最果ての地、ザナルカンド



「最後かもしれないだろ?だから、全部話しておきたいんだ」





ゆらゆら…焚き火が揺れる。

北の最果てザナルカンド遺跡。
夕焼けの前に8人は、焚き火を囲み、陽が沈んで夜が来るまで…この地に腰を降ろしていた。





「なあ、もっと色々あったよな?そういうばあの時とか…誰かなんかない?」

「あのね」

「何?」

「思い出話は…もう、おしまいっ。いこう」





ユウナはティーダの話を遮った。

そんなユウナの言葉に皆立ち上がる。
そして、歩き出す。ザナルカンド遺跡の奥…エボン=ドームを目指して。





「長き旅路を歩む者よ、名乗りなさい」





エボン=ドームの前まで来ると1人の老人が立っていた。
ザナルカンド遺跡…こんな場所に佇んでいる時点で、きっと死人なんだろうって思う。





「召喚士ユウナです。ビサイドより参りました」

「顔を…そなたが歩いてきた道を見せなさい。よろしい。大いに励んだようだな。ユウナレスカ様もそなたを歓迎するであろう。ガード衆共々、ユウナレスカ様の御許に向かうが良い」

「……はい」





そう言われて、あたしたちはドームの中に足を踏み入れる。

ふと振り返ると…今立っていた老人は消えていた。
…何だか正直、不気味だと思った…。






『スピラを救うためならば私の命など喜んで捧げましょう。ガードとしてこれ程名誉なことはありません。ですからヨンクン様…必ずやシンを倒してください』





幻光虫に満ちたザナルカンド遺跡。それはドームの中も同じだった。

そんな幻光虫の中に、僧兵の格好をした女性の姿が見えた。
女性はそう言うと、ふっと消えた。

それを見たリュックは怯えた声を出した。





「何?今の何〜?」

「かつて此処を訪れた者だ」





アーロンが答える。

怯えるリュックは雷平原の時みたく、あたしの腕にギュギュッとしがみついてきた。
ちょっと痛いよ、リュックちゃん。

でも…正直に言うと、怖かったのはあたしも同じで、半分…ありがたかったりして。





「ヨンクン様って言っていたわね…。あの人、大召喚士様のガード!?」





ルールーが驚いた声を上げる。
ヨンクン…、ああ、そうだ。それは大召喚士のひとりだった。





「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いを留めて残す。いつまでもな…」





アーロンの説明で少し納得した。

過去に訪れた人達、か…。

すると今度見えたのは…まだ幼い男の子が泣きじゃくる姿。





『いやだ!やだよ、かあさま!かあさまが祈り子になるなんて!』





その男の子を見て、一目でわかった。だって何となく面影が残ってたから。
それは何度も対峙した…シーモアの幼い姿。それと、恐らく彼の母親であろう女性。

彼も、ここに来ていたのか…。





『こうするしかないの。私を召喚してシンを倒しなさい。そうすれば、皆あなたを受け入れてくれる』

『皆なんかどうでもいいよ!かあさまが居てくれたら何も要らないよ!』

『私には、もう時間がないのよ…』






そこで消えた。

シーモアも、何か抱えてたのかもしれないって…この時ちょっと思った。

だからどうってわけじゃないけど…。
シーモアのした事は、許せるものじゃない…から。





「あっ…」





そして、またしばらく歩いて次に現れた幻に、あたしは思わず声を溢してしまった。





『なあ、ブラスカ。やめてもいいんだぞ』

『気持ちだけ受け取っておこう』

『…わーったよ。もう言わねえよ』





よく覚えてる。姿も声も。
そこにあったのは、ジェクトさんとブラスカさん……そして。





『いや、俺は何度でも言います!ブラスカ様帰りましょう!貴方が死ぬのは…いやだ…』





必死に止めようと叫ぶ、その姿。





「……アーロン」





思わず、名前を呟いていた。
そこにいたのは過去のアーロン。





『君も覚悟していたはずじゃないか』

『あの時は…どうかしていました。それに、ナマエの奴だって…!俺はアイツと…』

『私のために悲しんでくれるのは嬉しいが…私は悲しみを消しに行くのだ。シンを倒しスピラを覆う悲しみを消しにね」

『しかし…!』

『ナマエはいつも笑っていただろう。ナマエの様に皆が笑える世界。そんなスピラを作るんだ。わかってくれ、アーロン』





