映し出された思い出を



現在、雷平原を抜け、神秘的な景色の広がるマカラーニャの森を歩いていた。

ちなみに雷平原を抜けた途端、リュックはあたしを離した。
用が無くなったらポイッか!

…なーんて冗談は、まあ置いておこう。





「ユウナの事が気になる、か」

「そりゃあ、そーでしょ」

「気にすんなってのが無理だよ。何するつもりなんだ?」

「単純に考えれば…結婚を承諾する事を材料にして…シーモアと交渉するつもりなんだろうな」





最後尾。
皆よりちょっと後ろを歩きながら、ティーダとアーロンと、ユウナの事について話してた。

いきなり結婚を決意したユウナ。
確かに、気にならないって方がおかしいと思う。





「なんの交渉?」

「さあな」

「そこが一番の問題、だよね…?」

「ひとりで大丈夫かなあ」

「…望み薄だな。シーモアの方が役者が上だ」

「わかってんならさあ、何とかしない?」

「ユウナがそれを望んでいない」

「んああ…それもわからないんだよな。俺達、信用ないのか?」





ティーダは不服そうに口を尖らせる。

そんな様子に首を振った。
そういう事ではない…はず…。





「多分、そーゆーわけじゃないとは、思うけど…」

「ああ。逆だな。皆を巻き込まぬよう、1人で解決しようと決意している」





あたしの言葉に続けてアーロンが言う。
それを聞き、ティーダは納得したように頷いた。





「うん、そんな感じだ。でもそっちの方が心配するっつうの。話してくれるだけでいいのにさ」

「ね。あたしなら話しちゃう」

「お前と一緒にするな。それが出来ん娘なのだ。生真面目で思い込みが激しく…甘え下手だ」

「あたしゃ不真面目ってか。おい、おっさん」





ガンッ!
うう…また拳骨。
なんでこの人、本当あたしには容赦ないんだ!

ティーダはそんな様子に見慣れてきたらしく、相変わらずだとでも言うように笑ってた。





「しっかし、よく見てんなあ」

「ユウナはわかりやすい」

「ははは…確かに」

「いつかガードの出番が来る。その時はお前が支えてやれ」





アーロンにそう言われ、ティーダは「…うす!」と返事をして駆けていった。

アーロンもそのまま歩いていく。
でもあたしがグイッとその袖を掴んだ事で、一度立ち止まらせた。





「なんだ?」

「いや…アーロンにちょっと、聞きたいってか、言っときたいことがあってさ…。旅の事、なんだけど…」





結構前から引っ掛かってた事。
でも、こんな思い…ズルズルしてたくない。
すっきりしちゃいたい。

もう…信じるって、決めた。





「アーロンさ…。ユウナが旅を続ける事に、こだわってるよね。あたし…それがどうしても気になって…」

「………。」





10年前は、一緒にブラスカさんを守る方法考えようって言ってたのにって。

どうしても、気になってた。





「10年で変わっちゃったのかな…とか、考えたくないから…。だから、きっと理由があって、それは旅を続ける事でわかるって…信じていいんだよね?ううん!信じるって決めたの!」

「……ナマエ」

「あー…うん、そんだけなんだけど」





何だが言い切ってみて、ちょっと恥ずかしくなった。
でも、すがすがしいのも事実。
うん…悔いはない!

そう思って満足していると、アーロンは、あたしの首に手を伸ばしてきた。
え…?とアーロンを見上げると、アーロンはあたしの首に掛かる鎖を指で掬い、胸に下がる赤い石を取り出した。

ちょっと…いや、かなりビックリ。





「アー…ロン?」





ゆっくり見上げると、アーロンは真っ直ぐ赤い石を見つめていた。

そして、小さく呟くように尋ねられた。





「…まだ、つけていたんだな」

「え?!あ、うん。結構気に入ってて…。それにサイレス防いでくれるじゃん?つけて来て正解だったね!」





何かペラペラと勝手に口が動く。
おおお……?どうした、あたし!?

