祈りの歌をうたえば



「…………。」

「なんだ」





ザナルカンド遺跡から戻って来た日から一夜明けた。
あたしはブリッジの手前のフロアで、膝を抱えていた。

……赤い剣士を前に。
じっと見ていたのがバレて、なんだか怪訝な顔をされた。





「…いやねー、あたしさー…アーロンの夢見たんだよねー」

「どんな夢だ」

「いやー…甲板で話した夢?」





そう言うとアーロンはでっかい息をついた。

最近溜め息多いな、アーロン。





「溜め息つくと幸せ逃げますぜ、ダンナ」

「誰がダンナだ。そもそも俺の溜め息の理由は大半がお前だ」

「あらいやだ」

「……現実だ。大馬鹿者」





いつもの低い声に呆れを滲ませて。

なんとアーロン。あたしの見た夢の内容がわかるらしい。

夢の内容…それは、夜、甲板でアーロンと話をした夢。
あたしにとっては、むちゃくちゃ都合がいいというか…。
でもちょーっと切ないというかー…。

いや、でもやっぱ、嬉しい…だったかなあ…。

…うむ。…現実だ、って…。





「…本当に…現実?」

「何度も聞くな」






即答したアーロン。

そこまで聞くと、あたしは抱えていた膝を離してスクッと立ち上がる。
そしてそのままアーロンに背を向けて、パタパタとブリッジの中に入った。

ブリッジの中にはシドさん、アニキさんの他に…リュック、ワッカ、ルールーが居た。





「おう、ナマエ!」

「おはよう、ナマエ」

「ああ…うん。おはよ、ワッカ、ルールー」

「ねー!ナマエ!聞いてよー!」





ワッカやルールーが挨拶で出迎えてくれる。
リュックはいつもながらの元気な声で駆け寄ってきた。

…が、何だか顔を見るなり首を傾げられた。

だから気になって聞いてみる。





「リュック、なに?」

「いや、何かナマエ、顔赤くない?」

「へっ?」





思わず声が裏返った。

顔が赤い。
そう指摘されて、自覚したせいか頬が熱くなるのが自分でもよくわかった。

それを見られて…コイツがはしゃがないわけが…ない。





「ほらー!もっと赤くなったー!ていうかナマエが声裏返した時点で何かあるよー!」

「べ、べべべ別に何もなっ…!」

「ナマエ…超わかりやすい。なになにー?何か楽しそうだとあたしの勘が言ってる!」

「いやマジで何もないわっ!?」

「おお?面白そうな話なら俺も混ぜろよ!」

「だから無いって…!」

「その顔じゃ説得力ないわよ?」

「ルールーまで!?」





3人にズイズイズイっと詰め寄られる。思わず後退り。
ちょ、何か怖い怖い怖い!





「な、何でもないっての!」





そう叫んでダダダダッとブリッジの隅に逃げた。

ううう…顔熱っ…!
手のひらを返して頬に当てる。
手の甲は冷たくて、いかに頬が火照ってるのかわかる。

うーあー!冷ーめーろー!

ぐるぐるぐるぐる。
頭の中が回ってる。


だって、全然思ってなかったんだもん。

伝えるだけでいい。
気持ちが伝われば、分かっててもらえれば、それだけで。
ひとりでそうやって満足して。

それ以上なんて望んでなかったし、あるとも思わなかった。

だから…どうしても、いつもの朝を迎えたら、夢だったみたいに思えて。


…でも夢じゃないって言われた。

つまりだよ。

…あ、あたし、アーロンと…。
あのオジサンとっ…!属に言う…りょ、りょ…両想…ッ!





