偽りの花嫁



「うっわあ!たっかーい!」

「…うるさいぞ」

「ばっかだなー!アーロン!飛空艇だよっ!飛空艇ーっ!」

「…意味が分からん」





爆破するアルベドホームから脱出したあたしたち。

脱出に使ったのは、アルベド族が海底から引き上げた巨大な空飛ぶ乗り物…飛空艇だった。

雲より高く飛ぶ、飛空艇。
それは…FF好きなら誰もが一度は乗りたいと請う乗り物ではないだろうか。

現にワッカ辺りが唖然としている中、あたしのテンションはチョコボの時と匹敵するくらい最高潮だった。





「おうよ!嬢ちゃん!わかってんじゃねぇか!」

「勿論っすよ!飛空艇最高!」

「そうだ!これぞアルベド族の男のロマンだよなあ!」

「……いや、あたしアルベドでも男でもないんですけど…」





飛空艇は1000年前の乗り物。
1000年ぶりのフライトに、あたしと同じくらいテンションの高いシドさん。
勢いで色々と間違えてるシドさんの言葉に、アーロンに「フッ」と鼻で嘲笑われた。…ううっ。

…と、まあ、今でこそこんなにハイテンションだが…さっきまでは重い空気が続いてた。

シドさんは姪であるユウナを死なせたくない。
だからユウナの意思に反していても旅は止めさせると言う。
その為、ガードであるあたしたちは厳しく当たられた。

でもティーダはそんなシドさん言った。





「ユウナは絶対死なせない!」





そう、強く言い切った。
誰が見ても、強い覚悟を持った目で。

その言葉を認められ、信じて貰い、今に至る。

今は、飛空艇に設置されているスフィア派検索装置とやらでユウナを探して貰っているところだ。

禁じられた機械に乗ってるって事で…エボンの教えを信じてる組は複雑な気分みたい。

まあ、どんな仕組みで飛んでるか分かってないらしいから、そーゆー意味での不安もあるけどね。





「あのさ…ナマエ」

「ん?ティーダ」





あたしは外を眺めてた。

大変な状況だってのはわかるけど、そういう時こそ笑ってたほうがいいだろうし…。
暗い顔してたら、運気だって逃げてく気がするから。

ユウナがよく言うしね。笑って旅したいって。
…ブラスカさんも、よく言ってたっけ。

そう思ってると、ティーダに話しかけられた。





「なーに?」

「いや…ナマエはさ、召喚士の事、知ってたって言ってたよな?」

「うん」

「ナマエ…、たまに進むの渋ってただろ?ジョゼ寺院で疲れてるユウナ見てもっと休んでていいのにって言ったり、幻光河で夜まで待とうって言った俺の意見に賛成してくれたり…」

「うん?」

「それって、やっぱ…そーゆー事だったのかなって」





ちょっとだけ、驚いた。

だって、ティーダにとっては本当に些細な何気ない会話だっただろうに。
そんな事、気がついてくれたんだな…って。





「んー…まあね。考える時間、欲しかったんだよ」

「考える時間?」

「ユウナを死なせない方法。まあ…なーんにも思いつかなかったけどねー」





あはは…、と小さく苦笑う。
そして、謝った。





「ごめん。教えなくて」

「……。」

「言葉にするのが怖かったってのもあるんだけど…。あたしさ、ティーダが話すユウナが生きてるナギ節の話、否定したくなかったんだ。でも頷けなかった。やっぱ…怖かったんだと思う…。あたしじゃ何も出来ないんじゃないかって」

「…ナマエ」

「臆病だねえ…あたし」

「俺も、探すから」

「え?」

「一緒に探そう。ユウナを助ける方法!」

「……うん!」





微笑んで、頷いた。
なんだか、凄く心強い。そう、感じた。

そんな時だった。
リュックのお兄さん…通称アニキさんが声を張り上げた。





「トタギ!ユウナオミザキョダカアッサ!」

「ゴゴガ!?」

「ミヤフユヌ!」





アニキさんとシドさんの会話。

……。
おおおっ…!?何言ってるのかさっぱりわからん…!

