ぶつかる想い



森を抜けると氷の上。
寒々とした景色。息も白くなる。

そしてそこには、グアム族のトワメルが待っていた。




「ユウナ様、お迎えに参上いたしました。こんなに早くお返事を頂けるとは…まったくもって予想外の出来事。何も告げずに留守にした事、シーモア様に成り代わり…」

「それはいいんです。あの、ひとつ聞きたいことが」

「なんなりと」

「私、結婚しても旅を続けたいんです。シーモア老師は許してくださるでしょうか?」

「それはもう…シーモア様もそのつもりでいらっしゃいます」




結婚しても旅は続けられる。
それを知るとユウナは頷いた。

そして、グアド族のしきたりがどうとかでユウナだけが先に寺院の方に連れていかれる事になった。

そんなユウナにティーダは指笛を吹く。それにユウナは「了解っす!」と笑った。

その時だった。





「あーっ!」

「アルベド族だ!」





リュックとワッカが叫んだ。

リュックが指差した方を見ると、アルベド族がスノーモービルでこちらに向かってくるのが見えた。
そしてユウナとトワメルを取り囲んでしまう。

なんでまた、アルベド族…?

それを見て、ユウナを守るように皆が走った。





「任せろ」

「かたじけない!」





アーロンがそう言うと、トワメルは再びユウナを連れて寺院に向かおうとする。
でもユウナはその手を振り払い、あたしたちのところへ戻ってきた。





「ユウナ?」

「私も、戦います!」





ユウナはギュッとロッドを握りしめた。

その時、丘の上からアルベド族の男がリュックに向かって叫んできた。





「リューック!ギャヤヌウハナ、ヨミユダワミセガ!マホウコショウカンジュウコ、クフギヨレセタウゲ!」





アルベド族なんだから勿論アルベド語。

が、しかし…アルベド語か…!

アルベド語わかんない…っ!
男は得意気に叫んでいたけど、アルベド語ちんぷんかんぷんなあたしは頭の中がハテナで埋め尽くされてた。
だってさ!あたしがわかるアルベド語と言えば「マギレヤキセ《はじめまして》」くらいなもんだ。

