私がここにいる理由



『いらっしゃい、ナマエ』

「…こんにちは」





祈り子像の上に浮かぶ少年。
待っていたバハムートの祈り子。

入ってすぐ、とりあえず会釈。

会う…と言うか、見るのも含めれば、これで3回目だ。





『ちゃんと話すのは、初めてだね』

「うん」

『ねえ、もう気がついてる?』





何を、とは言わない。
でも祈り子が何を言いたいのかはわかった。だから頷いた。





「うん。あたしをスピラに連れてきたのは…あなただね」

『そう…。僕達が君をスピラに呼んだ』





スピラに来て初めてバハムートの祈り子の声を聞いたとき、なんだか聞き覚えがあるなって思った。

しばらくして思い出した。
それは、あたしが2回目にスピラに来る直前に聞いた声だった。





『ナマエに、助けを求めた』

「うん。助けてって言われたね。あと…」

『夢を終わらせたい…そう言った』





少しずつ思い出す。あの時の祈り子との会話。

だけど、ずっと不思議だった。
何であたしなのか。何であたしなんかに助けを求めたのか。





『全部話すよ。ナマエを呼んだ理由も、僕らの夢も』

「…お願いします」





ずっとずっと、気になってた。
あたしに、何を望んでいるのか。

…何だかドキドキした。





『まず…始まりは今から10年前、夢のザナルカンドからスピラに1人の男がやってきた』

「夢の、ザナルカンド?」

『そう。ナマエ、ガガゼトで祈り子の障壁に触れたよね?あの時見た場所』

「ティーダの住んでたザナルカンド?」

『…うん。あれは束ねられた夢の街なんだ』

「束ねられた夢?」





わからない言葉ばかり。
すべて聞き返してしまう。

束ねられた夢って何…?夢のザナルカンド?





『夢のザナルカンドからやって来た男の名前は…ジェクト』

「ジェクト…さん」

『うん。夢のザナルカンドとスピラは…凄く近いけど、触れ合わない。そんな関係。だから彼が来たときにね、世界の異相が歪んだんだ』

「異相が歪む…?」

『うん。その歪みで、またもっと…別の世界との間にも波が生じた。その異相の穴に落ちたのが…ナマエだよ』

「えっ?」





驚いた顔であたしは自分を指差す。
あたしが、世界が歪んだ穴に落ちた…?





『最初は僕らも驚いた。この世界の誰とも違う空気。しかも驚く事に、君は破格の魔力を宿していた』

「は、破格の魔力…?」

『君の中には、まだ魔力が眠ってる。魔法を使う人には何となくわかるはずだよ。凄い魔力を持ってるって』

「ああ…うん、何度か言われたことあるかも」





ブラスカさんや、ルールーにユウナ。
あと…シーモア何かにも言われた。魔力を感じるって。





『でも落ちてきた君は、とても不安定な存在だった。世界の歪みはしばらく続く。だから、歪みがある内はいつ元の世界に戻ってもおかしくなかったんだ』

「いつ戻っても…。じゃあ、ナギ平原で消えたのは?」

『偶然だよ。たまたまあのタイミングだっただけ』

「…そーなんだ」





新事実を見つけた。
ナギ平原で消えたのは偶然。
ナギ平原だからとか、そういう事では無かったらしい。

そーだったのか…。そう納得していると、祈り子は話を続けた。





『そして…それから10年後、再び世界の異相が歪んだ』

「……ティーダが来たから?」

『正解』





祈り子は頷く。

なんとなくわかってきた。
ジェクトさんやティーダがスピラに来た事が、あたしもスピラにやって来たきかっけ。





「…なるほど。あ、でも、あとね?あたしの世界では1年しか経ってないのにスピラでは10年とか言われてビックリしたんだよね」

『それはナマエの世界とスピラは時間の進み方が違うからだよ。ナマエの世界の1年は、スピラにとっては10年。スピラの方が時間の流れが早いんだ』

「え、ええ!?そうなの!?」





なんか驚いてばかりだ。

時間の流れが違うから、前に元の世界に戻ったときも…全然時が経ってなかったんだ。

でもそう考えていくと、ひとつ不安を覚えた。





「あれ…?じゃあもしかして…あたし、今も凄く不安定?今消えてもおかしくないってこと?」





以前の旅であたしは突然消えた。
意思とも、何も関係なく。

でも、祈り子は首を振った。





『ううん。今回は違う。異相が歪んだ事を知った僕らは、その機にナマエを呼んだ。だから、僕らがナマエをスピラに繋ぎ止めてる。だから突然消えることはないよ』

「え、そうなの?…それなら良かった!」





繋ぎ止めてるから突然消えることはない。それを聞いて安心した。

だって、今回こそは最後まで旅を見届けるって決めてるし。

……まだ、一緒にいたいから。





『あのね、ナマエ。僕達は夢を終わらせたいんだ。でもそれは凄く難解な問題で…。だから、破格の魔力を宿していた君にも…力を貸して貰いたかった。だから君を呼んだんだ。……ごめんね、勝手な事して』

