不器用な二人

「パルフェ」

「クッパ様」


ある何でもない日、クッパはパルフェを呼び止めた。
笑顔を浮かべながら自分を振り返る彼女を見ていると、どうにも抑え難い感情が沸き上がって来る。


「丁度良い所に居たな。昼飯は食べたか?」

「いいえ、まだです」

「ではワガハイと共に来い。一緒に飯を食うぞ!」

「えっ……」


てっきり満面の笑みを浮かべて頷くと思っていたのに、パルフェが浮かべた表情は困惑。


「あ、あの、私とクッパ様2人だけでしょうか?」

「Jr.も一緒だ。3人だな」

「……その、お気遣いは嬉しいのですが、特定の部下を贔屓すると他の部下に不信感が生まれますよ」

「む……」


彼女の言う事は至極もっともだが、正直クッパは何を今更と思っている。
クッパがパルフェを特別扱いしているなど周知だし、服なんて贈った部下も彼女だけ。

何となくだが想いを自覚したクッパにとって、それらは意味のある大事な事となった。
一緒に食事というのも延いては自分の為で、遠慮されても困る。


「あー、作戦会議も兼ねての食事だ、オマエも来い」

「そういう事でしたらご一緒させて頂きます」


やっと笑顔を見せてくれた。
気のせいかもしれないが、クッパはパルフェの態度が少々よそよそしくなったような気がしている。
以前はもっと気兼ね無いと言うか、直情と言えるような印象で忠誠を向けて来たように思う。

別にパルフェの忠誠心に疑問を持った訳ではない。
彼女の真っ直ぐな忠誠は相変わらずなのに、態度が変わってしまったと言うか。


+++


「そりゃお前、あれだ」


敵同士でありながらライバルとしてカートレースやスポーツの試合も行うマリオ。
あるカートレースが終わった後、クッパが何気無く口にしてみた疑問にどこか疲れたような様子でマリオが答える。


「照れ・遠慮・戸惑い・嫌悪……どれかだろうな」

「待てマリオ、どの感情も今のパルフェに当てはまりそうにないぞ」

「鈍いなお前。つまりパルフェがお前の気持ちに気付いたか、パルフェ自身がお前を好きになったか、その両方かのどれかだ」

「な、なにっ!」


予想だにしていなかった言葉にクッパが焦る。
そして今の言葉は、例えパルフェがクッパに好意を持っていても、実らせる気が無いという事。


「忠誠心が変わらないってなら嫌悪は無いだろうが、想いを叶える気も無い。主従関係が邪魔してるんだよ」

「ではパルフェにワガハイの臣下をやめろと言った方が良いのか」

「……それは極端だろ、臣下で居る事によって酷い目に遭った訳でもあるまいし」

「むう……」


難しいな、と考え込み始めたクッパを差し置いて、マリオはその場を離れた。

クッパとはこうして競い合ったりもする仲で、共闘した事もあるので一応それなりに信頼している。
しかし彼がキノコ王国を、延いては世界を支配せんとピーチ姫を拐っているのも事実で、そんな面しか知らない大多数の民の為に、あまり馴れ合った姿は見せられなかった。

しかし、パルフェは。
常にクッパの傍に控え、ピーチ姫を拐う場面でも騒ぎを起こした彼女は、既にクッパの仲間として恐れられているだろう。
彼女が元々はどこに住んでいたのか知らないが、もし人間しか居ないような土地であれば……。


「(違う種族同士の関係自体が良く思われないだろうな。おれ達の国ならまあまあ平気なんだけど)」


その懸念もあったから、パルフェをキノコ王国に誘ったのだが。
もし彼女がクッパを想ったとしたら、それが正しい事なのか分からなくなった。

クッパが少しは大人しくなる事を期待して二人にくっ付いて欲しい気がするし、
パルフェが想いを実らせる気が無いなら、これ以上辛くならないうちに離した方が良い気もする。


「(アイツらが自分達で何とかしてくれりゃ、おれがこんなに悩む必要も無いんだけど。二人とも不器用っぽいから何かキッカケが無いと進展しないだろうな〜…)」


キューピッドと言うより単なるお節介焼きのような気持ちで、マリオは仕様の無いライバルとその臣下を思う。

ちらりとクッパを振り返ると、パルフェがやって来て飲み物を渡していた。
あれだけ甲斐甲斐しければ良い嫁になるだろうに、彼女はそうなる気が無いのか。


「(勿体無いな。おれがクッパだったらさっさと告白でも何でもしてるのに)」


きっと互いに打ち明け認め合えば簡単に実る想い。
そんな事もうだうだ悩んでしまい出来ないらしい主従は、見ていてもどかしい。


「(特にクッパ、お前、らしくないぞー)」


憎らしくて頼もしいライバルへ気の無い様子で、心の中だけのアドバイスを送るマリオだった。



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