欲張って何が悪い 『つかよ、何なら嬢ちゃんもガードとやらに加えちまえば良いんじゃねーか?』 右も左もわからない様な状態で、ひとりぼっちにするわけにはいかない。 そう真っ先に言ってくれたジェクトさん。 『ナマエ、良かったら私のガードにならないかい?』 不安を拭い去るように、安心させるように優しい笑顔を向けてくれた。 そう手を差し伸べてくれたブラスカさん。 そんなふたりは…歩いていってしまった。 自らを犠牲にする、悲しい道を。 どんなに願っても、もう、その過去には届かない。 何も変わらなかったという結果を残した、今という未来からでは。 「俺たちが変えてやる」 そんな何も変わらなかった過去に対して、ティーダは力強く言い切った。 「どうやって!作戦なんて何もねえんだろ?」 「誰かが祈り子になる必要があるなら…私、いいよ」 「俺もだ、ユウナ!」 「それじゃあ親父達と一緒だろ!ナギ節作って…そんだけだ!」 目の前に置かれた状況に頷こうとするワッカやルールー。 ティーダが反対しても、2人は諦めたように言う。 「あのな…シンを倒してユウナも死なせねえ。そんでシンの復活も止めたいってか?全部叶えば最高だけどよ!」 「欲張りすぎたら…全部失敗するわ」 諦めてしまおうとする。 だけど、その時あたしは…すぅっと息を吸って。 「あーーーーっ!!!」 っと叫んだ。すると皆がビクッとしてこっちを見た。 「よし!気合入った!」 そしてそう言ってから真っ直ぐに皆を見返しニッと笑みを浮かべた。 「欲張って何が悪いの?全部叶えば最高、ならいいじゃん!そう思うなら足掻こうよ」 「ナマエ……ああ、そうだよな!大人ぶって格好つけてさ、言いたいこと言えないなんて絶対嫌だ!そんなんじゃ何も変えられない!10年前のアーロンが言ってた事…俺も信じるっス」 「無限の…可能性?」 リュックが呟いた。あたしはコクンと頷く。 「うん!無限の可能性。あたしも信じるよ」 「俺、行ってくる。ユウナレスカに話聞く」 「聞いたら、なんとかなるのかなあ?」 「さあな。わかんないけど…」 「なんとかならないかも知れない…。でも、なんとかなるかも知れない。そう信じなきゃ、可能性だって消えちゃうよ?」 「俺の物語…くだらない物語だったら、ここで終わらせてやる」 「…待って」 ティーダが決意したその時、ずっと黙っていたユウナがゆっくりと口を開いた。 その声に皆が耳を傾け、ユウナの静かな声が辺りに響く。 「ねえ…私にとっては、私の物語なんだよ。振り回されてちゃ、駄目。ゆらゆら揺れて、流されちゃ駄目。どんな結末だってきっと後悔する。そんなの…嫌だ。私…決める。自分で決める!」 凛とした声。ユウナも決意した。 あたしはユウナに手を差し伸ばした。ユウナは一瞬きょとんとしたけど、すぐに手のひらを重ねてくれた。 「行こう、ユウナ。答え、探そう」 「…うん…!」 あたしたちはユウナレスカの待つ、更に奥の部屋に進んだ。 進んだ先…辿り着いたその場所は、今までとはまるで別世界みたいだった。 宇宙の中に、そこだけ浮かんでいるような…不思議な空間。 「祈り子となる者は決まりましたか?誰を選ぶのです」 奥で待ち構えていたユウナレスカはユウナに問う。 でもユウナはその前に、ユウナレスカは問い返した。 「その前に教えてください。究極召喚で倒してもシンは絶対に蘇るのでしょうか?」 「シンは不滅です。シンを倒した究極召喚獣がシンに成り代わり…必ずや復活を遂げます」 「そんで親父がシンかよ…」 ティーダが不服そうに呟く。そう、でもだからジェクトさんがシン。 謎が1つほどけた。でも、やっぱ納得いかない真相だ。 「シンはスピラが背負った運命。永遠に変えられぬ宿命です」 「永遠にって…でもよ!人間が罪を全部償えばシンの復活は止まるんだろ?いつかはきっと何とかなんだろ!?」 「人の罪が消えることなどありますか?」 「答えになっていません!罪が消えればシンも消える。エボンはそう教えてきたのです!その教えだけが…スピラの希望だった!」 ワッカやルールーが取り乱しながらユウナレスカに叫ぶ。 無理もない、ユウナレスカはエボンの教えの中では神様みたいなものだ。そのユウナレスカに否定、されたのだから。 ユウナレスカはそんな2人に顔色ひとつ変えことなく、静かに語る。 「希望は…慰め。悲しい定めも諦めて、受け入れるための力となる」 「ふさげんな!」 『ふざけるな!』 そのユウナレスカの言葉の直後、2つの声が重なった。 その声を聞いて、痛くなるくらい心臓が大きく音を立てた。 1つの声は、今傍で叫んだティーダの声。 もう1つは…。 「アーロン…」 その、もう一人の彼の名前を呟いた。 …もう1つの声は、過去のアーロン。 再び、過去のアーロンの幻影が現れたのだ。 『ただの気休めではないか!ブラスカは教えを信じて命を捨てた!ジェクトはブラスカを信じて犠牲になった!』 過去のアーロンはユウナレスカに向かって刀を構える。 