そんな顔をするな

クッパ城に連れて来られたパルフェは、予想だにしていなかった目に遭う。

風呂に入らされ、傷の手当てをされ、場違いに綺麗なドレスを着させられた。
着付けを手伝ってくれた女のノコノコが、ピーチ姫のドレスがあって良かった……とか何とか言っていたので、どうやらお姫様のものらしい。

クッパがキノコ王国制圧とマリオ打倒を狙って度々ピーチ姫を拐っているという話は、よく耳にする。
囚われている間に必要な品は与えられているのだろう。
お姫様の虜囚生活は意外に快適なのかもしれない。

武装したノコノコの骨の姿をしたカロンに連れられ、玉座の間に通される。
奥の玉座にはクッパが座っており、パルフェを見るなり満足そうに鼻息を吐いた。


「なかなか似合うではないか。ワガハイの見立ても捨てたものではないな! まだ他に人間用の服が無いから、今はそれを着ておけ」

「……私、これからどうなるんですか?」

「オマエはワガハイの土地に落ちていた。故にワガハイのものだ。言う事は聞いて貰うぞ」


どうやら死はまだ訪れないらしい。
それにホッとしている辺り、本当は自分は死にたくないのだろうとパルフェは悟る。
どんな事をさせられるかは分からないが、生きたければ従う他ないだろう。

クッパが玉座から立ち上がり、歩いて来た。
そして両側に控えていたカロンやノコノコ達に命令する。


「準備は出来たなオマエ達! 宴を始めるぞ!」


宴? と疑問符を浮かべるパルフェをよそに、盛り上がるクッパ軍団達。
呆気に取られているとクッパに促され、場所を移動する。

辿り着いたのはパーティ会場のように飾り付けられ、あちこちにご馳走の乗ったテーブルが配置してある大広間。
クッパの配下達が沢山いて、一斉に向けられる視線を受けたクッパはパルフェを伴い騒ぎの中央へ向かった。


「オマエ達、よく聞け! こいつは今日からワガハイの配下に加わるパルフェ!
ついにワガハイは人間すら手中に収めたのだっ!! この良き日を祝うぞ、思う存分騒ぐがいい!!」


大広間じゅうから大歓声が上がり、誰もが大騒ぎして歌ったり踊ったり飲み食いしたりとお祭り騒ぎだ。
呆然とするパルフェの許にもクッパ軍団が次々とやって来ては話し掛ける。


「ヘェーッ、本当に人間だ! ついにクッパ様も人間を支配下に置かれるのか!」

「ありがとうよ、アンタのお陰で美味い飯と酒でパーティできるぜ!」

「どっから来たの? なんで怪我してんの? あ、ファッション? 似合うよ!」


次々に取り囲まれたパルフェは、え、あ、う、と言葉にならない返事しか出来ない。

幼い頃から親に邪険に扱われ虐待されていたパルフェは、こんなに歓迎されたり受け入れられた事は一度も無い。
それを思い出した瞬間、今 自分がとても温かい場所に居る事に気付いたパルフェの目から涙が零れ落ちる。


「お、おいおい何で泣くんだよパルフェーっ!」

「クッパ様ぁ〜!」


慌てた部下達がクッパを呼び、周囲を取り囲む彼らの波を押し退けクッパがやって来る。


「何を泣いているパルフェ、そんな顔をするな!」

「う……っううぅー……」

「好きなだけ飲め、食え、騒げ! 嫌な事はここで全て忘れるがいい!」


豪快に笑うクッパから綺麗な色のジュースが入ったグラスを渡され、涙を拭って一礼してから受け取る。

そして泣きはらした顔で笑顔を作ると、グラスの中身を一気に飲み干した。


「ガハハハハッ! 良い飲みっぷりだ! ほら、まだまだあるぞ!」


またグラスを渡され、礼を言ってから飲む……が、
その途中、クッパに渡されたジュースが先程から妙な味がしている事に気付く。


「(あ……これ、お酒?)」


どうやら飲み易さの割に度が強めの酒だったらしい。
慣れていない体でそんな物を一気に摂取したため急激に酔いが回り、パルフェは目を回して倒れてしまう。


「お、おいパルフェ!!」


慌てたクッパの声を遠くに聞きながら、それでもパルフェの心は喜びで満たされているのだった。



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