シンを鎧とするもの



「反逆者ユウナ!」






マイカ総老師に話を聞くべく、飛空艇をベベルに飛ばしてもらった。

…が、グレート=ブリッジに降り立って、いや降り立った瞬間。
…いきなりの罵声と共に銃を向けられました。





「よくもおめおめと姿を見せたな!エボンの名のもと成敗してやる!」



「だってさ。どうする」

「売られた喧嘩は買うよ〜」

「おうよ!いくらでもファイガお見舞いしちゃうよ?」





ティーダ、リュックとそんな風に気合いを入れる。

もう本当、心機一転。やる気充分!何でも来いや!って感じだったから。





「待ちなさ〜い!」




でもその時、奥の方から聞き覚えのある声。

息を切らしながら慌てて走ってきたのは、旅の途中何度か会ってるシェリンダさんだった。

銃を向けてきた僧兵はシェリンダさんの声に振り向くと、敬意を払うような態度をとる。





「監督官殿…?」

「あなたたち!ユウナ様になんてことするんですか!ユウナ様が反逆者だと言うのはアルベド族が流したデマです」





反逆者の汚名はアルベド族の流したデマ。
シェリンダさんは僧兵を叱ると共にそう言った。





「なにそれ!」





その言葉にリュックは怒りを見せる。

当然だろう。
だってそれ、とんでもない濡れ衣だ。





「マイカ様が仰いました」

「では、自分達はどうすれば?」

「下がってなさい」





ツンとした口調で僧兵に言い返したのはシェリンダさんではなくまさかのリュック。

シェリンダさんも「そうしなさい」とそれに賛同し、兵士達は下がっていった。
あ、それでいいんだ…。

リュックは怒りのまま、シェリンダさんに聞く。





「さっきの話どういう事さ〜!」

「あの、本当は私にもよくわからないんです。寺院全体がどたばた混乱していて…。私も昨日突然呼ばれて門衛の監督を命じられたんです」





おそらく、彼女は本当に何もわかっていないのだろう。
上から言われたとおり、素直に言っただけ、か。

困惑したように答えるシェリンダさんを見れば、それは明らかだった。





「フッ…人手不足のようだな」





するとそんな様子のシェリンダさんに、小さく笑いながら皮肉を言うアーロン。





「おいおい…アーロン」





あたしは苦笑いしながら、みんな見えないように、そんなアーロンを軽く小突いた。





「はい。はっきり言って寺院はかなり混乱してます。もう、酷いんです!僧達が皆で責任を押し付けあってるんですよ。ああもう…エボンはどうなってしまうのでしょう…」





しかしシェリンダさん、アーロンの皮肉に気付かず。

…ああ、うん。
結果オーライ。前向きな方だわ。

とりあえず、エボンの中はかなり混乱してて、こんがらがってるってのは分かった。





「それよっかさ、マイカ総老師に会いたいんだけど…できる?」

「はい!大丈夫だと思います。裁判の間でお待ちくださーい!」





ティーダがマイカ総老師の事を尋ねると、シェリンダさんは頷いて寺院の方に駆けていった。

そんなシェリンダさんの背中に、今だ腑に落ちないリュックは叫ぶ。





「ちょっと待って〜!…アルベドが流したデマって何さ〜!」





ムスッと拗ねるリュック。
そんなリュックをアーロンがなだめた。





「気にするな。マイカもユウナに頼るしか無いのだ」

「はー…そゆことか」





アーロンの言葉に、リュックは少し納得した様子。





「まあさー、アルベド族がそんな事してないってのはあたし達わかってるし。ね!」

「うん!」





肩をポン、と叩きながら笑いかける。
するとリュックも笑いながら頷いてくれた。





「でも、虫が良いにも程があるわね」





先程の僧兵の様子とシェリンダさんの言葉を思い出したのだろう。
呆れたように頭を抱えて、そう呟くルールー。





「うんうん。死刑宣告までしといて何だよって感じ」





その意見にコクコクと頷く。

確かに虫が良いよなー。
本当にやりたい放題だな…。





「んじゃ、説教してやるッスよ」

「うん、行こう」





こうして、あたしたちは中へベベル宮にへと足を踏み入れた。

真実を手に入れるまで、あと少し…。
さあ、どんな情報が得られるだろうか。


シェリンダさんに言われたまま、裁判の間に向かう。

そこには既に、マイカ総老師の背中があった。

前にここに来たときは、超不平な裁判にかけられた時だった。
でも今回は、立場が反転してる。今度攻めるのはこっちの番だ。





「今さら何を知ろうと言うのだ。早くシンを倒せばよかろう。ユウナレスカにまみえ、究極召喚を得たのであろう」





寺院の混乱で疲れたような背中。
でも同情する気にはならない。自業自得〜って感じかな。





「ユウナレスカに会ったけどさ」

「私たちで倒しました」

「なんと!?」





ティーダとユウナの言葉に驚いて慌てて振り返るマイカ。





「もはや召喚士とガードが究極召喚の犠牲になることはない」