過去のアーロンは俯く。そこで幻は消えた。
何か、凄く胸が熱くなった。そして今、隣にいるアーロンを見上げた。





「本当に、ここに来たんだねー…」

「疑っていたのか?」

「そーじゃないけど…改めて思ったって言うか。こんな話、してたんだ」

「…まあな」

「ちゃんと、止めてくれてたんだね」





ビサイドで約束したこと。

俺はアイツと…約束したんです。
多分さっきの、過去のアーロンの言葉はそうやって繋がるんじゃないかって思った。





「過去の自分か…」

「ん?」

「ただ、喚くことしか出来んとは…情けないな」

「…別に、そんなことないと思うけど」





自嘲するアーロンに、あたしは首を振った。

情けなくなんか、ないよ。

必死で止めようとしてくれてた。
ちゃんと約束、守ってくれてた。





「……格好いいよ」





小さく呟いた。
でも照れくさくなって、ふいっと顔は逸らしちゃった。

だって、いつもは「かっこいーぞ!」とか、ふざけて言うだけだし…。

けど…本当に本当に思った。
こうやって、頑張ってくれていたのだから。その姿は誇っていいと思えた。


こうして更に、あたしたちは進んで…最後の試練の間も無事にクリアした。





「ユウナ…ついたぞ」

「究極召喚…ですね」

「行け」

「はい」





アーロンに促され、ユウナは1人祈り子の間に向かっていく。

この時、もう心臓が凄くバクバク言ってた。





「……リュック、痛いよ」

「…ナマエもね」





リュックと手を繋ぐと、互いが焦りすぎて、無意識に凄い力を込めてた。
居てもたっても、いられなかったから。

…だけどそんな心配をよそに、ユウナはすぐに戻ってきた。何か困ったような様子で。





「アーロンさん!皆来て!」





ユウナにそう呼ばれ、皆で祈り子の間に向かった。

そこにあったのは、ベベルで見た部屋によく似てた。
…でも問題は祈り子像にあった。





「これ、祈り子様じゃない。ただの石像なの」





ユウナの言う通り、その祈り子像はベベルで見たものと違った。
ベベルで見たのは…こう神秘的だったって言うか、とにかく今目の前にあるやつからは、何も力を感じない。
それは召喚士じゃなくてもわかった。





「その像は既に祈り子としての力を失っておる。史上初めて究極召喚の祈り子となったゼイオン様。そのお姿を留めるに過ぎぬ…。ゼイオン様はもう…消えてしまわれた」





そんな時、突然現れた老人。その老人はそう説明してくれた。
つまりそれは…究極召喚がなくなってしまったと言うこと。





「ご安心なされい。ユウナレスカ様が新たな究極召喚を授けてくださる。召喚士と一心同体に結び付く大いなる力を…。奥に進むが良い。ユウナレスカ様の御許へ」





そう言葉を残し、老人は消えた。
ユウナはそれを聞いて、更に奥…ユウナレスカの御許ってところに進もうとする。

その前に、そんなユウナと共に奥に進もうとするアーロンをティーダが呼び止めた。





「ちょっと待てよ。アーロン、あんた最初っから知ってたんだよな?」

「ああ」

「どーして黙ってたの!?」

「お前達に真実の姿を見せるためだ」






ティーダやリュックに問い詰められても、アーロンは静かに返す。

真実の姿…か。
今までの旅で知ったこと以外に、まだ何があるって言うんだか…。

だけどそれは…アーロンが口を閉ざし続けて来た真実。
…知るのが、少し怖かった。

でも…アーロンはユウナに究極召喚を使わせたくて、旅を続けさせたわけじゃないって…あたしは思うから。何も言わなかった。





「…もう、戻れないよ」

「わかっている。キマリが先に行く。ユウナの前はキマリが守る」





キマリとユウナが奥に向かう。
それに他の皆も続いた。奥には広間の様なスペースがあった。





「なんか出てくるよ!?」





リュックがそう指差す先には、ひとりの女性。
更に奥の扉から、女性が出てきたのだ。





「ユウナレスカ様…」





その姿を見てユウナはそう彼女の名前を呟いた。

確か、シーモアの屋敷で一度スフィアを見たな。確かに、この人だった。





「ようこそ、ザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。大いなる祝福を今こそ授けましょう。我、究極の秘技…究極召喚を」