理解できないままでいると、男の後ろから何やら大きな機械が出てきた。





「え〜っ!?」





一方、言葉が理解出来てるリュックだけが物凄く驚いてる。
あたしとティーダは訳を求めた。





「通訳!」

「あの人なに言ってんの?!」

「魔法と召喚獣を封印しちゃうって!」





リュックは慌てながら教えてくれる。

魔法と召喚を封印…。





「タッヒヤネ!」





そしてまた叫ぶアルベドさん。

今のはなんとなくわかった!
多分、「やっちまえ!」って所だろう。
男がそう言った瞬間、大きな機械が丘の上から降ってきた。

ところで魔法と召喚獣を封印、と言うことは…正に魔道師殺し。
あたしは完全に足手まといである。

魔法を封じてしまうと言う機能を何とかしてもらうまで、大人しく後ろの方で縮こまっているしかない。





「ルー!これで魔法が使えるぞ!」

「ユウナん!これで召喚出来るよ!」

「ナマエ、やれ」





みんなが魔法を封じる機械を破壊してくれた後はバトンタッチ。
ユウナやルールーと共に魔法や召喚で叩いていく。

こうして、何とか機械は退けることが出来た。





「ユウナ様!」





戦いが終わると、今度こそユウナはトワメルと先に寺院へと向かって行った。


でも…本当の問題は、ここからだった。

ユウナが先に行った後、アルベド族の、あの機械を放った男が戻ってきてリュックにまた叫んできた。
リュックもそれに言葉を返した。…アルベド語で。

アルベド族が去っていった後、リュックは苦笑いした。





「あはははは…ガードになったって言っちゃった。うーん、仕方ないよね」

「なんでアルベド族の言葉知ってんだ?なあ?」





ワッカに聞かれた。

でも、皆答えにくそうな顔をする。
それを見たリュックは、素直に答えた。





「あたしアルベド族だから。あれ、あたしの兄貴」

「…知ってたのか」





リュックの言葉を聞いた瞬間、ワッカは静かにこちらに聞いてきた。

あたしやティーダは頷き、ルールーは「あんた、怒るでしょ」と返す。





「…最悪だぜ」





すると、ワッカはそう言い捨てた。
そして…リュックに掌を返すように冷たくなった。





「…反エボンのアルベド族と一緒だなんてよ」

「あたし達はエボンに反対なんかしてないよ」

「お前ら禁じられた機械を使ってんじゃねえか!わかってんのか?シンが生まれたのは人間が機械に甘えたせいだろうがよ!」

「証拠は?証拠見せてよ!」





ワッカとリュックは口論になる。

正直なことを言うと…エボンに興味も信仰心も無いあたしは、リュックの言い分の方が頷けると思った。

いや…何より、ワッカのあまりの変貌に…納得いかなかったんだと思う。





「なんか…話にならないね」

「リュック!これは動くのか」





続く口論に終止符を打ったのは、アーロンだった。

アーロンはアルベド族の機械…スノーモービルを指さしていた。
リュックは「うん!」と頷きながらアーロンの方に駆けていく。

そんな姿を見てワッカは…。





「あれに乗ろうってのか?まさかアーロンさんもアルベドじゃないだろうな」





ずっと、口を出すのを我慢してた。

だけど、ぷつん。
頭の中で何か音がした。今の一言は、キレた。





「あーーーッもう!!!!」





思いっきり叫んでやった。
…ふぅ、すっきり!

急に叫んだあたしを見て、ワッカを始めとした他のみんなは目を丸くしてビクッとしてた。
でも!そんなことはどうでもいい。





「ねぇ、ワッカ」





あたしはワッカに向き合った。





「アルベドとかエボンとか…あたし、そーゆーのよくわかんないからかもしれないけどさ…アルベド族だからとか、そんなに重要?」

「なんだよ…」

「確かに、アルベド族には今襲われたばっかだよ?…でもリュックは今までも、今だって一緒に戦ってくれたじゃん。他のアルベド族の事は…まだよくわからないけど、でもあたし、リュックは好き。だから急に手のひら返すように態度変えないで…」





一度叫んですっきりして、落ち着いたつもりだった。
けれど、思ったことを、ただ吐き出しちゃった感じになっちゃったかな…。

…だってこれじゃ、あんまりでしょ?

アルベド族…。
もしもアーロンがアルベド族だったとしたら、急に蔑むの?
ユウナの事だって…ハーフだってわかったらユウナにも冷たくなるの?

一緒にいる…仲間、なのに。


あたしは背を向け、アーロンとリュックの方に走った。





「ど?リュック、使えそー?」

「うん、だいじょーぶ」





一方、ワッカはティーダにも「変だ」と言われ、ルールーにも「アルベド族を知るいい機会。そう考えてみない?」と肯定意見を貰えず、1人でマカラーニャ寺院に歩いていった。





「放っておけ。簡単には受け入れられまい」

「…ごめんね」

「あんたが謝ることないわ」





少し重くなった空気を気にしてリュックは謝った。
ルールーの言う通り、リュックが謝る必要なんて…ない。

歩いていくワッカの背中を黙って見つめていると、リュックがちょいちょいっと、あたしの肩を叩いてきた。





「なーに?リュック」

「あの…ナマエ、ありがと!」

「ん?」

「好き…って言ってくれて。…嬉しかった。あたしも、ナマエのこと大好きだよ!」





リュックは小さく笑顔を溢しながら、そう言ってくれた。

うわあ…。なんか、ちょっと照れる。
でもそれはリュックもだったみたいで、お互いに笑った。







「意地悪だよな…あんた」

「なんだ?」

「つーか何でナマエはそっちに乗ってるスか!」





その後、あたしたちはスノーモービルに乗り寺院を目指すことにした。

只今、雪道を走っている真っ最中。


キマリが先頭を切り、次にリュックが運転する後部席にルールー。
その後ろにティーダ、アーロンとアーロンの後部にあたしだ。

そんな状況にティーダが叫んだ。

ティーダはリュックとルールーが2人乗りしていたのを見てガッカリと肩を落としていた。
多分…女の子と2人乗りしたかったらしい。

ん?今のティーダの言葉を聞くと、もしかしてその女の子の中にあたしも入ってる?
それは嬉しいし光栄だな!あはっ!

