記念撮影



ザナルカンドに残してきた妻と息子。

ふたりにこの旅の様子を見せたいと、ジェクトさんは小まめに映像スフィアを残していた。

あたしはその度に「わー!」っと喜んでスフィアに向けてピースをしてた。




「アーロン!もう少し寄ってくれ」



旅行公司のマカラーニャ湖支店前。

スフィアを持ったブラスカさんの声が響く。


アーロンはしぶしぶ間を詰めた。
そんなアーロンとは対照的にジェクトさんとあたしはニコニコと機嫌良さそうにスフィアに笑顔を向けて並んでいる。

寺院の試練でも思ったけど、いやあ…スフィアって便利だよなあ。
しみじみ感心。

ブラスカさんに言われ、間は詰めたものの、アーロンは仏頂面で背を向けたままである。




「そんなに嫌がんなよ、堅物!」

「うるさい」

「いーと思うけどな、記念撮影」

「なぁ?いいよなぁ?ブラスカ、おめえも映っとけよ。ユウナちゃんへの良い土産になるぞ」

「そうだな」




ブラスカさんはジェクトさんの言葉に頷く。

ブラスカさんにもジェクトさんの息子と同じ年の娘がいるとか。
息子、娘の話をするジェクトさんとブラスカさんは自然とお父さんの顔になっていて嬉しそうだ。

しかし、そんな様子を見てもアーロンは反対するのをやめない。




「ブラスカ様…こんなことをしていては時間がいくらあっても足りません!」

「な〜に焦ってんだか」

「この旅だどういうものだか教えてやろう!」

「アーロン!」




ジェクトさんに対して、沸点を突破してしまったアーロンをブラスカさんは止めようとする。

しかしその前に、いち早くあたしはアーロンの袖を掴んで止めた。
アーロンは足を止め振り向く。




「なんだナマエ、放せ」

「…本当に堅物だなあ」

「!、お前にもこの旅の重要さをっ…」




怒りの矛先がジェクトさんからあたしに移った。

声が大きくなるアーロン。おお、怖い。

だけど怯まないのは、相手がアーロンだからだ。慣れたもんだなあ。




「アーロン怒ってばっかり。少しは楽しめばいいのに」

「…楽しむような旅では無い」

「遊びじゃないって言うのはわかってるよ」

「なら、こんな事をしている場合では無いだろう」

「でも、他の人がそうだったとしても…あたしたちは笑って旅しちゃダメ?誰だって苦しいより楽しい方がいいじゃん。一緒にいる人に笑って欲しいって思うのって、変な事かな」




そう言うと、アーロンは黙ってしまった。

ん…?やっぱりダメだったか…?
と言うか、変なこと言っちゃっただろうか。
なんだか少し不安になる。
苦手だからなあ…人に何か説明するの。思ってることとかなら尚更だ。
自分のボキャブラリーの無さは我ながら失笑もんだ。

でも言うことは言った!と言う爽快感。
じっと見据えていると、アーロンに顔を逸らされた。ちぇ。




「アーロンも笑えばいいのに」

「…うるさい」

「おーい!ナマエちゃん!こっち来てみろよ!色々売ってるぞ!ナマエちゃんも元の世界に戻った時の土産見てみたらどうだ?」

「え!見ます見ます!」




ジェクトさんの声で、あたしは掴んでいたアーロンの袖を放し、旅行公司のジェクトさんのもとに走った。
スピラには、あたしの世界じゃお目にかかれない代物が沢山ある。
お店を見つけたら物色。もうあたしの中ではお決まりの行動になってる。

そんな風にあたしが走っていったあとのアーロンの元に、ブラスカさんが歩み寄っていた。




「はははっ、ナマエもジェクトも本当にシンの居ない世界から来たんだね」

「…ブラスカ様」

「私も、出来るだけ笑って旅したい。自分で言うのも何だが召喚士はスピラの希望、だろう?希望がどんよりした空気を出しているのは頂けないしね。笑っているほうが幸せも寄ってくるよ」

