旅路を行く 聖ベベル宮において祈り子と対面しバハムートの力を手にいれたが、アルベド族と結婚した為に落ちぶれた召喚士と囁かれるブラスカさん。 出世の道を外された僧兵、アーロン。 1000年前に滅んだ都市、現在はエボンの聖地であるザナルカンドから来たと言い、ベベルの牢に入れられていた男、ジェクトさん。 そして、ベベルから少し離れた小さな町に突如現れた異世界からやってきちゃった………あたし。 落ちぶれた、と言うか良い言い方をすれば個性的、そんなメンバーでシンを倒す旅路を歩く。 「ナマエちゃん!後ろで援護頼んだぜ!」 「はーいっ!ブリザドッ!」 ピシンッ! 現れた敵に放った氷の魔法。 綺麗な音を響かせ、貫くような力を見せる。 「やった!」 旅を続ける中で、あたしは4属性の初級魔法とケアルを操れるようになっていた。 ブラスカさんドンピシャリ。 元の世界では絶対使えないのにスピラだと使える。 やだわー、あたしってば魔法の才能あったなんて!と小躍りしたい。 …まあ、何で使えるかとか考えてもきっとわからないだろうからあまり深くは考えなかったけど不思議だよなあ、なんて漠然と思った。 それより魔法が使える感動。これ一番。 「いやあ、ナマエはやっぱり才能あるんじゃないか?この短期間でよくこれだけ…」 「あっという間に使いこなせてるもんなあ!すげぇすげぇ!」 「えへへー!もっと言ってください!」 ブラスカさんやジェクトさんに誉められ、あたしは上機嫌になる。 ブラスカさんもジェクトさんも元々人と壁を作らないタイプの人間。 アーロンはまだ若いけど、2人とあたしじゃ年齢に結構な大きい差がある。 でも話しにくいとかはない。 いつも可愛がってもらって。いい人達だ、本当に。 とにもかくにも、パーティーが打ち解けるのにそう時間はかからなかった。 「なあ、ナマエちゃん。あの木になってる実よぉ、魔法で取れねーかね?」 「えー…ファイアやサンダーじゃ焦げちゃいますよ」 「じゃあ氷か水でよ」 「攻撃魔法だしなあ…。ジェクトさんがジェクトシュート!…で取った方がよくありません?」 「そりゃあ手頃なボールがありゃあそうするんだけどよ」 「ナマエ!ジェクト!下らない話をしていないでさっさと来い!」 「まあまあアーロン」 ふとした事でジェクトさんと足を止めるとアーロンに怒られる。 それをブラスカさんがなだめる。 それがお決まりになっていて。 周りから見れば…そう、愉快に旅をしている。 そう見えるんじゃないだろうか。 でもだからこそ、その分、役に立ちたいとやる気が出てくる。 だけれど、あたしは旅なんかしたことない。 平々凡々な人間なのだ。 ……つまり、だった。 「………ちょ、あ、あの…今日はあとどれくらい歩くんでしょうか…」 「またか」 「アーロン…そんな冷ややかな目向けないで…」 長い長い旅路を戦闘を繰り返しながらひたすら歩く。 パーティーで唯一女の子なんですよ!あたし! ただでさえ、そこで体力の差が出ると言うのに…。 少しは心配してください! …なーんて、ふてぶてしいのは十分承知だが。 そんなバテバテのあたしを見てブラスカさんは笑った。 「はははっ、じゃあ今日はここらで休もうか。野宿になるけどね」 「ブラスカ様…甘やかすことありませんよ」 「…アーロンのドケチ」 「聞こえているぞ!」 「おっ!やっと休みか?ジェクト様も疲れたぜ!今日はここまでだ!ここまで!」 「ジェクトッ!」 「マカラーニャの寺院には明日着くさ。どのみち今歩いても今日中には着かないよ、アーロン」 「…わかりました」 ブラスカさんにそう言われれば、アーロンも折れるしかない。 ブラスカさんは本当に神様だと思う。 マカラーニャ寺院。一行が目指す最初の目的地。 召喚士はスピラ各地にある寺院を巡る旅をする。 なるべく多くの祈り子と対面し、人の罪…シンを倒せる唯一の力、究極召喚を手に出来る程の力を手にするために。 究極召喚やシンのこと。 スピラの人間ではない、あたしとジェクトさんは、旅の合間にその存在について話を聞いていた。 あたしは考えた。 ゲームなら、ストーリーがある。でもそれが思い出せない。 FFと言う概念は覚えているのだ。他のシリーズのことは細部まで思い出せる。だからこそ魔法は覚えていた。 しかしXのストーリーの記憶だけ本当に思い出せない。 どのシリーズにも共通するのは世界を旅する、と言うこと。 つまり、各地にある寺院を廻るようなストーリーだったのでは無いかと。 だとすればマカラーニャと言う地名も聞いたことがあってもおかしくないはずなのに。 「何を難しい顔をしている?」 「…んーん。なんでもない」 アーロンに尋ねられ、首を振る。 