堅物な剣士と



「ナマエの服装は変わっているね。それでは目立つし…服と装備を整えて来ると良い」




そんなブラスカさんの気遣いで、有難いことにお金を受け取ったあたしはショップにやってきた。

……堅物な剣士と共に。




「あ、あのー」

「…なんだ」




あたしの少し前を歩く赤い剣士さん。恐る恐る声をかけてみたら低音の声で返された。




「いや、何かどうもすみません…」



アーロン。赤い剣士の名前。

なんとなく、アーロン…いや、アーロンさんからは抵抗感を持たれているように感じた。
否、これが普通なのかもしれない。ブラスカさんやジェクトさんが人当たりの良いだけで。

これは「初めて会った時に刀を向けたお詫びに荷物持ちでもしてあげたらどうか」と言うブラスカさんの提案だった。

確かにあたしの格好は、この世界スピラにおいてはかなり異色みたいで。すれ違う人が皆二度見してくる。……なんか居心地悪い。

だから装備を揃えてくれると言うのは有り難いばかりだ。

だけど人選がね…。
うん、すごく申し訳ない気持ちになる。
あたしは戦えない。正論だが…旅に加わるのを一番反対したのは…この、今隣にいる人だったのだから。




「なぜ謝るんだ」

「え?あー、いやだって…その…」

「なんだ」

「いや、あ…あはは」




力が抜けるような苦笑い。
だって、なんだか凄まれているような気がして。
現に、アーロンはあたしに背を向けたままだ。…へ、凹む。

そうちょっと落ち込みモードに入っていると、前を歩いていたアーロンが足を止めた。

そして振り返ってくれた。




「…刀を向けた事は、すまなかったと思っている」

「え?」

「…シンは、空から来ることもある。降ってきたのがコケラや魔物だった場合、先手を打つ必要に越したことはないからな」

「ああ…ナルホド。まぁ普通空から人なんて飛んでこないし…」




そして、謝ってきてくれた。

その言葉には偽りなどなく、本当に申し訳ないことをしたと言うふうに思っていると伝わってきた。
なんだか少し安心。
もちろん、悪い人ではないのはわかっているのだけど。




「えーと…アーロン、さん」

「……呼び捨てで構わん」

「え?」

「少なからず、俺とは距離を感じでいるんだろう」

「んー…まぁ、ちょっとだけ?」

「…正直だな」

「……えへ」

「…フン、まあ、そうしたところから埋めていったら良い。ブラスカ様が決めたのだ。お前をガードにすると。俺はあの人の目を信じたい」

「え?」

「…俺にも嘘をついているようには見えんしな」

「…ありがと、アーロン!」




そのアーロンの言葉は、素直に嬉しかった。
自然と、笑うことが出来たから。




「うわあ、コレ可愛いなあ」

「旅には不向きだ。そんな靴で長時間歩く気か」

「……うん。足がイカれるかな」




アーロンは服装についてもガガゼトは寒いがビサイドは暑いから上着の下は薄着にしておくのも手であること、武器についても色々アドバイスをくれた。武器は魔法を使うなら杖を、とか。

そんなアドバイスを参考にしつつ、わりと気に入った動きやすい服装を手にできた。

しかし、ここまで準備をしておいてアレだけど、ちょっと思った。
ブラスカさんに言われた話が一人歩きしてはいないか?と。




「あのー、アーロン?あたし魔法なんか使ったことないんだけど…。ていうかあたしの住んでたとこ魔法なんか普及してないし」

「俺も魔法は得意ではない。戻ったらブラスカ様に聞いてみたらどうだ」

「うーん…そうしてみる…。でも自分に魔力があるなんて思えないけどなあ」

「ファイア、サンダー、ブリザド、ウォータ。それぞれ炎、雷、氷、水属性の基礎だ。才があるのならこの4つはすぐに使えるようになるとは思うが…」




FFの魔法か…。
その名前は自然とすんなり受け入れられた。

ストーリーはわからなくとも魔法の名前は覚えていたから。

だって他のシリーズの事はちゃんと覚えてる。




「あっ、わかる!回復はケアルだよね」

「物語の知識とやらか?」

「あ、うん。ごめん、あんまりいい気しない…よね?」

「別に構わん」

「んー、でも使えたらいいなあ。て言うか使ってみたいなあ。でももし使えなかったらアーロン、剣教えてね?」

「どうして俺が…」

「…刀向けられた御詫び?」

「今荷物持ってやってるだろう!」

「へへっ!……だめ?」

「……使えなかったらな。少しは役に立って貰わねば困る」




その言葉に、アーロンの優しさがみえた。

そこまで強く抵抗を持たれていないことがわかったし。
よく、覚えてないけど、アーロンって結構好きなキャラだった気がするし。

何よりこの人、結構話しやすい。
数十分前の雰囲気が嘘みたいに打ち解けてる感がある。…少なくともあたしは。

…魔法、使えるといいな。

でも今の時点では、使ってみたいと言う気持ちの方が強くて…。
なんか暢気だな、あたし…なんて自分で思った。



To be continued

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