捌け口を見つけたら



「ここ…何さあ…」





浄罪の路。薄暗い迷宮。

あたしは今、そこにいた。たった1人で。
……うう。泣きそうだ。

裁きを受けた後、放り出された迷宮。
魔物も出るし、下手には動けない。けど…動かないわけにもいかない。

とぼとぼ、魔力に注意しながら。時には逃げて…歩いてた。





「さ、サンダラ!…あ、出来た」





魔力を節約しなければならない。ファイガばっかり撃ってられない。
そしてここの魔物の弱点は雷。そこで試したサンダラ。
なんと大成功。あとでルールーに報告だ!

そんな風に小さくガッツポーズしていると。





「……ナマエ?」





後ろから名前を呼ばれて振り返る。
そこに居たのは、よーく知ってる姿。





「ユウナー!!!」

「わっ…」





あたしは嬉しさのあまりユウナに抱きついた。

1人はやっぱり心細かったから。
誰かに会えた嬉しさは半端じゃなかった。





「よかった。ナマエ、無事だったんだね」

「ユウナこそー!ていうか何かユウナと、こーするの久しぶり!」

「…そだね…!」





ユウナとは何かと別行動が多かった気がする。

グアドサラムから巻き込まれた結婚騒動。
マカラーニャで離れて、やっと再開出来たと思ったら今度は砂漠で行方不明。
そしてベベルで結婚式だもん。




「ナマエ…今、サンダラ使えてたよね」

「うん!初めて使えたの!後でルールーに報告するんだー」

「ふふっ!」





あたしが能天気にそう笑うとユウナも、そんなあたしを見て笑った。

でも、すぐに笑みは消えて…俯いた。




「……ごめんね」

「ん?」

「色々、迷惑かけて…」





ユウナと会えたことで、単純なあたしは上機嫌になってた。

でもユウナは小さく俯いて、謝ってきた。

そんな事言われると…こっちだって、謝らなきゃならないこと…たくさんある。





「こっちこそ、ごめん」

「え…?」

「ガードなのに、全然ユウナの事守れてないよ…」

「そ、そんな事ないよ!全部私が…っ」

「そーなるから。だから、謝るのやめよ」

「え…」

「あたしだってやりきれないと思うこと、いっぱいある。言ってたらキリないよ。あたし今、ユウナと会えて良かった。一緒に進もう、ユウナ」

「…うん!」





きゅっ…と手を繋ぐ。
そうすると、ユウナは嬉しそうに笑った。





「ねえ…ナマエ」

「んー?」

「……私、すごく嫌だったの…。シーモア老師にキス…されて」

「…ん」

「それに…すごく怖かった…。何故かわからないけど…すごく…」

「そっか…」





そうやって、不安を吐き出せる場所は…きっと誰にだって必要だ。
あたしがユウナの不安を吐き出せる相手になれるなら、いくらでも聞いてあげようと思えた。

…友達として。





「ユウナ、ナマエ」

「あ、キマリ!」





しばらく歩いているとキマリを見つけた。

キマリはこちらに歩み寄ってユウナの前に立つと、申し訳なさそうに謝った。





「ユウナ、離れて済まない」

「ううん…いいの」





ユウナは優しく首を横に振る。

3人もここに放り出されたと言うことは、まだ他の人もいる可能性はある。

そんな予想は正しかったみたいで。
どんどん進むと、ルールーも見つけた。





「ルールー、私…」

「今は何も言わなくていいわ」





ルールーは、ユウナの頭を優しく撫でた。

そして、さらに進むアーロンも見つけた。





「あ、アーロン!」

「何処かに出口があったはずだ。それを探すしかないな」





流石、元僧兵。
アーロンの言葉を信じ、あたしたちは5人で出口を探した。

アーロンの話によると、アーロンとティーダは最初に同じ檻に入れられていたが、浄罪の路に放り込まれたのはアーロンだけらしい。
もしかしたらリュックやワッカと一緒に別の場所に連れていかれたのかもしれない。