とりあえず、何故か自分がとんでもなく動揺してるって事だけはわかった。

しばらくすると、アーロンは石から手を放して「フッ」と小さく笑う。

……え?なに?その笑みは。

そして石から手を離し、先に歩き出す。
でも一度止まって、もう一度こっちに振り向いた。





「確かに、ユウナほど生真面目と言うわけでは無いが…お前も1人で溜め込むタイプだろう。自分が我慢して済むことならそれでいい。肝心な事程そう考える」

「なっ…」





フッと笑いながらそれだけ言うと、再び前を向きアーロンは歩いていく。

あたしはカァア…と妙に顔が熱くなるのを感じた。

なに!なんだ!なんだ!今のは!
完全なるパニックを引き起こす。





「ナマエー!おっそーい!」





パニックしたまま歩いてたら、かなり遅れちゃったみたいで、皆に追い付いた途端、おかげでリュックに怒られた。

……アーロン…め。
なにを言い出すか……まったく…!
心のなかで、八つ当たりと言う名の文句を言った。

でもなんか…ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような…変な気分だった。





「ちょっと待て。確か…この辺りだ」





その後、どんどん奥へ進んでいく。

そして、マカラーニャの森をもうすぐ抜けようと言うとき、アーロンが足を止めた。

この辺り…その言葉に、あたしも思い出した。





「あっ」

「なんスか?」

「見せたいものがある」

「でも、アーロンさん…」

「すぐに済む」

「うん。ユウナもティーダも、見た方がいいと思う」





そう2人を納得させた。

アーロンは刀を降り下ろし、道を塞ぐ太い木を斬り、道を作った。

そして奥に入っていく。
皆でその後を追った。


そこに広がっていたのは、美しい泉。きらきらと輝いている。





「ここって…普通の水じゃないのか?」

「スフィアの原料となる水だ。人の想いを封じ、とどめる力がある」





そう。とても綺麗で神秘的。

だけど、一変。
直後、いきなり泉の中から魔物が飛び出してきた。




「なんだあ!?」

「想いが集まる場所は魔物が生まれやすい」





現れたのはスフィアマナージュ。
ころころと弱点の属性が変わる厄介な敵。

あたしやルールーは一歩間違えた魔法を使うと回復させてしまうために迂闊に手は出せない。

あたしは炎が弱点に変わった時だけ魔法を放ち、誰かが弱ればユウナと一緒にケアルラ。
あとはルールーに任せたけれど。

…やっぱ他の属性も練習しなきゃダメだなって、思わせられる戦いだった。

けど、倒したら…そこにはお目当ての、小さなスフィアがあった。

ティーダがそれを拾い上げる。





「随分古いな。こりゃ中身、消えてっかもなあ」

「10年前、ジェクトが残したスフィアだ。見てみろ」

「お…おう」





皆でそのスフィアを覗き込む。

そこに映し出されたのは…懐かしい旅の思い出たち。
でも、まだあたしの加わる前の、知らない映像とかも映ってた。


はじまりは…ブラスカさんの旅立ちの日。





「あたし、まだ居ないね」

「お前が加わったのは、ベベルを出てから立ち寄った…小さな町だったからな」

「うん。ていうかアーロン、本当に堅物だったよね。うんうん、若いねえ」

「…………。」





その後の映像はあたしの知るもの。
旅行公司でお土産屋みたりとかしてるやつ。

すると、何かリュックとかワッカに突っ込まれた。





「うわっ、ナマエ変わんないねーぇ!」

「だからあたしにとっては1年前だってば!」

「つーか…やっぱお前…、ブラスカ様と旅してたんだな…」

「…ワッカ、信じてなかったのか」

「い、いやぁ、だって実感わかねーっつかよ。改めて思ったんだって!」





そんな風にワッカを睨んだが、すぐにちょっとむくれてるティーダに気がついた。

ティーダは、何だか複雑みたい。




「何だよ…何楽しそうにしてんだよ」




笑ってるジェクトさんの姿を見て、むっとしてるみたいだ。

そして映像は残り少なくなる。
最後に映し出されたのは、今まさにこの場所に立つジェクトさん。




《よう。おめえがこれを見てるって事は…俺と同じようにスピラに来ちまった訳だな。まあ泣きてえ気持ちもわかる。俺も人の事言えねえよ。だがよ、いつまでもウジウジ泣いてんじゃねぇぞ。なんたっておめえは俺の息子なんだからな。あ〜…なんだ、その…だめだ、まとまりゃしねえよ。とにかく…元気で暮らせや。…そんだけだ。じゃあな》




それは嘘偽りのない、ジェクトさんの本音。

でも、やっぱりティーダはむくれてる。






「最後だけまじなフリしたって説得力ねえっての」

「フリではない。あの時、ジェクトは覚悟を既に決めていた」

「覚悟?」

「ジェクトは…いつでもザナルカンドの家に帰る事を口にしていた。風景をスフィアに納め続けていたのは帰ってからお前に見せるためだ。しかし旅を続けスピラを知り、ブラスカの覚悟を知り…そう、前に進み続けるうちにジェクトの気持ちは変わった。ジェクトはブラスカと共にシンと戦う事に決めた」

「帰るの、諦めたって事か…」

「覚悟とは、そういうものだ」





ティーダはアーロンに、そう諭されていた。
これで、少しはジェクトさんの想い、ティーダに伝わればいいんだけどな。
…純粋にそう思った。

そして、このスフィアを見てもうひとり…何か思うものがあったんじゃないかと思った彼女の肩を、あたしは叩いた。





「ユーウナ!」

「ナマエ…?」

「ブラスカさんもね、ユウナの話、よくしてたよ」

「え?」

「それはそれは楽しそうに」

「…ほんと?」

「うん!」





そう教えてあげると、ユウナは嬉しそうに微笑んだ。

ユウナの話を聞く限りでは、ユウナはブラスカさんのこと大好きみたいだし。
ブラスカさんもユウナの事を大切に思って、よく話をしていたのは本当だったから。





「ナマエが父さんと話してるの見ると、ちょっと不思議な感じしたな」

「んっ?…ワッカと同じこと言ってるー?」

「ううん。私、信じてたよ?でもアーロンさんと比べるとあまりにも変わらないから」

「ほほう。アーロンは老けたと。ユウナなかなか言うねえ〜♪」

「え!?ち、違うよ!そーじゃなくって…!父さんと旅してた時と今私が見てるナマエが全然変わらないからって意味で…!」

「…あはははっ!ユウナ焦りすぎ!冗談だって!」

「えっ!やだナマエってば意地悪しないでよーっ」

「あははははっ!」





ユウナは一緒に笑ってくれた。
無理してると、やっぱ疲れるだろうし…今、あたしにはこうやって笑わせてあげる事くらいしか出来ないもんな…なんて。




「ね、ユウナ。あたし、ユウナの味方だからね?」

「え…っ」

「じゃあ進みましょーう!」





あたしはタッと駆け出した。

あと…自分にとっても収穫はあった。

このスフィアをティーダ達に見せてくれた。

アーロン、やっぱ変わってない。
…ちゃんと、優しいよ。

やっぱり、信じようって思えた。


To be continued

prev next top
×