「んあああああっ!!!」

「「「!?」」」





色々容量限界突破!して奇声を上げてしまった。

ハッとして後ろを振り向くと完全にドン引いてる皆様。

そしてリュックにこう言われた。





「ナマエって時々さ…頭のネジぶっとぶよね…」

「ぶっとんでないよ!失礼だなっ!あ…え、ええと…!ほら、これからどうするか考えるんでしょ!?ね!ね!リュック何か言いかけたじゃん」





慌てながらそう言った。
話を誤魔化すとか、まあ意味は色々あったけど、これからの事が重要だってのは事実。

するとリュックは思い出したように手を叩いた。





「あ!そうそう!ナマエが来る前にすっごい作戦思い付いたんだよ!」

「すっごい作戦?」

「おう!そーなんだぜ!」





リュックが揚々と口を開くなか、ワッカもそれに乗ってくる。

話したくてうずうずしてるって言うか。
…相当ナイスアイディアらしい。





「すっごい作戦ってなんだよ」

「あ、ティーダ」





そんな時、ちょうどティーダもブリッジにやって来た。
リュックとワッカは相変わらず興奮気味にあたしたちに説明しようとしてくれる。





「あたしが思い付いたんだよ!あたしに言わせなよ!」

「よーするにだな!」

「えーっとねえ!」

「歌が鍵よ」

「「ああっ!」」





2人が争う中、そんな美味しいらしい台詞を掻っ攫っていったのはルールーだった。

台詞を取られてしまったリュックとワッカはあからさまに肩を落としてる。

でもぶっちゃけ誰が言おうと内容さえわかれば良いティーダとあたしは、リュックとワッカを放っぽり出してルールーの方を見た。





「歌って?」

「ジェクトさんは祈りの歌が好き…そうでしょう?」





ルールーのその問いかけにティーダは頷いた。

確かにジェクトさん、よく祈りの歌を鼻歌で歌ってた気がする。
また、マカラーニャ湖の底でもシンは祈りの歌を聞いていた例もある。

つまり、祈りの歌を聞かせればシンは大人しくなる。
そこを突けば何とかなるのでは?…と言う事らしい。

…なるほど。
目から鱗。「ほー」っと感心した。





「へーえ。本当にリュックが思い付いたの?」

「本当だよー!ね!凄い作戦でしょ?」

「ああ。試す価値、ありだな!」





確かに価値はある作戦だと思う。
リュックとワッカが興奮て話したがってたのにも、ちょっとだけ頷けた。

また、ティーダはティーダでさっきユウナとキマリと話していたらしい。
その時キマリが思い付いたという話を、ティーダは教えてくれた。





「えーっとキマリが言うには、教えじゃシンは倒せない。だから教えの中と外を知れば答えは見つかるだろうって」

「教え?エボンの?」

「そう。んで、それを力ずくでもマイカに喋らせるってさ」

「あ、なーる。キマリ頭いいな」

「な?てことで行き先はベベルッスね!」





総老師に聞く、か。
確かにあのじーちゃん何か知ってそうな感じはするね。

単純なことだけど、こちらも良策だ。

キマリ、頭良いな…。凄いよキマリ。キマリ天才。キマリ様様だ。

あたしの中でキマリの株価がかなり上昇。





「話は纏まったようだな」

「アーロン」





行き先や作戦が決まりつつあると、アーロンがブリッジに入ってきた。

ぱち。
その時、アーロンと目があった。





「ぶっ飛んだネジとやらは戻したのか?」

「だからぶっ飛んでない!…て、聞いてたのか…」





何となく、こっ恥ずかしい。
恥ずかしいよ、そりゃ。

でも、いい。もういいわ、開き直る。

ひとつ…落ち着いて深呼吸。そして自然に口元を緩ませ微笑んだ。





「うん!あたし、今やる気充分だからね!」





そう笑うと、アーロンはそっとあたしの頭に手のひらをポン…と置いてくれた。


…夢じゃない。
うん、本当はちゃんとわかってる。

でも、ちょっと確かめたかっただけ。


…昨日は、涙が溢れ出て、仕方なかった。

嬉しかった。すごく嬉しかったんだ。
そう…嬉しいも理由のひとつ。

でも…やっぱ他にも色々理由はあって。

けど、もう決めた。
全てを終わらせる。アーロンのために、あたしが出来ることするって。
それで…ちゃんと休ませてあげるんだ。

そう改めて決意を固める。

全部終えるまで、もう泣かない。

「お疲れ様」ってアーロンにちゃんと、笑って言ってあげる。
未練、後悔、アーロンの抱えてるもの、降ろしてあげるから。





「ベベルへ行こう!」





こうして…あたしたちは聖ベベル宮に進むことを決め、飛空艇を飛ばして貰った。



To be continued

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