「ナマエ、お前…大丈夫だったのか」

「なにが?」

「浄罪の路、放り出された時はひとりだったろう?」

「あー、うん。大丈夫!ナマエちゃんを嘗めないでよー?」

「なら、構わん」





合流する前の事を聞いてきたアーロンにニコーッと笑いながら返した。

するとアーロンは再び歩き出す。
あたしはそんなアーロンを追いかけ、駆け寄りながら再び笑みを浮かべた。ニヤッと。





「おお??もしかして心配してくれたー?」

「どんくさいからな」

「一言多いわ!」





キッとアーロンを睨んだ。

どんくさいて…。
否定出来んからまた凹むなあ…、アーロンの阿呆。


ともかく、大分奥まで進んでいく。

その先には、意外な人物が立ちはだかっていた。





「ユウナ君!やはり君か…」

「何故ここに…」





浄罪の路の奥。

そこには、召喚士のイサールさんが立っていた。
イサールさんはアルベドホームに居たから、同じ飛空艇で逃げたはずだ。





「ナギ平原で飛空艇から降りてベベルに来たら…キノック老師に呼び出されてね。反逆者を始末しろとの命令だ。寺院の命令は絶対だ。例えブラスカ様のご息女といえど…やらねばならん」





イサールさんは言った。

ガードの2人はいない。
汚い仕事を請け負うのは自分1人でいい。イサールさんの覚悟だ。





「ユウナ君…残念だ。さあ、召喚獣で勝負だ!」





イサールさんは召喚獣を呼び出した。
ユウナも引くことは出来ない。ユウナも召喚獣を呼び出し、勝負を受けた。

3連戦。
今、手にいれたばかりのバハムートも召喚された激しい戦い。

結果は…いずれの戦いも、ユウナが勝ち越した。

攻撃の衝撃を受けたイサールさんは倒れる。
ユウナはそんなイサールさんに駆け寄ろうとしたが、イサールさんは拒絶した。





「くっ…寄らないでくれ!…この先に地上への通路がある」





そして、イサールさんは最後に出口を教えてくれた。
たぶん、複雑な心境だろう。

そんなイサールさんに、アーロンは低く言った。





「もう旅はやめろ」

「…アーロン」





ユウナに負けた。そんな力ではシンには勝てない。そう聞こえる言葉。

でも…そう言う意味じゃなくて、別の意味で、それがアーロンの本意なんじゃないのかな…とか、あたしはそんな風に思った。





「イサールさん、道を教えてくださってありがとうございます」

「………。」

「弟さん達、きっと貴方の事待ってますよ?貴方が弟さん達を思ってここにつれて来なかった様に、弟さん達も、貴方のこと思ってると思います」





それだけ言った。イサールさん、俯いてこっち見なかったけど。
あたしは小さく笑って、皆を追いかけて真っ直ぐ出口を目指した。





「ユウナん〜!良かった〜!本当良かった!心配してたんだよ〜!」

「うん…ありがと」





グレート=ブリッジ。
あたしたちは、何とか地上に脱出することが出来た。
そしてそこでティーダ、ワッカ、リュックとも再会する。

リュックは再開した途端、ユウナに抱きついた。





「あ…あのさ…」





一方、ティーダはユウナに恐る恐る、声を掛けようとしていた。

ティーダは召喚士の運命を知ってから、ずっとユウナに謝るんだ!って言ってたからね。

ともかく、全員の無事に安心した。

でも、それは束の間の安心だった。

奥の方から…足音が聞こえてくる。
振り返るとそれは…シーモアにキノック、そして数名のグアド族と僧兵だった。

…げっ、また来た…と思わず顔をしかめてしまう。

ゆっくりゆっくり、こちらに歩いてくるシーモア。

でも…キノック老師はどこかぎこちない。
そう思った瞬間、キノック老師は倒れた。
そして…ピクリとも動かない…。

嫌な予感に、ぞくりとした。
まさか…死んでる…?





