自分でもよく分からないが、好きなんだと思う

ある日。
クラウンの手入れをしていたクッパの元をJr.が訪れた。


「ねえおとうさん」

「む? どうしたJr.よ」

「いつパルフェとケッコンするの?」

「ぶっ!」


何の邪気も無い純粋な瞳で言われ、クッパはクラウンに頭をぶつけた。
立ち直りながら、疑問符を浮かべる愛息子に力無く訊ねる。


「な、何なのだ突然。なぜワガハイとパルフェがそうなる」

「え? だってボクはパルフェが好きだからさ。新しいママになってほしいって思っちゃダメ?」

「……」


瞬時に、母親が居ない事で寂しい思いをさせているのかと思った。
いつも元気で、父親であるクッパや手下の軍団員達に囲まれ、楽しそうに日々を過ごしているJr.。
しかしまだまだ子供、本当は心の奥底で母親を恋しがっているのかもしれない。


「おとうさんはパルフェの事スキ?」

「いやいや待てJr.、パルフェはあくまでワガハイの部下でな……」

「部下とケッコンしちゃダメって決まりないよね?」

「……そろそろ寝なさい」


あからさまに誤魔化して、えー? とぶーたれるJr.を部屋に戻らせる。
再び静寂が訪れ、ふう、と溜め息を吐いたクッパはパルフェを思い浮かべた。

偶然出会い、親に虐待を受けていたという彼女を助けた。
正直それは人間を手下にする事によって箔をつけたいという打算。
魔法の素質があると分かり予想外に役立ってくれそうなので、いい拾いものをしたとしか思っていなかった…筈だ。

パルフェが向けて来る忠誠心は実に心地良い。
他の手下達と違って人間だというのに、クッパの役に立てる事であれば、人間やそれに味方する者達へ牙をむく事など何とも思っていない。
そんな彼女の事を特別に可愛く思う心は確かにある。

しかし。


「(……パルフェは人間ではないか)」


そう、彼女は人間。
仲間でも可愛い部下でも、それは決して揺るがない事実。
種族が違うのだから恋心を抱くような事にはならない筈。
クッパは自分の感情どうこうではなく、一般的な感覚としてそう思った。


「(それに例えワガハイがパルフェに懸想しても、ヤツの方が拒否するだろう)」


助けられた事で忠誠を誓っても、それとこれとは話が別。
世間から恐れられている大魔王相手では些か厳しいだろう。
見た目もパルフェとクッパではだいぶ違う。

クッパはそう結論付けた。
考えるのは、次Jr.にパルフェとの事を訊かれた時に、どう答えて彼女が母親になる事は無いと伝えるかだけ。



そしてある日、ついにマリオがピーチ姫を取り戻しにやって来た。


「クッパァァ!! 姫を返せっ!!」

「ふん、来おったなマリオめ。今日こそキサマを倒してくれる!」


何度目か分からない対峙。
腐れ縁の付き合いでもラストバトルは毎回盛り上がる。

……そしてまたしても、
クッパは敗れた。

倒れ伏すクッパからやや離れた所で、マリオと解放されたピーチが手を取り合う。
パルフェはすぐさま駆け寄ってクッパを揺すった。


「大丈夫ですかクッパ様!?」


辛うじて気は失っていないがこれ以上戦うのは無理そうだ。
早く手当を、と治療用具を取りに行く為に立ち上がったパルフェに、マリオが声を掛けた。


「ちょっと待て、お前!」

「何ですか。お姫様を助けたんだからもう用は無いでしょう? さっさとキノコ王国へ帰ったらどうです」

「確かパルフェって言ったよな。お前も一緒に来いよ」

「……は?」


そう言ってパルフェに手を差し伸べるマリオ。
聞き捨てならない言葉に、倒れているクッパが顔を上げて彼を見た。


「お前は人間なんだろ? 何でクッパを慕ってるのか知らないけど、恐れられてるコイツの所に居ちゃいつか辛くなるぞ。クッパの軍団には他に人間なんて居ないだろうしさ」

「(……何を言っているのだ? コイツは)」


クッパの頭に浮かぶのは、ただただ疑問ばかり。
パルフェが自分の側を離れるなどあって良い訳が無いのに、この男は何を意味不明な事を言っているのかと。

しかしここでパルフェが奴の手を取れば、彼女は自分の元から居なくなってしまう。
パルフェはじっとマリオを見つめるだけ。


「(おい、パルフェ。オマエまさか……)」

「大きなお世話です。早く帰って下さい!」

「そうか、またいつか誘うよ。行こうかピーチ姫」

「ええ。じゃあまた会いましょうね、パルフェ」

「……さようなら」


マリオが去った事などより、パルフェが奴の手を取らなかった事にクッパは心底安堵する。
彼女が自分の側を去るだけでも耐え難いというのに、よりによってライバルに奪われるなど我慢ならない。


「(ふう、負けたのは悔しいが難は去ったな。誰がパルフェを渡すものか。コイツは一生ワガハイの側に居れば良いのだ)」


そう思った瞬間、
はたと一つの考えが浮かぶ。


「(これは……)」


ただの一部下へ抱くには少々行き過ぎた感情。

もしや、恋、なのだろうかと。



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