彼女の嬉しそうな笑みが目の前にあって
クッパ城に来てから一月が経とうとしていたある日。
パルフェは突然、背後から待ち望んだ声に呼び止められた。
「おい、パルフェ」
「はい!」
振り返れば、この1ヶ月まともに会えなかった主の姿。
彼は尊大な態度で近くまで歩いて来ると、そのまま腕を組みパルフェを見下ろした。
「カメックに聞いたが、オマエはヤツに師事して魔法を習い、随分と上達したそうだな。その力を試してやろう、付いて来るのだ!」
「え? ど、どこへ……」
「ピーチ城だ」
それは、つまり。
パルフェは動揺するどころか、心から喜んだ。
世間一般の正義に、同族の人間達に牙を剥く事など、今の彼女には何でもない。
クッパの役に立てる、それが重要でそれがパルフェの心を何より奮い立たせる。
「ピーチ姫を拐うんですね? 同行させて頂けるなんて光栄です!」
「う、うむ」
何故かこのタイミングで吃ったクッパに、パルフェは疑問符を浮かべた。
クッパは正直、パルフェはピーチ城への同行を拒否すると思っていた。
自分達が世間から向けられる感情は知っているし、パルフェと同族である人間も他の地にしか住んでいない。
思うところはあるだろうと。
だが実際には即答、明るく弾んだ声、そして満面の笑み。
「(コイツ、本当にワガハイの為に生きるというのか)」
それを理解した瞬間クッパは、眼前の少女が周囲から浮き上がったように見える不思議な感覚に陥った。
こうまで忠誠を向けられ、気分が良くならない訳が無い。
クッパはパルフェの手を掴むと胴体を支えながら引っ張り上げ、肩に乗せた。
パルフェは突然の事に驚いてバランスを崩しかけ、思わず彼の頭にしがみついてしまう。
「ク、クッパ様……!?」
「落ちないようしっかり掴まっておれよ」
肩に乗ったパルフェを片手で支えながら、クッパはクラウンが置いてある場所まで歩く。
体がぴったり密着している事に、パルフェは目が回りそうな思いで大変だ。
「(だ、駄目だしっかりしないと……! ここで具合を悪くなんかしたら連れて行って貰えない。私はクッパ様のお役に立つんだ!)」
自分に言い聞かせ、意識をしっかり保とうと軽く頭を振り進行方向を見据える。
……と、前方から紙袋を持ったパタパタが飛んで来た。
「クッパ様、こちらをお忘れですよ!」
「ん? おお、これか! パルフェよ、オマエへ餞別だ」
「私に?」
「オマエがワガハイに付いて来るなら渡そうと思っていたのだ」
パタパタから受け取り、クッパに支えられたまま中身を開いてみた。
それは、まさに魔法使いのイメージぴたりのローブ。
派手過ぎない紫色で、ブーツや帽子も付属している。
折角だから着替えてみろと言われ、降ろして貰うと近くの部屋に入った。
服は既にラフな物を幾つか見繕って貰っているが、こうしてクッパから贈り物として受け取るのは初めてだ。
やや慌てて着替えながら、パルフェの心は浮かれて浮かれてしょうがない。
「クッパ様からの贈り物……魔法使いみたい、という事は戦闘服って事で、これからはクッパ様のお隣に立たせて頂けるって事、かな……!」
都合の良い妄想かもしれないが、こうなれば期待もする。
出来るだけ素早く着替え、最後に鏡で何度か身嗜みを確認してから部屋を出る。
すぐさま向けられるクッパの視線に照れながら、側まで駆け寄るパルフェ。
「い、如何ですか?」
「似合っているではないか、まさに魔女だな。ワガハイの側に置いておくのに相応しい!」
「……!」
待ち望んでいた言葉に頬が紅潮し、表情が緩む。
感極まって俯き動けないパルフェを抱えて肩に乗せたクッパは、今度こそクラウンの場所へ向かった。
再びクッパの頭にしがみつき、照れで緩む顔を隠しながらパルフェは消え入りそうな小ささで言葉を紡ぐ。
「クッパ様……有難うございます。私、頑張ります……」
そんなパルフェを可愛く思いながら、クッパは満足げな笑みを浮かべていた。
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