「ううん。そんなのいーの!こっちこそありがとう!あたし、もう一度スピラに来たかった。来られて、良かったから」

『そう言って貰えて…良かった』





祈り子は安心したようにそう言った。


でも…本当に、感謝してた。

真実を知る機会をくれて…。
…もう一度、アーロンに会わせてくれて。





「でも、夢を終わらせたいって何?あたしは何をすればいいの?」

『ナマエ、エボン=ジュってわかる?』

「ユウナレスカやマイカが言ってた奴」

『うん…。エボン=ジュは召喚士だったんだ』

「え?召喚士?」

『これは、ユウナ達にもさっき話したんだけど…』





祈り子はエボン=ジュについて詳しく教えてくれた。

エボン=ジュは、1000年前に栄えた街ザナルカンドの優秀な召喚士。
今はシンを鎧とし、シンの中で…ただひたすら召喚を続けるだけの存在。





「ふうん…。まあとにかく、エボン=ジュを倒せば良いって事でしょ?」

『うん』

「それがあなたたちの夢なの?エボン=ジュを倒すことが?」

『ううん…』





祈り子は小さく首を横に振った。
その表情は、どこか重たい。

なんだか…漠然と嫌な予感がした。





『ここからはユウナにも話してない…。彼…ティーダはわかっているけど…』

「え?」

『エボン=ジュが召喚しているのはね…ザナルカンド』

「ザナル、カンド?」

『戦争で滅んでしまった街の人々を祈り子に変えて…その思い出を召喚している。それが…夢のザナルカンド』

「えっ…」





言葉が詰まった。
難しくて理解できない。

…いや、何だか頭が理解することを拒否しているような。
なんだか、恐ろしいことを聞いてるようで…。

夢のザナルカンド。それは祈り子の夢。
そして…ティーダやジェクトさんの、故郷。





『エボン=ジュを倒せば…僕達の夢は、消える』

「待って…それって…」





夢が、消える。
それが指すのは…酷く冷たい現実。





「ティーダは…どうなるの?」

『……彼は夢。夢は、消えてしまう…。でもそれが、シンを永久に倒す方法なんだ』





なんか、真っ白になった。

ユウナが助かったと思ったら、今度は何?って。





「そんな…」

『…ごめん。それと…もうひとつ。ナマエに言わなきゃいけないことがあるんだ。ここからが、ナマエを呼んで貰った一番の理由』





真っ白になりながら、あたしは祈り子を見上げる。

一番の、理由…?

祈り子は、ゆっくり続けた。





『もう、時間がないんだ』

「…何の?」

『世界の歪みが…元に戻ってきてる』

「えっ…?」

『…ナマエが元の世界に帰れるには歪みが生じている間。つまり…そろそろ戻らないと、ナマエは…帰れなくなる』

「!」





祈り子の言葉に心臓がドキッと音を立てた。

…帰れなくなる…。





『今なら、僕が返してあげられる。…今からシンと戦って…終わった頃には、もう歪みは正されてると思う』

「………。」

『勝手に呼んで、勝手なこと言ってるのはわかってる。本当にごめん。でも君を呼んで良かった。君は…究極召喚の真実を打ち破った。そして何より、彼らの大きな支えになった』

「彼らの…支え?」

『自分じゃ気がついてないかな?君は、大きな心の支え』





祈り子は小さく笑った。
あたしは、わけがわからなくて首をひねる。
それを見て、また祈り子は笑った。





『帰るなら、今すぐにでも。早い方がいい。お別れ、してくる?』





祈り子はそう尋ねてきた。

しばらく俯いて、考えた。
帰るなら…今、か。





「ねえ、世界の歪みってまた起きたりしないのかな?」

『…無いとは言い切れないよ。でも、ここ10年の間は無かった。それに今回も10年前も、夢のザナルカンドが関係している。この戦いが終われば夢は覚めるから…。生きてる間に起こるかもわからない。だから、この機を逃したら…』





二度と、帰れないかもしれない。
祈り子はそう言った。

二度と…かあ。
なかなか重たい言葉だな。

そう思った。
だけど…しばらくして、あたしは笑顔で顔を上げた。


うん、覚悟した。


あたしは、首を横に振った。





「帰らない」

『えっ…?』

「シンを倒すまでは帰らない。前に来たときも、そう思った。それに…知ったからには、まだ足掻きたい。夢が覚めてもティーダを消さないように。あと…もうひとつ…」

『もうひとつ?』





祈り子にそう聞き返された。
その時、凄く穏やかに微笑んだのが、自分でわかった。

頷いて、ゆっくりと口を開いた。





「すっごーく、大切な人がいるんだ」

『……うん』

「ちゃんと見送るって決めたの。見送りたいんだ」

『……ナマエ』

「シンを倒して、全部終わらせてから帰る方法は探すよ。無限の可能性は…きっと、ある」





ニコッと笑った。

まだ、帰るには早い。
不思議と…自分でも驚くくらい、しっかりと意思を持ってた。





『君の世界とスピラは時間の流れが違う…過ぎれば過ぎるほど、君だけが年を重ねて…差は広がるよ…?』

「それでも」





スピラに残る。そう頷く。

ここで帰ったら、きっとうじうじしちゃうから。
後悔は、したくない。

じっと強く見る。
すると祈り子は、圧倒されたように、笑った。





『ナマエは強いね』

「ん…?」

『わかった。最後まで、力を貸して』

「…うん!」





確かに、強く頷いた。
全てを…終わらせるために。

まだ、この世界にしがみつく。



To be continued


完全にオリジナルですね…。
意味がわからなかったらごめんなさい…!

prev next top
×