気付かないで正直な私

マリオがいつも通りにクッパを倒してから数日。
ピーチ姫の世話が無くなったので再び魔法の修行のみに力を入れていたパルフェ。
カメックの研究部屋で彼に師事しているとクッパJr.が入って来た。


「あら、Jr.坊ちゃん」

「どうかなさいましたか」

「うん。パルフェ、ちょっと時間ある? 話があるんだ」

「え、っと……今は」

「構いませんよ。ワタシは席を外しますのでどうぞごゆっくり」


何も言わないうちに、カメックはそそくさと部屋を後にする。
良いのかなー……と思っている間にJr.がぴょんと椅子に座った。


「ここへ来るなんて珍しいですね。緊急のご用ですか?」

「そういうワケでもないんだけど、なんかガマンできなくなってさ」

「我慢……?」

「パルフェはボクの新しいママになってくれたりしない?」


ぴたり、とパルフェの動きが止まる。
笑顔のまま固まった彼女にJr.は疑問符を浮かべ、暫くの間 部屋に静寂が訪れた。
それを破ったのはJr.。


「ねえパルフェ、ダメ? ボク パルフェが大好きなんだ!」

「……ぼ、坊ちゃん、お戯れも程々に……」

「タワムレなんかじゃないよ。パルフェはおとうさんの事キライ?」

「嫌いな訳はありません、心からお慕い申し上げております!」

「ならいいじゃん」


パルフェは正直に本心を話したのだが、今の言い方は恋愛的な意味で慕っていると思われても仕方ないものだった。
敬愛するクッパにそんな感情を抱くなど、畏れ多いというのに。
母親になって欲しいという事はつまりそういう事で……。

……母親?


「あの、坊ちゃん。坊ちゃんのお母様は……」

「知らない。最初からいなかったよ〜」

「……」


何も気にしていない様子であっけらかんと言うJr.。
母親が初めから存在しない訳は無いので、きっと何か事情があるのだろう。
重い理由があるといけないので詳しく知ろうとは思わないが。

それはそうとして……Jr.が居るという事は、クッパに妻が居たという事。


「(クッパ様の奥様……)」


想像した瞬間 胸がじくじく痛み始める。
今まで考えなかったが改めて思うと当たり前の事だ。
だが今は別の事を考えるべきだと、痛み始めた胸を無視したパルフェ。
Jr.の主張には大きな穴がある。


「Jr.坊ちゃん、あなたの母親になるという事は……その、えっと。クッパ様と……む、結ばれると、そういう、事に、なりますが……」

「分かってるよ」

「で、では私の意思だけではあなたの母親にはなれません。何よりクッパ様のお気持ちが大事ではありませんか?」

「んー……そういうのは問題ないんじゃないかなあ……」


何を根拠に問題無いと言っているか分からない。
自分とクッパは種族が違うし外見もだいぶ違う。
部下として仲間としてなら見てくれている確信はあるが、
“そういう対象”として彼が自分を見る事は無いとパルフェは思う。

先程クッパに妻が居たという事を考えた時に、胸を襲った痛み……あれはもしかしなくても嫉妬だろう。
自分はクッパに恋心を持っているのかもしれないが、それが確定すれば辛い思いをしてしまうのは必至だ。

『恐れられてるコイツの所に居ちゃいつか辛くなるぞ』

数日前、自分をキノコ王国に誘ったマリオに言われた事。
人間や世間一般の“正義”から敵視される事に関しては何も気にならないが、それは即ちクッパの側から離れる考えを一切持っていないという事。

ずっと彼の側で仕えていたいしそうするつもりなのに、叶わない恋心を持ち続けてしまえば、マリオが言ったのとは別の理由で辛くなる。


「……坊ちゃんのお気持ちは嬉しく思います。けれど私はクッパ様の部下。主と結ばれるなど僭越にも程がありますよ」

「もー、パルフェはさ、難しく考えすぎなんだって。おとうさんがパルフェの事スキでパルフェがおとうさんの事スキならオッケーだろ!」

「私が自分を許せないんです。敬愛する主にそんな想いを抱くなんて。このお話は無かった事にして、これからも部下として可愛がって下さい」

「えー……うーん……」


Jr.は残念そうな顔と態度で去って行った。

これで良い。
下手に期待して辛い思いをするくらいなら、恋心など どこにも存在しない、していても分からないという事にしておくべき。


「(ピーチ姫の言っていた事も勘違いだ。私はクッパ様に恋心なんて持ってない。私はあの方に忠誠を誓っているだけ……)」


だからさっきの胸の痛みも勘違いだと。
これからも部下として誠心誠意お仕えしようと、パルフェは自分に言い聞かせた。



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