ストーリーがわかれば、それはつまり先がわかると言うことで。 先がわからないなんて、人生においてそれは当たり前のこと。 だけど本来は知っているはずなのだから、思い出せたら色々と便利そうなのになあ…と漠然と何気なく考えていた。 「ぬおおおおおッ」 そして一泊したのち、マカラーニャ寺院に到着したあたしたち。 試練の間にて、悩ましい声が辺りに響き渡る。 それを発したのは頭を抱えたジェクトさん。 「うるさいぞジェクト!寺院内で騒ぐんじゃない!」 「んなこと言ったって何だこのカラクリ満載の部屋はよ!」 「まぁ試練だからね」 「俺ぁこーゆーのはパスだぜ!お前らさっさと解いてこいや」 「貴様何だそのデカイ態度は!」 ブラスカさんが召喚士になってから出会ったジェクトさんとあたしは、聖ベベル宮の試練に立ち会っていない。 だから試練の間に入るのはマカラーニャ寺院が初めてだった。 スフィアを使い、仕掛けを解いていく。 頭を使うパズルにジェクトさんは唸っていた。 「そしてナマエ!お前もどさくさに紛れて休んでいるんじゃない!少しは手伝え」 「…バレたか。あたしも頭使うのはパスでーす。頑張ってください!」 ジェクトさんに矛先が向いているのを良いことに、あたしもこっそりと少し離れた所で試練を解いていくブラスカさんとアーロンの様子を見ていた。 でもアーロンに見つかり引っ張り出されてしまう。 もしかしたら、ゲームで一度クリアしているのかもしれないけど、そんなこと覚えてはいない。 というより覚えていたとしても、攻略の順序まで覚えている自信はない。 誰かがやってくれるのなら、見ている方がずっと楽だ。 そして理由はもうひとつ。 ここ…マカラーニャ寺院は。 「それにしても寒いよここ…!考えようにも頭回らないよ、寒すぎて。ほら!氷柱いっぱい!」 「こんなところで弱音を吐いていたらガガゼト山など越えられん」 「先のことなんて後でいいんだよ!大切なのは今だよ!」 「屁理屈をこねるんじゃない!」 氷の女王であるシヴァの祈り子が奉られているマカラーニャ寺院は一面が銀景色だった。 温度は低い。息も白くなる。 自分の体を抱き締めながらアーロンに反抗する。 攻防はしばらく続いたが、どちらも譲らない。 「寒い!寒い!寒い!寒いぃーっっ!」 「ええいっ、うるさい!」 「うぶっ…」 喚くあたしに、アーロンは何かを投げつけてきた。しかも顔面に。冷めていた皮膚には若干痛い…。 いててて…て思いながら投げつけられたそれを見る。それは、赤い上着だった。 「………え?」 「それでも羽織っていろ。うるさくて敵わん」 「え、アーロン寒くないの?もろ腕出てるけど」 「お前が騒ぐのに比べれば遥かにマシだ。俺を気にする暇があれば攻略を手伝え」 「えー…」 「……ナマエ」 「わ、わかったよ!わかりました!」 ギロリ、とアーロンに睨まれる。 その鋭い剣幕には思わず頷いてしまう。恐いよ、アーロン。 でも、わざわざ装飾を外してまで上着貸してくれて、それを裏切るほど薄情にもなれない。 だって、とんでもなく寒そうだ。 堅物で、すぐに怒るアーロンだが根はとっても優しい。 アーロンの大きな上着に身を埋めながら、そんなことを考えた。 「おっ!ナマエちゃん良いの着てんじゃねーか!俺に寄越せや、寒くて寒くて敵わねぇよ」 「嫌でーす!」 上半身には何も身に付けていないジェクトさんが寒いのは当たり前だろう。 そんなジェクトさんにプイッと顔を背けて笑った。 それにしても、アーロンが身に付けていたから体温のぬくもりが残っていて、本当にあったかいなあ…。 ………ってこれじゃ何かあたし変態みたいなんだけど。 考えを打ち消すようにブンブンと頭を振るう。 そしてブラスカさんの元に駆け寄った。 するとブラスカさんに言われた。 「おや?アーロンに上着を貸してもらったのかい?」 「え!?あ、…ハイ。まあ…」 そう問われ、顔に熱が集まるのを感じた。 うーん…上着貸されたのなんて初めてだから、ちょっぴりときめいちゃったじゃないか。 寒いんだから早く冷めろ!と再びブンブンと頭を振った。 「…アーロン、ありがと」 「いいから手を動かせ」 「はーい」 貸して貰ってしまったからには、なんとなく気にしてしまう。 寒いよなあ…大丈夫かなあって。 自分で言うのも何だが、そこまで自己中では無いつもりだ。 「よし、道は開けたね。行ってくるよ」 頭を悩ませる事しばらく。 正しく嵌め込んだスフィアにより出来た祈り子の間へ続く氷の道。 歩いていくブラスカさんの背中をガードたちは見守った。 To be continued prev next top ×
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