赤い石と素直な気持ち



「どうでした?」

「追っ手はない。だが、今後ベベルに近づくべきではないな。ユウナは?」

「ひとりになりたい、ってさ」

「だろうな…」





あれからグレート=ブリッジでシーモアを退けた後、あたしたちはマカラーニャの森に逃げて来た。
今、アーロンが近くの様子を見てきてくれたところ。

ユウナは…1人、聖なる泉にいる。あたしたちは、1人になりたいと言うユウナの気持ちを汲んで、そっとしといている所だ。





「……疲れたな…」





ぽつりと呟いた。
ごろん…と寝転んで空を見た。マカラーニャの森は綺麗だ。
夜空が、他の場所の空より光って…輝いて見える。

ユウナの所へは、ティーダが行ったみたいだ。これ以上の適任はいない。
だって、2人は…互いに想い合ってる。それは、ここにいる皆が気づいてる。

ユウナ…凄く傷付いてるもんな…。
うん、今回はティーダ、あんたに任せた!なんてね。





『ねぇ、ナマエは恋ってしたことある?』





そう聞いてきたユウナが幸せになれますように、って願った。

…しかし、ここで、あたしもひとつ思ったことがある。

……恋、したことある?…か…。
あたしはユウナにそう聞かれたとき「一緒にいたいと思う」だとか「話してると嬉しい」だとか…そう思う事が恋じゃないかって、適当な事言った。
……でも、ちょっと自分に置き換えてみる。
あたしも…そう思うこと、あった…かも。

リュックに言われた。『実は好きな人からのプレゼントなのー!とかさー?』って。

ああ、そっか…。本当はずっとそうだったのかも。
元の世界でも、ずっと肌身離さず持ってたし…。ルカで再開した時…嬉しかったもん。

気がついたら、何だか自分でもビックリするくらい…すんなり自覚出来た。





「……何だ」

「う…?」





寝転がってた体を起こすと、アーロンと目が合った。

変なこと考えてたから、ちょっと頬が熱くなった。
…そういえばよくあったじゃないか。暑いだなんて誤魔化して。
……我ながら本当にお馬鹿だなあ。

ちょっと気恥ずかしくなって、慌てて話題を探した。





「あ、えと…い、いや…ちょっと寒くない?焚き火でもしよーよ」

「あ、いーね。あたしも寒いや」

「でしょ?あたし薪、拾ってくるよ。すぐ戻ってくるから待ってて」





パンパンとズボンを叩いて立ち上がる。
だけどそれを見て、賛成してくれたはずのリュックは何だか変な顔をしてくる。





「ナマエ、1人で大丈夫なのー?」

「大丈夫ですー。中級魔法も使えるようになりましたから!」

「いや、そこは危なくなったらファイガ使おうよ…」





浄罪の路で使えたサンダラ。
なんだかコツが掴めて、ブリザラやウォタラも試してみたら成功した。
ピースして自信満々にそう言ってみたら「いやいやいや…」って顔された。…なーにさ。

すると、話に入ってきた低い声。





「俺がついていく」

「へ…?」





声が引っくり返った。

そう言って腰を上げたのはアーロンだったからだ。
いやいやいや!何であんたが来るんだ!ちょっくら1人で考えたいなーって思ったのに…アーロン。あんたが来たら台無しだろ。





「なんだ、その不服そうな顔は」

「いや、オジサンはもう休んだほーがいーよ」





ガン!
拳骨落下。あ、何か久々だコレ。
いやいや!凄く痛い。「つうう…」と頭を押さえる。





「行くならさっさと行くぞ。その辺でのたれ死なれたらタチが悪い」

「だからいつも一言多い!」






もういい。諦めた。…ま。いっか。
そう自分を納得させて、さっさと歩いていってしまうアーロンを追いかけた。
…赤い背中。うん、気がつけば多分…いつも見てた気がする。

あたしってば、本当に今更だよな。
本当、間抜けすぎて笑えてくる。





「薪ー…薪ー…手頃な薪やーい…」

「呼んで集まるわけじゃあるまい。馬鹿らしいからやめろ」

「馬鹿らし…どーせ馬鹿ですよーだっ!」





ギロリとアーロンを睨んで、拗ねるように顔をプイッと背けた。

薄暗い森の中。しゃがんで細い枝を拾い集めながら、ふと思った。
…あたし、前回の旅でも急に消えたんだよな。
帰れる保証だって無いけど、今ここから急に消えない保証だって無い。
意地でもしがみつく…なんて言ってもいざとなれば…。

何か不安定だよな…あたし。

ふう…と息をついた。





「どうした」

「んーん。別にー。なんとなく。疲れたからかな」





もし、もしも、だ。
今…スピラから消えてしまったら。あたし、元の世界戻って後悔するのかな…。
いや、後悔することは沢山あると思うんだ。ユウナの運命も、シンのことも。

でも…また赤い石を見て思い出すのだろうか。

言えば良かった…とか。





「ね、アーロン」

「なんだ」





貴方を呼ぶ。

10年か…。面影はあるけど…結構、変わったよね。当たり前か。10年だもんね。
あたしは1年だから…髪が伸びたくらいだけど。

でもね、すぐにアーロンだって分ったんだよ。
10年経っても、どんなにスピラ中から尊敬を集めても、あたしにとっては…アーロンはアーロンだった。今も昔も…おんなじ。
不思議と話しやすくて、だからこそ堅物なりにさ、冗談が通じて。

だから、素直に着いていけた。…頼れたの。





「おい、ナマエ?」





あーあ。いつからだろ、本当に。
力強くて…憧れて、惹かれて。前から、ずっと頼りにしてた。

きっと、後悔するだろうな。何か嫌だなー…それ。
返事がどうであれ…あ、いや、返事なんてわかりきってるんだけど。
10年前ならともかく…いや10年前でも、あたしなんてガキんちょだろーし。
今なら尚更。きっと、呆れちゃうくらい。

別に何も望んでない。

でも…いいかな?





