正義を敵に回しても

クッパ城の朝。
基本的に晴れる事の無いこの地は今日も曇天だが、パルフェは特に気にしない。

王候貴族が住む城……と、いうより砦としての意味が強いクッパ城は、あちこちに危険な場所もある。
中庭へ行くのに少々迷って城内をうろうろしていたパルフェは、大きな両開きの扉に手を掛けた瞬間、背後から呼び止められた。


「パルフェ、そこ危ない」

「え?」


パルフェが振り返ると、そこに真っ白な幽霊が居た。
幽霊とはいっても赤くなった顔を小さな手で隠す可愛らしい子で、パルフェは顔を綻ばせる。


「テレサ。この部屋は危ないの?」

「ん、そこ、溶岩があるし足場も狭いから……」

「ああ、対ライバル用の」

「マリオが来た時は他の通路を塞いで、そこからしか城の奥へ行けないようになるんだ」

「へぇ……」


なかなかハイテクな城だ。
昔からだそうだが、クッパJr.がメカニックとしての手腕を発揮するようになってからは更に凄くなったとか。


「教えてくれて有難う……って、ああ、そうか」


いつまでも顔を手で隠し困ったような態度のテレサに、パルフェは苦笑した。
この子達は注目している相手に顔を合わせられると、恥ずかしくて動けなくなる。

すぐ顔を逸らして続きを話した。


「中庭までの道を教えてくれると有り難いんだけど……」

「うん。と言うかボクも一緒に行っていい?」

「ぶらぶら散歩しに行くだけよ、特に用事も無いし」

「それでもいいからパルフェと一緒に行きたい」


そうまで言うなら頑なに拒否する事も無い。
テレサを隣に、パルフェは城の中庭へと向かった。

城壁に囲まれた広い中庭は、綺麗に整えられた垣根に植木や花壇、味気無い彩の多いクッパ城で数少ない華やかな場所である。

テレサを引き連れて花の香り漂う遊歩道を歩いていると、花壇に囲まれた緑色の土管を見付けたパルフェ。
近寄ると中からニョロニョロと大きな口を持つ花が生えて来た。


「よおーパルフェ」

「パックンフラワー。最近雨が降らないけど大丈夫?」

「地下に水路があるからなァ、水さえ流してくれりゃ平気だよ。ところでテレサのヤツと何やってんだ?」

「一緒に散歩してるの」

「はァ……羨ましいねェ動き回れるヤツは」

「パックンも動き回れなかったっけ? 確か……」

「ちょっとオォーーッ!!」


会話の最中、中庭の向こうから盛大な叫び声。
そちらを見れば、暴走するワンワンの鎖を握ったノコノコとハンマーブロスが、浮く勢いで引っ張られながらこちらへ向かって来る。


「お前らどけぇぇーっ!!」

「どけねェよっ!!」


叫ぶパックンフラワー。
パルフェはすぐさま彼の前に立ち塞がると、カメックに習った魔法を放つ。
鉄球の体を持つワンワンに当たった魔法は虚しくも跳ね返るが、予想外の衝撃に驚いたワンワンが止まった。

すぐさま駆け寄り、ツルツルしたワンワンを撫でるパルフェ。


「よしよし。何か怖い事でもあったの? もう暴れなくても大丈夫よ」


嬉しそうに撫でられているワンワンはすっかり大人しくなったようだ。
安堵の息を吐いたノコノコとハンマーブロスは、立ち上がりパルフェに礼を言う。


「いやー助かった、洗ってやろうと思ったら暴れ出してさぁ」

「虫の居所でも悪かったのか……あんたが居なかったら城壁にぶつかってクッパ様に大目玉喰らってたぜ。有難うなパルフェ」

「ふふ、どういたしまして」


笑顔で応えるパルフェ。
クッパ城で暮らし始めて1ヵ月ほどが過ぎたが、パルフェはよく笑い笑顔を見せるようになっていた。
何も知らない者が見れば、彼女に悲惨な過去がある事など気付かないだろう。


「(幸せ……やっぱり私の居場所はこの軍団だ)」


改めて思い、この軍団で過ごす決意を深めるパルフェだった。



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