エボンの真実



『ねぇ、ナマエは恋ってしたことある?』





それは、ガードになってわりとすぐの時だ。

ユウナに尋ねられた質問。
いきなりすぎて思いっきり声がひっくり返ったのを覚えてる。





『え、恋?!』

『うん…!』

『どした急に…?』

『あ、ええと…ほら、私…年の近い女の子と接するの初めてって言ったでしょ?女の子の会話って…こんな感じかな…って』





何だか語尾は弱々しくなっていくユウナ。
その頬は、赤みを帯びていた。





『うん。こんな感じだね。女の子の会話』

『だよね…!あ…というより私…恋ってよくわからないから…。どんな気持ちなのかなぁ…なんて』





それを見て思ったのは、ユウナに今好きな人がいるんじゃないかなって事。

正直思い当たる奴なんて1人しかい。
…まぁ、ちゃんとした確信は無かったけどね。

……最近気がついたんだけどさ。
きっと、自分の気持ちに戸惑ってて…。でもルールーやワッカには言いづらくて…。…そんな感じ、だったんだよね?
…だってユウナは、恋が…自分には無縁なものだと思っていたはずだから。

きっと初恋。
どんなものなのか…気になったんだよね?





『いや…あたしも話せるほど経験豊富では…。一緒にいたいとか…話してると嬉しいとか…そう思うことじゃないかな?』

『一緒に、いたい…話してると嬉しい…』





なんだか、模範解答みたいなテキトーな返事。
だって、言葉で説明するのって何か難しかったから。

でもユウナは頷いていた。

そんなユウナにあたしは…可愛いなあユウナはー!もう応援しちゃうぞあたしー!…と、かなり変なテンションではあったが、願ってた。

ユウナが幸せになれる未来を。

なのに……今、目の前では…ユウナがシーモアとキスしている。





「ユウナ……」





彼女の名前を、小さく呟いた。
ユウナはギュッとまぶたを閉じ、強く強く手を握りしめて、耐えてる…。

…凄く、ムカついた。

シーモアにユウナがプロポーズされた時だって、本当はちっとも迷う必要なんかないって思った。
召喚士だからって、悩む事ないのにって。

とても長く感じた時間。
シーモアは無情だ。ユウナから唇を離すと、冷たくこちらを見て言い放った。





「殺せ」





その言葉に、キノック老師がティーダの喉元に銃を突きつけた。
そのままアーロンに言う。





「悪いな、エボンの秩序のためだ」

「教えに反する武器の様だが?」

「時と場合によるのだよ」





キノック老師は銃の先をアーロンに変える。

……最悪だ。だってこの人、アーロンと友人だったんじゃないのか。

その時ユウナが叫んだ。





「やめて!」





その声に、全員の視線がユウナに向く。
ユウナは宮殿の淵に居た。この場所は、かなり高い位置にある。





「武器を捨てなさい、でないと私…」





ユウナは、武器を捨てないと飛び降りると言っているのだろう。
一歩一歩、どんどん淵へと下がっていく。

それを見たシーモアを武器を下ろさせた。
その隙に、あたしたちはユウナの元に駆け寄ろうとした。

でもユウナはこう言う。





「早く逃げて!お願い!」

「一緒にだろ!」

「大丈夫。私も逃げるから!」

「やめなさい。落ちて助かる高さではない」





シーモアにそう言われると、ユウナはグイッと自分の唇をぬぐった。

そして静かに声を貫く。





「平気だよ。私は、飛べる。…信じて」





穏やかに、そう言うユウナ。
その言葉にティーダがゆっくり頷くのを見ると、ユウナは優しく微笑んだ。

そして胸で手のひらを組むとそのまま目を閉じて、後ろに倒れるように落ちていった。





「ユウナ!」





ティーダが叫ぶと、シーモアやエボンの奴らが落ちていくユウナを目で追う。

その時、ユウナの体は光を放った。
すると空から現れた何か。その何かはユウナを受け止めた。

それは…召喚獣ヴァルファーレ。

ユウナ…すごい。
思わず…凄く月並みだけど、そう思った。

ユウナが無事なのがわかった直後、リュックが「目、つぶって!」と叫びながら敵に何かを投げた。
それは、カッと眩しい光を放つ。





「なんだ今の?」

「アルベド印の閃光弾!」

「リュックすっごい!そんなのあんだ!」

「降ろせって!シーモアをぶっ倒してやる!」

「降ろさない。ユウナは逃げろと言った」

「あの子と合流するのが先!」

「斬り抜ける!」





アルベド印の閃光弾。敵が目をやられている隙に、あたしたちは走った。
ベベル宮は寺院。つまり、ユウナが目指す場所はひとつ。

祈り子の間へと。






「静かすぎるわね…罠?」

「罠でも関係ない。ユウナが待ってんだ!」

「お?」





寺院の中に入ると、まず目に入ったのは…長い長い螺旋階段。
その螺旋階段には機械が取り付けられていた。
リュックはそれを見つけると慣れた手つきでいじり出す。

それを見たワッカが驚く。





「なんで寺院に機械があんだよ…?」

