想う、だけでは

何気無い日々、少しだけ変わったものの大方は変わらないクッパとパルフェの関係。
それをどうにも出来ないまま微妙にモヤモヤした毎日を過ごしていたある日、魔法の修行をしていたパルフェにカメックが声を掛ける。


「パルフェ、丁度良い所に。これからクッパ様と出掛けますよ」

「え? 急ですね。またキノコ王国を襲撃ですか?」

「いいえ、今日は別の国へ。何でも描いた物が実体化する魔法の絵筆があるそうで、それを奪いに」

「分かりました、すぐ準備します!」


そんな物があるとは眉唾だが、手に入れば便利だ。
クッパやカメックが行くと決めているなら付いて行くだけ。

パルフェはクッパのクラウンに乗りカメックは箒で空を飛び、海の向こうにある国を目指す。
飛行船(まんま帆船)も数隻、軍団の仲間達を乗せて襲撃準備は万全だ。


「魔法の絵筆があるという祠に直接乗り込むぞ。邪魔者は全て蹴散らせ」

「お任せ下さい。クッパ様の途を阻む者は私が排除します!」


決意を込めた強気な笑顔で言われ、クッパの心には愛しさが込み上げて行く。
それを表に出さないよう努めながら、進行方向を見据えた。


目的地に辿り着いたのは日が傾きかけた時間。
祠があるのは長閑な田舎町、その中央に堂々と鎮座している。
突如空に現れた武装船に住民達から悲鳴のような声が上がった。


「な、なんだあれ!?」

「こっちに来る!!」


クッパが片手を上げると、飛行船団が砲撃を開始する。
大砲から放たれた砲弾が祠の周囲を破壊し、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
その様子をクラウンから身を乗り出して見下ろしたパルフェ。

人間しか居ない。
どうやらキノコ王国から海を越えて離れたここは、人間の国らしかった。


「行くぞパルフェ!」

「え……わっ!」


多数の人間に思わず呆然としていたパルフェは、クッパに片手で担がれ我に返る。
肩に座る形になりクッパの頭にしがみ付くと、彼がクラウンから飛び降りた。


「ひ、っわ、あわっ」

「ワガハイの部下がこの程度でアワアワするな! 人間共の前では堂々としておれよ!」

「は、はいっ!」


やがてズシン、と小さな地震のような揺れが起きた。
地面にヒビを入れて着地したクッパはパルフェを肩に乗せたまま、見下すような自信満々の笑みを湛える。


「ワガハイは大魔王クッパ! ここにある魔法の絵筆は頂いて行くぞ!」

「クッパだって!?」

「キノコ王国を襲ってるって噂の……! ど、どうしてこんな遠い国に!」

「魔法の絵筆は誰にも渡してはならんのだ!」


長老らしき老人が声を張り上げると、それに奮い立ったらしい群衆が集まる。
祠を守るように立ち塞がった人間達を見たパルフェは、溜め息を吐いてクッパの肩から飛び降りた。


「弱者がちらちらと……クッパ様の邪魔をすると言うなら容赦しないわ、どかないのであれば攻撃させて貰う!」

「に、人間……?」

「お前、人間のくせに悪しきカメ一族に加担してるのか!?」

「ええ、そうよ。私はクッパ様の忠実なしもべ。……ところで私、どかないなら攻撃するって言ったわよね?」


ニヤリと妖しい笑みを浮かべたパルフェに、群衆がマズイと思っても遅い。
以前ピーチ城で見せたように風を発生させ、祠を守ろうとした群衆を次々と吹き飛ばす。

キノピオ達ほどは飛ばなかったが、地面に落ちた衝撃で動けない人間達を軍団員達が抑える。
倒れた彼らの側をクッパと共に悠々と祠へ向かうパルフェに、一人の人間が震える声を絞り出した。


「こ、の……! 邪悪な魔女め、地獄へ落ちろ!!」

「うるさいですね」


その人間がもたげていた頭を、カメックが愛用の杖で小突きながら押さえ付ける。
この間にどうぞ、と示され改めて祠へ向かうクッパだったが、視線をカメックから動かす時にパルフェが目に入った。

……彼女は悲しそうに、そして辛そうに歪んだ表情を浮かべ、今しがた自分を罵倒した人間を見ていた。
その表情に、クッパは心臓を鷲掴まれた心地。


「……パルフェよ」

「は、はい」

「行くぞ、さっさと絵筆を奪うのだ」

「畏まりました」


命じれば、いつもと同じ微笑をいつものように浮かべる。
今となってはそれが単純な喜びだけでなく、辛さを隠しているものに見えてしまうようになった。


「(ワガハイへの忠誠心は嘘ではあるまい。だがやはり……実際に同族から邪険に扱われるのは辛いか)」


目的は滞り無く達成できそうな状況だというのに、クッパの心にはモヤモヤした感覚が広がって行く。
それはいずれ、人間から嫌われ憎まれ続けたパルフェが、心を壊してしまわないかという心配と不安。

忠誠を誓ったからには覚悟していただろうが、実際に罵倒されれば傷付くのは避けられないだろう。
これから先もパルフェはそんな思いをしながら生きて行かなければならない。


「(……パルフェ)」


クッパは大事な少女が負う傷を思い、微かに胸を痛めた。


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