召喚士の覚悟と権利



死者はさ迷う。
生きていたいと願う。だから生きている人間を羨み、妬む。

その心がスピラに留まると魔物になって、人を襲う。

だから召喚士は異界送りをする。
だけど…凄く強い思いに縛られると、スピラに留まってしまう。
そういうこともあるらしい。

それがさっきのジスカルって人。
ちょっとした騒ぎになったけど、今は落ち着いてきた。


一方、ユウナは結婚の申込みを断る事にしたらしく、それを伝えに言ったがシーモア邸は留守。

シーモア老師はマカラーニャ寺院に向かったそうで、あたしたちの次の目的地もマカラーニャ寺院…って事で、先に進む事になった。





「あ〜あ…来ちゃったよ…きゃああっ!?」





ドカーン!ピカーン!
ってな感じで響いた雷に、リュックは悲鳴を上げた。

マカラーニャ寺院に向かうにはグアドサラムから雷平原を通る。

つまり現在は、凄まじい雷が降り注ぐ雷平原。

どうやらリュックは大の雷嫌いらしい。





「きゃあぁぁ〜っ!?ちょっとだけグアドサラム戻る?」

「短い付き合いだったな」

「あ〜…わかったよ、行くよ!」





アーロンに早い話「置いてくぞ」と言われ、リュックはしぶしぶ覚悟を決めていた。

なんか可愛いなぁリュックは。
こんな反応されると、ちょっとからかいたくなっちゃうよ。





「雷平原かあ…折角だしサンダラの練習でもしよっかなあ…。ねぇルールー、教えてよ」

「ええ、いいわよ?」

「こらー!ナマエー!嫌がらせかー!」





リュックは「やめてくれ」とすがってきた。うん。やっぱり可愛い。

ちょっと笑ってしまった。





「大丈夫だよ、リュック」

「う…?」

「自分より高いものに雷って落ちるんだよ。だから避雷塔から遠い時はアーロンに引っ付いて、避雷針代わりに…いたっ」

「…お前は。10年前と同じ事を」





アーロンの拳骨がまた降ってきた。相変わらず容赦なしですね…!ふん!

でも…そう。10年前も同じこと言ったんだよね。
アーロンも覚えてたらしい。

それが何か懐かしくて笑ったら、アーロンも少しだけ笑ってた。

なんか、ちょっとだけ…嬉しくなった。

まぁ、ともかく…雷平原はずっとずっとずーっと酷い雷が響いてる。

それでも何とか気をつけながら進んで。
あともう少しで半分…ってところ、大きな雷が避雷塔に直撃した。
それを見てワッカがはしゃいだ。





「お〜!近い近い!うははははは〜!」

「さっさと行くわよ」

「へいへい」





そしてルールーに呆れられながら怒られるワッカ。

そんな様子に笑いながら、足を進めると…後ろからちょっぴり不気味な笑いが聞こえた。





「へへへへ……」





笑いの正体は最後尾のリュック。

皆が振り返って、怪しく笑うリュックを見る。





「ん?どした?」

「へへへへ…」

「へへへへ…って何だよ、気持ち悪いな」





ティーダがそう言った瞬間、ピカーン!と雷が落ちた。
例のごとく、リュックは「いぃやぁぁぁ〜っ!」と悲鳴をあげた。

そして、いきなりビタッ!と地面に這いつくばる。
その姿に全員で思わずビクリ。

そして、カサカサカサカサ…と、まあ大抵の人が嫌いであろうアレを連想させられる動きであたしの足にしがみついて来た。ええ!?





「やだー!もうやだー!雷やだー!そこで休んでこ!ね?ね?」

「ここの雷は止む事がない。急いで抜けた方がいい」

「知ってるけどさ〜!理屈じゃないんだよ〜!」





リュックが指差したのは旅行公司。

あたしは、立ち上がったリュックに首をしがみ掴まれる。ちょ、ちょっと苦しい。

そのまま旅行公司の前まで来たけど、皆は無視して先に進んでいく。

あたしはリュックに捕まって旅行公司の前から動けない。ぐええ…。





「頼むよ〜!休んでこうよ〜!雷は駄目なんだよ〜!休もうよ、ね?お願い!」

「リ、リュック…結構しまってるよ…?」

「こんなにヤダって言ってるのにさあ…酷い…酷いよ…。血も涙もないよ…」





皆は気持ちいいくらい完・全・無・視!