ユウナレスカはそんなアーロンにも、静かな声色で答えていた。 『信じていたから、自ら死んでゆけたのですよ』 その答えに、過去のアーロンは叫びながら走り出した。 そして、ユウナレスカに刀を振り落とす。 でも、その瞬間…圧倒的だった。 「アーロンッ!」 思わず叫んだ。 アーロンの体は、意図も簡単に…はね飛ばされてしまったから…。 過去のアーロンには届かない。そんなのわかってる。無駄だって。 でも…叩きつけられたアーロンを見て、叫ばずにいられなかった。 ぎゅっと拳に力がこもる。 すごく、苦しい。胸が苦しい。 …ねえ、アーロン、どんな思いでここにもう一度来たの? たったひとりきりで、残されて…。 その気持ちを考えたら、すごく…すごく。 それに、カガゼト山で気がついた予感。 それが…もしかしたら、これが…って、そう勘づいて…。 「究極召喚とエボンの教えはスピラを照らす希望の光。希望を否定するのなら、生きても悲しいだけでしょう?」 ユウナレスカは、相変わらず静かに言う。 あたしはキッとユウナレスカを睨んだ。 「何が、希望だ…。どこが希望なの!?悲しい定めを受け入れる!?その時点で希望も何も無いじゃん!言ってる事おかしいよ!希望って、そんな辛いものじゃない!」 睨んでた。叫んでた。 八つ当たりに近いような、ただただ思いをぶつけただけ。…でも、爆発した。 ブラスカさんとジェクトさんの事から、エボンを否定された皆の気持ち…アーロンの事…ぜんぶ。ぜんぶが。 「ナマエ」 「……っ」 そんな時、名前を呼ばれて、腕を掴まれた。それはアーロンだった。 そこで、我に返った。宥めるような…優しい声だった。 ここで決断するのは…ユウナだ。 「さあ選ぶのです。貴女の祈り子は誰?希望のために捧げる犠牲を」 ユウナレスカはユウナに再び問う。 あたしは、ユウナの顔を見つめた。ユウナは、ゆっくり気持ちを吐き出した。 「……嫌です」 凛とした、確かな意思を持った声。 「死んでもいいと思ってました。私の命が役に立つなら…死ぬのも、怖くないって。でも…究極召喚は…何一つ変えられないまやかしなのですね」 「いいえ、希望の光です。貴女の父も…希望のため犠牲となりました。悲しみを忘れるために」 ユウナレスカは、あくまでそれを希望と呼ぶ。そんなユウナレスカにユウナは首を振った。 「違う。父さんは…父さんの願いは!悲しみを消すことだった。忘れたり…誤魔化すことじゃない…」 「消せない悲しみに逆らって何の意味があるのです」 「父さんの事…大好きだった!だから…父さんに出来なかったこと、私の手で叶えたい!悲しくても…生きます。生きて、戦って、いつか!今は変えられない運命でも、いつか…必ず変える!まやかしの希望なんか…いらない」 ユウナは言い切った。ユウナが導きだした答えに、あたしは自然と頬が綻んだ。 「ユウナ」 そっと呼ぶと、あたしに振り向き、ユウナも笑みをくれた。 でも、そんなユウナの答えをユウナレスカは認めなかった。 「哀れな…自ら希望を捨てるとは。ならば…貴女が絶望に沈む前にせめてもの救いを与えましょう。悲しい闇に生きるより、希望に満ちた死を。全ての悲しみを忘れるのです」 その瞬間、ユウナレスカの帯びる空気が一変した。 死をもたらそうと、襲いかかろうとしてくる。 直後、アーロンが叫んだ。 「さあ、どうする!今こそ決断する時だ。死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか!自分の心で感じたままに物語を動かすときだ!」 声をあげたアーロンを見て気がついたのは…アーロンは今この時のために、あたしたちを導いていたんだって事。 何を言うこともなく、ただ見守る。そうしてきたのは…今のため。 確信した。 あたし、間違ってなかった。アーロンを信じたこと、間違ってなかったよ。 「キマリが死んだら、誰がユウナを守るのだ」 キマリが槍を振りかざす。 「あたし、やっちゃうよ!」 リュックが手のひらを握り締める。 「ユウナレスカ様と戦うってのか?冗談きついぜ…」 「じゃあ逃げる?」 「へっ!ここで逃げちゃあ…俺ぁ、俺を許せねえよ!例え死んだってな!」 「同じこと考えてた」 ワッカとルールーが決意する。 「最初っから答えなんて出てるよ。さっきから一発、炎ぶっ放さないと気が済まないっつーの」 「……フッ」 手のひらを広げてそう言うと、アーロンが小さく笑って頷いてくれた。 「ユウナ!一緒に続けよう、俺たちの物語をさ!」 ティーダの言葉に、ユウナは確かに頷いた。 戦いが始まる。切り開いた新しい道を…、固まって動かなくなってた物語を動かす戦い。希望に満ちた死なんて無い。望むのは…希望に満ちた生。 To be continued prev next top ×
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