とりあえずユウナってのが聞こえたからユウナに関する事だってのはわかったけれど…。





「ええと、通訳お願いできますか…」

「ユウナんの居場所、わかったって!」





リュックに聞いてみると、そう教えてくれた。
ふむ…アルベド語、勉強してみようかなあ…。

まあそんなのはともかく…その時、モニターに何かが映し出された。

それは真っ白な花嫁衣装に身を包んだユウナの姿。
しかも、隣に立っていたのはシーモア老師。





「どこだ!?」

「聖ベベル宮。エボンの総本山よ」





ティーダの叫びにルールーが答える。

ベベルか…。
そう言えば、あたしベベルには行ったことないな…。





「おっさん行ってくれ!」

「わかってんのか小僧。ベベルの防衛網は半端じゃねぇ!」

「なんだよおっさん、ビビってんのか!そこにユウナがいる。だったら助けにいく。そんだけッスよ!」





そう言い切ったティーダの事、シドさん、完全に認めたみたいだ。
飛空艇の進路が真っ直ぐベベルに切り替わる。

だけど、ちょっと気になるよな。

だってユウナの格好からすれば結婚式だ。
隣にシーモア老師と言うことは…つまり、新郎って事だよな…。

整理して辿り着いた結論。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。





「ええ!?もしかしてユウナとシーモアの結婚式って事!?」

「てゆーか何でシーモアが生きてんの!?あんにゃろ、マカラーニャでやっつけたのに!」





あたしの叫びに続くようにリュックが頬を膨らませる。

確かに、シーモアはマカラーニャで倒した。
何で生きてんだろ…。

そんな疑問に答えてくれたのはアーロンだった。





「死んでいるさ。ジスカルと同じだ。強い想いに縛られ、異界に行かずに留まったのだ」

「うわ〜!?しつこ!」





リュックはゲーッと顔を歪ませる。

死んでも尚、か。
アーロンのその言葉を聞いて、思った。





「何が、シーモアをそこまでさせるのかな」

「…さあな。ろくな事ではないだろうがな。単純に考えればユウナを利用するつもりだろう」

「…利用、かあ。それで結婚?なんかスッゴく歪んでるねえ…」





それは、ユウナの肩書き…大召喚士の娘ゆえ、か…。
なんか嫌だよな、そういうの。

リュックと同じように、あたしも顔を歪ませた。

するとアーロンは、なぜユウナが大人しく花嫁衣装に身を包んでいるのであろう理由を教えてくれた。





「ユウナは奴を異界送りする気かもしれん」





異界送り…。
だから偽りの花嫁を演じてるって事か…。

それを聞き、リュックは少し不安そうに溢す。





「うまくいくかな?」

「シーモアが隙を見せればな」

「隙、か…」





そう呟く。

でも、ユウナの気持ちを考えるとムカッとしてくるよな。
だって好きでもない奴の隣でウェディングドレスなんて着て誰が嬉しいんだ。

意地でも邪魔してやりたくなる。
そう率直に思ってグッと拳を握りしめて気合いをいれた。





「どのみちユウナを助けにいくんでしょ?花嫁奪還!何か格好いーね!」

「お、本当ー!なーんか格好いー!ナマエ良いことゆーじゃん!あたし燃えてきたよー!」

「やっぱ、あーゆー格好は好きな人の隣でするもんだもんね!」

「そーだ!そーだぁ!」





リュックとパンッとハイタッチ。

でもベベルに入る前に、いくつかの問題があった。

ひとつはグアドの魔物が乗り込んでいたこと。そしてもうひとつは……。





「ほう…なかなかの見物だ」

「見物て…」

「最大級の歓迎だ」





アーロンの呑気な発言に絶句。

飛空艇の窓から見えた巨大な龍。
エボン守護龍エフレイエ。聖ベベル宮を防衛する最強の聖獣。

アナウンスでシドさんは「甲板に出てアイツと戦え」とか言い出す。…まじすか?





「高い船賃だな」

「まじでアレと戦うの?」

「良かったな、奴とは空中戦になる。お前の出番だぞ」

「全然嬉しくないよ!」





なーにが良かったな、だし!