背中を向けてどんどん遠くに離れていく。
一方、リュックの腕の力も「お前は離すか」と言わんばかりに強くなる。

あたしは堪らず叫んだ。





「アーロン!あたしリュックに殺されちゃう!皆も楽しんでなくていーから!たーすーけーてー!」





死に物狂いで叫ぶ。

そうすると、皆振り向いた。
アーロンも小さく息をついた。





「やむを得ん。休むぞ。うるさくて敵わん」





やっと折れてくれたアーロンに、リュックは「バンザーイ!」ってな感じで旅行公司に駆けていった。

一方、あたしも解放された首にひと安心。ふう、助かった。





「少し…疲れました…お部屋はありますか?」





旅行公司に入ると、一番最初に奥に入っていったのはユウナだった。

ユウナ、異界送りしてから様子がおかしい。

そんな中、あたしはティーダ、リュックと…ユウナ以外の年少チームで話していた。





「ユウナ、様子変だよな?」

「あのジスカル様、だっけ?あれが関係してるよね、たぶん。てかリュックさぁ、さっき本気であたしの事、絞め殺そうとしたでしょ」

「してないよー!待ってくれない皆が悪いんだよ!」

「そんなに怖いのか?」

「子供の頃、海で遊んでたら魔物に襲われたんだよ。一緒にいたアニキったら慌ててあたしに魔法ぶっつけてさあ!サンダーの魔法でひゃひゃひゃひゃ〜!って。あの時から雷は駄目だあ…」

「うひゃ〜…」

「なーるほど。じゃあやっぱ、あたしのサンダラの練習で克服…」

「嫌!!!」





本当、相当駄目らしい。

凄い剣幕で嫌がられた。
そんな反応に、思わずティーダと爆笑した。





「これはこれは皆さん、我が旅行公司にようこそ。おや」

「し〜っ!」

「ふむ」





爆笑の真っ最中、奥の方からリンさんが出てきた。
リンさんは旅行公司のオーナー。
一度、ミヘンの旅行公司でも会ってる。

彼はアルベド族。
リュックとも知り合いみたいだけど、リュック的には今バレるとマズイわけで。

そんなリュックの様子にリンさんはすぐに気づく。…鋭い方だ。

彼はリュックに声を掛けることなく、その視線をアーロンに向けた。

そして、ティーダに聞いてきた。





「あの方…もしやアーロンさんでは?」

「そうだよ」

「やはりそうですか。ミヘン街道店でお見掛けして以来、気になっていたのですよ。アーロンさん!ご記憶にないでしょうか?あれは10年前…ブラスカ様のナギ節のはじめです」