「人を呼んでおいて何を黙っている」

「好き」





アーロンが言葉を催促したとき、あたしは口を開いた。

我ながらなんて成り立っていない、意味のわからないタイミング。ある意味最高だ。

あまりの突拍子のなさにアーロンはサングラスの奥の目を丸くしていた。
うっ…、そんな顔されると何か気まずいな!
しかし、引けはしない。引く気もない。ええ、いいましょう。もう一度!

伝えるくらい、自由だよね。





「…なに?」

「好きです」

「なにが」

「アーロンが」





沈黙が流れた。

うぐ…くそ気まずい。なんだこの沈黙は。何黙ってんだこのオジサンは!…何て理不尽な逆ギレしてみる。もう充分、自分の頭がおかしくなってるのは承知だ。
だって、やっぱ恥ずかしいもんは恥ずかしいんだ!
頬が熱くなって、思わず目を逸らす。…ううう。

でも、沈黙を破ってくれたのはアーロンだった。





「お前、何を言っているんだ?」

「そのままの意味ですが。あー…でも、ちょっと恥ずかしいから何度も言わせないでほしー…かな。突拍子もないのは百も承知だけどさ」

「………。」

「1年前…あ、いやスピラにとっては10年前か。自覚、したのは全然だけど、多分…そん時から、ずっと……好き」





頑張って顔を上げて、目を合わせた。

結構真っ直ぐ、アーロンの事を見た。
こんなに真剣な顔見せたことなんて、そうそう無いかもね!あっはっは!心の中で馬鹿笑い。
ていうか、本当は緊張で、結構いっぱいいっぱいなのかもしれない。自分のことだけど。





「…本気か?」

「こんな冗談言わないよ」

「…そうか」





すると、アーロンは目を伏せた。
む…、なんか結構真剣な顔してる。

アーロンが何か言う前に、あたしは咄嗟に口を開いてた。





「あはは!そんな真剣な顔しなくていーよ!返事とかいらないしね!ていうか、どうこうなりたくて言ったわけじゃないもん」





笑いながら。

でもそれは間違いない本心。返事が欲しくて言ったわけじゃない。
今、こうして声の届くうちに、言っておきたかっただけだ。
後でウジウジするなんて、絶対嫌だ。





「いや…答えよう」





でも、アーロンはそう言った。
思わず…流石にドクンと心臓が音を立てた。思わず、息をのんだ。

アーロンは、静かに答えをくれた。






「お前のことは…かけがえない存在だと、思っている」

「……。」

「…だが…その気持ちに応えることは…出来ない」






くっきり、耳に届いた言葉。

ほら、やっぱり。
それは予想していた返事。
あたしは笑った。そして、ただ頷いた。





「…うん!」





笑って頷いた。

自分でも、どう言う意味で頷いたのか…よくわからない。
わかってるよ、とか。やっぱり、とか。色々…入り交じってた。

アーロンは、優しいから…返事をくれるなら…きっと、真剣に答えてくれるだろうと思った。
…やっぱ堅物だね、なんてね。





「あははっ、返事、わかってたし、本当に良かったのにな。ただ、このまま言わないで元の世界に消えたりしたら後悔するかと思っただけだからさー」

「帰る方法がわかったのか?」

「わかんないよ。もしもだって、もしも!わからないからこそ!」

「…そうか」

「はっはっはー!あたしってば物好きだー!オジサン相手に何言っちゃってんだかねー!」





ガンッ!
拳が落ちてきた。本当…手加減無いよね…。でも、これが普段だ…。

目一杯の笑みを浮かべた。





「突拍子なくてごめんなさい!あー!でも、スッキリした!」

「……。」

「あ、何か態度変わるとか無いよね?今まで通りで、これからもヨロシクお願します!」

「…そんなもの、今更変わるわけなかろう」

「あはっ、それもそっか!よっし、薪も集まったし戻ろ。リュックに遅いーっ!って怒られちゃう」

「……ああ」





あたしたちは元居た野営所に歩き出した。
本当、スッキリした。嘘じゃない。言って良かったと思う。





「ナマエー!遅いーっ!」

「あははっ!ごめんリュックー!」

「きゃあー!ナマエ!苦しいーっ!」

「雷平原のお返し」

「まだ根に持ってたの!?」





戻ってきたら、予想通りリュックに怒られた。
だからギューッと抱きついて、締め付けてやった。

その時、「はぁ…」と小さく息をついてしまった。
でも、ばれない位小さく。

なんか嫌だな、溜め息とか。
自分が言いたくて言ったんだろっての。

だから、この事では…これが最初で最後の溜め息。

かけがえのない。
それが聞けただけで、言った価値はあったよね。


To be continued



世界一ピュアなキスの裏側で振られる。(笑)

少しアーロン夢っぽく動かせたでしょうか…?
思ってること全然文に出来ない〜っ!うあああ!

楽しんで頂けてればいいんですけど…。

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