これを奇蹟と呼ばずに何と言えばいいでしょう!

全てがどうでも良かった。

薄暗い災いの森、恐ろしい一族が訪れると言われる場所を、パルフェは一人きりで彷徨い歩いていた。

歳を追う毎に苛烈になって行く両親からの虐待に耐えかね、逃げ出したパルフェ。
完全に疲れ切ってしまい、自分の命すらどうでもいい。
早く楽になりたいけれど、自害は怖くて出来なかった。

もういい、何もかも自分から行動する気は無い。

近くにあった切り株に倒れ込み、パルフェは目を閉じた。
このまま二度と……あの世に辿り着くまで目が覚めない事を願いながら。

……が、思ったよりだいぶ早く目を覚ましてしまう。


「おとうさん、あそこ! 誰か倒れてるよ!」

「おいオマエ! ワガハイの庭で何をやっている!」


高く可愛らしい声の後、鼓膜が震えるような低い声がパルフェの耳に届いた。
思わず目を覚まし起き上がったパルフェの目に飛び込んで来たのは、自分より頭ひとつ……いや、まだ大きな巨体を持つカメの一族。

威圧感たっぷりの眼差しでこちらを見下ろして来る奴は、間違いなく恐れられているクッパ大魔王だ。


「(ああ、よかった。やっと終れる……)」


あの大魔王が自分を殺してくれる事を期待し、言葉に反応せず黙ったまま。
すると傍らに居た小さなクッパといった様相の子が、跳ねるように近付いて来た。


「おとうさん! このヒトあちこち怪我してる!」


おとうさん。
まさか噂のクッパに子が居たとは思わず、パルフェは少々驚いた顔を見せた。
クッパは鷹揚な態度で側まで歩いて来る。


「怪我? ……大方森に迷い込んだ子供か。親はどうした、一緒じゃないのか」

「逃げて来ました。もう親とは一緒に居たくありません」


俯いたまま沈んだ様子で言うパルフェに、クッパは立ち止まり目を見開いた。
息子の方は意味が分からないのかキョトンとしているが、クッパはパルフェの露出した腕や顔、首もと等が傷だらけなのを見て、おおよその事情は把握したようだ。

クッパは動こうとしないパルフェを担ぎ上げると、そのままどこかへ歩いて行く。
抵抗する気の無いパルフェは、脱力してされるがまま。


「ムスメ、名は?」

「……パルフェ」

「取り敢えずここはワガハイの土地だ。勝手に入り込んだ代償は払って貰うぞ」


それなら命で支払うから今すぐ殺してくれればいいのに。
そう思っても自分が死へ向かう言葉を自分で言うのが怖くて、黙ったまま。
ただ漠然と、死が向こうからやって来てくれる事を期待するだけだった。

やがて下にプロペラが付いた奇妙な物体に乗り込むクッパと彼の息子。
クラウンと名の付いた空飛ぶ乗り物だが、パルフェがそれを知るのはまだ後だ。


「パルフェよ、これからワガハイの城へ来て貰う」

「……」


返事が無いのもお構い無しにクッパはクラウンを浮かせ、息子も後から小さなクラウンを操作して追って来た。

この出会いは自分にとって間違い無く奇蹟だったと、パルフェは後に語る事になる。



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