ようやく気付いたのか!
クッパ城の一角、物置のようになっている部屋の荷物をパルフェが漁っている。
出て行くつもりだった。
敬愛する、そして本当はそれ以上の意味でも慕い愛しているクッパに、出て行けも同然の事を言われた。
取り成すとカメックは言ってくれたが、追い出すのがクッパの意思ならば。
「……あれ?」
ふと部屋の奥、空いた空間の真ん中に鎮座する台座とその上の大きな絵筆が目に入った。
あれは以前、人間の国を襲撃して奪った物。
描いた物が実体化するという魔法の絵筆だ。
「そう言えばクッパ様、これ使わなかったのかな…」
こんな物置になった部屋に置いてあるという事は、ひょっとすると偽物か、
あるいは描いた物が実体化するなど単なる伝承で、ただの伝統工芸品だったのか。
何気なく手に取り、眺めてみるパルフェ。
片手で持つには重いくらいだが、ふと試してみたくなって近くにあった木箱に絵を描いてみる。
「(クッパ様に必要とされなくなった以上、欲しい物なんて……。取り敢えず適当な大きさの荷物入れとか……)」
なんて気の無い様子で考えながら何回か筆を滑らせた……次の瞬間。
突然筆が光を放ち始め、驚いたパルフェは落としてしまう。
放たれた光は空中に絵を描き始め、やがてそれは光を失い完全に実体化する。
そこには大きな額縁。
中には鋭い目とニヤケた口、そして額縁の左右に手が浮いている。
「やっと出してくれやがったのか強欲め!」
「え、え……」
「何百年もシケた祠に放置した挙げ句に次は物置とか……温厚な俺様もさすがに怒りの沸点完全超えだぜ!」
浮いていた手が突然左右から握り掴むようにパルフェを捕らえた。
暴れてもがくパルフェに一切構わず、顔のある額縁の正面まで持ち上げる。
「ちょっと、放して!」
「嫌なこった、数百年も待ってようやく来てくれた異世界人を誰が諦めるかよ。一緒に来てもらうぜ」
「何の騒ぎだ!」
勢い良く扉を開け、突入して来たのはクッパ。
宙に浮かぶ謎の絵画に謎の両手も気になるが、それよりパルフェが捕らわれている事に激昂する。
「パルフェ!」
「クッパ様! あの絵筆で絵を描いたら、このガクブッチーが出て来ました!」
「勝手に名前付けんな誰がガクブッチーだ! 俺様はカンバール!」
「頑張るめ、パルフェを放すのだ!」
「頑張るじゃねぇよカンバールだっつってんだろ! 低脳しか居ねぇのかここは!」
「お前! よくもクッパ様を低脳だなんて……!」
「あーーー面倒くせぇ!! ってな訳でこの異世界人は頂いて行くぜ!」
カンバールと名乗った謎の絵画はパルフェを掴んだまま部屋の窓ガラスを割って逃げて行く。
慌てて窓際に寄ったクッパだったが、奴はもう遥か遠く空の向こう。
「クッパ様、いかがなさいました!?」
騒ぎに気付いたカメックがやって来たが、クッパは割れた窓から呆然と外を見たまま振り向きもしない。
「クッパ様……?」
「……パルフェが」
「え」
「パルフェが拐われてしまった……」
「えっ!?」
それを言った瞬間に自分で飲み込めたのか、弾けるように走り出したクッパ。
カメックの追う声にも一切反応せず、向かったのはクラウンの格納庫。
すぐさま乗り込み、向かったのはキノコ王国。
長閑な風景が眼下に広がる中、見えたのはマリオの家。
玄関前まで降り、運悪いタイミングであくびをしながら出て来たルイージに掴みかかる。
「おいルイージ!!」
「えっ、ちょ、ひぃ! なんでクッパがここにっ!」
「マリオはどこだ!!」
「に、兄さんならピーチ城に出掛けたけどっ……な、何の用なんだっ!」
勇気を振り絞ったルイージの言葉を無視して再びクラウンに乗り込み、ピーチ城へ向かったクッパ。
大魔王の登場に当たり前にパニックになるが、完全無視してピーチを庇うマリオの許へ。
「また来たのかクッパ……! 今日はパルフェは一緒じゃないみたいだな」
「パルフェが拐われたのだ!!」
「ん? ……ん、ん?」
こちらの言葉には返答をせず一方的に掛けられた言葉。
困惑するマリオだったが、明らかに普段と違う様子を気にしたピーチに制され、話を聞いてみる事に。
「……で、その頑張る君にパルフェが誘拐されたと」
「う、うむ……」
「そいつが出て来た絵筆、どっかの国を襲撃して奪ったんだろ? 明らかな自業自得じゃないか」
「う、うむ……」
返す言葉も無い、なんて様子。
いつもなら逆ギレでもして来そうなものなのに、大人しくしているクッパを見たマリオは完全に毒気を抜かれた。
わざわざマリオ達に相談に来たのは、こんな所を部下に見せない為だろうか。
「はぁ……お前ほんとにパルフェが好きなんだな。居ないと駄目か」
「……む?」
「奴が何でパルフェを連れ去ったか分からないのに、もうそんなに参ってる。打算抜きでパルフェの身が心配って事だろ」
「……」
黙ってしまったクッパを見て、ピーチがマリオの言葉を引き継ぐ。
「パルフェの方も満更でもなかったみたいよ。助け出したら離さないであげてね……なんて、欲しい物は手に入れる大魔王には無用な言葉だろうけど」
「……」
そう、大魔王。
クッパは大魔王だ。
お調子者だったり、たまにドジを踏んだりするし、
場合によってはこうしてマリオ達 正義側の者と付き合ったりもするが、それでも自分は悪側に立つ者だと自覚している。
唯我独尊。
欲しい物は手に入れる。
阻まれるなら奪う。
「……それがワガハイではないか」
パルフェが欲しい、側に置いておきたい。
それは紛れも無い本心。
ならばそうすればいい。
パルフェが拒否するなら、その心さえ奪えばいい。
「クッパ、パルフェが連れ去られた方角は分かるな?」
「ああ」
「一時休戦だ。行って来るよピーチ姫」
「ええ。パルフェを助け出してあげて」
そのやり取りに、暫し呆気に取られるクッパ。
マリオとしては放置もアリだが、パルフェの事は何度かキノコ王国に誘った事があるし、何よりピーチの友人だ。
マリオがクラウンに乗り込んだ辺りで呆気に取られていたクッパもようやく我に返り、自らもクラウンへ向かう。
「組むのは良いがワガハイがリーダーだ! ワガハイの指示に従うのだぞ!」
「るっさい、前にピーチ姫を誘拐して結婚しようとしてた事パルフェにバラすぞ!!」
「い、いや待てそれは……!」
何だかんだ、長年の付き合いだけあっていざ組めば険悪さなど微塵も無い喧嘩友達のような雰囲気に。
ピーチに見送られ、パルフェを助けに二人を乗せたクラウンは飛び立った。
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