…ホープ」
隣ではホープが緊張が一気に解けたように膝をついた。
あたしはそれに合わせて「大丈夫?」と傍にしゃがみこんだ。
「何でこんなところに!早く逃げろ」
そんなあたしたちにスノウは振り向き、そう言ってきた。
「…くっ…」
「ホープ…、」
そんなスノウに対し、ホープは膝をついたまま彼を睨みつけた。
あたしは小声で呟いてホープの肩に触れた。
そんなやり取りに気付いたヴァニラは「えへへっ」とスノウに笑いかけ、適当に誤魔化しをきかせてくれた。
「わかった。歩けねえなら隠れて待ってろ。セラを助けたら、一緒に逃げよう」
ここまで来るのに、だいぶ疲れは溜まっていた。
ヴァニラやホープは戦ってくれた分、あたしよりきっと。
スノウはそんな疲れを察して、そう提案してくれた。
でも…セラ、か。
あたしは説明書で読んだ名前がまた出て来たことに反応した。
もうそれほど驚きは無かったけど…。
ああ、やっぱり…って感じだったと思う。
「うちに帰してやるからな!」
スノウは手を振りながら、駆けだした。
それを見たホープは「このっ…」と更に睨みを強くした。
「待って…!」
でも、そんなホープの言葉を遮ったのは…ヴァニラだった。
「…セラって…?」
足を止めたスノウに、ヴァニラは問いかけた。
ちょっと意外だった。
ホープの為に呼び止めたわけじゃないんだ…。
「俺の嫁さん。未来のだけどな」
スノウは答えた。
その声のトーンはどこか優しげだった。
でも、同時に…ちょっと悔しそうだとも思った。
「…パルスのルシだ」
そして…またルシ。
また…パルスのルシ、か。
付け足す様に言ったその言葉に、ヴァニラは言葉を詰まらせていた。
さっきホープが「パルスのルシにされるかも」ってここに来ることを躊躇っていた。
だから、それが良いことではないんだろう…って言うのはわかった。
「ファルシに捕まって、この異跡にいる。助けてくるから待っててくれ」
「なんだよそれ!!」
また駆け出したスノウ。
でもその背中に向かってホープが叫んだ。
立ちあがって、強くぶつける様な声で。
「ルシを助けるって何だよ!あいつら敵だろ!敵は助けるのに、なんでっ…なんで!…おかしいよ!!」
「………。」
叫ぶホープを、あたしは黙って見てた。
握りしめられたホープの拳は…震えてたから。
スノウは振り向いて苦笑いした。
その小さな震えには、気付いていなのだろうけど。
「…そうだな。ごめんな、馬鹿でさ!じゃあな!」
スノウは頭を掻きながら再び走って行った。
白い背中がどんどんが遠ざかっていく。
その足音を聞きながら、ホープはまた膝をつき、ガクン…と泣き崩れしまった。
「…ホープ…」
膝をついた彼に、やっぱり掛ける言葉が見つからない。
見つからなくて、ただ肩に手を置く。
辛いのは、当然だ…。
ホープは目の前で…母親を亡くしたんだから。
「あいつが戻るまで待って、助けてもらう?」
「誰があいつなんかにッ!!」
ヴァニラの言葉にホープは両拳を地面に叩きつけた。
ダンッ!!!
強い音が響いてヴァニラは肩を揺らし、あたしも驚いてホープの肩から手を放した。
「巻き込まれてばっかりだ…。一昨日ファルシが見つかった時、ボーダムにいただけなのに…。軍隊に捕まって、パージされて…。あいつのせいで…母さんが…。何がセラだよ…」
俯きうずくまるホープに掛ける言葉を探していると、去って行ったはずの足音が戻ってきた。
足音に振り向くと、戻って来たスノウと目があった。
スノウと目があったの、初めてかもしれない。
愛想の良い彼に「おうっ」と軽く手を振られて、とりあえずあたしは頷いた。
だって…まだこの人の事よくわからないけど、悪い人では無いんだとは思えていたから。
その根拠が、第一印象から来てるのか…。
…説明書の中にあった味方だからなのかは…正直…わからないけど。
いや、両方…かな。
確かに、皆を元気づけてる時から、悪い人ではないと思った。
それを、あたしの中にある情報が後押しするのだ。
あたしは知ってるんだ。スノウが…、いやホープもヴァニラも…悪い人じゃないって。
あたしがそう考えていた時、ヴァニラはホープの手を取って優しく語りかけていた。
「一緒に行こう?」
「え…」
「直接文句いいなよ。言うこと言わないと、ずっと苦しいから」
確かに、このままじゃ…ホープはずっと苦しい。
だけどスノウも…必死に助けようとしてた。
どうするのが、一番いいんだろう。
ちゃんと話せば、糸は解けるかな…。ふたりが話せば…ちゃんと…。
ただぶつかるだけじゃなくて、それぞれの話に耳をちゃんと傾けられたら。
…うん、それがいいかもしれない。
それに、ここにいて、またあんなのが出てきたら…皆でおしまいだ。
なにもかも終わっちゃうから。
今は、進むしかないんだ…。
「はい」
「えっ…」
あたしはヴァニラの隣に立ってホープに手をさしだした。
握りしめた手を引き上げて、彼の体を立ち上がらせる。
「あ…ありがとうございます」
「どういたしまして」
にこっと笑う。
よし…それじゃ…。
「みんなで行こう」
あたしたちはスノウと一緒に、異跡の奥にへと進んだ。
To be continued
prev next top