でも…なんでアーロンの後ろに乗っているかと聞かれると……。





「んー、何でと言われても…何でだろう?」

「…そースか」





なんか「あ、そう」みたいな顔をされた。
そんな顔されてもな。仕方ないでしょうよ。アーロンに無理矢理「行くぞ」と首根っこを掴まれて後ろに乗せられたのだから。

そして、ティーダの横を走ってる。
確かに何がしたいんだこのオジサン。

んー…でもなんか思い出した。
10年前のチョコボ乗った時みたい。

とりあえず、ティーダはオジサンとの滑走が気にくわないらしい。
アーロンはそんなティーダに対して小さく笑った。





「間違いが起こらないようにな」

「なんだよそれ」

「話を複雑にするなと言うことだ。うまく立ち回れなくなって…泣くぞ」

「余計なお世話だっつうの」





ティーダは拗ねたようにアーロンに言い返していた。

それにしても…間違いが起こらないように。
…それは、つまりそーゆー事…か?
それを聞いたら思わず突っ込んでしまった。





「アンタはお父さんか。アーロンパパン」

「お前の様な馬鹿娘はいらん」

「ええ!?」





ズバッと言い返された。
なんか失礼な!なんかムカつくな!

あたしがむすーっと怒っている一方、ティーダはティーダで思うことがあったらしい。





「…あんたの言う通りかもな」

「お前の年頃で…」

「ん?」

「何も間違いを犯さないのも、つまらんがな」

「…うう。どっちっスか!」

「なーにそれー?アーロンはどーだったの?」

「…さあな」





ちょっぴりニヤニヤしながらアーロンに聞いてみたけど、軽く流されてしまった。つまんないのー。

んー…。でも昔のアーロンって超堅物の真面目人間だったし…。つまらない方だったのかも。

そう考えたら、ちょっとだけ笑えた。





「ねー…ワッカとリュック、元に戻れるかなあ」





ふと、あたしは気になってた事を口にした。

思わず、アーロンの背中の赤を握りしめる。
それは…不安、だから。

リュックに加担した形になったけど、ワッカの気持ちがまったくわからないわけじゃない。

アーロンとティーダなら、丁度いいしね。





「んー…俺はどっちかっつーとナマエと考え近いし。ザナルカンドも機械で溢れてる。アルベド族はよく知らないけどリュックはいい子だと思う」

「うん…。何て言うか、リュックに急に冷たくなったのが…何か寂しいって言うか」

「リュックが悪い奴じゃないって言うのは、多分ワッカもわかってると思うんだよな」

「それはわかってる。ワッカも…辛くて、どうしようもないって気持ちは…わからないわけじゃないから。上手く、噛み合わないだけで。何とか出来ないかなー」





そう。だから気にかかる。
ワッカも…弟を亡くして、それに機械が関係してる。そりゃ恨みたくだってなるだろう。

そうやって思ってたら、黙って聞くだけだったアーロンが口を開いた。





「時間は必要だろう。だが、何かしてやりたいと思うのは悪いことではない。今、当人同士をぶつけても反発してしまうだろうからな。自信を持て。お前が間違った事を言っているとは思わん」

「…アーロン」





自信を持て。あたしが間違ってるとは思わない…か。

リュックに加担したけど、ワッカのことだって気にかかるのは事実。

本当は…ワッカに言い過ぎてないかなって、ちょっと気になってたんだよね。
でも、アーロンの言葉のおかげで気が楽になった気がした。
なんか…不安なの、わかってくれたみたいだ…。





「…ありがと、アーロン」





あたし、リュックも好きだけど。ワッカだって好きだ。

仲間に加わった時、ワッカは色々話しかけてくれたから。好きなものは何だ?嫌いなものはあるか?って。
いい人だなって思ったもん。

マカラーニャ寺院まで、あと少し。


To be continued


好感度はアーロンとヒロインが同率一位。(笑)


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