アーロンがそう言うと、マイカは頭を抱えた。

アーロンが言うと妙に説得力あるって言うか…現実帯びる感じあるしな。





「1000年の理を消し去ったと言うのか…この大たわけ者共が!何をしたか、わかっておるのか。シンを静める…ただひとつの方法っあったものを…」

「たわけはどっちさー。そっちの都合で人の待遇コロコロ変えちゃって」





今回ばかりは、ちょっと呆れて「はあ…」と息をついてそう言ってた。

みんながいるから怖くない。
自分でユウナに言った言葉だったけど、自分にとっても凄く強味になってたのは確かだった。最近、前よりそう思うこと増えた。





「ただひとつなんて決めつけんなよ!新しい方法、考えてる」

「な…そのような方法など、ありはせぬは!」

「尻尾を巻いて異界に逃げるか」





ティーダやアーロンに強く言われ、よろめく様に目を伏せるマイカ。





「スピラの救いは失われた。もはや破滅は免れ得ぬ。エボン=ジュが作り上げた死の螺旋に落ちて行くのみよ…。わしはスピラの終焉を見とうない…」

「終わりにはしません!」





ユウナも強くマイカを見ながら言う。

今まさに、全員が思ったはずだ。
エボン=ジュ。その言葉がマイカの口から出たのだから。





「なあ、エボン=ジュって…」

「ユウナレスカ様も仰ってたわ」

「ちょっと、じーさん!エボン=ジュってなんなのよ!」





ティーダ、ルールー、リュックに凄まれマイカはしぶしぶと話し出す。

その、エボン=ジュについて。





「…死せる魂を寄せ集め、鎧に変えて纏うもの。その鎧こそシンに他ならぬ。シンはエボン=ジュを守る鎧。その鎧をうち破る究極召喚をお前達が消し去った!誰も倒せぬ」





マイカはそれだけ言い残すと、天に手を掲げた。

そして、その体を幻光虫が包み出す。

あ!そう思った時にはもう遅い。
マイカ総老師は…姿を消してしまった。





「ふざけやがって!好き勝手ほざいて逃げやがった!」





その様にワッカは怒鳴った。

…その意見には同感だ。
本当にやりたい放題か…。

そう呆れていた時、パタパタと足音が聞こえてきた。

足音に目を向ける。
足音の正体はシェリンダさんだった。





「あの、マイカ総老師は?」

「あの…」





消えてしまったマイカの事を聞かれ、口ごもるユウナ。





「まだ来ないぞ。いつまで待たせる気だ」

「変ですねえ…私、探してきます」





そんなユウナに変わり、上手い言い訳でアーロンがシェリンダさんを誤魔化した。

シェリンダさんは納得し、再び駆けていった。

いくら探してもきっと見つからない…。
ちょっと不憫にも思えるけど…。





「アーロン、頭いいなあ…」

「フン」





アーロンを見上げ、思わず感心した。

不憫だけど…今の出来事、説明するわけにはいかないもんね。
総老師は実は死人で異界に逃げちゃいましたー…って、大問題だよ…。





「お前…」





駆けていくシェリンダさんが見えなくなった頃、そうティーダが呟く声が聞こえ振り向く。





「…あっ」





そこにいた人物を見て、あたしも小さく声を上げた。

そこにいたのはいつかのフードを被った少年…バハムートの祈り子だった。





『僕の部屋へ来て』





祈り子はそれだけ言い残し、ユウナが頷いたのを確認すると消えていった。





「祈り子様に会いに行ってきます」

「……なるほどな」





ユウナはアーロンに許可を得た。

祈り子…。祈り子なら何か知ってるかもしれない。
その可能性はあるし、向こうから呼んできたって事は重要な何かがあるのかも。

ともかく試練の間を越え、祈り子の間へ向かう。
そしてティーダとユウナだけが祈り子の間に入り、あたしたちは2人を待った。







「あ。ティーダ、ユウナ、おかえりー」





待つ事しばらく、祈り子の間から2人が出てきた。
手を振りながらお出迎えをする。

するとユウナは出てすぐ、真っ直ぐにあたしの元に歩み寄ってきた。

あたしはユウナに尋ねる。





「なんか話聞けた?」

「うん…。それは聞いたんだけど…祈り子様、ナマエに話があるって」

「は?」





思わず間抜けな声。首を傾げる。

祈り子サマがあたしに話があると…?
だってあたしは召喚士じゃないのに。皆も意外そうな顔をしていた。





「ナマエと話したいから呼んでくれる?って言われたッスよ。な、ユウナ」

「うん」





意外。

確かにそう、みんながそう思うのも無理はない。

だけど…本当は、意外ってわけじゃなかった。





「何か心当たりでもあるのか」

「…ちょっとだけ」





アーロンにそう尋ねられ、コクンと頷いた。





「なら、行ってこい」

「うん、行ってきます」





アーロンに促され、あたしはひとりで祈り子の間にへと足を踏み入れた。



To be continued

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