甲板の上での戦闘。
それはつかず離れずで戦う、かなり際どい勝負。

しかも流石最強の聖獣。
アーロンが高い船賃って言うだけの事はあった。強い強い、ってマジ強かった。





「うらああっ!」





でも、飛空艇のミサイルとかの助けもあったりして。

ティーダの剣がトドメの突き刺した瞬間、エフレイエは崩れた。

お。気合い入ってるね!少年!
…とか言ってる場合じゃないくらい、結構息切れしてたり。
出番…とゆーか魔法、本当に結構主力だったから…。

だけど…本番はここからだ。
飛空艇は真っ直ぐベベルに突入する。

べベルに近づく程、銃弾が飛空艇を襲う。
それでも飛空艇は止まらない。

飛空艇からは2本の太いワイヤーを放ち、ベベルに打ち込んだ。





「ちょ…!このワイヤー滑って降りるって!?無理無理!」

「花嫁奪還、するんだろう」

「言ったけど!ユウナ助けたいけど!ワイヤー滑るのはあたしには無理です!」

「お前、高いところ好きだろう。何とかと煙は高いところが好きと言う」

「何とかで悪かったね!でもコレは無理だよ!」





ベベルにへと降りる方法。
それは今のあたしの言葉通り。今打ち込んだワイヤーを滑って降り立つと言うもの。

そんなん出来るわけがない。

ええ、高い所は大好きですよ!何とかですからね!
…でもね、次元が違うだろって話だよ。高所恐怖症の気持ちが初めてわかった気がする。

どうやらルールーはキマリに抱いて貰って行くらしい。
あ、キマリあたしも抱っこしてくれ!

そんな事を思っているとアーロンがため息をついた。





「…まったく」

「へ?ひょわああ!?」




その時、口から上がった自分でも謎の悲鳴。
でもあたしは悪くない!と言い張ってみる。

だって、アーロンが呆れてため息ついたと思ったら急に腰を掴まれて、砂漠の時のように、また俵みたいな担ぎ方をされた。

って、ちょい待ち!?なに!なに!?






「ちょ、アーロッ…」

「いくぞ」

「わあああ!?」





気持ちいくらい無視された。

その瞬間、景色が滑るように変わっていった。

そしてどんどん近くなっていくベベル。

もう頭がグルグルした。
落ちたらどーしよとか、恥ずかしいとか、ユウナ助けなきゃとか、もう色々。

そんな中、ワイヤーに敵の弾が命中して切れたのが見えた。
げっ!って思ったけど、その瞬間皆が飛んだ。もちろんアーロンも。

タンッと軽快にベベルに無事着地。あたしも降ろしてもらった。…ふう…。

でも、ここから待つのは…また別の危機だ。
ユウナに駆け寄ろうとすると銃が足元を襲い、足止めされた。





「茶番は終わりだ」





目の前で銃をこちらに構えているのはミヘン・セッションの時に会ったキノック老師。

構わずユウナに近寄ろうとしたティーダをアーロンが止める。

それもそのはずだった。

だって、キノック老師だけじゃない。
あたしたちの周りには、銃を向けた僧兵だらけ。四方を囲まれていた。

それを見たユウナは、杖を取りだしてシーモアと距離をとった。





「偽りの花嫁を演じてまで私を異界に送りたいと?強情な方だ。それでこそ我が花嫁に相応しい」





そんなユウナを見てシーモアは笑う。

でも、事はそう上手くはいかない。





「やめい!この者共の命、惜しくはないのか。そちの選択が仲間の命運を決める。受け入れるか見捨てるか、どちらを選ぶのだ」





マイカ総老師。
エボンのトップ。コイツもシーモアとグル。エボン全部が敵だ。

ユウナは奴の言葉に揺らぐ。これじゃ、あたしたち人質だ…。



カン…

総老師の言葉に、ユウナは杖から手を放した。
杖が音を立てながら階段を落ちていく。





「それでいい」





シーモアはそう言うと、ゆっくりユウナの肩に触れた。

そして…少しずつ、顔を近づけていく…。





「あっ…」





リュックは焦る。
ルールーは見るに耐えられず顔を背ける。

あたしたちには何も成す術が無い。ただ、見ていることしか…。

だめ…やめて…やめて…!

どんなに願っても、思っても…、変わらない。


鐘が、鳴り響く。
拍手が辺りを包む。

シーモアが、ユウナの唇を奪った。



To be continued

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