「………。」

「おーい!見てみろよ、このロングソード!ガキへの土産だ!まぁアイツはまだちっせーから持った瞬間ずっこけちまうだろーがな」

「ほう、息子へのね」

「今、何歳でしたっけ?」

「おう、7つだぜ。泣き虫でよお。でもジェクト様のガキだからな。あと10年もすりゃ使いこなせんだろ。まぁザナルカンドに魔物が出りゃちょっとした事件だけどな」

「あたしの世界だったらちょっとしたじゃないですよ。大事件です。ていうかロングソード持ってる時点で捕まります」

「すげぇな!そりゃ!随分厳しいんだなぁ、ナマエちゃんの世界はよ」

「銃刀法違反ですからねえ…」




ジェクトさんの手には、先程買った息子への土産、ロングソードが握られていた。
それを種に広がる会話。
そんな様子に、アーロンはまだご立腹みたいだ。




「アーロン、眉間にシワよってる。跡つくよ?」

「…放っておけ」

「はははっ。それじゃ、そろそろ森に進もうか」




ブラスカさんが笑いながらそう言い、一行はマカラーニャの森に進もうと足を動かす。

先に広がる神秘的な木々。
それは凄く綺麗で、なんとなく、ワクワクする気持ちが大きくなってた。





「うへえ…」




しかし、そんな森を抜けると…気持ちは一変。

なぜって、どんよりとした暗闇に染まる空。稲光が途切れることなく走る。まるで爆発のような音と共に。

その場所の名は雷平原。




「いやー!すっげー雷だなぁ」

「ですねえ…」

「おう、どしたい!この平原についた時は元気だったじゃねぇか!」

「いや、流石に凄すぎかな…って」




あたしは顔をしかめながら空を見上げた。

最初、雷平原についた時は「うわあ!すごい!すごい!」とはしゃいでた。

嵐などが来たとき、窓の外を強く吹き荒れる雨を見て感心するテンションの大袈裟版である。

しかし、ここは外。
しかも体験したことのない程、大きな光と音の雷。
さすがに自分の真横にそれが降り注いだなら、はしゃいでなどいられない。

そんな中、ジェクトさんに無理矢理渡された映像スフィアを回すアーロンは、隠すことなくまたも不機嫌だった。




「こら!ちゃんと映せ!」

「どうして俺が…」




ふらっと適当に空を映しジェクトさんをスフィアから外すと、当のジェクトさんから文句を言われたアーロン。

たぶんアーロンは思ってるだろう。
回してやっているだけありがたいと思え!

考えがだんだん読めるようになってきた。




「それで、お前は何をしているんだ」

「いや…自分の傍に高いものがあれば雷って落ちないからさ」

「…人を避雷針にするな」

「だってさ落ちてきたらどーするよ」

「だってじゃないだろ、俺に落ちるのは構わないのか!」




そんなアーロンの隣で、あたしは中腰になっていた。

なんて自己中な娘だ…。たぶん今度はそう思ってるな。うんうん。

アーロンはため息をつきながら、スフィアをブラスカさんに向けた。
嫌々録らされているジェクトさんへの細やかな反抗。
ジェクトさんにはなかなかスフィアを向けなかった。




「なにを見てらっしゃるのですか?」

「いや、少し考え事をね」

「…アーロン。ジェクトさんそろそろ痺れきらすんじゃないの?」

「ちゃんと映せって言ってるだろうが!大事な土産なんだぞ!」

「……ほらね」

「………。」




あたしがアーロンにそう言った時、タイミングよくジェクトさんが怒鳴った。

その直後だった。





ピシャアアアアアンっ!!!!




「おわあっ!?」





鋭く響いた音。
近くに雷が落ちたのだ。

それと同時に聞こえた男の酷く驚いた悲鳴。
あたしたちは反射的に声のした方へ目を向けた。





「お…おお……」




そこにいたのは、尻餅をついていたジェクトさん。

自分に降ってきた雷に驚き、とっさに避けた結果だろう。




「だいじょうぶか?」

「すごい音しましたね…」

「今の様子撮っておいたぞ」

「やかましい」




ブラスカさんとあたしがジェクトさんに同情するような声をかける。

しかしアーロンはスフィアをしっかりジェクトに向け、笑いを含めた声をかけた。
それには思わず、ブラスカさんと一緒に声をあげて笑ってしまった。

暗い空とは正反対の、笑い声が平原に響き渡る。




「うー…でも本当にすごいなぁ…雷」

「ここの雷は止むことが無いからな」

「ふーん。雨も凄いし…、くしゅんっ」

「…寒いのか」

「んーん、大丈夫」




小さなくしゃみ。

寒いか聞いてきたアーロンに首を振った。

旅はまだまだ続く。



To be continued

prev next top
×