「キノック…!」





その姿に、アーロンは低く呟いた。
その声には、どこか怒りが滲んでる…気がした。





「私は彼を救ったのだ。この男は権力の亡者だった。大きな権力を得たばかりに、それを失うことを恐れ…見えない敵に怯えつつ、つまらぬ謀略を巡らす日々。一時の安らぎも知らず、追い詰められていたはず。だが…もはや思い悩むこともない。永遠の安息を手にいれたのだ。死は甘き眠り。ありとあらゆる苦しみを優しくぬぐい去り…癒す。ならば、すべての命が滅びれば、すべての苦痛も…また癒える。そう思うだろう?だからこそ、貴女が必要なのだ。さあ、ユウナ殿。共にザナルカンドへ。最果ての死者の都へ。死の力をもってスピラを救う。そのために、貴女の力と命を借りて、私は新たなシンとなり…スピラを滅ぼし、そして救う」





シーモアの言ってることは、意味不明だった。それに、到底理解できないようなこと。





「なんだそりゃあ…!」

「意味わからないし、自分の考え押し付けないで!」





ティーダと吠える。
だってもう皆、エボンに何を言っても怖くないでしょ。

すると突然、キマリが前に出た。
そして槍を、シーモアの胸に突き刺す。
シーモアはそれを見て、笑う。





「目障りな…良かろう。ならばお前にも安息をくれてやろう!」





シーモアは杖を掲げた。
すると、そばに居た兵やキノック老師が幻光虫に変わる。そ幻光虫をシーモアは取り込むように集め、そして…異体へと、姿を変える。

キマリはあたしたちに叫んだ。





「走れ!ユウナを守れ!」





それは自分が食い止めると言うこと。

それを聞いたアーロンは「行け!」とあたしたちを促す。
でもティーダとあたしは反発した。





「アーロン!何言って…!」

「おっさん、ふざけんなっ…く!」

「行けと言っている!」





でもアーロンはティーダとあたしに刀を向け、それを許さない。

ティーダは歯を食い縛る。





「くっそおおおおっ」





そして、走り出す。

ティーダは叫びながら。あたしは歯を食い縛ったまま。
あたしたちはキマリを残したまま、シーモアから逃げた。

でも、途中でユウナが足を止めた。





「キマリを置いていけません!」

「奴はガードだ。お前を守ることが全てだ」

「でも!」

「そうだよ!ガードなんだよ!」





するとティーダは、そのアーロンの言葉を逆手に取った。

拳を握りしめながら、口を開く。





「ああ、俺はガードだ!だからユウナの行くとこ何処でもついてく!」

「何処でも?」

「んで、守る!」

「じゃあ…」





その言葉にユウナは笑顔を見せた。そして2人で「「行こう!」」と声を揃えて、再び来た道を走っていく。





「おらぁ!俺も混ぜろ〜!」

「あたしも!」





するとワッカとリュックも、その後を追い走ってく。

そしてルールーも。





「私も走ります」





アーロンにそう言い残し、皆に続いていく。

あたしはひょこっとアーロンの顔を覗き込んでみた。そしてニッコリ笑う。





「ふふふー。アーロン、本当は嬉しいんでしょ?」

「……行くぞ」

「はーい!」





無視は、イエスでいいよね。


と、言うより…少しアーロンが微笑んでたの、見えたから。
多分「行け!」なんて言ってても、こうなる事、望んでたんじゃないかって思って。
やっぱり…アーロンは、アーロンだな…。

あたしとアーロンも、シーモアの元に走った。





「お前が虫けらのように殺したキノックは…あれでも昔の友でな。仇は取らせてもらう」





アーロンは刀を構え、シーモアに言う。

昔の友…。アーロンとキノック老師、2人の間に何があったのかとか…、どれだけ仲が良かったのかとか、よくわからないけど。

アーロンがそう言うなら、手伝うよ。





「…ファイガ!」





アーロンの刀に炎を灯す。

あたしたちは、シーモアと対峙した。



To be continued

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