ユウナレスカは手を広げながら、あたしたちを見渡す。そしてユウナに問いかけた。





「さあ…選ぶのです。貴女が選んだ勇士を1人、私の力で変えましょう。そう…貴女の究極召喚の祈り子に」





その言葉に皆がどよめく。

私の力で、変えましょう…!?
あたしも思わず耳を疑った。





「思いの力、絆の力、その結晶こそ究極召喚。召喚士と強く結ばれた者が祈り子となって得られる力。2人を結ぶ想いの絆が、シンを倒す光となります」





それは、召喚士と…もう1人のガードを犠牲にすると言うこと。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、頭の中で何かが解れていく様な気がした。





「1000年前…私は我が夫ゼイオンを選びました。ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです。恐れることはありません。貴女の悲しみは全て解き放たれるでしょう。究極召喚を発動すれば、貴女の命も消え去るのです。貴方の父ブラスカもまた同じ道を選びました」





ブラスカ…。その名前が出てきた瞬間、ズキンと胸が痛んだ。
同じ道を選んだ…。

その事実を示すように、また過去の幻影が再び現れた。





『まだ間に合う、帰りましょう!』

『私が帰ったら誰がシンを倒す。他の召喚士とガードに同じ思いを味あわせろと?』

『それは…しかし何か方法があるはずです!』





本当、このアーロンは今のあたしたちも同じだ。気持ち、凄くわかる。
あたしがそこに居たら、アーロンと一緒に…2人できっと同じこと言ってたと思う。





『でも今は何もねぇんだろ?決めた。祈り子には俺がなる』





ブラスカさんとアーロンの会話を聞いていたジェクトさんは、拳を握り締めながらそう言った。





『ずっと考えてたんだけどよ…俺の夢はザナルカンドにいる。あのチビを一流の選手に育て上げて…てっぺんからの眺めってやつを見せてやりたくてよ』





そして、自分の抱いていた夢を語り始める。
…それは、つまりティーダのこと。





『でもな…どうやら俺、ザナルカンドにゃ帰れねぇらしい。アイツには…もう会えねぇよ。となりゃ俺の夢はおしまいだ。だからよ、俺は祈り子ってやつになってみるぜ。ブラスカと一緒にシンと戦ってやらあ。そうすれば俺の人生にも意味が出来るってもんよ』





ジェクトさんの言葉に、ふるふる…と思わず首を振るっていた。

見てるのが、聞いてるのが、怖かった。
だって、手がもう届かない。耳を塞ぎたくなる。

そんな時、肩に誰かの手が触れた。





「アーロン…」

「……。」





その手はアーロンだった。
アーロンは無言で頷いた。その姿に、あたしは幻影にまた目を向ける。

昔のアーロンが必死に叫んでた。





『ヤケになるな!生きていれば…生きていれば無限の可能性があんたを待っているんだ!』

『ヤケじゃねえ!俺なりに考えたんだ。それによアーロン。無限の可能性なんて、信じる歳でもねぇんだ、俺は』





アーロンがどんなに止めても、ブラスカさんとジェクトさんは意思を曲げなかった。
短いナギ節。その後でシンは復活してしまう。だけど今度は復活しないかもしれない。そう信じて。

奥へ消えていく2人を見つめながら、若いアーロンは崩れるように膝をついた。

そんな過去の姿に、今のアーロンはゆっくり歩み寄る。





「くっ…!」




そしてアーロンは幻を、過去の自分を斬りつけた。
とても、すごく苦しそうに。悔いを、斬り付ける。

つられて胸が苦しくなった。

斬り付けた幻影が消える。でもやり場の無い想いは消えていないだろう。
目を伏せ、アーロンは呟いた。





「そして…何も変わらなかった」




To be continued

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