「だって便利だし」

「そういう問題じゃねえ!教えはどうなってんだ、教えは!」

「なんかエスカレーターみたいだね。ラクチン、ラクチン♪」

「え、えすかれえたー?」





螺旋階段はエスカレーターみたいに、あたしたちを下まで運んでくれた。
快適に下へと降りる途中、あたしがそう言うとワッカが変な顔をしてた。

そして降りた先にまたも機械を見つけた。ワッカは頭を抱える。





「まあた機械かよ…」

「これがエボンの本質だ。自らの教えを影で裏切っている」

「ていうかさ、さっきだって銃使いまくりだったよねー。それに、ベベルって水上都市なんでしょ?水の上に街って造っちゃ駄目なんじゃなかったっけ?」

「人をコケにしやがって…」





アーロンやあたしの言葉にワッカは深い息をついた。
でも、何だかだけ少し吹っ切れてる様にも見える気がする。

とにもかくにも、あたしたちは試練の間へ急いだ。





「ユウナは!?」

「多分中だ!」

「多分じゃなくて確かめろよ!」





試練を抜けると、祈り子の間の扉は閉まっていた。

掟では召喚士以外は立ち入り禁止。
でもティーダはそれをこじ開けようとする。





「今更掟もないだろ!」

「そりゃそーだ。ぬーっ…重、いっ…!」





あたしもティーダと一緒になって扉に手をかける。

しっかし、超重い。

2人で「ふぬぬぬ」言ってると、伸びてきたもうひとつの手。キマリだった。
キマリの手伝いのお陰で、扉は徐々に開いていく。





「あ、ユウナ…!」





人が入れるだけの余裕が出来ると、キマリに扉を抑えて貰い、その隙に祈り子の間の中に入った。

その中では、花嫁衣装の姿のままのユウナが懸命に祈っていた。

初めて目にした祈り子の間。
神秘的な祈り子の像。その上に、フードを被った少年が浮かんでいた。





「なんなんだ…?」

「祈り子だ。召喚士の心と重なり召喚獣の力を授ける。エボンの秘術で取り出され像に封じられた人間の魂。あれもまた、哀れな死者だ」

「あ、アーロン」





首を傾げたティーダにアーロンが説明してくれる。その説明はあたしも結構真面目に聞いていた。祈り子についてなんて、よく知らなかったから。

あの少年が、祈り子って事か…。
すると祈り子は、ユウナの体の中に消えていった。

ユウナは倒れて気を失う。ティーダは慌ててユウナに駆け寄る。





「ナマエ、出るぞ」

「はーい」





ユウナの事はティーダに任せよう。

あたしはアーロンと先に祈り子の間から出た。





「待って!出てきちゃ駄目ー!」





でもその時、響いたリュックの声。
そこに待っていたのは、キノック老師と…銃を構えた僧兵達。





「一網打尽。お前達には裁判を受けて貰う」

「フッ…公平な裁きを期待したいものだな」

「せいぜい祈れ」





アーロンの言葉にキノック老師は嘲笑いながらそう言った。

うわ…全っ然公平なんか期待できなさそうだ…。

銃を四方から向けられたままでは抵抗出来ない。
あたしたちは、強制的に裁判の間へ連れていかれる事になってしまった。





「これよりエボン最高法廷を開廷する。エボンの名の元、厳正なる審理を行う聖なる法廷である。裁かれる者よ、エボンを信じ、真実を述べよ」





目の前には、エボン四老師。
シーモア、キノック…あとロンゾのケルクに…総老師のマイカ。

本当…公平に裁いて欲しいもんだ。
というか…嫌な予感しかしない。

被告席に立たされたユウナは、言われた通に真実を述べた。
真の反逆者はシーモア。父親を殺したこと。既に死者であること。
それは嘘偽りの無い、確かな真実。





「マイカ総老師…どうかシーモア老師を異界へ!」

「死人は異界へ…そう申すか?」

「はい!」

「ふっふっふっふっ…」

「…老師?」

「死人は異界へ、か…」





ユウナの言葉に妖しく笑い出すマイカ総老師。

すると、マイカ総老師の体から幻光虫が舞った。
それが指す事実…マイカ総老師も、死人。





「マイカ総老師は賢明な指導者。死してなおスピラに必要な人物」

「優れた死者による指導は愚かな生者の支配に勝るのだ」

「生命は所詮虚しい夢。生の後に来る死こそが永遠」

「人は死ぬ。獣も死ぬ。草木も死ぬ。大地さえも死ぬ。スピラの全てを支配するのは死の力に他ならぬ。逆らうだけ無駄と言うものよ」

「ならば…シンは!私は召喚士です!父と同じ召喚士です!シンがもたらす死を止めようと旅を続けています!それも…それも無駄だと仰るのですか!私だけじゃない!シンに立ち向かってきた沢山の人達…その戦いも、犠牲もみんな無駄なんですか!」





ユウナの声は、老師達には届かない。どんなに叫んでも。

変わらないことが、継続こそがエボンの真実。
真に異を唱える者が、反逆者。





「変だよ…おかしいよ…」





ユウナは嘆く。
でも、やっぱり届かない。

あたしたちは、牢獄へと閉じこられてしまった。



To be continued

prev next top
×