リンさんはアーロンに歩みより、声をかけた。

アーロンとリンさん顔見知りだったらしい。
ブラスカさんのナギ節って事は…あたしが消えた後か。





「ああ、世話になったな」

「いえいえ。重傷を負われた方を放ってはおけません。それにしても翌朝あなたの姿が消えていた時は驚かされました。常人ならば歩けないほどの傷でしたのに」

「悪いが…その話はやめてくれ」

「かしこまりました」





アーロンにとって、今の話は触れられたくない話題だったらしい。

何となく聞いていたけど、アーロンが重傷、か…。
ちょっと気になる…。でも触れられたくないなら、きっと教えてくれないだろうし。ま、いっか。

あたしは適当に考えることをやめた。

その後、とりあえずはユウナが落ち着くまでの休憩と決め、それぞれの時間を過ごした。





「魔法はイメージが大切。失敗することを考えないで」

「ふむふむ…」





あたしはルールーに魔法についてレクチャーして貰ったり。

そして、待つことしばらく。
ユウナが戻ってきた。

よし、出発。という空気になった時、大体予想はついていたものの、リュックの顔は真っ青だった。





「雷、止まらないね…」

「期待していたわけでもあるまい」





弱々しく呟くリュックにアーロンが返す。

するとその時、ドカーン!とまた大きな雷が落ちた。
リュックは勿論、「きゃあっ!」と悲鳴を上げる。

その様子にアーロンは溜め息をついた。





「一生やっていろ」





そして冷たく言い放った。

おわー。アーロン言っちゃったー。

そのまま旅行公司を出ていくアーロン。
リュックはその様にぶちギレた。





「わかったよ…、でも!そんな言い方しなくったっていいじゃんよ!もっと、こうやっさしく励ますとかさあ!それならあたしだってその気になるのに!ぜんっぜん分かってないんだもんな〜もう!こらぁ!聞いてんの〜?負っけないぞ〜!ふぬぬぬぬ…負けるかっちゅーの!」





リュックはそう踏ん張りながら、旅行公司の外に踏み出した。

その様子を後ろで見ながら、あたしはティーダと笑う。





「優しく励ましても絶対その気にはならないよな」

「だろーねー」





多分、アーロンはわかってるんだと思う。
あーゆー言い方をしたほうが、リュックは頑張れるって。
………たぶん。
…いや、勘だけどさ。

外に出ると、あたしは再びリュックに抱き着かれた。
今度は首じゃなくて腕だけど。

雷が鳴る度、ぎゅっと力が入るリュックの手。でも悲鳴を上げないように頑張ってた。





「リュック頑張ってんねー?」

「だって、むっかつくんだもん!」

「あはは!」





まあ、あたしは雷苦手ってわけじゃないのに、それでもこれは怖いもんなあ…。
苦手な人にすれば、たまったもんじゃないだろう。

そんな風に道中を行く。
すると、あともう少しで抜ける…と言うところでユウナが止まった。





「皆…いいかな」





そして、小さく掛けられた声。
皆も足を止めた。




「どうした?」

「聞いて欲しいことがあるの」

「ここで?」

「もうすぐ終点でしょ。さくさく行っちゃおーよ」

「今話したいの!」

「…あそこで聞こう」





ユウナの強い希望。
アーロンは近くにあった屋根付きの避雷塔を指した。

あたしは早く抜けたかったであろうリュックの肩をポンと叩いた。

でも…多分、皆、ユウナの話の内容、予想ついてたと思う。

嫌な予感、凄くした。





「私、結婚する」





ユウナは皆の顔を見ながら言った。

その言葉に、皆「やっぱり…」と溢したり、またはそんな顔をした。

ワッカがユウナに尋ねる。





「な、どうしてだ?気ぃ変わったのか?」

「スビラの為に…エボンの為に…そうするのが一番いいと思いました」

「説明になっていない」

「もしかして…ジスカル様の事が関係しているの?」

「あ!あのスフィア!」

「…見せろ」





ティーダは旅行公司で、ユウナがスフィアを見ているのを見たらしい。
アーロンはそれを見せろとユウナに詰め寄る。

しかしユウナは首を振った。





「…出来ません。まず、シーモア老師と話さねばなりません。本当に申し訳ないのですが、これは…個人的な問題です」

「…好きにしろ」

「すみません」

「だが今一度聞く」

「旅はやめません」

「ならば…良かろう」





あ。まただ…。

アーロン、また旅の事…。
アーロンはユウナに旅、させたいんだ。
なんでだろう…。何だか寂しくなる。

許可したアーロンにティーダが怒った。





「ちょっと待てよアーロン!旅さえしてれば後はどーでもいいのかよ!」

「その通りだ。シンと戦う覚悟さえ捨てなければ…何をしようと召喚士の自由だ。それは召喚士の権利だ。覚悟と引き換えのな」





召喚士の権利…。
確かにそれは、そうなのかもしれない。

だけど……納得いかないものは、いかなくて。
胸が、モヤモヤする。





「ともあれ、ひとまずはマカラーニャ寺院を目指す。ユウナはシーモアと会い、好きに話し合えばいい。俺達ガードはその結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな」





アーロンの言葉に、皆は頷くしかなかった。

あたしはグアドサラムで言いたい事を言ってしまった。
だから、これ以上なにも言えなくて。


ユウナ。何、気にしてるんだろ…。

それがわかるまで、あたしたちは何も出来ない。



To be continued

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