周りにどんな目で見られようが、私の気持ちは変わりません

ふと目が覚めた。
パルフェが寝ているのはキングサイズの大きなベッド。
部屋の中に灯りは無いが、壁の一面を埋める全面窓から入る青い月明かりで、雰囲気の良い仄明るさだ。

上半身を起こした辺りで、息子を伴ったクッパが部屋に入って来た。


「起きたか。人間は酒が飲めないんだったか?」

「いいえ……私、お酒を飲んだ事が無くて」

「そうだったのか、まあ追々慣れて行け。ワガハイの軍団唯一の人間だからな、これから質問責めに遭うぞ」


笑いながらゆったり歩いて来るクッパを追い越し、クッパの息子が駆けて来る。
ちょこんとベッドの上に乗ると、明るく口を開いた。


「なあ、オマエの親ってオマエにヒドい事したんだろ?」

「え……」

「おとうさんに聞いたんだ、オマエのケガはオマエの親がやったんだって! ボクのおとうさんとは大違いだ!」


ボクのお父さんは優しくて立派だとか、いつかお父さんみたいになるんだと、それはそれは嬉しそうに話す彼。
意外にもクッパが子煩悩だと示すような話を聞いてしまい、パルフェの中で更にクッパの印象が上がる。

その話にうんうん頷くクッパは満足げに息子の頭を撫でた。


「Jr.よ、ワガハイはオマエに期待しているぞ」

「うん、おとうさん! いつか一緒にキノコ王国を支配しようね!」


話している内容はともかく、雰囲気は微笑ましい親子。
クッパの息子……Jr.は改めてパルフェに向き直り、満面の笑みを見せる。


「パルフェっていったっけ? もうヒドい親の所になんて帰らなくていいからね! これからずーっとココに居てね!」

「え……良いんですか?」

「せっかく仲間になったのに居なくなっちゃイヤだよ!」


居なくなっては嫌だ。
誰かからそんな風に言われた事など全く無い。
また泣きそうになって確認の意味でクッパを見ると、彼は腕を組み強気に見下ろして来る。


「言った筈だ、ワガハイの土地に落ちていたオマエはワガハイのものだと。親元に帰るのは諦めて、これからはここで暮らすんだな!」


クッパは知っている筈だ、パルフェが親元に帰りたい訳が無いと。
パルフェが遠慮しないよう、もしくは自分が照れ臭いから、こんな言い方をするのか。

パルフェはただ嬉しかった。
親元なんかよりずっと優しくて温かいこの場所に、居ても良いと言って貰えた。

世間から見ればクッパ達は悪で、倒すべき大魔王。
しかし、助けてくれた上に温かい場所まで与えてくれた彼らを世間が悪と呼ぶのなら、自分も悪と呼ばれる存在になろう。
恩を返す為に忠誠を誓おう。

パルフェは、決めた。
ベッドから降りると、クッパへ向けて跪く。


「クッパ様、これから私は貴方の為に生きます。貴方に全てを捧げます。ここに忠誠を誓わせて下さい」

「む……」


パルフェの行動にクッパが明らかに動揺した。
気まずい様子で視線を彷徨わせ、やがて体ごと視線を外す。


「と、当然だな! せいぜいワガハイの役に立つのだぞ」

「はい」


微笑んで答えるパルフェ。

逸らす瞬間、頬が少し朱に染まっていたように見えた。
きっとクッパは照れている。
それに気付いたパルフェは、ますますクッパの事が好きになってしまう。


「(悪と呼ばれようが、同族の人間達に敵と見なされようが構わない。私はクッパ様の為に生きる……!)」


こうして人間の娘は、大魔王に仕える事となった。



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